きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

この世界の片隅に

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昭和19年、広島に住む18歳のすずの元に縁談が持ち上がり、広島市から20キロ離れた呉市の北條家へ嫁ぐ事となった。夫・周作ら北條家の人々と共に食糧や物資が欠乏していく中でも明るく健気に生きるすず。しかしやがて戦火の影響が日常にも及んでいく。


正直、この映画についてどうこう語るのは今更感があって気が引けてたんですよ、だって色んな人が語りすぎてるでしょ?
君の名は。』や『シン・ゴジラ』にしてもそうですが、社会現象クラスの映画ともなるとそのタイミングというのが大事で時期を逃すと一気に鮮度がなくなってしまいます。しかし、どうしてもこの作品については触れておきたい。そんな思いに駆られ今更ながらなのは重々承知の上で『この世界の片隅に』について語らせて頂きます。

昭和20年8月。日本人なら誰もが知っている日本史史上の大事件・原爆投下と終戦
戦火の影響を受けるまでのすずと北條家は明るくも慎ましく生き、その情景が新聞の4コマ漫画の様なほのぼのとしたタッチで描写されています。
楠木正成が食していたとされる楠公飯を作ったり、とんちんかんな発言を大真面目にする憲兵の姿に大笑いしたり戦時下とは思えない程皆明るい。
その一方、気の強い性格の義姉・律子に厳しく言われたりとのほほんとしながらもそれなりにストレスを抱えていたすずに十円ハゲが出来たりする光景もありますが、戦争による影響はここではほぼ見られません。
しかし、何度か鑑賞してるうちに気付いたんですよ、この前半部に登場するすずと北條家の日常。実はこれが後半へと展開される上での壮大な前フリであり伏線であると。

中盤、呉港への爆撃を皮切りにいよいよ北條家の生活にも戦火の影響が色濃くなっていきます。
そして義姉の娘・晴美と手を繋ぎ歩いてると遂に悲劇が起こります。
地中の不発弾を踏み、幼い晴美の命とすずの右手が帰らぬものとなります。
絵を描く事が好きだったすず。
幼少時に白波を跳ねるウサギに見立ててデッサンをしたりとすずがイラストを描くシーンはこれまでに何度となく印象的に登場します。
そしてここで初めて前半のほのぼのシーンの持つ意味がわかります。
不器用でもんぺを作るのを失敗してしまった右手であったり、決しておいしくはなかった楠公飯を作った右手です。
すずの右手の喪失は明るい日常の喪失でもありイラストが好きなすずの人生そのものの喪失でもあったのです。

しかし、彼女は強かった。
空襲で爆弾を落とされた家で火を消そうとしたり終戦玉音放送を聞いて溢れる感情を爆発させる描写に込められたすずの魂の叫びは何のために戦い、何のために犠牲を生んできたのか悔しさを訴えかける様でその悲痛なまでの姿を涙なしで見る事は出来ませんでした。

また、広島で被爆をした妹を見舞うシーン。父も母も亡くなり、最後に残ったのがこの妹です。すずの創作した話を面白おかしく聞いたりと幼少期から妹のエピソードは幾度となく登場します。しかし、その妹も長くは生きられません。恐らく最後の面会だったかもしれません。北條家の人々と並び登場頻度も高かった妹だけにこのシーンで込み上げてくる人も多いのではないでしょうか。
思えばすずが一度広島に帰郷した際に言った「さよなら、広島…」の言葉。何気なく言った様に思えるその言葉の意味がその後の原爆、そして家族との別れへと結びつける一言として効果的に使われているのは一度目の鑑賞では完全に見落としておりました。

戦争後はすずと周作夫妻に子供が出来ます。二人の間に出来た子ではなく、原爆で被災した孤児です。
広島で被爆し、ガラス片の刺さった血だらけの母親に手を引かれていた幼女。しかし、母親は息たえてしまいます。ひとり残され、さまよっていた所、出会ったのがすずと周作夫妻です。ノミ、シラミだらけの身体を洗い、亡くなった晴美の服を着せます。「この時代、いくら孤児が溢れていたとは言え犬でも拾う様に子供を養子にするなんて事が出来たのか?」なんて疑問も生まれますが、それはそれ。
晴美の生まれ変わりの様に迎えられる幼女に北條家の戦後、すず・周作夫妻の未来を物語る様でその続きを見てみたいと思わせてくれる印象的なエンディングとなっています。

