きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

カラダ探し

小説投稿サイト「エブリスタ」で話題を集めた携帯小説で、2014年には漫画化もされた人気作品「カラダ探し」を、橋本環奈の主演で映画化。無残に殺される日を何度も繰り返すことになる高校生たちの恐怖を描いた。
7月5日、女子高生の森崎明日香は、校内でいるはずのない幼い少女と出会い、「私のカラダ、探して」という不気味な言葉をかけられる。不思議な出来事に違和感を覚えつつも、いつも通りの一日を終えようとしていた明日香。しかし、午前0時を迎えた瞬間、気が付くと彼女は深夜の学校にいた。そこには明日香の幼なじみで最近は疎遠になっていた高広と、普段は接点のないクラスメイト4人も一緒にいた。困惑する6人の前に、全身が血で染まった少女「赤い人」が現れ、6人を次々と惨殺していく。すると明日香は自室のベッドで目を覚まし、7月5日の朝に戻っていた。その日から6人は同じ日を繰り返すことになり、そのループを抜け出す唯一の方法は、とある少女のバラバラにされたカラダをすべて見つけ出すことだった。
主人公の明日香を橋本、幼なじみの高広を眞栄田郷敦が演じるほか、山本舞香神尾楓珠、醍醐虎汰朗、横田真悠ら注目の若手キャストが集結。「海猿」「暗殺教室」など多数のヒット作を手がけてきた羽住英一郎監督がメガホンをとった。(映画・comより)

ハシカンこと橋本環奈ちゃんと言えばこれまでにも数々のヒット作品に出演して存在感を示してきましたが、こと主演となるとなかなかヒットには恵まれない印象がありまして、最近だと「バイオレンスアクション」が興行的に伸びなかったのが記憶に新しいですね。そろそろ主演のヒットが欲しいというハシカンサイドの声が聞こえてきそうな中、この「カラダ探し」はなかなか評判が良いという事でそんな口コミには弱い私も見て参りました。

平日のMOVIX日吉津。比較的席も空いており、ゆったりと鑑賞して来ました。

まず本作ですが、近年よく製作される傾向にある同じ日常を何度も繰り返すいわゆるタイムリープものであり、それを赤い人と呼ばれるサイコなホラーアイコンの登場とからませていくありそうでなかったホラー映画です。

この赤い人とは凄惨な殺人事件により、命を奪われた幼い少女。バラバラ殺人だった事でそれぞれの体のパーツを見付け出し、体を完全体に戻すというもの。故にタイトルの「カラダ探し」なんですね。

このミッションに挑む6人の高校生によるホラーであり、アドベンチャー要素の強い作品となっていました。

と、ここでアドベンチャーなんて単語を使いましたが、その辺りについて話していきましょう。

集められた6人の高校生というのは同じクラスに居ながら普段の生活では交わる事のない面々なんですね。ギャル風のJKに学級委員の女子、クラス中からいじめを受けるメガネくんに不登校で引きこもりとなっている少年に女子からもモテるスポーツマンそして橋本環奈演じる明日香という少女はある事をきっかけに仲間外れにされ、クラス中の女子からしかとをされているぼっち少女。

スクールカースト上位も下位も関係なく寄せ集められた彼らが襲いかかる赤い人から逃げ延び体のパーツを一つ一つ集めていくんですね。もし、赤い人に捕まったら殺される。全員が死んだらゲームオーバーとなりまた、同じ日の朝を迎えるというもの。ね、なかなかアドベンチャー要素強いでしょ?僕はこれ見ながらゲーム化したら面白いんじゃないかなて思ってましたもん。

で、次の日を迎えてもこのデスゲームに参加していた面々は記憶があるんですよ。そこから初めはバラバラだった面々が結束してカラダ探しをする為の作戦会議を繰り広げたりしてる内に徐々に仲間意識が芽生えていき、遂には皆んなで海にまで行くという友情を育んでいく。

そこからは一気に青春映画へと舵取りしていきますからね。この流れで「あれ、俺何の映画見てんだっけ?」って戸惑っちゃいましたよ(笑)

でもこれが意外と不快にはならなかったんですよ。それまでのホラー展開がずっと続くと正直疲れるってのがあったんですよね。この男女6人夏物語場面が程よく緩和剤になった事で映画全体の緊張と緩和を上手く生み出せていたなと思います。

そして青春映画描写もそこそこに再び緊張感溢れるホラー展開へ戻るとドキドキハラハラの連続で一気に作品に引き込まれていきました。

そして後半。彼らが何故集められたのかが明かされます。もちろんここでは明かしませんが、高校生ならではの繊細な心の機微や彼らの置かれてる環境なんですよね。

で、これは高校生だけではなく、大人にも当てはまる事。日々の仕事や家事・育児と日常生活に追われると心に余裕がなくなると、孤独や虚しさに襲われるなんて事があります。喪黒福造的に言えば心のスキマというヤツですね。実は彼らはこの弱点を抱えていたんですね。

そんな境遇だからこそ彼らにとっては何が必要なのかを伝えている様であり、この流れを見たら赤い人ってめちゃくちゃ怖かったんだけど実はいいヤツなんじゃないか?なんて思いましたよ。殺されると言っても実際に命を奪われるわけではないしね。

ハシカンを初めとした若手キャスト陣もそれぞれに見せ場が用意されていましたね。個人的には山本舞香ちゃんがチェーンソーを持って赤い人に挑むシーンはベストでしたね!彼女には今後もこういったアクティブな姿を見せてほしいなと個人的には思いました!

