きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

アキラとあきら

 

半沢直樹」シリーズなどで知られる人気作家・池井戸潤の同名小説を、竹内涼真横浜流星の主演で映画化。
父親の経営する町工場が倒産し過酷な幼少時代を過ごした山崎瑛と、大企業の御曹司だが次期社長の座を拒絶し血縁のしがらみに抗う階堂彬。同じ名前を持つ2人は運命に導かれるかのように、日本有数のメガバンクに同期入社する。人を救うバンカーになるという熱い理想を持つ山崎と、情を排して冷静に仕事をこなす階堂。正反対の信念を持つ2人は真っ向から対立し、ライバルとしてしのぎを削る。しかし山崎は、ある案件で自らの理想と信念を押し通した結果、左遷されてしまう。一方、順調に出世する階堂の前にも、親族同士の争いという試練が立ちはだかる。やがて、数千人の人生を左右する巨大な危機が到来し、山崎と階堂の人生が再び交差する。
監督は「思い、思われ、ふり、ふられ」「僕等がいた」の三木孝浩。(映画・comより)

先日取り上げた『TANG』を評した時にもお伝えした様にこれまで青春恋愛映画で結果を残してきた三木孝浩監督がこのところ恋愛映画以外の作品に取り組み相次いで公開となっています。今回は『半沢直樹』シリーズに『陸王』等映画では『空飛ぶタイヤ』、『七つの会議』等ヒット作を生み続ける池井戸潤作品『アキラとあきら』の映像化です。実は本作鑑賞前にこれまで数多くの池井戸潤作品に出演してきた今世間を賑わせているバイプレイヤー俳優が出てるのかと思ってましたが、どうやら本作には出演しておらず、ひと安心(いや、語る時に色々気を使いそうだからさ。)

で、池井戸潤作品と言えば現代の銀行や企業等を舞台に勧善懲悪の水戸黄門をやってしまうというザックリとしたイメージを言えばそんなところだし、弱気を助け強気を挫くという古からの手法ではあるものの、なんだかんだでこういう展開にカタルシスが生まれ、その結果数々の作品が多くのヒットの共感を集めヒットしてきたのですが、竹内涼真横浜流星というこの人気若手俳優が果たしてどの様に池井戸潤作品に溶け込んでいくのかを楽しみに鑑賞して参りました!

9月4日日曜日のMOVIX日吉津。まだまだ大ヒット中の『ONE PIECE FILM RED』のごった返す人並みを横目にいざ劇場へ!

これまでの池井戸潤作品との大きな違いがあります。銀行を舞台に更に苦境に立たされるネジ工場が翻弄される等これだけ見てたら『半沢直樹』なのですが、半沢直樹の様なアクの強いキャラクターも出てこないし、竹内涼真横浜流星も演技にクドさがない。境遇の違う同い年で同じアキラという名前の二人が同期入行した銀行で顔を合わせるそこからライバルとなる二人を軸とした銀行ビジネスストーリーであり、それぞれがどの様に逆境を乗り越えていくのかを描いた青春ビジネス映画の側面が非常に強いという印象を受けました。

そこはこれまで数々の青春映画をヒットさせてきた三木監督ならではの手腕が光ったなと思います。例えば『半沢直樹』を引き合いに出しますが、あの場合主人公である半沢が銀行内で或いははたまた政界でと不正を働く輩の巨悪を暴き出していく頭脳を使ったそれぞれのぶつかり合いが面白いわけじゃないですか。

本作に関して言うともっとシンプルなものでして、二人のあきらという名の若きバンカーがそれぞれの理念や仕事の捉え方更にはこれまでの境遇が醸成された人間性等等の内面にフォーカスしていきながら、それぞれの局面が展開されていく。そこには単純な是非の二元論では判断出来ないものがあるし、もはや見た人が各々の判断で双方の成長を見届けていく事になるかと思います。

でも池井戸潤作品のらしさはしっかり用意されていまして、これが後半に展開されるとある企業の再建劇なんですね。詳しくは言えませんが、一族経営ならではの脆さが浮き彫りになるのですが、竹内涼真演じる山崎瑛を中心にこれまでの伏線を巧みに回収していく様には池井戸作品的なカタルシスが生まれるかと思います。

それから個人的に印象的だったのは江口洋介演じる山崎の上司の姿。苦境に立たされる人を助けるべく動く山崎に彼は非常にシビアです。一見すると冷徹そのもので血も涙もない様に見えますが、バンカーとしては決して間違った考えではないんですよね。

弱者と言う言葉は好きではありませんが、いわゆる社会的弱者とされる人が懸命な努力も虚しく財産を失い家族とも別れるそんな事を考えると強者側ここでは銀行となりますが、シビアな対応で当該の弱者側が切り捨てられる。そうなると銀行側が責められる様なものですが、しかし銀行は銀行を守らなければならない。銀行を守るというのはそこで働く人達や家族、更には取引のある数多くの個人や企業を守る事でもあるんですよね。

この江口洋介演じる上司を悪く見せつつも現実の厳しさも盛り込み、社会派映画としてもしっかり機能しておりました。そしてこの上司が見せる人間的な優しさが後半に山崎への言葉で反映されていましたね。

また、横浜流星演じる階堂彬が山崎へ「お前は育ちが良いな」なんて言葉を投げ掛けます。大企業の御曹司として育った階堂が父親の工場倒産後、苦労を重ねた山崎にそんな事を言えばともすれば喧嘩を売ってんのかとも思ってしまいそうです。だけどそうではないんですよね。育ちが良い言い換えれば品の良さと呼べるかもしれません。決して裕福ではなかったものの、人間としての優しさと強さを持ちバンカーとしてどこまでも真っ直ぐで熱い山崎に階堂が同期として友達として送った言葉だと解釈しています。これは映画の中の話しだけではないですよね。

どれだけ金銭的に恵まれていようが普段の行いが粗雑で下品な人もいればお金持ちではなくとも人間として謙虚で礼儀を心得、誰に対しても親切で魅力的な人物。果たしてこれを品と呼ぶのかはわかりませんが、少なくとも僕はこういう人と仲良くなりたいし、品のある人だと思います。

果たして僕はどちらでしょう?…なんてリスナーに言わせる時点で上品ではないかもしれませんね。

なんてこの作品では見るべきポイントも満載で非常に魅力溢れる映画だったと思います。

正直、『TANG』は不完全燃焼でしたが、本作は満足でした!

是非劇場でご覧下さい!