そしてそこでもまだ終わりません。エンディング後にも見所があります。
本作中盤に登場する遊郭で働く少女・リンさんとのエピソードが登場します。
このリンさん、すずが道に迷ってしまった際、うっかり入ってしまった遊郭で出会います。
帰る道がわからず途方にくれるすず。地面の砂で得意のイラストを描いていたところ、声を掛けるリンさん。
すずの絵が気に入り、自分の好きな食べ物を描いてもらう様リクエストをします。一見明るく見えるリンさん。
すずが次も来ると告げると「ここは来る様な場所じゃないよ」と物悲しく言います。
当時は珍しかった喫茶店にあるウエハー(ウエハースの事)ののったアイスクリームを知っていたり元々は裕福な家の娘だったのかもしれません。
時世柄何らかの事情により遊郭に売られてしまったのでしょう。
リンさんが本編に登場するのはこのシーンのみです。
その後、遊郭の辺りがひどい爆撃を受けたという伝聞をすずは耳にしますが、リンさんがどうなったかはわかりません。
しかし、エンドロールが終わった後、本作のクラウドファンディングに協力した人達のスクロールが流れるのですが、そこでリンさんの姿を発見する事になります。それも意外な形で。最後の最後まで見逃せないつくりは制作者の旺盛なサービス精神そのものです。

間もなく公開から一年。この一年で最も多くの人の心に訴えかけ、多くのひとに感動を与えた作品だと思います。一言言わせてもらえるならば…。

この映画を観てない人は本気で人生損してます!

今からでもDVDチェックする事をお勧めします!

 

チア☆ダン 女子高生が全米制覇しちゃったホントの話

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2017年3月公開作。2009年3月、福井県福井商業高校チアダンス部JETSが全米チアダンス選手権大会で優勝。普通の女子高生だった部員達とひとりの教師の絆によってもたらされた栄光でした。そんな福井商業高校チアダンス部の実話を元にした青春ストーリーを『俺物語!!』の河合勇人監督の手により映画化されたのが本作です。


あらすじ
県立福井中央高校に入学した友永ひかり(広瀬すず)は中学からの同級でサッカー部に入部する孝介(真剣佑)を応援したいという思いからチアダンス部に入部します。
しかし、彼女を待ち受けていたのは顧問の女教師・早乙女薫子(天海祐希)によるスパルタ指導。チアダンスで全米を制覇するというとてつもない目標を掲げられ、ネイルもおしゃれも禁止、前髪を下ろさない、もちろん恋愛も禁止という厳しいものだった。チアダンス未経験で練習にもついていけないひかり。当初の思いとの大きなギャップに退部も考えるが、部長の彩乃(中条あやみ)らチームメイトの存在もあり、次第にチアダンスへ没頭していく様になる。


今年公開された邦画の中でも五本の指に入る程好きな作品です。もっともはじめは期待してなかったんですよ。予告編のつくりがスウィーツっぽかったし、『グッドモーニングショー』とか『恋妻家宮本』の様なくくりかと思ってまして。ところがふたを開けてみたらビックリ!めっちゃ良い映画じゃないですか!

広瀬すず中条あやみ、TOHOシネマズではお馴染みの山崎拡奈、福原遥等の若手女優達が本気で挑むチアダンス。それもかなり完成度が高いんですよ!
そしてそこに至までのストーリーもしっかりしていて元からチアダンス経験豊富なエリート・彩乃(中条あやみ)にヒップホップダンスをクールにきめる唯(山崎拡奈)などは習得も早い即戦力として期待される反面、他のメンバーはしっかり踊る事が出来ません。特にひかりはひどいものです。ストレッチの屈伸運動すら出来ないほどなので体も相当硬いのでしょう。
メンバー中、最も足を引っ張っていたと思われるひかり。しかし誰よりも笑顔が良かったので早乙女の目も変わります。

この様に決して元から優秀とは言えない面々がひたすら努力を積み重ね最後は大きな舞台で輝くというサクセスストーリーです。
「努力は人を裏切らない」とか「努力すればいつかきっと願いは叶う」というセリフを安易に吐くのではなく、その姿勢をうまく表現していたのが好印象です。
例えばはじめて出場した福井県大会。
県大会と言えば聞こえは良いのですが、競技人口の少なさゆえか4校しか出場しません。
その大会はひどいもので技術面も精神面でもバラバラで散々たる失態を客前で見せてしまいます。
チームメイトの心もまとまりはなく、退部する部員も現れます。
しかし、ひかりと彩乃が動き出します。
ショーウインドウの前で一人で黙々と踊る唯を見つけ、一緒にストリートダンスを踊ります。
笑顔を作るのが苦手だった唯もはじめて出来た仲間とのダンスを通じて自然な笑顔が生まれます。
その後、複雑な家庭環境の多恵子(富田望生)の家へ訪れ、問題ある母親に罵倒されたひかりら。その姿を見て、多恵子は母親に怒りをあらわにします。
こうして部員達の元を訪ね、結束を強めていきます。そしてメンバー横並びで勇ましく登校。早乙女を問題視する校長の元へと直談判しに行きます。そして勢い余ってひかりが口走った「チアダンスでアメリカへ行きます!」の宣言により、チームはいよいよ全米制覇の目標に向けて一丸となり、チーム「JETS」が誕生します。
そこからの描写が非常に良かったです!
大きな目標だからこその苦悩や挫折もしっかり描かれ、またひかり達部員の成長ぶりも伝わります。
そして全米チアダン選手権での圧巻のパフォーマンスへと繋がっていきます。

