きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

異動辞令は音楽隊!

「ミッドナイトスワン」の内田英治監督が阿部寛を主演に迎えたヒューマンドラマ。警察音楽隊フラッシュモブ演奏に着想を得た内田監督が、最前線の刑事から警察音楽隊に異動させられた男の奮闘をオリジナル脚本で描き出す。
部下に厳しく、犯人逮捕のためなら手段を問わない捜査一課のベテラン刑事・成瀬司。高齢者を狙ったアポ電強盗事件を捜査する中で、令状も取らず強引な捜査を繰り返した結果、広報課内の音楽隊への異動を言い渡されてしまう。不本意ながらも音楽隊を訪れる成瀬だったが、そこにいたのは覇気のない隊員ばかりで……。
音楽隊のトランペット奏者・来島春子を清野菜名、サックス奏者・北村裕司を高杉真宙、捜査一課の若手刑事・坂本祥太を磯村勇斗が演じる。(映画・comより)

ハイ、今回は私の推薦作でございます。元々『アキラとあきら』を見る予定でしたが、時間が合わずこちらを鑑賞!その結果が大正解だったのでそこも含めてお伝えしていきます。

これまで数々の作品に出演してきた人気俳優・阿部寛。刑事から古代ローマ人とその振り幅は非常に広くシリアスもコメディも阿部寛色に染めていくそんなイメージがありますよね。

そんなアベちゃんこと阿部寛さんのドラムスティックを持った写真。絵になりませんか?カッコいいんだけど同時にシュールさも併せ持っていて思わず笑みがこぼれてきそうです。そんなイメージで本作を鑑賞したもんだからてっきりコメディ色全開の誰が見ても楽しめるエンターテイメント作品なのかなと思いました。

刑事から音楽隊への異動。そして音楽隊がメインになる事が鑑賞前から予想出来たので刑事のパートはそこそこに音楽隊の彼の動きを中心に追っていくものばかりだと思ってました。

ところがこれが良い意味で裏切られました。割と刑事パートに時間が割かれており、しかもその内容が濃いんですよね。巷を賑わすアポ電強盗という事件を軸に刑事・成瀬が後輩刑事・坂本とバディを組みながら事件の捜査に乗り出していく。一方で成瀬には高齢の母親と二人暮らしでその母親は認知症を患っている。別れた妻との間に出来た高校生の娘との関係もチグハグでどこまでも成瀬の不器用さが写し出されていく。

本作の主人公である成瀬という人物とそのバックボーンを映像で現しているのですが、一瞬作品を間違えたのかな?と思う程シリアスだったりするんですよね。

でもこれが後半との対比を考えた場合、良い見せ方だなと思うんですよ。いきなり冒頭からポップに作らないという『ミッドナイトスワン』を撮った監督なりのこだわりや工夫が感じられましたね。

そしてそんな前半から音楽隊へ入ってから。古〜い建物の中からやる気のない「パプリカ」の演奏が聴こえてくる辺りで刑事一筋でやってきた成瀬の不本意な心境とマッチしてくるんですよね。

案の定団員はと言うと気持ちはバラバラ。成瀬同様不本意にも音楽隊へ入隊させられてしまった人その反面音楽が好きでやる気に満ち溢れた人。例えば学生のバンドや軽音楽部だとまた違うと思うんですよ。皆音楽が好きで音を奏でたいという熱意で構成されるわけですから。警察の音楽隊という辞令によって所属が決定してしまう環境だからこそ運べる筋書きなんですよね。

成瀬だって当然、「何で俺が音楽なんか」と不満全開。だけど次第にドラムに魅了されのめり込んでいくんですよね。

とまぁこの流れは割とありがちだと思うんですよ。しかし、ここに至るまでにいくつかのターニングポイントがあるんですが、ここが非常によく見せてくれるんですよ。

そしてキーワードとして上がってくるのがセッションというワード。音楽隊ですから、当然一人で音楽を奏でるわけではありません。団員との呼吸が大事ですよね。そこで出てくるのが清野菜奈演じる女性団員・来島春子の存在です。刑事として第一線で活躍してきた成瀬は当初は楽団の練習場で悪態をつきます。そんな彼に対して不快感を示していたのが来島春子という女性。しかし、シングルマザーである彼女とバツイチで認知症の母親を介護する成瀬の間で共鳴感が生まれます。お互いの境遇からの共感性そこから音楽への取り組み方へと発展していくんですね。

また、一方で刑事パートで見せた事件の進展も同時進行で見せていく。しかもこれが音楽隊パートとの非常に巧みなストーリーの繋ぎ方や伏線の回収方等が映画的な盛り上がりを更に生み出していってるんですよ!ここの脚本は本当に見事でしたね!

ところで本作での演奏は全て演者が実演しています!成瀬つまりは阿部寛さんも初めてドラムを叩いたという事ですが、これがスゴい決まってるんですよ!とても初めてとは思えない!正直ポスターだけ見てたらカッコよさと面白さが共存している感がありましたが、本編でドラムを叩くシーンはカッコいいしかないですね!

それから清野菜奈さんのトランペットですね。彼女と言えば記憶に新しい『キングダム2 遥かなる大地へ』の好演が印象的だったし、10月には『耳をすませば』の公開が待機している今かなり勢いのある女優さんですが、演技だけではなく楽器の演奏も器用にこなしています。アクションもこなすし、出演作が増えるのも納得ですね!

さて、本作に関してはラストも良かったです。音楽隊の定期演奏会で大団円を迎えるわけですが、これまでのプロセスを見ているからこそこの演奏会にも特別な視線を注ぐ事になるんですよ。イメージとしては『チア☆ダン』で広瀬すずちゃん達が全米ダンス選手権で華麗なパフォーマンスを見届けたあの感覚に近いカタルシスを得られるかと思います。そして演奏が終わってから後日談的なエピソードを加える事なくすっきりと終わらせる辺りもスマートなエンドだったなと思いました。

久しぶりに邦画で当たり作品に出会えたなと思います!ホントに素晴らしい作品です!

是非ご覧下さい!