きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

耳をすませば

スタジオジブリの人気アニメ映画の原作として知られる柊あおいの名作漫画を、清野菜名松坂桃李の主演で実写映画化。原作漫画とアニメ映画で描かれた中学時代の物語に加え、主人公2人が大人になった10年後をオリジナルストーリーで描く。
読書好きな中学生・月島雫は、図書貸出カードでよく名前を見かけていた天沢聖司と最悪の出会いを果たす。しかし雫は聖司に大きな夢があることを知り、次第に彼にひかれていく。そんな聖司に背中を押され自身も夢を持つようになる雫だったが、聖司は夢をかなえるためイタリアへ渡ることに。2人は離れ離れになってもそれぞれの夢を追い、10年後に再会することを誓い合う。それから10年が過ぎた1999年。出版社で働きながら夢を追い続ける雫は、イタリアで奮闘する聖司を想うことで自分を奮い立たせていたが……。
大人になった雫と聖司を清野と松坂が演じ、中学時代の2人には映画初出演の安原琉那と「光を追いかけて」の中川翼を起用。監督・脚本は「ツナグ」「約束のネバーランド」の平川雄一朗。(映画・comより)

スタジオジブリの実写化と言えば「魔女の宅急便」が2014年に公開されていました。ただ、その内容や興行結果に関しては今更言うのは酷かもしれません。大ヒット映画「花束みたいな恋をした」でもネタ的な扱いで触れられましたもんね。

で、今作「耳をすませば」ですよ。柊あおいの原作で1995年にスタジオジブリ制作でアニメ映画化され、こちらは当時大ヒットとなりました。アニメ版を見ていた身としては今回の実写化は楽しみでもあり不安でもあり。特に雫と聖司の大人になってから…という事だから果たしてどうなのかを気にしながら10月16日MOVIX日吉津で鑑賞して参りました。

原作の漫画やジブリの映画で描かれた中学生時代と大人になってからを交互に描いていく手法は賛否あるとは思いますが、個人的には悪くはなかったと思います。キラキラと将来の夢を見る雫と聖司の姿を過去と未来を対比させながら見せていく事によって現実の厳しさをしっかりと伝えながらそれでも人生を肯定的に生きる雫の姿には割と多くの人の共感を得やすいと思います。ましてや恋人である聖司がイタリアでチェロ奏者として成功している姿があまりに眩し過ぎて比較する余り押し潰されてしまいそうな雫の姿は自分自身もそれに近い経験があり、非常にリアルに突き刺さりました。そしてまたこれは雫を演じた清野菜名のインタビューから彼女の原体験が演技に活かされている様です。彼女と言えば「今日から俺は!」更に今年は「キングダム2」に「異動辞令は音楽隊!」等アクション、コメディと多彩な活躍を見せる人気女優ですが、数年前まではバイト生活が中心でオーディションに出てもなかなか結果が出せなかったそうで、彼女自身も夢を追う事の難しさを身を以って感じていた様です。そんな経験があるからこそ今作の雫の心境もよくわかる、演技に反映されているんですね。

一方、松坂桃李君ですね。近年では「新聞記者」や「空白」、「孤狼の血」シリーズ等社会派作品やアウトロー系映画にも果敢に出演し、役の幅を広げている感が強いですが、雫の遠距離恋愛の相手として包容力がある聖司像を生み出していましたね。で、何がすごいかってチェロの演奏ですよ。この映画で軸となる曲がジブリが「カントリーロード」であるのに対し、「翼をください」。赤い鳥が1971年に発表した普遍的な名曲であり、時にはサッカーの応援に時には「エヴァ」にといった具合に様々なシーンで耳にする楽曲。合唱コンクールで唄ったという経験をお持ちの方も少なくないでしょう。この名曲をチェロで演奏するのですが、前奏だけ聴くと「えっ?これ翼をくださいなの?」なんて違和感を抱くかもしれません。ただこれが映画の要所要所で流れるともはや「翼をください」以外の何物でもないと感じるんですよね。それを表現する松坂桃李君の演奏力の高さですよ!「異動辞令は音楽隊!」での阿部寛さんやそれこそ清野菜名ちゃんにも感じましたが、短期間で練習を積み映画では完璧なものに仕上げるそのパフォーマンス力を見るとやっぱ役者さんって凄いなと感じますね。

それから本作ですが、大人になった雫と聖司が生きる時代は90年代後半。ジブリ版が公開された時期よりも後の設定なんですよね。で、その90年代後半感がうまく出ていたなと思いました。「タイタニック」とかたまごっちみたいなワードを記号的に出すのは多少あざとさは感じましたが、テレフォンカードを入れて緑の公衆電話で通話(細かい事を言えば1998年の段階では割と携帯電話は普及してたんですけどね)雫の勤務先は出版社なのに誰のデスクにもPCがないとかね。音尾琢真が演じていた上司の部下への叱責とか有給消化への捉え方とか令和の時代だとパワハラだし会社の体質はブラックそのもの。でもバブル崩壊から数年程度の90年代後半だとこれが当たり前だったんだよね。

で、この映画に関しては最後に突っ込んでおきたい事がありまして、それは夢という物の向き合い方や捉え方なんですよね。雫は彼氏である聖司と比較してとか友人達が結婚したり10年物語を書き続けて箸にも棒にもかからない状況を憂い、自分の才能や夢に疑問を抱きます。それ自体はよく分かるし、前述の清野菜名ちゃんの自身の経験と重ねての名演によってリアルに響くものはあります。だけど今作での雫の年齢は25歳。夢を追う身として揺れるにはまだ早い気がするんですよね。それにラストとハッピーエンドではありましたが、それは聖司との関係がという点であって彼女の追い続けている作家としての本懐を遂げたのかの映像説明が不足して個人的にはモヤっとしてしまいました。

まぁ、そんな気になる点はありましたが、夢を追う者の青春映画として10年来恋を結ぶラブストーリーとしては綺麗にまとまっていたと思うし、はじめに僕が抱えていた不安点に関してはうまく乗り越えてくれたなと思います。

原作やジブリ版が好きな人からは否定的な意見もありそうですが、悪くはなかったと思います。

是非劇場でご覧下さい!