そのチアダンス選手権を迎える前に印象的だったのがスパルタ教師・早乙女薫子の生徒達には見せない内面の描写です。
生徒達に平然と「地獄に落ちなさい!」と言っちゃったり勝負の為には私情も温情も入れず一切妥協のない鬼コーチそのものな早乙女先生なのですが、実はこの人が一番繊細で何よりも生徒思いな教師です。
全米選手権決勝を控えた前日、早乙女の口からフォーメーションが発表されます。
それまでチームを牽引してきた彩乃からひかりにセンターを替えると告げられるのです。結果を出す為の決断なのですが、ひかりは納得出来ません。そして遂に「先生を軽蔑します!」と告げた後、コーチの大野(陽月華)からはじめて早乙女のエピソードが語られます。実は誰よりも生徒を認め、彼女達の才能を引き出す為に奔走していた早乙女先生。部員達の努力の裏には早乙女先生の苦悩と葛藤があったのですね。そんな早乙女先生の姿にワタクシボロボロと涙が止まりませんでした。

その過程があるからこそラストの全米選手権のステージがいきてくるのです。福井中央高校チアダンス部の先生や生徒達の青春の軌跡を見てきたからこそです!正直アメリカの男性アナの実況はウザいです。ただ、そんなイラッとする演出すらどうでもよく思える程躍動的なステージに胸が熱くなるでしょう。

『チア☆ダン』を見た後、私は思いました。年甲斐もなくそして陳腐な表現ですが、「青春はいいな」って。
全国の女子高生はこういう映画を見てほしいです。少女漫画原作のスウィーツ映画が悪いとは言いません。
だけどこの映画を見て、ひとつの事に青春をかけてみるのも悪くないなって気づいてほしい。イケメンと恋愛をするのを夢見るのも悪くはないですが、仲間達と大きな夢に挑戦し、それを達成させるために努力するのは素晴らしい事です。さぁ、今から夢ノートを書いて光り輝く未来を思い描いてみよう!若いのは今のうちだ!


なんて言う様になったらオッサンなのでしょうね…。

グッドモーニングショー

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踊る大捜査線』などの君塚良一監督・脚本によるコメディ映画。
中井貴一をはじめ、長澤まさみ志田未来、時任三朗、吉田羊、池内博之濱田岳等のキャストにより展開されるワイドショーと事件現場を結んだ奇妙な立て籠り事件の全貌とは?

朝7時から始まる情報番組『グッドモーニングショー』。キャスターを努める隅田(中井貴一)は以前は報道のキャスターだったが、とある失態により、朝のワイドショーを担当する事に。彼氏と別れて落ち込んでいたアシスタントの圭子(長澤まさみ)を励ました事で勘違いをされ遂には圭子から本番中にカミングアウトすると言われ、ヒヤヒヤしながら本番に。そんな中、品川区のカフェに男が人質を取って立て籠っているとの知らせが入る。犯人が要求したものは何とキャスターである隅田なのであった。


前半部は朝3時に起床する隅田キャスターのシーンから始まります。
起床すると妻と息子が神妙な面持ち。
何やら息子が大学生でありながら彼女と結婚をするとの事。
半人前の息子に父親である隅田は言います。
「結婚なんてきちんとした仕事に就いてからするものだと。」
反論する息子の言い分。
「父さんはきちんとした仕事をしてるのか朝からケーキ食べてふざけてるだけじゃないか」と。どうやら隅田の番組ではスウィーツを紹介するコーナーがある様です。
この様に息子から見た父親の仕事への評価はかなり低い様です。
しかし、この息子からの父親の仕事感が本作後半になるとどの様な変化を見せるかを語る上で重要になっていきます。
タクシーで出勤後はスタジオへ到着。その日番組で伝えるトピックスをどうするかの打ち合わせに賑わったり、件のスウィーツコーナーで紹介する予定のケーキが到着したりと本番前の慌ただしさが伝わる臨場感ある描写はさながら矢口史靖監督が『ハッピーフライト』や『WOOD JOB!』等で見せた様な仕事現場のぞき見体験的な手法でなかなか楽しく見る事が出来ます。
中井貴一演じる隅田が長澤まさみ演じる圭子の不倫疑惑をほのめかす爆弾発言にビクビクする描写もひと昔前の三谷幸喜っぽさを感じさせ面白かったですね。
また、報道部とワイドショー制作班の力関係もリアルな感じ。
実際の現場はどうなのか知りませんが、我々がイメージする
報道=硬い、真面目
ワイドショー=軽い、チャラい、薄い

という(作ってる人達は真剣なのでしょうが)イメージを地でいく様な報道部から見たワイドショーへの視点、そこから生まれるパワーバランスはわかりやすかったです。

それから長澤まさみ志田未来という女子アナ役二人の原稿読みがうまかった!そこらの女子アナ以上ですよ。

ただ問題は中盤以降ですね。濱田岳演じる立て籠り犯・西谷が隅田を要求し、隅田を現場に向かわせる辺りから。
松重豊演じる警視庁の指揮官と共に立て籠り犯の居るカフェへと入っていく隅田。
防弾ヘルメットに防護服と厳重な装備です。
途中、池内博之演じるディレクターからスポンサーのライバル会社の看板が映るから向きを変える様指示するゲスな描写があります。
そこは気になりません、この人たち、そういう人達だから(笑)
そんな事よりも松重豊、ヘルメットつけろ!です。
相手は人質を取ってライフル構えてるんですよ、警察の人間がどれだけ無防備なんだよ!