さて、本作はラストも非常に印象的でした。それは明日を迎える事に対しての明日香の捉え方ですね。エンドレスで同じ日を繰り返す事によって彼女には仲間が出来たんですね。しかし、これが明日を迎えると…というくだりですね。この辺りのストーリーの運び方もうまく出来ていたなと思いました。

尚、本作はエンドロール後には次作を示唆する様な映像が。かなり期待が高まりましたね!

多少のご都合主義はありましたが、見応えのある作品でした!ホラーが苦手な人にも勧められそうです。

是非劇場でご覧下さい!

耳をすませば

スタジオジブリの人気アニメ映画の原作として知られる柊あおいの名作漫画を、清野菜名松坂桃李の主演で実写映画化。原作漫画とアニメ映画で描かれた中学時代の物語に加え、主人公2人が大人になった10年後をオリジナルストーリーで描く。
読書好きな中学生・月島雫は、図書貸出カードでよく名前を見かけていた天沢聖司と最悪の出会いを果たす。しかし雫は聖司に大きな夢があることを知り、次第に彼にひかれていく。そんな聖司に背中を押され自身も夢を持つようになる雫だったが、聖司は夢をかなえるためイタリアへ渡ることに。2人は離れ離れになってもそれぞれの夢を追い、10年後に再会することを誓い合う。それから10年が過ぎた1999年。出版社で働きながら夢を追い続ける雫は、イタリアで奮闘する聖司を想うことで自分を奮い立たせていたが……。
大人になった雫と聖司を清野と松坂が演じ、中学時代の2人には映画初出演の安原琉那と「光を追いかけて」の中川翼を起用。監督・脚本は「ツナグ」「約束のネバーランド」の平川雄一朗。(映画・comより)

スタジオジブリの実写化と言えば「魔女の宅急便」が2014年に公開されていました。ただ、その内容や興行結果に関しては今更言うのは酷かもしれません。大ヒット映画「花束みたいな恋をした」でもネタ的な扱いで触れられましたもんね。

で、今作「耳をすませば」ですよ。柊あおいの原作で1995年にスタジオジブリ制作でアニメ映画化され、こちらは当時大ヒットとなりました。アニメ版を見ていた身としては今回の実写化は楽しみでもあり不安でもあり。特に雫と聖司の大人になってから…という事だから果たしてどうなのかを気にしながら10月16日MOVIX日吉津で鑑賞して参りました。

原作の漫画やジブリの映画で描かれた中学生時代と大人になってからを交互に描いていく手法は賛否あるとは思いますが、個人的には悪くはなかったと思います。キラキラと将来の夢を見る雫と聖司の姿を過去と未来を対比させながら見せていく事によって現実の厳しさをしっかりと伝えながらそれでも人生を肯定的に生きる雫の姿には割と多くの人の共感を得やすいと思います。ましてや恋人である聖司がイタリアでチェロ奏者として成功している姿があまりに眩し過ぎて比較する余り押し潰されてしまいそうな雫の姿は自分自身もそれに近い経験があり、非常にリアルに突き刺さりました。そしてまたこれは雫を演じた清野菜名のインタビューから彼女の原体験が演技に活かされている様です。彼女と言えば「今日から俺は!」更に今年は「キングダム2」に「異動辞令は音楽隊!」等アクション、コメディと多彩な活躍を見せる人気女優ですが、数年前まではバイト生活が中心でオーディションに出てもなかなか結果が出せなかったそうで、彼女自身も夢を追う事の難しさを身を以って感じていた様です。そんな経験があるからこそ今作の雫の心境もよくわかる、演技に反映されているんですね。

一方、松坂桃李君ですね。近年では「新聞記者」や「空白」、「孤狼の血」シリーズ等社会派作品やアウトロー系映画にも果敢に出演し、役の幅を広げている感が強いですが、雫の遠距離恋愛の相手として包容力がある聖司像を生み出していましたね。で、何がすごいかってチェロの演奏ですよ。この映画で軸となる曲がジブリが「カントリーロード」であるのに対し、「翼をください」。赤い鳥が1971年に発表した普遍的な名曲であり、時にはサッカーの応援に時には「エヴァ」にといった具合に様々なシーンで耳にする楽曲。合唱コンクールで唄ったという経験をお持ちの方も少なくないでしょう。この名曲をチェロで演奏するのですが、前奏だけ聴くと「えっ?これ翼をくださいなの?」なんて違和感を抱くかもしれません。ただこれが映画の要所要所で流れるともはや「翼をください」以外の何物でもないと感じるんですよね。それを表現する松坂桃李君の演奏力の高さですよ!「異動辞令は音楽隊!」での阿部寛さんやそれこそ清野菜名ちゃんにも感じましたが、短期間で練習を積み映画では完璧なものに仕上げるそのパフォーマンス力を見るとやっぱ役者さんって凄いなと感じますね。

