きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

のみとり侍

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「後妻業の女」などの鶴橋康夫監督が、「テルマエ・ロマエ」の阿部寛とタッグを組んだ時代劇コメディ。鶴橋監督自身が脚本も兼任し、小松重男の短編小説集「蚤とり侍」の人気エピソードをもとに再構築した。長岡藩のエリート藩士・小林寛之進は、運悪く藩主の機嫌を損ねてしまい、猫の「のみとり」の仕事に就くよう命じられる。それは文字通り猫ののみを取って日銭を稼ぐものだが、実際は床で女性に愛をお届けする裏稼業であった。長屋で暮らすのみとりの親分・甚兵衛のもとで働きはじめた寛之進は、初めてののみとり相手であるおみねから下手くそと罵られたものの、伊達男・清兵衛の指南によって腕を磨いていく。そんな中、老中・田沼意次の失脚を受けてのみとり禁止令が敷かれ、寛之進らは突如として犯罪者扱いされてしまう。おみね役の寺島しのぶ、清兵衛役の豊川悦司ら、共演にも豪華実力派俳優がそろう。
(映画.com より)

2016年、個人的に好きな邦画として『後妻業の女』があります。
大竹しのぶの悪女っぷりと彼女を操る悪のプロデューサーを演じた豊川悦司の名演もさる事ながら最後まで飽きさせないテンポや脚本の構成どれを取っても素晴らしい作品でした。
その『後妻業の女』の鶴橋康夫監督の最新作として期待を寄せていたのが『蚤とり侍』です。
作品のイメージから『殿、利息でござる!』や『超高速!参勤交代』の様なコメディ時代劇というのは容易に想像はつきましたが、なかなかエロに満ちた江戸時代版『テルマエ・ロマエ』でした。

まず本作は前半が非常にテンポが良いです!
殿の機嫌を損ねた阿部寛演じる小林寛之進が城を追われ猫の蚤取り稼業に転じさせられます。
しかしそこは猫の蚤取りとは名ばかりの女性との性交渉を生業とした男娼。
初めての客であった寺島しのぶ演じるおみねに「下手くそ!」と言われセックスのいろはを学ぶべく励んでいくのです。
プレイボーイの清兵衛に手解きを受け、女性を快楽へ導く為のテクニックを磨いていくのですが、このシーンが何ともアホに満ちていて楽しいんですよね。
清兵衛の手練手管を目の当たりにする寛之進の心の声が古代ローマから現代日本へタイムスリップする阿部寛の代表作『テルマエ・ロマエ』を彷彿とさせてくれます。
何と言ってもエロさが笑いに転じる瞬間というのは最高なものでして清兵衛とまぐわう女性、そしてその下に寛之進とおみねが重なるシーンなんて画的にもシュール過ぎて笑いなしには見れませんでした。

トヨエツの妻を演じた前田敦子も本作では色気がありましたね。
個人的にAKB出身女優というと大島優子の方がこと演技力という面においては評価が高いのですが、本作においては前田敦子の存在感は際立っていたと思います。

斎藤工もまた光った存在でした。
子供に無償で文字の読み書きを教える好人物でそれが為に自らは貧しい生活を強いられる。
ただ、演技は見事でしたが、寛之進や清兵衛とのかかわり合いがさほど重要でもなかったので彼のエピソードの必要性は薄かった印象です。

前半のテンポが非常に良かったしコメディ映画としての笑いの生み出し方や見せ方は近年の邦画の中でも屈指の出来だったと思います。

しかし、それも中盤からトーンダウンしていくのが何とも勿体なかったです。
前述の様に斎藤工演じる佐伯友之助にまつわるエピソードからそれまでのエロバカ映画から一気にホロリとする人情話しに転化していきます。
問題はそこからなんですよ。
一気にテンポも悪くなるし無理やり良き事げな雰囲気に持っていこうとする気概が見えてしまいすっきりしないんですよね。

そこから更に後半になると何ともしまりが悪くなります。
松重豊演じる殿様が何故寛之進にのみとり侍となるべく命じたかが明らかにされるのですが、そこが説明くさくてすっきり理解出来ない。
それに付随するシーン等を挿入した方がより良かったと思うんですけどね。

説明くさいという邦画特有の悪癖が見られましたが、更にテロップの使い方も何とかならなかったのでしょうか。
前述の友之助エピソードでは極貧の余り猫のくわえる魚に手を出し病気になるというシーンが登場します。
瀕死の状態でうなだれる友之助と見守る村人たち。
一命を取りとめる友之助ではあるのですが、そのシーンで季節が秋になった事を知らせるテロップが流れます。
そもそも友之助が苦しんでいるのが春なのか夏なのかもわからないのに「そして秋になった」なんてテロップを唐突に出されても(笑)

いや、惜しいです。前半のテンポのまま最後までコメディに徹してくれてたら良かったのに欲をかきすぎたのが何とも残念なところです。
後は『後妻業の女』の様な「通天閣どころやない、スカイツリーや~」みたいなパンチの効いたセリフが欲しかったかな?強いて言えば「この下手くそっ!」てのがありますが(笑)
ちなみに『後妻業の女』からの続投はトヨエツの他、大竹しのぶさん・伊武雅刀さんらが出演されていますよ。