そもそもこの犯人の西谷の行動心理がよくわからない。
以前勤めていたカフェがブラックな労働環境だったとか火災の原因を自分になすりつけられたという犯行に及んだ動機はわかりました。
ただ、何故それを隅田に訴えるんだよ!
アナウンサーは自分で原稿作って読んでるわけではないです。本番中に発するコメントだってカンペがあってそれを読んでるだけなんですよ。
だから伝えるべき相手そのものを間違ってるんですよね。西谷の年齢は不明ですが、仮に濱田岳の実年齢くらいと推測すればこの辺りはわかりそうなものですけどね。

それから西谷に説得を試みる隅田。
さすが言葉のプロです、西谷と向き合い、彼の心を開こうとすべく流れる様な話術で説得をします。
ただ、一見もっともらしく聞こえるのですが、どこかしかに漂うテレビマン的な傲りが気になってしまいます。
テレビ賛美、テレビ至上主義的なメッセージに聞こえてしまい、どうしても賛同出来ないんですよね。
また、番組スタッフ達の発想もひどいもので犯人・西谷は生きるべきか?死ぬべきか?なんてゲスな質問をリモコンのdボタンで視聴者アンケートを委ねるなんて人命を軽視してるのか?さすが天下のテレビ局様だななんて呆れてしまいます。
しかもそのアンケート結果だってひどいですからね。
あの回答を多くの視聴者が出すであろうという前提の上でのシーンですよね。視聴者、言い換えれば一般的な国民はもっと倫理的ですよ…多分。
それから吉田羊演じる隅田の妻のリアクションも気になりました。
旦那が命懸けで現場に突入するというのに「パパ、生命保険入ってたかしら?」はねぇだろ!
物事達観したクールな元女子アナというキャラクターはわかるけど、冷めすぎていて怖いです。


なんて久し振りにツッコミ祭りになりました。ひどいんですよ。
脚本も演出も構成も…だけどひどすぎると一周して面白く見れるんですよね。なので皆さんどうかハードルは低くしてご覧ください。

 

金メダル男

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愛すべきろくでなしが愚直なまでに一等賞にこだわりあくなき挑戦をし続ける様子を描いた喜劇映画。ウッチャンらしさ溢れるハートフルな笑いが見所です。

秋田泉一は東京オリンピックが開催された1964年長野県塩尻市に生まれた。いじめられっ子だった幼少期の彼だったが、運動会で一位になった事によって一等賞(金メダル)を取る快感をおぼえる。以来、書道・絵画から大声コンテストに至るまであらゆる分野で一等賞を取り続けいつしか「塩尻の神童」と呼ばれる。しかし、中学入学を機にその状況は一変する。


ちょうど一年前に公開された内村光良監督による『金メダル男』を遅ればせながら先日ようやく鑑賞しました。
一言で言えば バカですね~、文字通り金メダルバカ(笑)
三つ子の魂百まで とは言いますが幼少期の成功体験が忘れられず、10代・20代・30代そして40歳を越えてもひたすら一等賞を追い続けるんですよ。
そんな泉一の姿にごくごく一般的な常識を持った大人であればなかなか共感出来ないかなと思います。
「いい年して何やってんだ」と呆れてしまうのは無理ありません。
しかし、このワタクシここまで共感性の高いキャラクターと映画の中で遭遇するなんて!と賛同しまくりでした(笑)
器用貧乏というかこの泉一の場合は器用な不器用なんですよ。
一通りのスポーツはこなすし、芸術的なセンスも持ってる。だけど結局のところ、ナンバーワンでないと気がすまない。オンリーワンなんてくそくらえ!なんですよね。

実際、この才能を伸ばせば成功者足り得る可能性もあるのにと思わせるシーンはいくつかあるんですよ。
例えば高校時代に中庭で部員一人で始めた表現部。
学校中の笑い者にされ、教師からも「いい病院紹介するぞ」などと無神経な事も言われ(そもそもここかなりナイーブな部分だから表現には気をつけて欲しかったけど)それでもひたすら自分を貫き表現に打ち込む姿勢は素晴らしいのですが。
しかし、そんな努力が実を結び学内のヒーローになる瞬間が訪れます。
学園祭で坂本龍馬の生涯をダンスで表現するというアーティスティックな演目を披露し、学内中から拍手喝采を受けます。
入部希望の生徒も殺到し、一躍表現部が人気の部活に。
また、地元・塩尻から東京へ上京後、勧誘され劇団・和洋折衷へ入ります。
上京後、特に何も見つけられず時間だけが経過してしまった泉一にとってははじめて仲間も出来、充実した劇団生活を送るうち、看板役者へと成長します。
しかし、ゲイである座長が失踪した事によりそれも長くは続きません。
その後は海外へ渡航後、漂流した無人島で7ヶ月間過ごしたり結婚後はデパートへ就職し、アクロバティックな宣伝で注目を集めたり。

