きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

BAD LANDS バッド・ランズ

安藤サクラと山田涼介が特殊詐欺を生業とする姉弟役を演じたクライムサスペンス。「ヘルドッグス」「関ヶ原」の原田眞人が監督・脚本・プロデュースを務め、直木賞作家・黒川博行の小説「勁草」を実写映画化した。
大阪で特殊詐欺に手を染める橋岡煉梨(ネリ)と弟の矢代穣(ジョー)。ある夜、思いがけず3億円もの大金を手にしたことから、2人はさまざまな巨悪から狙われることとなる。
幼い頃からネリのことをよく知る元ヤクザ・曼荼羅を宇崎竜童、特殊詐欺グループの名簿屋という裏の顔を持つNPO法人理事長・高城を生瀬勝久大阪府警で特殊詐欺の捜査をする刑事・佐竹を吉原光夫、特殊詐欺合同特別捜査班の班長・日野を江口のりこが演じる。(映画・comより)

今年大きくニュースを賑わせた特殊詐欺犯罪。とりわけルフィと名乗る人物はては強盗殺人にまで発展したりまた闇バイトという形での求人から本来は犯罪とは無縁の主に若者がその片棒を担がされる事で闇に落ちる等その恐ろしさが改めて世間に浸透したそんな年となりました。

今作はまさにそんな詐欺で生計を立てる姉弟をフォーカスしながら展開させていくクライムサスペンス。

関ヶ原」、「燃えよ剣」、「ヘルドッグス」等設定となる時代に関わらずリアルな人間の感情を捉えてきた原田眞人監督という事で期待を抱いてMOVIX日吉津で10月1日に鑑賞。日曜日のファーストデーという事でたくさんの人が入っていました。

さて、前述の闇バイトからの特殊詐欺への加担。ニュースを他人事の様に見ていませんか?今作冒頭では老女からお金を詐取するまでの流れが非常に生々しく映し出されています。組織のトップに居る者は末端の人間に指示を出す。しかし、彼らは所詮捨て駒。警察は警察で黙っていないわけでしっかりとマークをする。言われるがままに指示を受け犯罪に手を染めるのはあくまで下層の人達である。上の人間からすると彼らがパクられようと何だろうが関係ない。さて、ここで早速今作の大きな図式を見せつけられる。それはどんな組織にもピラミッドがありピラミッド最下層の者達は上部の者に時に利用され時に食い物にされ時に虐げられるという事。

日本三大ドヤ街とされる大阪・西成のボロアパートに住まう老人達だってまさにそのピラミッド最下層の人達なんです。ニュースの報道で一連の詐欺事件で若者に混じって年配者の名前だって見かけたでしょ?要はそういう事なんですね。そういう意味ではこの映画はタイムリーな作品だし、ニュースで少し耳にしたという人に詐欺の実態を見せる上では非常にリアルな実態を伝える非常に意義のある内容でした。

そして今作の主人公である安藤サクラ演じるネリと山田涼介演じるジョーの二人はそんな裏社会を渡る姉弟なんです。

彼らは何故闇堕ちしたのかは作中で触れられていますが、こんなダークな世界で巨悪にひと泡吹かせる為の下剋上が作品の要となっていきます。そこには実社会においての諸問題もサラッと描き、そしてラストではカタルシスを生み出していくまさに原田監督がこれまでの作品でも見せてきた様な作りとなっていて原田監督作品が好きな人なら楽しめる内容ではないかと思います。

さて、今作では東京の場面も出てきますが、ほぼ舞台は大阪。それも今でこそ都市開発が進み、以前に比べるとクリーンになってますが、大阪随一のアンダーグラウンドスポット・西成が中心です。安藤サクラさんと言えばこれまで「万引き家族」、「怪物」等シリアス寄りな作風でその存在感を見せてきましたが、意外にも関西弁の役は今回が初めて。しかし、20年近く関西に住んでた僕が聴いても(もっとも京都と大阪では同じ関西弁でも細かい部分は異なりますが)全く違和感がなくネイティブな人のイントネーションそのもの。普通に会話してるのもそうですが、とある場面でドスの効いた恫喝をするのですが、マジもんの迫力があります。

また、山田涼介くんもまた然り。とりわけ彼の場合、殺人に犯し出所したばかり。発想から何からのサイコパス。原田監督の前作「ヘルドッグス」での坂口健太郎さんの時にも思いましたが、監督はこういうイケメンをガチでヤバい奴に仕立てる見せ方がホントにうまいですね。

で、「ヘルドッグス」の話しをしましたのでここ触れておきましょうか。意外な所に登場する岡田准一さんですよ。キャストにクレジットされていなかったので意外でしたが、「関ヶ原」、「燃えよ剣」、「ヘルドッグス」と原田監督作品との縁からなのかこういうサプライズは嬉しいですね。

また、闇の世界を描いているからこそなんですが、賭博をする場面があります。そしてこの賭場が新撰組の映画を撮ったセットという事で山田涼介が「懐かしいな〜」なんて言ってるんですよ。これ、山田君のアドリブかな?ちゃんと台本にあったセリフなのか?いずれにしろ「燃えよ剣」で使った池田屋でしょうかね?まさかのセットのリサイクルという辺りに顔がにやけちゃいました。とこんな具合に原田監督ユニバースが展開されていたりと遊び心も随所に見られましたね。

さて、今作においての個人的なMVPは生瀬勝久さんでしょうか。あの如何にも犯罪組織のボスでありながらどこか隙のあるキャラクターは絶妙にマッチしていました。関西随一の劇団・そとばこまちの出身ですからネイティブな関西弁もまた魅力的。ちなみに生瀬さんのそとばこまち時代の芸名、放送では言えません、気になった人は調べて下さい(笑)

ただ一方では登場人物をわらわら出すのはいいけど彼らを全て生かしきれていなかったのが残念。冒頭で詐欺グループを追っていた刑事。天童よしみ演じる裏稼業の道具屋等等ね。特に警察はかなりの尺を使っていたのに事件の捜査とその顛末をはっきり見せなかったのは気になりましたね。クライムサスペンスなんだからそこは重要だと思うのですが。

と気になる部分はありますが、劇薬の様な刺激の強いシーンや目まぐるしいストーリー展開。ケレン味たっぷりのキャストの演技等見応えたっぷりな内容です。

是非劇場でご覧下さい!