きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

身代わり忠臣蔵

時代劇「忠臣蔵」をベースに「身代わり」という設定を加えてコミカルに描いた土橋章宏の同名小説を、ムロツヨシ主演で映画化。
嫌われ者の旗本・吉良上野介からの陰湿ないじめに耐えかねた赤穂藩主が、江戸城内で吉良に斬りかかった。赤穂藩主は当然切腹となったが、実は斬られた吉良も逃げ傷で瀕死の状態に陥っていた。逃げて死んだとなれば武士の恥、お家取り潰しも免れない。そこで吉良家家臣の提案により、上野介にそっくりな弟・孝証を身代わりにして幕府を騙し抜こうという前代未聞の作戦が実行されることに。一方、切腹した赤穂藩主の部下・大石内蔵助は、仇討ちの機会をうかがっているように見えたが……。
正反対の性格を持つ吉良上野介と孝証の兄弟をムロが1人2役で演じ分け、永山瑛太大石内蔵助役で共演。川口春奈林遣都北村一輝柄本明が脇を固める。原作者・土橋章宏が自ら脚本を手がけ、「総理の夫」「かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦」の河合勇人監督がメガホンをとった。(映画・comより)

ここ最近の時代劇映画といえばシリアス寄りなものよりすっかりコメディタッチの物が増えてきましたよね。記憶に新しいところだと昨年の『大名倒産』の様な。歌舞伎等の題材としてクラシカルな人気を持つ「忠臣蔵」だって2019年の『決算!忠臣蔵』の様にコメディ寄りになったりそれがいいか悪いかはともかくかつての様にシリアスタッチの時代劇にしてしまうとなかなか客足が伸びないのかもしれませんね。

そして今作は忠臣蔵赤穂浪士の目線で見ると悪役として描かれる吉良上野介の身代わりとなるお坊さんが奔走するドタバタコメディとなっています。

主演はムロツヨシ。で、ムロさんのコメディといえば福田監督かなと思いきや河合勇人監督。これまで『俺物語』、『チア⭐︎ダン』、『かぐや様は告らせたい』等若者を対象とした青春モノや恋愛映画を撮ってきたイメージ。しかし2021年の『総理の夫』では永田町の政治家を題材に新基軸を打ち出していったのは記憶に新しいところ。今作は監督にとっては初の時代劇。果たして内容は如何に?

2月12日の月曜日。建国記念日の振替休日を利用してMOVIX日吉津で見て参りました。

さて、今作の大きなポイントから触れていきます。これまでの忠臣蔵といえば大石内蔵助を中心とした赤穂浪士の目線で描かれる事が多かったです。いわゆる赤穂事件と呼ばれる吉良家の討ち入り。その発端となった松の廊下の刃傷沙汰だって浅野内匠頭は不当な扱いを受けた被害者であり加害者である吉良はとにかく嫌味たっぷりなパワハラ野郎。近年の研究では実際の吉良は民衆からも慕われていて忠臣蔵の物語でイメージするよりもずっと常識的な人物だったと伝わっています。しかしそれは誰の目線で見るかによって見方は変わるものであってトラブルに巻き込まれた主君を思う赤穂の家臣から見れば吉良は憎たらしい存在になるものです。だから物語の文脈的には浪士達は主君の無念を晴らすために仇討ちをした忠義の士、一方の吉良を憎たらしく描いた方が勧善懲悪大好きな日本人の琴線に触れやすいというのはあると思います。

それを敢えての身代わりの形を取りながら吉良目線にしたのはこれまでにはないパターンだなと思いました。

そして兄である吉良上野介、身代わりを務める弟の孝証をムロツヨシ一人二役で演じます。面白いのが兄の上野介はこれまでの忠臣蔵のイメージ通りの嫌〜なヤツ。自分の事しか考えないし、家臣達には常に恫喝やパワハラの繰り返し、お付きの女性にはセクハラをする…なかなかのクズ野郎です。一方の弟・孝証はどうか?実は彼もなかなかのクズであるのがわかります。そもそも身代わりを務めるのだって金に目がくらんでですし、お坊さんでありながらかなりのなまくらなんですよ。だけど同じクズでも兄貴と違うのは人への情が深いというところ。自己中極まりない兄貴と比べて人を大切にするからこそやがて周囲の人達も彼への目の向け方も変わっていき…なんてなかなか人情喜劇として物語がうまく転がされていくんですね。また、永山瑛太演じる大石内蔵助との関係にも注目。もちろん彼は主君の仇討ちとお家再興に燃えるのですが、吉良の身代わりと明かさない孝証と仲良くなってしまうんですね。だからこそ仇討ちはどうなっていくのか?をハラハラしながら見届けていく事になります。

それからコメディですから当然笑ってなんぼのギャグ描写もてんこ盛り。やはりムロツヨシさんが主演ですから福田組でのこれまでの持ち味を活かしながらとことんムロさんを面白く見せていきます。更には北野武監督のあの作品じゃないですが、首をコメディの材料にしてしまいます。そこは賛否両論あると思うんですよ。人の首をあんな扱いするのはいくら映画と言えどもやり過ぎではないかとか悪ふざけが過ぎるとか。でも僕は逆ですね。そもそもこの首にしたってまさに北野武監督が描いた首を取る為に血眼になる武士・侍の悲哀みたいなものが背景にあるわけであって。単なるおふざけシーンに見えるかもしれないですが、テーマやメッセージも内包してるんですよね。それにこのシーンに限らず割と不謹慎なんですよ、コメディ場面が。死体をいじりながらのブラックユーモアがあるし遊郭での場面はなかなかお下品です。(この辺りは大石蔵之介が遊郭通をしていた史実とうまく絡ませているんですね。)昨今はコンプライアンスで締め付け過ぎなところがあってエロやグロをユーモアに変えるのは不謹慎という声があります。ただ地上波ならともかく映画の中だけではせめてこういった表現があってもいいんじゃないかなと思うんですよね。少なくとも僕はこの試みは支持したいと思います。

それにしてもキャストの面々も良かったです。主演のムロツヨシさんはもちろん永山瑛太さんも。先日見た『福田村事件』の印象があまりに強かったからコメディでの瑛太さんを見て和みましたよ。また、川口春奈ちゃんも光っていましたね。彼女は2020年の大河ドラマ麒麟の翼』もそうでしたが、時代劇との相性が良いんですよね。欲を言えばナレーションも彼女にしてほしかった…ナレーションをしていた森七菜さんがダメというわけではないですよ、彼女の場合はナレーションをしたなら劇中に出演もしてほしかったなと思いました。

時代劇はちょっと…忠臣蔵知らないし…という人でも十分楽しめる痛快コメディ時代劇です。

是非劇場でご覧下さい!