きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

漫画家・水木しげるの生誕100周年記念作品で、2018〜20年に放送されたテレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」第6期をベースに、シリーズの原点である目玉おやじの過去と鬼太郎誕生にまつわる物語を描いた長編アニメーション。
昭和31年。鬼太郎の父であるかつての目玉おやじは、行方不明の妻を捜して哭倉村へやって来る。その村は、日本の政財界を裏で牛耳る龍賀一族が支配していた。血液銀行に勤める水木は、一族の当主の死の弔いを建前に密命を背負って村を訪れ、鬼太郎の父と出会う。当主の後継をめぐって醜い争いが繰り広げられる中、村の神社で一族の者が惨殺される事件が発生。それは恐ろしい怪奇の連鎖の始まりだった。
声優陣には沢城みゆき野沢雅子古川登志夫らテレビアニメ第6期のキャストのほか、鬼太郎の父を関俊彦、水木を木内秀信が演じる。「劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!」の古賀豪が監督、テレビアニメ「マクロスF」の吉野弘幸が脚本、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の副監督・谷田部透湖がキャラクターデザインを担当。(映画・comより)

アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」。僕も子供の頃によく見ていました。更に水木しげる先生は鳥取県境港市出身でその水木しげるロードにも幾度となく行っていますし水木しげる記念館にも行きました。山陰に住んでいると常に近いところに水木先生や鬼太郎達妖怪の存在というものを感じそんな中で僕も育っていきました。水木しげる先生生誕100周年というアニバーサリーイヤーに公開。更には口コミでかなり興行的にも好調とありこれは見ないわけにはいかないと12月1日映画の日水木しげる先生のお膝元である鳥取県の映画館・MOVIX日吉津で鑑賞して参りました。

さて、映画を見た上での率直な感想です。僕はこの映画、かなり良いアプローチだったと思うし、意義のある内容だと思いました。

鬼太郎やネコ娘、子泣き爺や砂掛けババア等の妖怪が登場しての妖怪活劇を展開するもちろんこの王道のパターンもありだったと思います。しかし、あえてその内容ではなく何なら鬼太郎達の出番すらも少なく(子泣き爺や砂掛けババア、ぬりかべ、一反もめん等は出てこない)しかしそこではなく鬼太郎がどの様に誕生していったのかにフォーカスしていきエピソードゼロ、前日譚的な流れにした辺りが良作を生み出す上で奏功したのではと感じました。

アニメシリーズのスタートから55年、そして水木しげる先生生誕100年というアニバーサリーだからこその難しさやプレッシャーもあったと推測出来ますが、しかしこれを微塵も感じさせない圧倒的な内容を高いレベルで表現していました。

まず、この前日譚を考える上での舞台設定が効果的でして、我々観客の目線を作品世界に誘っていく上でガイド役を立てた事が良かったです。そしてこの人物こそが水木という青年。当然ながら水木しげる先生が鬼太郎というキャラクターを生み出したという事実を透けて見せるという狙いもあるんですよね。この水木を漫画家という設定にする事もあっただろうけどそうすると水木しげるという人物の方が前面に出過ぎてしまう可能性があるので帝国血液銀行の職員という職業に設定していました。

この血液銀行というと自分の世代だと耳馴染みのない用語ですが、実際に1960年代まで存在していた様でして、こんにちの献血に近い事をなんと個人で行い血液銀行が保管していた様です。この血液銀行然りですが、東京タワー建設や巨人軍川上選手の2000本安打等の昭和30年代前期の話題等も盛り込みながら当時の雰囲気を演出。また水木先生が実際そうであった様に戦争を生き残った経験の描写等「ゴジラ-0.1」にも通ずる戦争の記憶がまだ生々しい時代ならではの場面もありました。

そしてストーリー上で盛り上げていたのが横溝正史さながらのミステリー仕立てにした事です。田舎の名家。次々と起きる怪奇な事件。『犬神家の一族』等の金田一耕助シリーズから最近だとまさにそれらをモチーフにしたと思われる「ミステリと云うなかれ」の劇場版を思わせる王道のミステリー。しかし、一線を画すのが妖怪や幽霊等が現れるスリラー要素を強めているという事。

で、このスリラーというのが日本のムラ社会の悪しき伝統や名残。戦後の近代化で生じるきしみや都市部と地方の格差等を写す上での親和性も高かったです。何より目玉おやじの過去と鬼太郎誕生の謎が明かされる上でこれらのドロっとした背景と絶妙な相性だったなと思います。

そして映画としてのクライマックス。泣き要素もしっかりありました。古くからの因習や大人達の都合に翻弄される少年。もし彼が一般的な家庭に生まれ育っていたらどれほど幸せだった事だろう。これまで起こった数々の悲劇を思い出し彼の姿を見るとこみ上げてくるものがあり、涙なしで見る事が出来ませんでした。

アニバーサリーイヤーに正に名作が誕生しました!久しく「ゲゲゲの鬼太郎」を見ていないという人にも見てもらいたい!

強くオススメします!