きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

今夜、世界からこの恋が消えても

アイドルグループ「なにわ男子」の道枝駿佑と「思い、思われ、ふり、ふられ」の福本莉子を主演に、一条岬の同名恋愛小説を映画化。高校生の神谷透はクラスメイトに流されるまま、同級生の日野真織に嘘の告白をする。しかし彼女は「お互い本気で好きにならないこと」を条件にその告白を受け入れ、2人は付き合うことに。やがて真織は、自分が前向性健忘症で、夜に眠るとその日の出来事をすべて忘れてしまうことを透に打ち明ける。彼女は毎朝、前日の日記を読み返すことでどうにか記憶をつなぎ止めていた。透はそんな真織と1日限りの恋を積み重ねていくが……。「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」など数々の青春恋愛映画を手がけてきた三木孝浩監督がメガホンをとり、「君の膵臓をたべたい」の監督・月川翔と「明け方の若者たち」の監督・松本花奈が共同で脚本を担当。(映画・comより)

今年の夏は相次いでの監督作が公開となった三木孝浩監督。本来であれば『TANG』よりも前に鑑賞した方が良かったのかもしれませんが、興行成績も順調でレビューでの評価も高かったので、個人的に気になって鑑賞して参りました。

さて、『TANG』も『アキラとあきら』もこれまでの三木作品とはタイプの違う作風でしたが、三木監督と言えばやはり本作の様な青春恋愛映画のイメージが強いのは事実。

監督の本領発揮とばかりに若者に人気のキャストを配しての純愛映画として仕上がりも上々。

その辺りをお伝えしていきます。交通事故により前向性健忘症になってしまった少女・真織。眠ってしまうと起きた時にそれまでの記憶を一切失くしてしまう症状です。記憶に障害を持つ女性との恋愛と言えば福田雄一監督がリメイクした『50回目のファーストキス』という作品を思い出しますし、本作鑑賞中もやはり『50回目〜』と比較しながら、鑑賞しておりました。

その『50回目〜』との大きな違いを挙げるならば、重い題材でありながらも、コメディタッチな視点も織り交ぜながら割とポップに仕上げていた『50回目〜』に対し、真織の記憶を中心に据えながらも恋人となる透や親友や透の家族等の人物描写にも注力しており、群像劇要素を呈していたところでしょうか。

記憶に障害を持つ真織ではあるが、彼女に寄り添い見守る両親に恵まれた家庭に身を置く真織に対し、母親を早くに亡くし、家事などをしていた姉が家を離れ父親と二人で暮らす透。その父親だって小説家と自称するも文芸誌の新人賞にもかからない人物。はたから見るとどうやって生計を立てて透を学校へ通わせているのかと気になってしまう環境です。

そしてそんな二人を見守るもどこか置き去りにされてしまう心境にも苛まれる真織の親友・泉。

また、意外な形で再会を果たす透の姉・早苗。

こういった面々が織りなす人間模様がより作品に深みを与える印象でした。

そして軸となる真織と透の恋愛模様。記憶が失われるからこその恋愛の難しさ。しかし頭脳が覚えずとも身体が記憶するというこの仕組みを取り入れながら純愛ストーリーとしてのスムーズな展開や伏線の張り方等見所満載でした。

また、『君の膵臓をたべたい』の月川翔監督が脚本に携わっているとあって泉の初期段階での透への捉え方等が相通ずるものを感じました。

全く別作品ではあるもののキミスイイズムを感じるとでも言うべきでしょうかね。それが最も象徴的に現れたのは後半の怒涛の展開でした。

『君の膵臓をたべたい』を思い出して下さい。あの作品では浜辺美波演じるヒロインの少女が膵臓に病を抱えていました。そこからの悲恋と言うと病に蝕まれ命が尽きる彼女を誰もが想像したと思います。しかし、必ずしも余命通りに生命を全う出来るとは限らないという悲恋映画の概念を打ち破る様なドラスティックな展開に胸を撃ち抜かれる様な衝撃をおぼえた人は少なくないハズです。その意外性あるシナリオとストーリーの運び方の相乗効果が話題を呼んで当時大ヒットとなったわけです。

それが本作でも顕著でして、透と真織を中心にストーリーを追っていくわけですが、人間の本質的な面としてハンデを背負う者すなわち真織を特に注視すると思うんですよ。そしてある場面に到達すると不自然な描写が入り、そこに漂う違和感をおぼえるんですね。そしてそれに至るまでのストーリーが繰り広げられそれによってこの違和感が解消されるというもの。キミスイの時に見せた意外性溢れるトリックをここで仕掛けてきて以降の展開によって涙腺が刺激されていきます。この作りはホント見事だなと思うし、日本でこういうタイプの作品を撮らせたらやはり三木孝浩がその最筆頭に挙げられるんじゃないかなと思いました。

『TANG』を見た後だからこそ余計に感じましたが、同じ監督でもやはり得手不得手というのははっきり作品に反映されるんだなと感じた次第です。

それが興行成績にも現れてるのを見ると映画を見る人というのは正直なんだなと思います。僕も『TANG』と比較すると圧倒的に本作が勝るかなと感じます。

さてさて『アキラとあきら』は如何でしょうか?

ひと夏に同監督の作品が立て続けに公開されるのですが、比較をするとよくわかりますね、