それから本作ですが、大人になった雫と聖司が生きる時代は90年代後半。ジブリ版が公開された時期よりも後の設定なんですよね。で、その90年代後半感がうまく出ていたなと思いました。「タイタニック」とかたまごっちみたいなワードを記号的に出すのは多少あざとさは感じましたが、テレフォンカードを入れて緑の公衆電話で通話(細かい事を言えば1998年の段階では割と携帯電話は普及してたんですけどね)雫の勤務先は出版社なのに誰のデスクにもPCがないとかね。音尾琢真が演じていた上司の部下への叱責とか有給消化への捉え方とか令和の時代だとパワハラだし会社の体質はブラックそのもの。でもバブル崩壊から数年程度の90年代後半だとこれが当たり前だったんだよね。

で、この映画に関しては最後に突っ込んでおきたい事がありまして、それは夢という物の向き合い方や捉え方なんですよね。雫は彼氏である聖司と比較してとか友人達が結婚したり10年物語を書き続けて箸にも棒にもかからない状況を憂い、自分の才能や夢に疑問を抱きます。それ自体はよく分かるし、前述の清野菜名ちゃんの自身の経験と重ねての名演によってリアルに響くものはあります。だけど今作での雫の年齢は25歳。夢を追う身として揺れるにはまだ早い気がするんですよね。それにラストとハッピーエンドではありましたが、それは聖司との関係がという点であって彼女の追い続けている作家としての本懐を遂げたのかの映像説明が不足して個人的にはモヤっとしてしまいました。

まぁ、そんな気になる点はありましたが、夢を追う者の青春映画として10年来恋を結ぶラブストーリーとしては綺麗にまとまっていたと思うし、はじめに僕が抱えていた不安点に関してはうまく乗り越えてくれたなと思います。

原作やジブリ版が好きな人からは否定的な意見もありそうですが、悪くはなかったと思います。

是非劇場でご覧下さい!

七人の秘書 THE MOVIE

弱者の救済を請け負う秘書たちの暗躍を描いて話題を呼んだテレビドラマ「七人の秘書」を映画化。
熾烈な戦いの末に政界のドンを辞任に追い込んだ秘書たちのもとに、新たな依頼が届く。今回のターゲットは「アルプス雷鳥リゾート」を経営して信州一帯を牛耳る「九十九ファミリー」。地元の名家として知られる九十九ファミリーだが、裏では私腹を肥やすために手段を問わない極悪一家だった。雪深い信州へやって来た秘書たちは、巧みな潜入スキルで一家に接近を図るが……。
主人公・望月千代役の木村文乃らテレビ版でおなじみのキャストに加え、依頼人・緒方航一役で玉木宏、九十九家の次男・二郎役で濱田岳、九十九家の顧問弁護士・美都子役で吉瀬美智子、九十九家のドン・道山役で笑福亭鶴瓶がゲスト出演。テレビ版に続き、ドラマ「ドクターX」シリーズの中園ミホが脚本、田村直己が監督を務める。(映画・comより)

「THE MOVIE」と冠したドラマ映画。どうしても安っぽくなってしまいがちで映画ファンからは敬遠されてしまいがち。その点で言えば「ガリレオ」シリーズは先日取り上げた「沈黙のパレード」に至るまでドラマから派生したシリーズではあるもののうまくドラマと映画の差別化が出来てますよね。で、現にドラマ特有のテレビっぽさというのかな、その辺を上手く排除して一本の映画にまとめてる辺りには好感が持てますね。実際、映画ファンからの評価も高くそれが興行成績にも繋がっていると思うし。

ではこの「七人の秘書」はどうなのか?語っていきましょう。

テレ朝系のドラマ映画って実はこの辺のバランスがうまく取れていて過去に制作されていたもので言えば例えば「相棒」シリーズであったり「オッサンずラブ」であったりとドラマのノリをそのまま映画に引っ張ってきてドラマ末視聴の客を置いてけぼりにするなんて事は全くないとは言わないまでも比較的少なく一本の映画としてまとめていたと思います。

この「七人の秘書」も然りで初見でも設定や登場人物のキャラクターや関係性も容易に理解出来る。ドラマ映画にありがちなドラマを見てないとわからないファンサービス要素も排除してあり、寒々しい内輪ノリ的なものがなかったのは好感が持てます。

信州を舞台に利権と利権が絡み合いドロドロの潰し合いから殺人事件にまで発展させていく展開だってありがちなんですが、キャストの演技やインパクトのある映像表現等も合間って楽しく鑑賞する事が出来ました。テレビでのドラマだとコンプライアンス重視で伝えにくい表現でも映画だと比較的制限が緩い為、割と自由に写し出す事が出来る。そもそもが映画を見る人であればある程度の刺激を欲している所もあるからそういう意味でのドラマではなく、映画ファンへのサービスが行き届いていたとも思います。

