きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

金メダル男

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愛すべきろくでなしが愚直なまでに一等賞にこだわりあくなき挑戦をし続ける様子を描いた喜劇映画。ウッチャンらしさ溢れるハートフルな笑いが見所です。

秋田泉一は東京オリンピックが開催された1964年長野県塩尻市に生まれた。いじめられっ子だった幼少期の彼だったが、運動会で一位になった事によって一等賞(金メダル)を取る快感をおぼえる。以来、書道・絵画から大声コンテストに至るまであらゆる分野で一等賞を取り続けいつしか「塩尻の神童」と呼ばれる。しかし、中学入学を機にその状況は一変する。


ちょうど一年前に公開された内村光良監督による『金メダル男』を遅ればせながら先日ようやく鑑賞しました。
一言で言えば バカですね~、文字通り金メダルバカ(笑)
三つ子の魂百まで とは言いますが幼少期の成功体験が忘れられず、10代・20代・30代そして40歳を越えてもひたすら一等賞を追い続けるんですよ。
そんな泉一の姿にごくごく一般的な常識を持った大人であればなかなか共感出来ないかなと思います。
「いい年して何やってんだ」と呆れてしまうのは無理ありません。
しかし、このワタクシここまで共感性の高いキャラクターと映画の中で遭遇するなんて!と賛同しまくりでした(笑)
器用貧乏というかこの泉一の場合は器用な不器用なんですよ。
一通りのスポーツはこなすし、芸術的なセンスも持ってる。だけど結局のところ、ナンバーワンでないと気がすまない。オンリーワンなんてくそくらえ!なんですよね。

実際、この才能を伸ばせば成功者足り得る可能性もあるのにと思わせるシーンはいくつかあるんですよ。
例えば高校時代に中庭で部員一人で始めた表現部。
学校中の笑い者にされ、教師からも「いい病院紹介するぞ」などと無神経な事も言われ(そもそもここかなりナイーブな部分だから表現には気をつけて欲しかったけど)それでもひたすら自分を貫き表現に打ち込む姿勢は素晴らしいのですが。
しかし、そんな努力が実を結び学内のヒーローになる瞬間が訪れます。
学園祭で坂本龍馬の生涯をダンスで表現するというアーティスティックな演目を披露し、学内中から拍手喝采を受けます。
入部希望の生徒も殺到し、一躍表現部が人気の部活に。
また、地元・塩尻から東京へ上京後、勧誘され劇団・和洋折衷へ入ります。
上京後、特に何も見つけられず時間だけが経過してしまった泉一にとってははじめて仲間も出来、充実した劇団生活を送るうち、看板役者へと成長します。
しかし、ゲイである座長が失踪した事によりそれも長くは続きません。
その後は海外へ渡航後、漂流した無人島で7ヶ月間過ごしたり結婚後はデパートへ就職し、アクロバティックな宣伝で注目を集めたり。

以上でいえるのが身体能力が人並み以上に高いんですよ。
何でそれを生かしてひとつの事に集中しなかったのかななんて思ってしまいます。 
勉強もスポーツも一番でチヤホヤされるなんてせいぜい小学生時分くらいです。
成長するに従い全ての分野でトップを取るという可能性は狭められ、ひとつの物事に集中してその分野で結果を出す方が賢明と気付いていくものです。
その点で考えると泉一が運動会で一位になったのはある意味では悲劇の始まりでありその後、あらゆる分野で一等賞になったのは悲劇そのものなんですよね。
例えば絵画コンクールで金賞を取った子供がいたとします。
その子は金賞という賞を好きになるのではなく、絵を描く事そのものを好きになると思います。
絵が好きになってその技術を磨いて絵の分野で成功するというプロセスが描きやすいですね。
ところが泉一は絵でも書道でもスポーツでもなく一等賞を好きになってしまったんですよ。
それ故、中学で初めて水泳競技で先輩に敗れても「この先輩をいつか絶対抜いてやる」とはならず座長が失踪して劇団が解散の憂き目にあっても「残った俺たちで劇団を盛り上げていこう!」という選択肢に至らないわけです。
結局好きなものが見つからず(具体的な競技など)年だけ取ってしまった男の喜劇然とした悲劇なんですね。

結婚後も妻と共に社交ダンスをやったり夫婦漫才をやったりしますが良い結果は出せません。(そもそも理解のある嫁さんでなければこんな旦那の夢には付き合ってくれませんがその辺のプロセスは劇中で)しかし、意外なモノで結果を出し、ひとまずのサクセスストーリーの体を成してたのは良いとして、その後のちゃぶ台返しですね、「もうええやろ!」とか「いいかげんにせぇ!」と漫才のオチよろしく突っ込みたくなるラストはお見事‼そしてそこで気づきました。「これは二時間に渡る壮大なコントだったのだと」まさに内村劇場。
ウンナン世代の私も十分満足な出来でした。

それにしても豪華なキャスト陣ですね。
泉一の中学生~青年期を演じた知念くん、泉一の妻役には木村多江さん、その他ムロツヨシ大泉洋笑福亭鶴瓶竹中直人長澤まさみ、ココリコ・田中直樹宮崎美子平泉成温水洋一、土屋太鳳、森川葵等など。
竹中さんに至ってはセリフは「いいよ~」の一言だけですからね、何て贅沢な使い方ですこと(笑)
そんな豪華キャスト陣の中でも個人的には土屋太鳳が良かったですね。
表現部の新入部員として入部し、泉一と鳥の一生を表現した創作ダンスを披露しますが、かなりシュールです(笑)
しかし、それをサクッとやってのける太鳳ちゃんの表現力の豊かさ!
スウィーツ映画ばかり出てる太鳳ちゃんですが、その高い身体能力を生かした作品が見たいんですけどね~。
アクション系とか時代劇のくのいちとかね。
それはそうと泉一。売れなかったとは言え、憧れていた元アイドルと結婚するなんて勝ち組人生じゃね~か、やっぱ共感出来ねぇわ(笑)

…なんて事はさておき、ウッチャン流の笑いと共にあれやこれやと定まらない人生を送る人への警鐘とも取れるメッセージ性もあり、思ってたより(と言っては失礼ですが)良い映画でした。桑田さんの主題歌も主人公の泉一とダブる様で作品にピッタリ合ってました。