きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

検察側の罪人

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木村拓哉二宮和也の初共演で、「犯人に告ぐ」などで知られる雫井脩介の同名ミステリー小説を映画化。「クライマーズ・ハイ」「わが母の記」「日本のいちばん長い日」「関ヶ原」など、話題作や名作を多数手がける原田眞人監督がメガホンをとり、ある殺人事件を巡る2人の検事の対立を描く。都内で発生した犯人不明の殺人事件を担当することになった、東京地検刑事部のエリート検事・最上と、駆け出しの検事・沖野。やがて、過去に時効を迎えてしまった未解決殺人事件の容疑者だった松倉という男の存在が浮上し、最上は松倉を執拗に追い詰めていく。最上を師と仰ぐ沖野も取り調べに力を入れるが、松倉は否認を続け、手ごたえがない。沖野は次第に、最上が松倉を犯人に仕立て上げようとしているのではないかと、最上の方針に疑問を抱き始める。木村がエリート検事の最上、二宮が若手検事の沖野に扮する。
(映画.comより)

エンタメ大作がひしめき活況を見せた夏興行がひと段落ついた8月末。
大人の観賞欲求を満たす作品が公開されました。
それが今回の『検察側の罪人』ですが、この映画はっきり言って評価がまっ二つに別れる作品だと思います。
まず否定するのであれば、一回見ただけでは消化出来ないストーリー展開。
それでいてあまりにも強引かつ荒唐無稽な作りになっているので見る人を置き去りにしてしまうという点が否めないですし、ともすれば「ほら、もやっとするでしょう。何ならもう一回見たらわかるかもよ~」なんて商業的な嫌らしさなどがかいま見えてしまうのではと思われてしまいます。 

一方、肯定的に見るのであれば、原田監督ならではですが、演技や演出がとにかくオーバー。
だけどそれがけれん味たっぷりで見ていて気持ちよくさえ感じられる。
それがあるからこそより内容を深く知りたいと思い、結果二回以上観賞してみたくなる。

そんなところでしょうか。

実は私は二回ほど見ていますが、一度目は前者の心境でした。
無駄に長いし、内容も理解に苦しむ。
ラストの展開なんて「何じゃ、そりゃ」だったんです。
ただね~、何か悔しかったんですよ。
何故この映画がここまでヒットしているか知りたかったし、一回目見て消化不良だった自分が不甲斐なかったけど
「ちくしょ~、原田監督の掌で転がされてるな~」なんて思いながら二回目を鑑賞。
すると後者の心境に様変わりと相成ったわけです。

まず、本作の面白ポイントをあげるならば役者陣の演技です。
二宮和也による若手検事・沖野についてですが、とにかく純粋で真っ直ぐな検事なんですね。
本作においてのテーマとなっている「正義」という概念についても非常にストレート。
ともすれば融通が効かないと感じられそうなピュアな正義感がルーキーらしさを醸し出しています。
そしてそれが爆発…いや、暴発するのが某事件の容疑者・松倉への取り調べシーンです。
マシンガンの様に放たれていく罵詈雑言の数々。
言葉の機関銃で徹底的に松倉を追い詰めていく様はもはや芸術的ですらあります。
これまでの二宮和也像を徹底的に覆していく様な演技には圧巻されます。
そしてこれまた「キムタク」という偶像に距離を置くかの様な新しい木村拓哉像を見せる検事・最上。
90年代以降数々のヒットドラマや映画で時代をリードしてきた木村拓哉
しかし、それらはSMAPという国民的グループで常に注目を集めてきたアイドル「キムタク」という枠内でのトレンド性が強かったのではないかという見解が僕個人の中ではあります。
ところが、本作はそれとは一線を画すいわば「俳優・木村拓哉」をまざまざと見せつけてくれる作品でもあります。
とりわけ冒頭でこの最上が新人検事に訓示を述べるシーンがあります。
淡々と話しをするかと思えば、まるでフェイントをかけるかの様に「このバカ!!」と静かな会議室に声を響かせる。
眠気と戦っていた新人検事達に一瞬にして緊張が走る。
その緊張が劇場で見ている我々にも伝播していく。
そして同カット内で最上が外の雨を見ながら発する印象深い一言。
これがまた本作全体を象徴する言葉でもあり後の最上が行う数々の行動の伏線になっていたりもします。
また、吉高由里子さんの演技も見応えありました。
ミステリアスな雰囲気を帯びた若手の女性検事なのですが、実はこういうタイプが一番恐いと思わせる様なキャラクター。
去年『東京タラレバ娘』というドラマを見ていましたが、あの雰囲気とは全く違います。(ちなみに吉高由里子主演映画『ユリゴコロ』という作品がありますが、そちらは末見です。)
更に言及しておきましょう。
実は冒頭で彼女が登場するシーンでは高齢者の運転に反対する市民団体が現れます。
一見何て事はないシーンですが、後半の意外な場面での伏線になっていますよ。

と、メインキャラクターに関しては以上ですが、それ以外にも松重豊をはじめ個性溢れる面々が作品を盛り上げます。
とりわけ原田監督作品においては醜悪な悪人のキャラクター描写がとにかくやり過ぎなくらいクドイ(良い意味で)
例えば前作の『関ヶ原』という作品なんかは石田三成の視点で描くものだから対する徳川家康であったり或いは醜い物の象徴として権力者である秀吉が登場していましたが、とにかくその秀吉や家康がクドイ(笑)
もちろん関ヶ原の合戦と平成の凶悪犯罪は同列には語れませんが、『検察側の罪人』での悪人描写はクドイし、憎たらしいです。

それから荒唐無稽かつ過剰な演出について。
前述の様にこれは賛否両論あるでしょうし、どちらの気持ちもよくわかります。
例えばとある人物が何の予兆もなくビルから転落するシーン。
見ている方は「えっ、何?今どうしたの?」とまるでキツネにつままれた様な感覚に陥ります。
それくらい唐突なんですよ。
そして二宮和也吉高由里子のラブシーンというのが出てきます。
正直ここに関してはせっかく硬派な作風に仕上げてるのに何でそういう展開にするかなぁ、と私個人としては否定的です。
更にいくら仕事で共にするとは言え恋愛感情のない男の家に上がり込み体を許すとは何て尻の軽い女だ、と思えてなりません。
しかし、その後のカットでは笑いに変わってしまいます。
スゴい体勢なんですよ、この二人が。
直接的な表現は控えますので是非、劇場で見て頂きたいトコロです(笑)

それから随所に登場するインパール作戦の挿入について。
そもそもインパール作戦とは何かについては省略しますが、太平洋戦争(大東亜戦争)時、旧日本軍が犯した最悪の愚策であり参加した日本兵のほとんどが戦死。今でも無謀な作戦の代名詞として語られます。
そんなインパール作戦が本作にどう関係してるのか?
実は初回見た時、違和感を感じたのはそこなんです。
ストーリーに直接関係してるわけでもない。
ともすれば原田監督のイデオロギーを反映させた様なプロパガンダ映画なのか?とも思いました。

しかし、どうやらそうではない様です。
登場人物たちの取るあらゆる行為の数々。
色んな思惑があり、それが交差していく様をこの太平洋戦争史上最も無謀で愚かな戦略になぞらえているという事なのでしょう。
しかし、これもまたあまりに唐突に登場する原田演出の良い面、悪い面が抽出されたシーンだったと思います。

そして初回鑑賞時にモヤっとしたラストについて。
二回目にようやく腑に落ちました。
原田監督の手中でまさに転がされてしまいました。
悔しいけれどスッキリした。
後は是非劇場でご覧下さい。