以上でいえるのが身体能力が人並み以上に高いんですよ。
何でそれを生かしてひとつの事に集中しなかったのかななんて思ってしまいます。 
勉強もスポーツも一番でチヤホヤされるなんてせいぜい小学生時分くらいです。
成長するに従い全ての分野でトップを取るという可能性は狭められ、ひとつの物事に集中してその分野で結果を出す方が賢明と気付いていくものです。
その点で考えると泉一が運動会で一位になったのはある意味では悲劇の始まりでありその後、あらゆる分野で一等賞になったのは悲劇そのものなんですよね。
例えば絵画コンクールで金賞を取った子供がいたとします。
その子は金賞という賞を好きになるのではなく、絵を描く事そのものを好きになると思います。
絵が好きになってその技術を磨いて絵の分野で成功するというプロセスが描きやすいですね。
ところが泉一は絵でも書道でもスポーツでもなく一等賞を好きになってしまったんですよ。
それ故、中学で初めて水泳競技で先輩に敗れても「この先輩をいつか絶対抜いてやる」とはならず座長が失踪して劇団が解散の憂き目にあっても「残った俺たちで劇団を盛り上げていこう!」という選択肢に至らないわけです。
結局好きなものが見つからず(具体的な競技など)年だけ取ってしまった男の喜劇然とした悲劇なんですね。

結婚後も妻と共に社交ダンスをやったり夫婦漫才をやったりしますが良い結果は出せません。(そもそも理解のある嫁さんでなければこんな旦那の夢には付き合ってくれませんがその辺のプロセスは劇中で)しかし、意外なモノで結果を出し、ひとまずのサクセスストーリーの体を成してたのは良いとして、その後のちゃぶ台返しですね、「もうええやろ!」とか「いいかげんにせぇ!」と漫才のオチよろしく突っ込みたくなるラストはお見事‼そしてそこで気づきました。「これは二時間に渡る壮大なコントだったのだと」まさに内村劇場。
ウンナン世代の私も十分満足な出来でした。

それにしても豪華なキャスト陣ですね。
泉一の中学生~青年期を演じた知念くん、泉一の妻役には木村多江さん、その他ムロツヨシ大泉洋笑福亭鶴瓶竹中直人長澤まさみ、ココリコ・田中直樹宮崎美子平泉成温水洋一、土屋太鳳、森川葵等など。
竹中さんに至ってはセリフは「いいよ~」の一言だけですからね、何て贅沢な使い方ですこと(笑)
そんな豪華キャスト陣の中でも個人的には土屋太鳳が良かったですね。
表現部の新入部員として入部し、泉一と鳥の一生を表現した創作ダンスを披露しますが、かなりシュールです(笑)
しかし、それをサクッとやってのける太鳳ちゃんの表現力の豊かさ!
スウィーツ映画ばかり出てる太鳳ちゃんですが、その高い身体能力を生かした作品が見たいんですけどね~。
アクション系とか時代劇のくのいちとかね。
それはそうと泉一。売れなかったとは言え、憧れていた元アイドルと結婚するなんて勝ち組人生じゃね~か、やっぱ共感出来ねぇわ(笑)

…なんて事はさておき、ウッチャン流の笑いと共にあれやこれやと定まらない人生を送る人への警鐘とも取れるメッセージ性もあり、思ってたより(と言っては失礼ですが)良い映画でした。桑田さんの主題歌も主人公の泉一とダブる様で作品にピッタリ合ってました。

  

アウトレイジ 最終章

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遂に公開された最終章。私はこの『アウトレイジ』シリーズの大ファンです。今年の春から首を長くして公開を待ち望んでおり、10/7の公開初日に早速鑑賞。既に二回ほど見ております。

アウトレイジ』ファンとしての感想ですが

北野武監督一流のバイオレンス映画に相応しく、過激でマヌケな抗争劇は相変わらず。しかし、過去二作の様な斬新な暴力描写は控え目でやや物足りない感はありますが、ふんだんに盛り込まれたたけし流シュールギャグと西田敏行の本気な凄みとコメディセンスに脱帽しちゃいました。

まず、一回目鑑賞時は緊張感が半端なかったです。周りに本職っぽい方々が見に来てたので…という事でなく、作中から溢れてくる凄みですね。
黒塗りのBというドイツ車が走り、上部から捉えたアングルに重なる様に現れる『OUTRAGE 最終章』のタイトルバック。お馴染みの手法ですが、いつ見ても黒塗りベンツの持つ威圧感はインパクトがあります。
前作からの続投組・西田敏行塩見三省光石研、名高達夫らに加え、ピエール瀧大杉漣大森南朋岸部一徳池内博之原田泰造といった新たなキャストの面々も『アウトレイジ』ワールドの住人として迫力ある(ない人もいるけど・笑)演技を展開します。

