きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

アルキメデスの大戦

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戦艦大和の建造をめぐるさまざまな謀略を描いた三田紀房による同名マンガを、菅田将暉主演、「ALWAYS 三丁目の夕日」「永遠の0」の山崎貴監督のメガホンで実写映画化。日本と欧米の対立が激化する昭和8年、日本帝国海軍上層部は巨大戦艦・大和の建造計画に大きな期待を寄せていたが、海軍少将・山本五十六はその計画に待ったをかけた。山本は代替案を提案するも、上層部は世界に誇示する大きさを誇る大和の建造を支持していた。山本は大和の建造にかかる莫大な費用を算出し、大和建造計画の裏に隠された不正を暴くべく、天才数学者・櫂直を海軍に招き入れる。数学的能力、そして持ち前の度胸を活かし、大和の試算を行っていく櫂の前に帝国海軍の大きな壁が立ちはだかる。菅田が櫂役、舘ひろし山本五十六役を演じるほか、浜辺美波柄本佑笑福亭鶴瓶らが顔をそろえる。
(映画.comより)

山崎貴監督。
言わずと知れた日本の商業映画において知らない人は居ない、数々の大ヒット作を世に放ってきた方ですね。
ただ、いわゆるコアな映画ファンほど彼に対する評価が辛口になるのもまた確か。
その点、僕はどう見ているか。
「作品によっての当たり外れが極端に大きい名(迷)監督」といったところでしょうか。
VFXの技術に関しては日本でもトップクラスだと思いますし、原作ありきの作品を映像化し、老若男女が楽しめる映像作品に仕上げる手腕は確かなもの。
過去作の安定した興行収入はそれを物語っているかと思います。
ただ、一方で不要なナレーションを入れる、役者に余計なセリフを言わせる、何となく大がかりな作風に仕上げつつも内容が薄い等悪い癖も多い。
それ故コアな映画ファンからの辛辣な意見が生まれていくのだと思います。

で、今回はどうか?
僕は本作を見る前に思った事があります。
メインタイトルの前にいらん英単語を入れていないな、と(笑)
ま、要するに『ALWAYS 三丁目の夕日』とか『SPACE BATTLE SHIPヤマト』とか『STAND BY ME ドラえもん』、『DESTINY 鎌倉ものがたり』みたいなヤツね。
永遠の0』、『海賊とよばれた男』と同じ山崎作品でも硬派な作品の括りになるのでしょうか。

まず冒頭では戦艦大和撃沈のシーンから始まりますが、まずこれが素晴らしい!
永遠の0』でもそうでしたが、戦闘のシーンを撮らせたらホントうまいなと思います。
米軍機に迎撃する日本兵
しかし、彼らの奮闘も空しく戦艦が海の藻屑と消え去るのは史実によって皆さんご存知の通り。
そのシーンにおいての傾いてゆく大和の姿であったり船上で海水に混じる兵士の血の生々しさ。
これほど戦争における残虐性、非情さ等を分かりやすく写せる技術にとにかく溜飲が下がりました。

しかし、戦争映画でありながら戦争そのものを写し出すシーンはこの冒頭のみ。
その後は12年ほど時計の針を巻き戻し、海軍内部の不正を暴いていくという「おや、これは池井戸潤作品でおなじみの組織内部の不正を白日の下に晒すという社会派エンタメ?」という見事にこちらの予想の斜め上をいく方向に舵を切ってくれます。
戦艦大和は沈んじゃうけどこの映画は面白い方向に航行してくれるんですよ。

