きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦!〜とべとべ手巻き寿司〜

幅広い世代に愛される人気アニメ「クレヨンしんちゃん」のシリーズ初となる3DCGアニメーション作品。「STAND BY MEドラえもん」などのCGアニメーションで知られる映像制作プロダクションの白組が3DCGを手がけ、映画「バクマン。」やドラマ「エルピス 希望、あるいは災い」の大根仁監督が、アニメーション作品の監督に初挑戦した。
かつて、ノストラダムスの隣町に住んでいたヌスットラダマスが「20と23が並ぶ年に天から2つの光が降り、世界に混乱がもたらされる」という予言を残した。そして西暦2023年の夏、宇宙から白と黒の2つの光が地球に降り注ぎ、しんのすけに白い光が命中。不思議なパワーがみなぎるしんのすけは、エスパーとして覚醒する。そして、もう一方の黒い光を浴びた男・非理谷充(ひりや・みつる)もまた、エスパーとなった。バイトは上手くいかず、推しのアイドルは結婚、さらには暴行犯に間違われ警察に追われていた非理谷は、力を手に入れたことで世界への復讐を企む。破滅を望む非理谷と、それを止めようとするしんのすけの、超能力バトルが幕を開ける。
世間に対して鬱屈した感情を抱き、黒い光を受けて暗黒のエスパーとなる非理谷充の声を松坂桃李が担当。そのほか、お笑いコンビ「空気階段」の水田かたまり&鈴木もぐら、「鬼滅の刃」の禰豆子役で知られる人気声優の鬼頭明里がゲスト出演。(映画・comより)

1992年にテレビアニメの放送開始、93年からは映画の公開が始まり30周年となった「クレヨンしんちゃん」です。そんなアニバーサリーイヤーを迎えた今作は初の3DCG。監督、脚本は「モテキ」、「バクマン」、「SUNNY 強い気持ち強い愛」を手掛けてきた大根仁監督という事で私も公開前から楽しみにしておりました。そして公開早々の8月6日日曜日MOVIX日吉津で鑑賞。

3DCGのしんちゃん達は果たして?ではお伝えしていきましょう。

冒頭はお馴染み・しんちゃんと母みさえによるドタバタ劇。3Dになった事でこの二人の動きにも躍動感があり、この辺りはさすが白組といったところ。そして今作で大きく扱われる事になる超能力について触れていく事になります。

思えば上岡龍太郎さんはテレビで超能力や心霊・占い等オカルトを扱う事に対して常々警鐘を鳴らしていたのを思い出します。それは科学的に根拠を示す事の出来ないものをテレビという当時絶大な影響力を持つメディアが扱う事によって純粋な人を作ってしまう。そしてこういった人達を利用する邪な輩を蔓延らせてしまう事への危惧からでした。30年以上前の話しではありますが、この考えには私が上岡さんを尊敬しているという事を抜きにしても至極尤もであると思います。

故にこの映画では超能力というものをどの様に描くのかを中心に見ていきました。

結論を言えば私の考え通りに話しは進み、超能力という人知を超えたはたまた不明瞭な物なんかより人間の力の偉大さを説いたものであり僕も肯定的に捉える事が出来ました。

しかしここに至るまでがあまりにも深くて後述しますが、今作に関してはもはや大人にターゲットを絞っているのでは?と思いました。だから今作は大人の人には是非見て頂きます。えっ?子供は?…だから後で言いますね。