新キャストで印象深いのはピエール瀧演じる花菱会の花田。
予告編でもよく目にした凄みのある表情とびっしり入った入れ墨。
本作ではかなり軸となる存在となるかと思いきや何ともヘタレな役どころでしたね。
ホステスにビンタをしボコボコにする様なクズでもあり首輪をつけながら子分を恫喝するマヌケなヤツです。さぞかし女の子にムチャなSMプレイを強要したんだろうなぁ(笑)
余談ですが、昔電気GROOVE好きでした。あの頃はこんなピエール瀧想像だにしませんでしたよ(笑)

花菱会会長・野村を演じた大杉漣
前会長の娘婿で元証券マンというヤクザとは無縁の世界から会長に担ぎ出された事もあって若頭の西野(西田敏行)にとっては面白くない存在です。
会長でありながら入れ墨すら入れていないという野村。身の丈に合わないポストに居るせいで虚勢で自らの存在感を見せつけようとする器の小さい人物なので人望もありません。『アウトレイジ ビヨンド』の石原(加瀬亮)の「野球やろっか」よろしくキャンプという斬新な殺人方法でアウトレイジ流の洗礼を受けます。

しかし、相変わらずシリアスな作品の中に盛り込まれた笑いのエッセンスが素晴らしい!
大友(ビートたけし)と舎弟の市川(大森南朋)が乗り込んでいくパーティー会場。
目的は野村の殺害なのですが(実際は野村はパーティーを欠席して殺害出来ずだが)そのパーティー会場は花菱会の組員の出所祝いパーティーが行われていました。
そのパーティーの名称が「河野直樹君を励ます会」。
ここ最近思い出しては一人でニヤニヤしてますよ。ヤクザな世界でこのネーミングはねぇだろ(笑)
で、笑いと言えば西田敏行演じる西野のマシンガン口撃。
「学校の先生に教えてもろたやろ?」「親からもらった指大事にせぇ」とか「中田くんに教えてもろたんやで~」とか凄みのある顔でセリフがマヌケなんですよ(笑)
そして極めつけは「迷惑もハローワークもあるかいっ!」です!
西田さん、西田局長…。めっちゃ楽しんでますよね?本気で笑い取りに来てません?
何でもかなりの部分がアドリブだったので大幅にカットもされたそうです。
未公開シーンで見たいっ!(笑)
一方の中田役の塩見さん。
ご病気もされたそうなので『ビヨンド』の本職としか思えない様なド迫力がすっかり陰を潜めてしまったのは残念。
しかし、相変わらずの西野とのコンビネーションは絶妙でした。

これまでの『アウトレイジ』シリーズで見られた目を覆いたくなる様な残虐さでありながらも笑いを誘ってしまうあの『アウトレイジ』感(笑)
前述の「キャンプ」と花田を殺害する際の「花火」が今回でのそれになるのですが、目にした時に思わず高揚する「ああ、これ。やっぱこういうのなくっちゃ」というあのテンションって『アウトレイジ』好きな人ならではの感情ですよね?
その昔、たけし軍団ダチョウ倶楽部がやってたあの「オヤクソク」に近いノリなんですよね?

ん?何か最近そんな事書いたな…と思ったら『キングスマン』だ。
コリン・ファースが教会で無慈悲に人を殺しまくるあの感じに近い!
前述のパーティー会場乱射はこの教会乱射のイメージにも近い!
たけし監督、もしや『キングスマン』を見てたのかな??

演出の面白さと言えば北野映画では欠かせない微妙な間と絶妙なカメラワークによって効果的に挿入される映像的描写。
例えば前述の花田が韓国のホステスが気に入らないと暴力を振るうシーン。
実際は殴るシーンはなく殴られた後、血だらけになりながらすすり泣く二人の韓国人ホステスを写し出すのですが、その光景って印象に残りやすいんですよ。
また、市川と釣りに出掛ける大友が苛立ち紛れに海へ向けて発泡するシーン。
大友達が立ち去った後、浮かんでくる血を流した太刀魚の死骸とか。
作中に特に大きな影響を与えるわけではない。しかし、それを挿入する事によって深いインパクトを与える描写。
1作目の歯医者で口中をぐちゃぐちゃにされた後の石橋蓮司を知ってる人なら思わずニヤリとしてしまう演出ではないでしょうか。

5年振りの『アウトレイジ』最新作にしてシリーズ最終章。
「バカヤロー」「コノヤロー」の応酬こそ少ないものの緊張と緩和という言葉がこれほどまでに合う作品もないと思います。
カタルシスを残した前作に対して驚く程余韻を残さずあっさりと完結します。
そこに北野監督らしい清々しさを与えてくれました。
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恋妻家宮本

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2017年1月公開作。『家政婦のミタ』などのヒット作を持つ遊川和彦による初の劇場公開監督作。阿部寛天海祐希の夫婦役も話題となりました。