エンタメ映画としては合格点レベルの出来にはなっていたと思います。

で、この映画を引っ張っていたのはやはりキャストの面々が大きいかなと思っています。女優陣で言えば主演の木村文乃さん。映画に絡ませて言えば彼女だと『ザ・ファブル』シリーズですよ。1作目だと彼女のアクションが少ないなんて事を僕も当時のレビューで漏らしましたが、昨年の2作目では主演の岡田くんに負けじとアクションで存在感を見せていたのは記憶に新しいところ。『ザ・ファブル』のヨーコよろしく本作でもキレのあるアクションを見せてくれます。

アクションで言えば菜々緒さんも良かったですね!過去の映画で言えば『銀魂』ですよね。元々動ける女優さんですからね。今後も彼女のアクションを見たいものです。

江口洋介さんも良かったですよね!最近では悪役やヤクザ等のアウトロー役もこなす江口さんでそちらも大変魅力的なんですが、どちらかと言えば主人公側に居る役柄の方が個人的には好きです。

で、この映画の最大の功労者と言えば笑福亭鶴瓶師匠なんですよ!鶴瓶いや悪瓶師匠と呼んでもいいくらい腹黒く巨悪そのものなんですよね!私腹を肥やす為には片っ端から邪魔者を消していく例えそれが身内でも容赦をしないという悪人オブ悪人ですね。その昔とあるドラマでこれまでの鶴瓶さんのイメージを180度変える悪役を演じた時に「パペポTV」で上岡龍太郎さんに言われてましたもんね。「そっちの方が素なんちゃうか?」と。笑福亭鶴瓶が「家族に乾杯」等で見せるフレンドリーな人柄ならば駿河学は本作で見る様な悪人なのか?…なんて事を思ったり(笑)でもそれ位悪役が板についてるんですよね。

その他豪華キャスト陣の演技は非常に光っていたなと思います。

ただね〜、サスペンスとしての要素がどうにも甘くて意外性のある設定や事件のトリック等色々仕掛けてくる割には見ている人の予想が立てやすいんですよね。こいつとこいつはこんな関係でとか事件の裏側に潜むアナザーストーリーの見せ方にあとひと工夫見られれば言う事なしだったんですけどね。

それから玉木宏木村文乃を結局こういう流れにさせてしまうのか〜というのはね、いやいいんですよ。この映画を見るのは俺みたいな小うるさいオッサンではなく純粋に映画を楽しもうという方々がメインなんだから更に言えば女性に向けてとなればどうしても恋愛要素を取り入れたくなるのは自然な話しだし。ただこれも恋愛描写がダメと言ってるのではなく、映画としてもう少しスマートな見せ方をしてくれてたらなぁ。どうしてもここだけテレビドラマの延長感が拭えなかったんですよね。最後にケチはつけちゃいましたが、もっとフラットな気持ちで見たら満足な作品かもしれません。

是非劇場でご覧下さい!

アイ.アム まきもと

「舞妓 Haaaan!!!」の水田伸生監督と阿部サダヲが4度目のタッグを組み、2013年製作のイギリス・イタリア合作映画「おみおくりの作法」を原作に描いたヒューマンドラマ。
小さな市役所で、人知れず亡くなった人を埋葬する「おみおくり係」として働く牧本。故人の思いを大切にするあまり世間のルールより自分の考えを優先してしまい、周囲に迷惑をかけてばかりいた。そんなある日、新任局長・小野口が「おみおくり係」の廃止を決定。身寄りなく他界した老人・蕪木の埋葬が「おみおくり係」での最後の仕事となった牧本は、蕪木の身寄りを探すため彼の友人や知人を訪ね歩き、やがて蕪木の娘・塔子のもとにたどり着く。蕪木の知られざる思いとともに彼の人生をたどるうちに、牧本自身にも少しずつ変化が起こり始める。
共演は塔子役の満島ひかりのほか、宇崎竜童、松下洸平松尾スズキ宮沢りえ國村隼ら。(映画.comより)

阿部サダヲと言えばこれまで数々の作品主にコメディを中心に役者としての存在感を発揮してきました。どちらと言うとひょうきんで人当たりが良さそうな気さくなイメージが強い役柄が中心でしたが、記憶に新しい今年5月に公開された『死刑にいたる病』ではサイコな殺人犯を演じ、強いインパクトを与えました。私的にも同作は今年ベスト級の作品なんですが、それも阿部サダヲさんの怪演による物がかなり大きいと思います。

そんな阿部サダヲさんと『舞妓Haaaan!!!』や『謝罪の王様』等をヒットさせた水田伸生監督と久しぶりにタッグを組んで公開されたのが本作『アイ.アム まきもと』です。過去作を見ればそして予告編のイメージからするとやはりコメディかなと思っていたらそれがまさかまさかの良い裏切りを見せてくれました。

まず、阿部サダヲさんが今回演じた牧本という人物。とにかく真っ直ぐになると周りが見えなくなるそれでいてお人好しで本人に悪気はないけど周りに迷惑をかけてしまうタイプ。言葉を変えればイタい奴かもしれないんだけどとにかくピュアが故に…なんですよね。ストーリーの設定では出てこないけど恐らく童貞かなと思わせてしまうんだけどこれが阿部サダヲさんのキャラクターに見事ハマるんですよね。でも『死刑にいたる病』でのサイコパスイメージが強すぎるが為に妙に安心感を感じてしまいます。