ズバリ言います!今作は完全に社会派作品です。というのが今作の敵キャラになる非理谷という青年。差別的な言葉になりますが、わかりやすいので使いますが、社会の底辺層です。友達居ない彼女居ない駅前でティッシュ配りをするうだつの上がらない派遣社員。唯一の生き甲斐はアイドルの推し活動なのですが、その推しのアイドルが結婚して引退…超能力を手にした彼はネットスラングで言うところの無敵の人となってしまいます。繁華街で暴れたりスクールシューティングならぬ幼稚園の襲撃なんて場面を見ると実際の事件をモデルにしてる様ですし、プロットを見るとまるで「ジョーカー」の様です。更には彼の様な社会からはじかれてしまった若者を囲い超能力を身につけさせる組織を見ると宗教団体を思い出します。ここまでのお話しどうでしょう?これまでの「クレヨンしんちゃん」ではなかった様な実社会の闇をフォーカスした様な内容ですよね?更には父・ヒロシの口から出てくるのは昔は頑張ればその分だけの見返りは得られたが、今は…という様なセリフに高齢のキャラクターが言う「我々の世代が後回しにしたツケが今の若い世代に回ってる」云々のセリフ。何だかこんな事聞くとクレヨンしんちゃんの30年は日本経済衰退の歴史いわゆる失われた30年と丸々重なってしまっている事を考えてしまいました。そもそもアニメが放送された当初の父ヒロシってうだつの上がらないニッポンのサラリーマンの象徴の様に描かれてましたけど、今や現代社会の勝ち組ですからね、非理谷を上の立場で励ましているシーンなんてすごい象徴的ですよ。

クレヨンしんちゃん」の映画で日本の政治や社会について考えるなんて思いもしませんでしたよ。

なんて言えばすごい重い作品なのかと思われそうですが、しんちゃん映画らしく普遍的テーマも扱わていましてここが今作の最大の泣きポイントでしたね。それはしんちゃんが孤独な青年・非理谷の心を救う場面です。非理谷は確かに敵キャラとして現れてますし、超能力を身につける前の彼の姿を見たってここまで卑屈になるんだったらもっと自分を変える努力をしろよなんて思います。でもね、それが出来ない人だっている。これこそが彼の過去にフォーカスした場合でわかるんですよね。子供の頃から協調性がなく一人ぼっち、心の弱さを付け入れられていじめの標的にされる。拠り所となるであろう家族どの関係だって恵まれないとなれば彼はどうして人生を好転出来ると言えようか?今作では無敵の人を扱っていますが、犯罪者の生い立ちを見ると子供の頃の経験が如何に人格形成に影響が強いかよく分かります。

彼の場合だって誰か一人でも味方が居ればって事なんですよね。それだけに僕は彼の心に入ったしんちゃんの姿には涙が止まりませんでした。自分だって成長期の記憶を振り返れば恵まれたものではなかったですからね。だからこの作品。大人に向けてはトラウマの克服という強いメッセージが打ち出されていました。

また、これまでサブカル寄りの映画を撮ってきた大根仁監督がらしさを出してきたなというポイントがありまして、これが深キョンの「キミノヒトミニコイシテル」って曲なんですよね。「モテキ」とか「奥田民生になりたいボーイ〜」とか「SUNNY 強い気持ち強い愛」とか既存のJ-POPの使い方が秀逸なんですよね。何で深キョン?しかもこの曲?とツッコミたくなりますが、答えは大根仁監督だからとしか言い様がないんですよね(笑)

と大人が見たらかなり刺さる内容だったし、エンタメ性抜群でした!「バクマン」でやってた様な漫画(コミック)調のエンドもらしさがあったしサンボマスターの主題歌もスゴイハマってました!

ただね〜、大人に寄せ過ぎなんですよね。確かにおしりフリフリのしんちゃんやお姉さんのオッパイに吸い付くしんちゃんやヒロシのパンツが脱げちゃうシーンで子供達の笑いが起きてましたよ。

ただね〜、前述の様にテーマが重過ぎなんですよね〜、実際の事件を思い出す描写や今のそしてこれからの日本が暗いとはっきり伝え過ぎだし、いじめの描写も容赦なかった。更にはしんちゃんやカスカベ防衛隊の皆んなが痛めつけられるシーンとか痛々し過ぎて子供を連れた親御さんの心境を考えたら複雑なものがありましたね。確かに大事な事を伝えるメッセージ性は富んでましたし、その為に残酷なシーンは説得力を生み出します。だけどこのテの案件は白石和彌監督辺りに任せてあくまでしんちゃんの世界観を崩さずお子さんへ配慮をした作りの方が良かったんじゃないかな?

なのでこれからお子さんを連れて見に行かれる方、注意をした方が良いかと思います。どちらかと言えば小学校高学年以上向きかなというのが私の印象です。ディズニーの「マイ・エレメント」の方がいいかもしれません。

なんてこのコーナーで言うのも気が引けますが…。

ですが、私的には良い内容でしたし、大人の皆さんには強く推奨します!