料理好きな中学教師・宮本洋平(阿部寛)はファミレスに行っても即決で注文が出来ない様な優柔不断な男。ある日、学生時代に読んでいた本を読み返そうと『暗夜行路』を手に取ると、ある物が本に挟まれていた。それは妻・美代子(天海祐希)が書いた離婚届だった。

何気ない日常から妻の離婚届を発見し、展開されるホームコメディと言うと近年だと『家族はつらいよ』の一作目を思い出すのですが、『家族は…』の橋爪功吉行和子という熟年離婚という響きに生々しさを感じさせてくれる大ベテランお二人に比べると阿部さんと天海さんはスマートでスタイリッシュな印象を感じるので熟年離婚のイメージとしてはややリアルさに欠けるかなと感じます。

なんて初っぱなからツッコんじゃいましたが、これはフツーに良い話しです。
ただし、いち教師を主人公とした学園ドラマとしてです。
洋平は優柔不断で頼りない男という設定ですが、これは彼の職業・教師としても同様です。
生徒をアダ名で呼んだりして生徒との距離を近づけ様とする洋平。自分では生徒から慕われている人気教師と思い込んでる洋平なのですが、細かい所への思慮にかけ、クラスのお調子者(を演じている)ドンの複雑な心理を汲み取る事が出来ず、洋平が顧問をつとめるサバイバル料理部へ部員を入部させる事しか頭にありません。
そんな洋平に女子生徒のメイミーからは「教師に向いてない」なんて言われる始末。
しかし、複雑な家庭環境のドンの為に卵料理のレシピを渡したり(洋平流の卵かけご飯がメチャメチャうまそう!)入院する母親の為、一緒に料理を作って弁当を持って行ってあげたりと少しおせっかいであっても一人の生徒の為にハートフルな行動を起こす「めっちゃいい先生」なんです。
見直したメイミーからも「教師に向いてるかも」なんて前言撤回されちゃいます。(何で上から目線なんだよとツッコミたくなりますがさておき)
全編通してもこの生徒とのエピソードにかなりの尺を使ってましたね。
仮に『クッキングティーチャー』みたいな(あくまで仮ですよ)タイトルの全12話の連続ドラマなら結構人気でたかもしれませんよ。(映画ではなくドラマね!)

つまり…裏を返せば…。

どうしてもテレビドラマの域を越えないんですよ。


そもそも夫婦の危機がテーマの映画なのに、全然危機感がないんですよね。
冒頭ではファミレスで食事をし、帰宅後にはワインを空けてみたり、これからは「お父さん、お母さん」ではなく下の名前で呼ぼうなんて話してみたり。出来ちゃった結婚でいわゆる新婚さんらしい生活がなかったからこれからは新婚気分で…なんてフツーにラブラブな夫婦ですからね。

結局離婚届を見つけてからの一連のエピソードは洋平の一人相撲でもあるのですが。
真相が判明してからのくだりも違和感を感じてまして、何かあった時の切り札として離婚届を用意してるってそれ、夫としての信用なくね?
「今は何も問題ないけどこれからは何があるかわからない。その時がきたらすぐに出せる様に準備をしておく」って事でしょ?
世の奥様方はそんな事してるんですか?
それから洋平が料理教室仲間の真珠(菅野美穂)と飲みに行くくだり。
佐藤二郎演じる夫と不仲の真珠がその原因をセックスにあると判断し、洋平に「試してほしい」とラブホまで行きます。まぁその時点でツッコミたいのですが、百歩譲るとして試しにしたセックスの相性が良くてセフレにでもなってたらどうしてたんだよ。ゲス不倫の始まりですよ(笑)離婚の原因を自分で作ってる事になるじゃないですか?
結果的に真珠の夫が倒れたという知らせにより病院に駆けつけた事でゲス展開は避けられたのですが。

後、洋平と美代子の若い頃の描写について。
現在50歳の洋平、双葉夫妻は前述の通り学生時代に出来ちゃった結婚をします。
それが20代前半と考えると1987~1990年頃という事になります。
しかし、その時代の空気感を全く感じないんですよ。世はバブル真っ只中。そんな中、地味な服装でファミレスでデートです。(そもそも毎回食事がファミレスってどうなんだ問題がありますが、それは置いといて)
彼らがいわゆるバブルのパブリックイメージから外れた青春時代を過ごしていたとも言えますが、それならそれでファミレスの客として遊び疲れたボディコン・ワンレンギャルがぐったりしてる描写があったり店内BGM にLINDBERGの『今すぐKiss Me 』が流れていたり(あくまで一例ですよ)細かい時代を写す描写があればよかったんですけどね。そもそもこの時代にも地味な若者には地味な若者なりのファッションはあったでしょうに。