で、そんな牧本なんですが、世間からズレててともすれば社会から孤立しそうなキャラなんだけど憎めない。迷惑を掛けられつつもほっとけない人物として割と彼に好意的な人達には恵まれています。だから映画の中では根っからの嫌なヤツは出ないんですよね。人情喜劇としてこれまでの水田×阿部サダヲ作品とは一線を画す様な作風となっています。

そしてこれが社会問題となっている孤独死というテーマと結びつき、感動的な流れに持ち込んでいきつつ牧本の身に降り掛かるまさかの展開が物語としての深みを生み出していたと思います。

正直『舞妓〜』とか『謝罪〜』のノリをイメージしていたからこれは予想外でしたね。水田監督なりの阿部サダヲを起用する上でのこれまでの作風との変化は上手く出来ていたと思います。

そして孤独死という重いテーマに関してもしっかりとメッセージを込めていましたね。

それは事情は事なれど孤独死をした人達にも人生でのドラマがあり、その人達が最も輝いていた時間を写真を通して写し出していた事ですね。ある人は社会的にも成功を治め眩しい程の笑顔を輝かせある人は自分の趣味を持ちその人なりの人生を謳歌していたりとか。

また、孤独死をした人の関係者の足跡を辿り、葬儀に参列してもらうべく牧本は奔走するのですが、故人の生涯がまるでピースを合わせ人生という名のパズルを完成させるかの展開には引き込まれていきましたね。

そして僕はこの映画を見て思った事があります。独身である僕は孤独死をする可能性は少なからずあります。だけどそれは既婚者でも同様であり、配偶者との離縁や死別等により孤独死を迎える事だってあるんですよね。

だけど孤独死というものが決して悪いというのではなく、その人がどの様に人生を生きたか或いは例え孤独死で亡くなったとしても、誰かの記憶に残り、その人達が死後に思い出して昔話をしてくれたり肉体を失くしても心に残ればそれでよいのではないかという事ですね。

とは言えそんなのは綺麗事かもしれません。実際に身寄りがなく親族からも見放された人達のリアルな現実もしっかりと写し出しており、そこは胸に突き刺さる様なものは感じました。

想像とは異なる割とシリアスだけどラストは感動的な作りそれでいて阿部サダヲらしさも楽しませて頂きました!

良作だとはっきり断言出来ます!

オススメです!

尚、阿部サダヲさんと言えば池井戸潤原作の『シャイロックの子供たち』が来年2月に公開が控えています。こちらも楽しみな作品です!

ヘルドッグス

岡田准一が「関ヶ原」「燃えよ剣」に続き原田眞人監督と3度目のタッグを組んだクライムアクション。深町秋生の小説「ヘルドッグス 地獄の犬たち」を映画化した。
愛する人が殺される事件を止められなかったことから闇に落ち、復讐のみに生きてきた元警官・兼高昭吾。その獰猛さから警察組織に目をつけられた兼高は、関東最大のヤクザ「東鞘会(とうしょうかい)」への潜入という危険なミッションを強要される。兼高の任務は、組織の若きトップ・十朱が持つ秘密ファイルを奪取すること。警察はデータ分析により、兼高との相性が98%という東鞘会のサイコパスなヤクザ・室岡秀喜に白羽の矢を立て、兼高と室岡が組織内でバディとなるよう仕向ける。かくしてコンビを組むことになった2人は、猛スピードで組織を上り詰めていく。
兼高役を岡田、室岡役を坂口健太郎が演じるほか、松岡茉優北村一輝大竹しのぶ、MIYAVIらが顔をそろえる。(映画・comより)

ここ近年ヤクザ映画が密かに盛り上がっている気がします。『孤狼の血』シリーズであったり昨年の作品ですが、『ヤクザと家族 The Family』に『すばらしき世界』等が大きな話題となりました。コンプライアンス的な問題なのか暴力的な表現等には配慮しつつも、社会の闇を写し出すという点では今後もこういったタイプの作品は製作して頂きたいと個人的には所望しているところです。

そんなヤクザ・アウトロー系好きな私が公開前から気になっていたのが本作『ヘルドックス』です。『関ヶ原』・『燃えよ剣』と司馬遼太郎原作の歴史大作で高い評価を得た原田眞人監督と岡田准一さんの組み合わせならば期待が高まるのは無理ない話しですよ。

シルバーウィーク後半の三連休。9月23日の祝日にMOVIX日吉津にて鑑賞。公開から二週目でしたが、祝日という事もあって結構入ってましたね。客層としては40〜60代くらいの男性多め。ですが、岡田くんや坂口健太郎くんのフィジカル要素を求めてなのか(?)割と女性の姿もありました。

警官がヤクザの組に入って潜入操作…なんて言うと『土竜の唄』の設定を思い出したいところ。しかし、『土竜…』の様にギャグに振り切ったりしない分非常に緊張感があり、ピリついた空気感が作品からは漂っています。更に言えば岡田くんのアクションだと『ザ・ファブル』のイメージが強いかもしれませんが、これまた『ファブル』の様なコミカル演技が岡田くんにはない分、よりアクションに集中する事になるんですよね。

