きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

孤狼の血 LEVEL2

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柚月裕子の小説を原作に、広島の架空都市を舞台に警察とやくざの攻防戦を過激に描いて評判を呼んだ、白石和彌監督による「孤狼の血」の続編。前作で新人刑事として登場した松坂桃李演じる日岡秀一を主人公に、3年後の呉原を舞台にした物語が完全オリジナルストーリーで展開する。3年前に暴力組織の抗争に巻き込まれて殺害された、伝説のマル暴刑事・大上の跡を継ぎ、広島の裏社会を治める刑事・日岡。権力を用い、裏の社会を取り仕切る日岡に立ちはだかったのは、上林組組長・上林成浩だった。悪魔のような上林によって、呉原の危うい秩序が崩れていく。日岡役を松坂、上林役を鈴木亮平が演じ、吉田鋼太郎村上虹郎西野七瀬中村梅雀滝藤賢一中村獅童斎藤工らが脇を固める。前作に続き、白石和彌監督がメガホンを取った。

(映画.comより)

2018年の話題作『孤狼の血』が帰ってきました!正直、僕はその報を耳にした時どれだけ嬉しかった事か。この番組が始まったのは2019年の4月から。で、この「シネマ放談」自体はそれ以前はFMいずもの自分の担当番組内でしておりました。(今年3月のDARAZ FM放送開始からお付き合い頂いてる方もいるので念の為。)で、前作は2018年5月当時、私は大絶賛致しました。元々アウトローとかバイオレンス系が好きというのもありますが、本作の場合、まず地上波での放送は意識していないであろうコンプライアンスなんてものを徹底的にぶち壊し、人間が渇望する露悪的な映像表現を徹底的に見せつけ見た人の脳裏に焼き印を入れるかの如く刻みつける。こんな刺激的な作品に出会った私は続編の製作を大いに期待しました。しかし、興行的に大ヒットとはいかなかったですし、続編は難しいかなと思っでいただけにこれは嬉しかった!でも日本アカデミーでも高い評価があったわけですし、当然と言えば当然かな?そして新作にもドップリと魅了された私は既に三回程鑑賞しております。尚、念の為にお伝えします。私はヤクザとか反社を肯定するつもりはありません。いわゆるヤクザを題材にした映画は社会的な問題を提起した作品が多くその点を評価した上での評論とお伝えしておきます。

さて、孤狼の血大ファンのワタクシ、当然公開直後に見に行っております。で、そんな私の見る前の率直な思いとしては前作で殉職した大上。役所広司が演じたあの野性味溢れるキャラクターが忘れられないのですが、彼に変わって前作ではルーキーだった松坂桃李演じる日岡がどんな味を醸し出してくれるのだろう。そして新たにキャスティングされた鈴木亮平演じる上林の存在が気になっていました。

本作を見た上での率直な感想を言えば放送コードに引っかかるフレーズのオンパレードになるのではないでしょうか。それくらい表現するのが憚れる映像に満ち溢れています。しかし、言葉に配慮しながら伝えるのは私の使命。決して不快にならない様に表現していきます。

コンプライアンスが問われる現代において映像的表現の限界が一昔前よりかなりハードルが高くなったと思います。例えば直接的な性表現、過激な暴力や虐待シーン、あからさまな差別表現等です。しかし、本作においてはその概念は全く通用しません。もちろん前作もそうでしたが、本作はそれを凌駕する様な場面が全編に渡って盛り込まれています。故に万人には勧められない見る人を選ぶ作品であるのは間違いありません。僕なんかはかなりグロには耐性のある方だとは思いますが、上林が出所早々に起こしたピアノ講師の殺害シーンはそんな僕でも目を背けてしまいました。これは割と序盤の方に出てくるのですが、ここで脱落する人がいてもおかしくありません。ただここがかなり重要でしてその後暴かれていく上林というキャラクターのサイコパスぶりを示した最初のシーンなんですよね。つまりはこの凶悪性こそが上林の性質を決定づける部分であり、そこを中心にこの映画が展開されていくのです。

その後も組長夫妻を檻に監禁し、鎖で首を締め付けるそして挙句に焼殺する等等凶悪事件の判決に関心の高い僕から見ても極刑以外考えられない凶行を次々と犯していきます。本作のパンフレットでキャストのインタビューがありましたが、鈴木亮平さんは役に入り込んでいく反面、人間・鈴木亮平は精神的におかしくなりそうだったと語っていました。つまりそれくらい鈴木亮平さんの役者としての入り込みその結果、近年の日本映画有数の怪演を見せたという事ですよね。

また、そんな上林の生い立ちを見せるシーン。原爆ドームの見える薄暗いアパートでの少年時代。これまた実際の凶悪事件の犯人の生い立ちを調べる事に関心の高い私としては非常にリアリティのあるシーンだと感じ、何とも言えない絶望感にさいなまれましたね。いわゆる凶悪犯の生い立ちって多くが幼い頃に虐待を受けたりいじめを受けていたりという闇があります。上林もまた父親からの虐待があり、それがやがてとんでもないモンスターを生んでしまう事になる。その辺りが非常に説得力ある形で伝わりました。

と、ここまで上林の事を中心に見てきましたが、主人公である日岡です。前作は大上というマル暴刑事のボスがいたわけですが、まだまだ青臭い新米刑事でした。しかし、あれから数年。すっかり逞しくなった彼は上林と対峙していく事になります。その過程で老刑事の瀬島(中村梅雀)と組んで事件の捜査に当たりますが、少々独善的ではあるものの、刑事としての成長を感じさせる様にキビキビと動きます。そして上林との対決は見せてくれました!ド派手なカーアクションを含めてエンタメ性を追求しながらも二人の男のドラマを映し出す。いわゆるアウトロー系では暴力を全面に出しつつも、最終的にはそれが如何に虚しいものであるのか暴力や破壊を徹底して否定する帰結点というのはどんな作品であれ、共通しているものですが、本作でも当然その辺りは描かれます。そしてその見せ方だって生々しい。

他にも語りたい事は尽きないのですが、残念ながらそろそろお時間の様です。何度も言う様に見る人を選ぶ作品ですが、古き良きヤクザ映画にインスパイアされ、人間の泥臭さや醜さ、しかしそのどれもに魅せられる現代の日本映画では稀有な作品かと思います!

強くオススメします!