きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

シング・フォー・ミー、ライル

アメリカの児童文学作家バーナード・ウェーバーの名作絵本「ワニのライル」シリーズを実写映画化したミュージカル。
ニューヨークの古びたペットショップを訪れたショーマンのヘクターは、奇跡のような歌声を持つ小さなワニのライルと出会う。ヘクターはライルを相棒にしようとするが、ライルのステージ恐怖症が判明すると、ヘクターはライルを残して去ってしまう。それから長い月日が経ったある日、ライルが隠れ住む家に少年と家族が引っ越してくる。傷つき歌うことをやめていたライルは少年との出会いをきっかけに再び歌い出し、歌を通して少年と心を通わせていく。
ノーカントリー」のオスカー俳優ハビエル・バルデムがヘクターを演じ、世界的歌手ショーン・メンデスがワニのライルの声を担当。「俺たちフィギュアスケーター」のウィル・スペック&ジョシュ・ゴードンが監督を務め、劇中曲の作詞作曲を「グレイテスト・ショーマン」のベンジ・パセック&ジャスティン・ポールが音楽を手がけた。(映画・comより)

世界中を感動の渦に巻き込んだあの「グレイテスト・ショーマン」から5年。「グレイテスト〜」の音楽チームが手掛けたミュージカル映画が新たに生まれました。春休み中の公開、原作は児童文学という事で子供向けの作品ではありますが、果たしてどの様な内容でしょうか?

3月26日にMOVIX日吉津にて吹替版を見て参りました。尚、この吹替版ではライルの歌唱を大泉洋、その他石丸幹二郎、水樹奈々といった豪華なキャストが声優を担当します。

まず冒頭で見せるのはショーマンのヘクターの姿。19世紀〜20世紀初頭に見られるブリティッシュ風の紳士スタイル。シルクハットをスタイリッシュに決めるその姿を映像的表現から「グレイテスト・ショーマン」のそれと重なります。しかし、舞台は現代のアメリカ。ヘクターのスタイルはあくまでステージ衣装なんですね。そんなヘクターがどんなイリュージョンを見せるのか?と思っていたらそれがてんで冴えないんですよね。つまり彼はうだつの上がらないショーマンであり、そんな彼がワニのライルと出会って数々の奇跡を巻き起こす…話しではないんですよね。

核となるのは少年とワニの友情。ジョシュという名の少年がワニのライルと出会いそこから彼の成長へと繋がっていく王道のストーリー。そこに本作ならではのオリジナル楽曲やクラシカルなロックやポップスなどの名曲群が作品を彩っていきます。

さて、ミュージカルなので音楽面をお伝えします。「ラ・ラ・ランド」や「グレイテスト・ショーマン」等のミュージカル映画史に残る数々の作品を手掛けてきたチームが担当しているとあって楽曲の完成度はさる事ながらその場面その場面の雰囲気に合う作風の曲はよくまぁこれだけ作れるなと感心するばかり。吹替版での大泉さんをはじめとしたキャストの声ともピッタリで吹替版のキャスティングにもセンスを感じます。

また、スティーヴィー・ワンダーエルトン・ジョンと言ったビッグアーティストの既存曲もふんだんに使われ、オリジナル曲とミックスされても双方が決して悪い方向には向かっていかない。つまりバランスが良いんですよね。一流の音楽スタッフが手掛けるとこうも音楽をより良い形で映像にのせていくんだなとそのお手本の様な仕上がりとなっていました。

それからワニのライルですね。もちろん本物のワニではなくあくまでCGなのですが、こいつがまたたまらない。CGでワニを写すとあればいくらでも可愛くしようがあったと思うんですよ。それこそ子供や女性をターゲットにした作品であればむしろ可愛いが正義になるわけであって熊のパディントンや憎たらしいけど可愛いが勝るピーターラビットみたいなお手本はいくらでもあります。だけど今作でのライルはリアルなワニの作り。動物園に居る様なリアルワニですよ(笑)そんなワニだと可愛いさより怖さが先行しそうなもんですが、これが不思議と見ていく内にライルが可愛く見えてくる。これはライルが劇中で見せる喜怒哀楽の表情によって見ている人のハートをどんどんキャッチしていくんですよね。哀しそうな表情をしていると「可哀想…」て思っちゃうし、楽しそうな顔だとこちらまで嬉しくなっちゃう。そして圧巻の歌唱シーンになるとこちらの高揚感を見事に煽ってくれる。すっかりライルの虜になるんです。

そしてひとつのテーマとしてあげられていたのが孤独というもの。他所からやってきたジョシュ少年は転校先の学校に馴染めずクラスでも浮いています。ライルはライルで元の主人であるヘクターに暗い部屋に置き去りにされ、長い間淋しく過ごしていました。そのヘクターだってそう。前述の様にうだつの上がらないショーマンである彼ですが、少なくとも作中では彼の友人であったり彼の理解者たる人物は登場しません。それにジョシュの両親もそう。台湾系の移民である母親も新しい環境への戸惑いがあるし、父親は父親で教師なのですが、赴任した学校の学級崩壊を止められず、生徒からも舐められる日々。

だけどそんな彼らがひとつになった時、彼らの生活にも変化が見られるんですよね。ジョシュには友達が出来るし、母親は趣味の料理で肯定的な人生を取り戻す。元レスリングのチャンピオンだった父親はその時の熱意を取り戻し、生活達に真っ向から向き合っていく。

結局人生を好転させるかどうかは当人次第。もちろん彼らの様にうまく気持ちを切り替えられるかどうかは意外と難しい問題でもあるし、世の中そんなにうまくは出来ていないし、綺麗事ばかりじゃない。だけど気付きのきっかけを得られるかどうかって重要だと思うんですよね。ライルはその道標を彼らに示し、そして自らも変わっていきました。

また、ライルがワニであるが故に起こる悲劇とそれに向かっていくジョシュ達の姿も印象的でした。個人ではどうする事も出来ないのは父親の言ってた通りだし、逆説的にはかえってその方がライルにとって幸せだったのかもしれない。だけどジョシュにとってはライルはかけがえのない友達であり、彼との日々が忘れられない。それを考えると彼らの関係ってのび太ドラえもんに近いんですよね。ドラえもんが一度22世紀に帰るって話しがありましたが、その時ののび太の心境って正にジョシュのそれなんですよ。のび太だってドラえもんと出会う前と後での成長ぶりがやはりあるし。

で、そんなドラマを経るからこそのラストが効いてくる。スラップスティックアメリカの王道コメディではよく見かける様な展開からのステージでの歌唱シーン。イルミネーション映画「シング/SING」における象のミーナちゃんよろしく自分の殻を破ったライルの圧巻のパフォーマンスはきっと見ている人の心を掴んだ事でしょう。

もっとヒットしてもいいのにな、と個人的には強く思っているこの映画。

オススメです!是非劇場でご覧ください!