エンディングでは吉田拓郎の『今日まで、そして明日から』が起用されています。
その曲のチョイス自体は良いと思います。
ただ、問題はエンディングの演出と曲の使い方ですよ。
イントロが流れて「おっ、拓郎」と思ったら歌い出すのは阿部寛ですからね。
「お前が唄うんかい!」て『ごっつええ感じ』の今ちゃんのツッコミ思い出しましたよ(笑)
その後は出演者一人一人が1フレーズずつ唄い繋ぎ最後は『ウィ・アー・ザ・ワールド』さながらの大合唱。
何を思ってそんなミュージカルみたいにして閉めようと思ったのでしょうか?
ノリが古臭いし、そもそもミュージカルにするタイプの曲ではないでしょうに。

とまぁ良くも悪くもテレビドラマでしたね。ドラマならそこそこ面白いけど映画で見るタイプではないという。遊川さんがドラマの人だからという事なんでしょう。
ちなみにデニーズがやたらよく出るなと思ったら『ファミレス』という原作がある様です。

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湯を沸かすほどの熱い愛

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末期ガンの宣告を受け、最後の時を迎えるまで献身的に家族の為に生きた女性のヒューマンドラマ。
宮沢りえの熱演が高く評価され、日本アカデミー賞をはじめ、数々の映画賞でも好成績を残しました。

夫・一浩(オダギリジョー)と共に銭湯を営んでいた双葉(宮沢りえ)。しかし、夫の蒸発により銭湯を休業しパン屋のパートで娘の安澄(杉咲花)を支えていた。ある日、勤務中に倒れた双葉。病院で検査を受けた結果、末期ガンで余命宣告をされ…。

当初は当然ながら落ち込む双葉なんですが、その後の行動力がとにかくスゴい!病人とは思えない程のバイタリティーで自分がすべき事に手をかけていきます。
まず、いじめに悩む娘の阿澄をいじめに立ち向かうべく激励し、(その結果阿澄はインパクト大な抵抗を学校で行う)蒸発した夫を連れ戻す。事もあろうか連れ子まで連れてくる夫だが、自分の娘の様に受け入れ銭湯を再開させる。
その後、阿澄と連れ子の鮎子と旅行に出掛け(その旅行も重要な意味を持ちます。)更に自分の実母に会いに行く(そのくだりが何ともやりきれないです。)
この様に残された時間内で自分と家族のあらゆる問題を解決していく双葉の姿には胸を打たれます。

本作においてのポイントをいくつかおさえておくとまず、伏線の回収が実に卓越しております。
前半、とある人物から双葉と安澄の元へカニが送られてくるシーン、道を尋ねる聾唖女性に安澄が手話で案内をするシーン。
「カニのくだりいる?」とか「何で安澄は手話が出来るの?」
その答えが旅行でのエピソードで明かされた時のシナリオ構成への驚きと言えば近年の日本映画でも群を抜いてた感があります。

また、ふと目を疑う様な強力なインパクトを与える演出がこの映画を語る上では欠かせないものとなっており、例えばいじめで制服を隠されてしまった安澄がとる精一杯の抵抗としてあらわれるのが教室でそれまで着ていた体操服を脱ぎ出し下着姿になるシーン(双葉からもらった勝負下着!)
旅行先の飲食店で会計を済ませた後、双葉がレジの女性をビンタするシーン。
いずれも一瞬何が起こったのかと混乱する様な描写なんですが、このシーンを挿入する事により、ひとつのエピソードを効果的に演出として強い印象を与えます。

さて、この映画。脚本も演出も宮沢りえをはじめとしたキャストの演技も非常に素晴らしくかなり満足度の高い作品です。しかし、どうしても気になってしまう点があるので最後に触れておきたいと思います。

娘・安澄のいじめに対しての双葉の対応が正解か否か問題です。
安澄はいじめに対しての恐怖から不登校の意思を示すシーンがあります。
それを奮い立たせ学校へ行かせ、前述の下着一枚での抵抗へと繋がります。
結果的に安澄の元へ制服は返され何となく一件落着っぽい雰囲気だったのですが、その後いじめがなくなったかどうかは別問題ですよね。
そもそもクラス内で下着一枚になる女生徒なんて男子からはビッチ扱いされ、女子からは異端児扱いでかえっていじめが悪化しそうなものなんですが。
安澄が不登校の意思を見せた時、敢えて学校行かせないという選択肢だってアリだと思うんですよ。
高卒資格取るとか大検取らせて進学するとかね。
或いは安澄にやりたい事があればその世界に飛び込んでみるとかもいいと思います。
とかく日本ではどんなに苛酷な環境でも逃げずに戦うという価値観が美徳とされる風潮があります。
大人であろうと子供であろうとね。
しかし、逃げるという選択肢を選び次に向かうというのは間違った価値観ではないと思うし、その方がより自分らしく生きていける可能性があるのも事実だと思います。
確かに周囲の目は黙っていないと思います。
しかし、少なくとも自殺するよりはいいんじゃないですか?
要は逃げた後、自分自身がどれだけ頑張れるかです。
逃げる事を怖がらず逃げるという戦い方だってあると声を大にして言わせて頂きます。


なんて映画と違う観点で熱くなっちゃいましたね、結論「逃げるは恥じたが役に立つ」です。

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