東蛸会内部においてのゴタゴタや抗争劇そこに加わる人間同士の醜くも生々しい感情の露出等一見の価値はあります。そこで鍵となるのが北村一輝演じる東蛸会幹部の土岐の存在なんですよね。彼は兼高と室岡のボスに当たる人物なんですが、北村一輝さんのヤクザがめちゃくちゃハマり役なんですよね。奇しくも同日公開となった『沈黙のパレード』の刑事・草薙と見比べてみて頂きたい。草薙の過去に翻弄されながらも真実と向き合いながら事件解決へ向けて動く姿と本作での土岐の狂気に満ちた表情が同一人物の演技とは思えないくらい引き込まれる名演なんですよね。北村一輝さん来年の各映画賞でも高い評価を受けるんじゃないかなと見ています。

それから松岡茉優ちゃんの存在も光ってましたね。ヤクザの愛人というこれまでにないタイプの役柄でしたが、セクシーでそれでいて血気盛んな野獣の様な男達と渡り合える様な胆力を持ったアネゴ的女性を見事に演じ切っていました。彼女の新しい一面をしかと見せつけた様な名演でした。

MIYAVI演じる十朱のインテリヤクザも板についていましたね。組織のトップならではの狡猾さも見せつつ高い戦闘能力を持つ。彼がミュージシャンである事を忘れるくらいの怪演が光りました。

また、坂口健太郎くんですが、彼もまた好青年イメージを裏切る様なサイコボーイっぷりが際だっていましたね。サイコパスってこんなタイプの人間なのかなと思わせてくれたのが、同年代の若者と対話をするシーンです。そこでの彼はどこにでも居そうな青年。猟奇的な思考と臆せず快楽的に人を痛め殺める様なヤバい奴とはこの場に居た人達は誰しも想像だにしないでしょう。この多面的な顔の切り替えを容易に出来るこれこそがサイコパス。我々の日常にも潜んでいるかもしれないという狂気を感じさせる様な演技でした。それにしても宗教2世という設定があまりにタイムリーでしたね…。

そして岡田くんに関しては言うに及ばずなのですが、本作でもフィジカルなアクションをしっかりと披露しておりました。全編に渡ってキレッキレなのは今回もやはりなのですが、個人的には女性ヒットマンと交わる辺りでのアクションが好きですね。

尚、ストーリーに関してですが、これがかなりややこしい。一回見たくらいでは理解出来ないかもしれません。ですが、例えば『アウトレイジ』シリーズを思い出して下さい。北野武監督一流のヤクザバイオレンスエンターテイメントですが、ストーリーを理解出来てる人はどれくらい居るでしょうか?ストーリーの複雑さを凌駕するバイオレンス描写や不条理な設定等が映画的面白さを加速度的に盛り上げていたじゃないですか?

本作に関しても通じるところがありまして、登場人物達の駆け引きや後半に明かされるまさかの展開等が鑑賞する上で魅了されるポイントなんですよね。

それから個人的な不満点があります。本作は過激なバイオレンスアクションではあるものの、PG12指定とあって比較的エグいシーンは少なめなんですよ。これが残念に思っちゃいまして。例えば室岡のサイコっぷりを煽る為にも穴を掘っての生き埋めシーンはもっとリアルさが欲しかったし、拷問シーンでは鬼畜っぷりをたっぷりとえぐり出してもらいたかったその為にR15指定にしてもよかったんじゃないかなと思いました。こういう点では白石和彌監督とかは躊躇がないんですけどね。要はもっとリアリティを出して欲しかったというのが個人的な感想としてはあります。

なんて欲を言えばキリはないのですが、久しぶりに日本映画でキレのある作品を見て大変満足しています!

是非劇場でご覧下さい!

 

キャスト

沈黙のパレード

東野圭吾のベストセラー小説を原作に、福山雅治演じる天才物理学者・湯川学が難事件を鮮やかに解決していく姿を描く大ヒット作「ガリレオ」シリーズの劇場版第3作。

数年前から行方不明になっていた女子高生が、遺体となって発見された。警視庁捜査一課の刑事・内海によると事件の容疑者は、湯川の大学時代の同期でもある刑事・草薙がかつて担当した少女殺害事件の容疑者で、無罪となった男だった。男は今回も黙秘を貫いて証拠不十分で釈放され、女子高生が住んでいた町に戻って来る。憎悪の空気が町全体を覆う中、夏祭りのパレード当日、さらなる事件が起こる。

キャストには内海役の柴咲コウ、草薙役の北村一輝らおなじみのメンバーが集結。前2作に続いて西谷弘が監督、福田靖が脚本を手がけた。(映画.comより)

フジテレビが誇る人気シリーズ「ガリレオ」が9年振りにスクリーンに帰ってきました!

俳優・福山雅治柴咲コウにとっての代表的な作品とあってこの二人のお馴染みのやり取りや何より東野圭吾による哀愁溢れる筋書きを楽しみにしていた人は多いのではないでしょうか?

