きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら

SNSを中心に話題を集めた汐見夏衛の同名ベストセラー小説を映画化し、戦時中の日本にタイムスリップした現代の女子高生と特攻隊員の青年の切ない恋の行方を描いたラブストーリー。
親にも学校にも不満を抱える高校生の百合は、進路をめぐって母親とケンカになり、家を飛び出して近所の防空壕跡で一夜を過ごす。翌朝、百合が目を覚ますと、そこは1945年6月の日本だった。通りがかりの青年・彰に助けられ、軍の指定食堂に連れて行かれた百合は、そこで女将のツルや勤労学生の千代、彰と同じ隊の石丸、板倉、寺岡、加藤らと出会う。彰の誠実さや優しさにひかれていく百合だったが、彼は特攻隊員で、間もなく命懸けで出撃する運命にあった。
NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」の福原遥が百合役、「死刑にいたる病」の水上恒司が彰役で主演を務める。「光を追いかけて」の成田洋一が監督を務め、福山雅治が主題歌を担当。(映画・comより)

皆様明けましておめでとうございます。新年最初の「きんこんのシネマ放談」です。今年も新しい映画との出会いを楽しみにこの番組そしてこのコーナーをお送りしていきます。本年もよろしくお願い致します。

さて、2024年初のシネマ放談は原作がSNSで話題を読んだ「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」です。実は僕この作品ですが、正直なところ当初の鑑賞予定はありませんでした。戦争を題材にした純愛を描いたという内容が予告編が流れ泣けますよ〜と煽ってくる様な印象を受け故にあまり惹かれなかったというところでして…しかしこんな天邪鬼な私を叱りつけたいと今では猛省しています。

鑑賞日は公開から一週間経った12月17日の日曜日。今回もMOVIX日吉津。恋愛要素も強いとあって戦争映画ではあるものの若者の比率高め。一方で本来の?戦争映画の主要客層たる年配の方々の姿も多く幅広い層が関心を示している事がよくわかりました。

神風特攻隊。言うまでもありませんが、太平洋戦争(大東亜戦争)末期自らの身を挺し敵艦に突撃し犠牲になった方々でありその数は3800人以上とされています。私も靖國神社遊就館で特攻隊の方々が家族へ当てた手紙等を読み涙を流しまた英霊となった特攻隊員への感謝と黙祷を捧げ靖國神社を後にしました。

などと言うと明らかに勝ち目のない選局において国や軍部の誤った判断により犠牲になったんだと声を荒げる御仁も一定数居るかもしれません。

戦争映画の難しさってこの辺りの思想面にも踏み入れる事になるので万人を納得させる史観が描けない事にあると思うんです。

しかし今作はその辺りが非常にバランスが取れていて右派左派関わらずフラットな感覚で見る事が出来ると感じました。今後作られる戦争映画の良いお手本に仕上がっていたのではないでしょうか?

また、空襲の場面の生々しさもしっかりと撮られていましたね。例えばこれまでの戦争映画だと実際のモノクロの当時の映像で上空から捉えたB29が爆弾を落とす所であったりそのB29の操縦士目線で爆弾を落下させる等の場面をよく見てきました。しかし今作においては地上に居る庶民の目線なんですね。とりわけ2023年の日本からタイムスリップした現代の女子高生・百合にとっては日常の場面で命の危機に瀕するなんて事はそうそうないんですね。だからこその恐怖が彼女の目線がひしひしと伝わります。遠くの方から放たれる焼夷弾によって街が焦土と化していく。また逃げ遅れた人が容赦なく敵機の銃弾によって命を奪われる。それは大人も子供も関係なく無慈悲に焼かれてしまう。歴史の授業でしか戦争について理解し得ない彼女にとって如何に戦争が残酷でまた愚かな事であるかを感じる。それを彼女と同じ目線で見る我々も同様の思いを巡らせる。

それから踏み込んでいたのが特攻隊の死生観ですよね。明鏡止水の心境で若き彼らは零戦に乗り込み南方の海へ消えていった。果たしてこれは本当なのだろうか?もちろんそういう人だっていたかもしれない。だけど死ぬ事は怖いのは当然であってそれは彼らとて同じなんですよね。生きたいとか死にたくないなんて言うとこの時代の帝国軍人としては恥ずべき事。だけど現代に生きる百合の考えは今の時代だからこそかもしれないけど生きる事でお国の為になる事をする人も居るのであって。そしてこの場面が伏線となってラストの場面に生かされる脚本は秀逸でしたね。

また百合が恋する彰という若者は聡明である事がよくわかります。大学で哲学を学び作中でも哲学書を手にしていますが、こういう人は俯瞰で物事を捉え事の事象を言語化出来る能力が高いんですね。 現代的な考えを持ち、1945年6月以後の歴史を知る百合は戦争が終わる事、日本が負ける事を口にします。当然戦時下でこんな事を口にするのは許されません。警察官に目をつけられ叱責を受ける。彼女を守る彰は難を逃れた後に当該の警察官を悪くは言いません。悪いのはあの警官をあの様にさせた何かだと。その何かとは大きく言えば戦争でしょう。細かく言えば?軍部、政治家、財閥等の政商、戦意を高揚するメディア或いは対外的な米英中との外交?その全て?もし彰の様な青年が戦争を生き延びていたら戦後にひとかどの人物になっていたかもしれないし。実際にこういう人達も犠牲になっていたんでしょうね。

とこの様に当初考えていた以上に深い内容でした。

ただ一方では気になった点がなかったと言えば嘘になるのでそこに触れておきましょう。まず百合がタイムスリップした後の場面。明らかに服装が戦時中のそれではないのに誰も疑問を抱かないんだろうという点。

件の空襲の時に足を大けがしたであろう百合が次の場面では何事もなく歩いている点。

やはり空襲後に安否を気にかけていた松坂慶子演じるツルさんとの再会これまた何事もなかった様にしれっとしている所。

戦時下で仲良くなった同年代の千代のその後も見たかったし、賛否はあるかもしれないけど現代パートに戻ってから彼女と何かしらの因縁がある事が判明する等のエピソードがあればよりドラマチックになったかもしれないとまぁこれは個人の好みなんですけどね。

後、個人の好みついでに言えば物語の舞台が夏である事、終戦記念日の8月15日に合わせて夏に見たかったというのはあるかもです。

しかし、戦争についての深いメッセージやテーマが盛り込まれている所、一方で涙なしでは見る事の出来ない感動ストーリー。非常に質の高い作品でした!

オススメです!