あくまで海軍内部のお話しなので、時の為政者であったり陸軍の人間なんかは一切登場しない。
でもそれがかえって良かったです。

天才数学者・櫂直を演じたのが菅田将暉
この櫂という人物描写がこれまたいいんですよ。
そもそも舘ひろし演じる山本五十六らと顔合わせしたのが、とある料亭。
芸者をあげてどんちゃん騒ぎをしている櫂がそこに居たのですが、彼の数学オタクぶりを表すシーンとして芸者の胸を計り、うっとりする。
また、彼が家庭教師を勤めた浜辺美波演じる教え子とのくだり。
彼女は櫂と恋仲でもありますが、櫂は彼女の顔をこれまた計り悦に入る。
櫂は曰く「僕は美しいものは何でも計らないと気がすまないのだ。」と。
う~ん、かなりマニアックな性癖というか…ド変態ですよ(笑)
でもそんな彼が命じられたのは山本らの対立派による戦艦建造費用の見積詐称を暴く事。
天才数学者が事件を暴くという共通点から『ガリレオ』の湯川教授も一瞬脳裏をよぎりましたが、彼の片腕となった柄本佑演じる田中少尉とのタッグも良かったですね。
はじめのうちこそ軍人が嫌いとのたまう櫂に嫌悪感を抱いていたのが、次第に櫂の姿勢に胸を打ち、櫂に協力をする。
確かにここのくだりで「出た~山崎貴演出!」とばかりに悪い癖が出てしまいますが、それも一瞬。
すぐに二人の動きを注視する様になります。
個人的にこの二人で現代が舞台の刑事物を見たいなと思いました。
それくらい二人のコンビネーションは絶妙です。


また舘ひろし國村隼小林克也橋爪功、田中みん等海軍の重鎮達の顔触れも豪華であり、貫禄十分。
そんな重鎮達が会議の際にお互いの揚げ足取りで罵り合う場面なんかはなかなか笑いを誘ってくれます。

と、会議のシーンを出しましたが、僕は本作の最大のハイライトはこの会議だと思います。
戦艦建造費詐称を暴く為、櫂と田中が資料を集め遂に得意の数学を駆使しながら大口舌を繰り広げる。
これこそが池井戸潤的展開ですよ!
黒板に数式を書き込み、重鎮達を向こうに回しながら捲し立てる様を見ると数学が大の苦手で中学・高校では常にひどい点を取っていた僕からすると何が起こっているのか呆気に取られながらもでも確実に胸が熱い!
と言うのも今にも「倍返しだ!」と言いそうな(いや、言わないけどさ)菅田くんの演技に圧倒されるんですよ!
そして結論が出された時のまぁ、胸がすくことすくこと。
その昔おじいちゃんと見てた『水戸黄門』で最後に黄門様が印籠を出した時の爽快感が蘇る!
そう、人はこれをカタルシスと呼ぶのだ~!

と熱くなりましたが、そうその感情が会議シーンで味わえるのです。
僕はこれを見るだけでも十分この映画を人にすすめたいと思いますね。

そしてラストの建造された大和を見るシーンも印象深いですね。
大和は沈む。
これは歴史が物語っている、事実でありそれは見ている僕らが一番よくわかっている。
そして山本五十六の思想の転換だってそう。
やがて訪れる日米開戦。
その後の日本の歴史を知っているからこそ身につまされる。
ほとんど血を流さない戦争映画でここまで戦争について考えさせられる。
山崎監督、がっちりとした戦争映画を作ったらかなりの大作を生み出すんじゃないでしょうか。
戦地そのものを描いた作品はもちろん、『火垂るの墓』や『この世界の片隅に』の様な戦時下の庶民を描いた作品も。
個人的にはそういう映画を作ってほしいという願望があります。
しかし、本作は本作で血を流すシーンは冒頭のみ。池井戸チックな組織スキャンダル劇というエンタメ性で楽しませながらも、確実に戦争について考えさせる教育的道徳的側面も忘れない。そして最後には余韻を残す。
そんな実験を試みながらもそれを大成功の域に落とし込めた。
いや~、素晴らしいです!
『ヤマト』や『寄生獣』を見て憤慨した過去は忘れます(笑)
なんて冗談はさておき、夏休み中に是非子供達にも見てもらいたいと思いました。