きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

シャイロックの子供たち

テレビドラマ化もされた池井戸潤の同名ベストセラー小説を、阿部サダヲ主演、池井戸原作の「空飛ぶタイヤ」を手がけた本木克英監督のメガホンで映画化。小説版、ドラマ版にはない独自のキャラクターが登場し、映画版オリジナルストーリーが展開する。
東京第一銀行・長原支店で現金紛失事件が発生した。ベテランお客様係の西木雅博は、同じ支店に勤務する北川愛理、田端洋司とともに、事件の裏側を探っていく。西木たちは事件に隠されたある事実にたどりつくが、それはメガバンクを揺るがす不祥事の始まりにすぎなかった。
西木役を阿部、北川役を上戸彩、田端役を玉森裕太がそれぞれ演じるほか、柳葉敏郎杉本哲太佐藤隆太柄本明橋爪功佐々木蔵之介らが顔をそろえる。(映画・comより)

半沢直樹」等テレビドラマで大人気の池井戸潤原作作品。しかし、近年では「空飛ぶタイヤ」(2018)、「七つの会議」(2019)等映画でもヒット作を生み、昨年は「アキラとあきら」が話題になったのは記憶に新しいですね。

今作は「半沢直樹」同様に銀行内での不正をテーマに業の深い人間の姿を映し出し、お金に翻弄される事の脆さを見せていく内容です。

人気俳優・阿部サダヲ。昨年は「死刑にいたる病」で猟奇的な殺人犯という役柄で見せた怪演が日本映画界に大きな衝撃を与え、「アイ アム まきもと」ではガラッと変わりお人好しな人物像で改めて役幅の広さを証明しました。彼にとって初となる池井戸潤作品はどの様な姿を見せてくれるのか私も楽しみにしていました。

そんな彼を主演に上戸彩玉森裕太佐藤隆太佐々木蔵之介橋爪功柳葉敏郎柄本明杉本哲太といった豪華俳優陣が作品を盛り上げてくれます。

まず、冒頭。シェークスピアの戯曲「ヴェニスの商人」の舞台劇のひと幕が映し出されます。そこには本作の名前の元となったシャイロックも登場。彼は強欲な金貸しではあるが、金の変わりに求めたものが裁判で認められず法廷を去ってしまう事に。

そんなシャイロックの名前を冠した意味とは?そしてそんな戯曲を観客として妻と共に見ていた佐々木蔵之介演じる黒田という男が発したひと言と彼に関するある秘密。これが物語を見る上で非常に大きな軸となっていくのです。

変わってある場面。橋爪功演じる謎の実業家風の老人と佐藤隆太が演じた一人の銀行員。素人目に見ても明らかに怪しい案件を受けさせられる行員。ここからが彼にとっての地獄が始まっていきます。

…とこの様に今作は様々な人物の群像劇となる様相を早めに見せていきます。お金に支配された男の泥沼と化していく様は見ている側にも恐怖を与えてきます。

とお金がテーマになっているという点では「闇金ウシジマくん」なんかを思い出してしまいます。もっとも「ウシジマくん」はお金の恐ろしさを伝える反面、闇落ちしていく人をどこかしらユーモラスに描く分まだエンタメ的に気楽に見れる反面、池井戸潤作品だとどこまでもシリアス要素を強めるからよりリアルに響くかもしれませんね。

そして主人公である阿部サダヲ演じる西木という銀行員。一見お調子者のムードメーカーなんですが、彼も彼でお金に縛られそれこそウシジマくんじゃないですが、かなりヤバい所からの負債がある様子が描かれています。

とこの様に登場人物の多くがお金に関してのトラブルを抱えているのがわかります。

ところでこの映画はサスペンス要素が非常に強く、不正を暴く為の推理劇が随所に見られます。それこそが西木が先頭に立ち、北川、田端という若い部下と共同で謎を明かしていきます。話しが複雑になればなる程その推理劇がスリリングで楽しい。

また、このお金を中心に据えながらも社会に蔓延る闇を描いていってまして、耐震偽造パワハラ問題等等が盛り込まれています。配信偽造に関しては設計士が明らかに10数年前に問題となったあの設計士みたいでした。パワハラ問題に関しては杉本哲太が演じていた上役がまさにそれでして、こんな上司居たらそりゃ心病むわとしんどくなりました。特に彼のパワハラ被害に遭うひとりの行員の姿は辛くなりましたね。パワハラ、ダメ絶対ですよ!

とこの様に割と本筋と外れたところで見せる社会問題への絡ませ方の見せ方はうまかったですね。

それから個人的に好きなショットなんですが、佐藤隆太を俯瞰的なアングルから捉えたショットが劇中に出てきますが、印象に残りましたね。

例の橋爪功社長への融資からなんですが、家に帰れば可愛い妻と息子。外での仕事では絶望の淵に追いやられているそんな男が都会の広場に腰掛け葛藤と苦悩に苛まれそんな状況をあの俯瞰ショットで見事に表していたと思います。

ところで僕は彼の姿を見て今正に社会で大問題となっている闇バイトに手を染める若者を思い出しました。善良な青年が想像を超える悪と出会ったが為に抜け出せられなくなる無間地獄。佐藤隆太さんが演じていた彼は正にそんな若者と重なる様であり、教育的観点から今の若い人達にも見てもらいたい作品だなと感じました。

…とこの様にお金を軸に様々な事を考えさせられる良作ではあったものの、映画的に物足りなかった点もあります。

それは様々な思惑が重なる群像劇にし、深みにどんどんハマって闇落ちしていくストーリー展開に複雑に重ね合わせた不正の闇。どれも面白かったものの、ラストで倍返しのどんでん返しにカタルシスが生まれなかった点なんですよね。池井戸潤作品ならではの勧善懲悪ストーリーではあったんですが、ラストをどうにも阿部サダヲさんのおちゃらけキャラクターでうまくごまかしてしまった感が強くてやや拍子抜けしてしまいました。柄本明さんが演じた飲み友達の資産家と共謀して、悪人をはめるまでは良かったですが、コミカルなラストに落とし込んだのが残念。ここもっと巧妙な見せ方あったんじゃないかななんて勿体なく思ってしまいます。でも、バーでのくだりは西木の迷いと共に今作のテーマとうまく結びつけていて良かったと思います。

お金を持ってもお金に支配されるな。そんなメッセージが盛り込まれ、見る人を惹きつけるそんな作品でした。

是非ご覧下さい!