私もそんな一人でして、シルバーウィーク中の9月18日、台風の影響を考慮しながらもMOVIX日吉津にて鑑賞して参りました。朝イチの回で比較的早い時間ではありましたが、満席に近い客入りで男女年齢層見てもバランスよく見に来られていましたね。世代を問わずの人気の高さを証明している様でした。

冒頭で出てくるのは2017年にまで遡り本作の舞台となった菊野市で行われた夏祭りでののど自慢の光景。そこで歌声を披露する少女・紗織の姿が映し出されます。緊張してもう一度最初からお願いしますとバンドメンバーにお願いする初々しさから一転。平原綾香の「jupiter」でもお馴染みの組曲「惑星」を実に伸びのある歌声で披露します。審査員である音楽プロデューサーの目にも留まり、そこから着々とデビューに向けて動き出す。さながら一人の歌姫が誕生するまでの過程を見ている様で見ている人を引き込んでいく様です。

で、このまま彼女のサクセスストーリーとして帰結するのであれば良いのですが、そうはさせない。現実はもっと残酷で悲劇的。

予告編でも示されていた様に彼女が事件に巻き込まれ命を奪われた事により、この物語が大きく動いていくのです。

ここまでの見せ方は上手かったです!音楽の才能を持つ少女が一瞬にして命を奪われる残酷さ更に言えば彼女の生誕から亡くなるに至るまでの彼女と深い関わりを持った人達の姿を映し出す事で如何に彼女が周囲の人から愛されていたかをしっかりと示していたと思います。

そしてこの手法敢えて言いますが、絶頂から奈落へ天国から地獄へと突き落とされるかの映像表現はまた別の場面でもうまく機能させるんですね。それは菊野市の名物ともなっている仮装パレードのシーン。各地からこのパレードに人が出向き、各々の仮装パフォーマンスで腕を競い合うんですね。気合いの入った仮装行列が街を練り歩き大勢の人々がそこに歓声をあげる。パレードを盛り上げるMCにも女性DJを起用し、雰囲気は華やかで賑やかでとにかく楽しい!そんな中で現れるけたたましいサイレンを鳴らすパトカーによって恐ろしい現実を知る事になる。

この場面の見ている人の心理的な誘導は光りましたね。

また、湯川・内海が俯瞰的な目線でストーリーを引っ張っていくと同時にフォーカスされていたのが北村一輝演じる草薙の存在。彼にとって当該の事件の容疑者というのは因縁の関係。捜査会議において容疑者の写真を見て嘔吐してしまう辺りに刑事としての自責の念や後悔これらが重なった上でトラウマになっているというのがよく現れていたし、捜査を進めるうちにどんどん顔がやつれ、目にクマが出来、白髪混じりのボサボサ髪に無精髭と疲弊していく過程がまざまざと映し出されていました。彼が何故ここまで追い込まれるのか直接劇中で確認して頂きたいところです。

そして本作で特に比重を置かれていたのが被害者家族の感情というところですね。実の家族の命を第三者によって奪われるというのは経験のない身からすると想像を絶する様な苦しみや悲しみそして手をかけた人物に対しての怒りが立ち込めると思います。もし、事件の容疑者が目の前に現れたら?映画の中ではずんの飯尾和樹が演じていた父親の様な行動に出る事も理解が出来ます。しかしこの容疑者が犯人であるという確証がなければまた悩ましくなる事でしょう。ことほどさように日本の法治国家である以上、例え身内の命が奪われたとて直接手を下す事が出来ないわけですしね。そしてこの司法がまた遺族感情を大きく心を締め付けたりもするところであり、この辺りがしっかりと描かれていたので遺族のやり切れなさと怒りがよく伝わってきました。ただ、僕が思うにこの映画で容疑者とされる人物が紗織を手にかけたのかどうかというのは別に事件後に遺族の元に現れ、感情を刺激する様な態度を取ってる辺りにクズさを感じましたけどね。

そして秀逸なラストへのストーリー展開。第二の事件が起きてからは一体誰が犯人なのか?吉田羊、田口浩正椎名桔平檀れいといった豪華キャスト陣が演じた町の人々への聞き込みから湯川の科学的根拠に基づく推理から事件解決へと動き出していく。当然サスペンスである以上この辺りをお話しするわけにはいきませんが、本作でもやはりその犯人である人物とその背景にあるドラマに悲哀が込められている。過去二作品とりわけ『容疑者Xの献身』(08)での堤真一松雪泰子のストーリーが個人的には印象深く残っているのですが、本作でもやはり同様に心に余韻を残してくれます。

ガリレオ』のドラマ更には映画の前二作品を見た人であれば「実に面白い!」と納得の出来ではないでしょうか。オススメです!

 

ブレット・トレイン

作家・伊坂幸太郎による「殺し屋シリーズ」の第2作「マリアビートル」を、「デッドプール2」のデビッド・リーチ監督がブラッド・ピット主演でハリウッド映画化したクライムアクション。
いつも事件に巻き込まれてしまう世界一運の悪い殺し屋レディバグ。そんな彼が請けた新たなミッションは、東京発の超高速列車でブリーフケースを盗んで次の駅で降りるという簡単な仕事のはずだった。盗みは成功したものの、身に覚えのない9人の殺し屋たちに列車内で次々と命を狙われ、降りるタイミングを完全に見失ってしまう。列車はレディバグを乗せたまま、世界最大の犯罪組織のボス、ホワイト・デスが待ち受ける終着点・京都へ向かって加速していく。
共演に「オーシャンズ8」のサンドラ・ブロック、「キック・アス」シリーズのアーロン・テイラー=ジョンソン、「ラスト サムライ」の真田広之ら豪華キャストが集結。(映画・comより)

久しぶりに胸弾むハリウッドアクションの紹介ですね!とは言え原作は伊坂幸太郎の小説『マリアビートル』とメイド・イン・ジャパンの作品。尚、伊坂作品初のハリウッド進出です。そして監督は『ジョン・ウィック』、『アトミック・ブロンド』、『デッドプール2』のデヴィッド・リーチ

主役のレディバグのブラッド・ピット真田広之マイケル・シャノン更に歌手のバッド・バニー、サンドラ・ブロック等の豪華な顔触れが揃います。僕は、9月7日FMの生放送後、T-ジョイ出雲にて鑑賞して参りました。少し前までの夏休みの盛況も落ち着き、サービスデーとは言え平日午前のゆったり鑑賞。やっぱ映画は落ち着いてみたいよね。

ブレットトレイン弾丸列車そのタイトルに偽りなし。弾丸の如く目にもとまらぬスピーディーな展開で日本の新幹線を思わせる高速特急列車という舞台装置を巧みに使いながらのっぴきならない東京-京都の死と隣り合わせの東海道の旅が見ている人を引き込んでいきます。

何の因果でこんな事に…と不運と不運が重なりレディバグにそのインシデントが襲いかかる。一歩間違えばコントの様になりがちな展開をシリアスさとユーモアを絶妙なバランスでブレンドし、一流のハリウッドエンターテイメントが展開されていきます。

その合間合間には「きかんしゃトーマス」やレモンとみかんといった小ネタを挟みながら、運と運命というテーマを軸に展開していきます。各々の登場人物には前日譚があり、それが偶然か必然かはたまた神のいたずらか同じ列車に乗り合わせる事によって複雑でそれでいてニヤリとさせるシナリオの運びで群像劇を構成していました。

ハリウッド映画であり、日本の作品が原作で日本が舞台。だけどいわゆる実写邦画で見る様な日常の延長的な描写ではなく、どこか非現実な日本なんですよね。ピカチューやジバニャン等を思わせるキャラクターも如何にもヤツだし、トンデモニッポンをここぞとばかりに露にしてくれます。もしかしたらここに違和感をおぼえる人がいそうなんですが、実はこれって狙って作ったトンデモな描写なんですよね。

これは数奇な運命を巡る現代の話し。伊坂幸太郎は原作において列車は架空のものであるとし、またそこで起こる奇想天外なストーリーは現実の世界とは異なるものであると伝えています。つまりはフィクションである事を全面に出して現実の誇張や飛躍を大胆が過ぎるくらいに遊んじゃえというスタンスが溢れているって事ですよ!だからこそ件のジバニャンっぽいキャラクターが社内にも居るし、日本人の金髪女子が社内販売をしている。当初はある程度、現実をなぞって模倣した描写が目立っていたのが、物語が加速して取り返しのつかない所まで到達するとそれに伴ってよりカオスになっていく。ここは徹底して計算されていましたね。

さて、本作はところどころでジャパニーズフレーバーを漂わせていましたが、劇中の音楽もやはり日本の名曲が使われておりました。冒頭のシーンこそビー・ジーズの「STAYN' ALIVE」が『サタデー・ナイト・フィーバー』よろしくスタイリッシュに流れておりましたが、まさかの場面でカルメン・マキの「時には母のない子のように」。アクティブなシーンで流れる麻倉未稀の「ヒーロー」そして海外で最も有名な日本の流行歌・「上を向いて歩こう」。海外でも人気という点で言えばBABYMETALとかきゃりーぱみゅぱみゅ等の方がよりポピュラーな気はするんですが、敢えて往年の名曲をチョイスした辺りがセンスを感じますね。ところで「ヒーロー」ってカバーですよね?アメリカの人は麻倉未稀バージョンをどの様に聴いたのか気になります。

とこの様に全編に渡ってエンタメに徹していてこの列車に乗った事を後悔する事なく満喫はしたのですが、どうしても気になってしまったのが、それぞれのキャラクターの背景となるエピソードを伝える為に逐一過去に戻った事です。テーマが運命の巡り合わせであるなら安易に回想シーンだけに頼らず他の手法があったのではないかと思っちゃうんです。何かしらの過去に起因する為の道具を使うなりあれば、よりスマートだったし、スピード感も生み出せたのではないかなと思います。う〜ん、勿体ない!

なんて惜しい点は触れましたが、ブラピのフレキシブルなアクション、ともすればB級の臭いすらする日本描写に音楽、スリリングなストーリー等見所満載な作品!ポップコーンやドリンクを持参してこの列車にご乗車下さいませ!

オススメです!