きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

ラストレター

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「Love Letter」「スワロウテイル」の岩井俊二監督が、自身の出身地・宮城を舞台に、手紙の行き違いから始まった2つの世代の男女の恋愛模様と、それぞれの心の再生と成長を描いたラブストーリー。姉・未咲の葬儀に参列した裕里は、未咲の娘・鮎美から、未咲宛ての同窓会の案内状と未咲が鮎美に遺した手紙の存在を告げられる。未咲の死を知らせるため同窓会へ行く裕里だったが、学校の人気者だった姉と勘違いされてしまう。そこで初恋の相手・鏡史郎と再会した彼女は、未咲のふりをしたまま彼と文通することに。やがて、その手紙が鮎美のもとへ届いてしまったことで、鮎美は鏡史郎と未咲、そして裕里の学生時代の淡い初恋の思い出をたどりはじめる。主人公・裕里を松たか子、未咲の娘・鮎美と高校生時代の未咲を広瀬すず、鏡史郎を福山雅治、高校生時代の鏡史郎を神木隆之介がそれぞれ演じる。
(映画.comより)

手紙…今ではすっかり過去の物となった感のある代物ですが、かつては当たり前の様に交わされていました。
『手紙』というタイトルの名曲も数多あるわけですが、僕は爆風スランプの『大きな玉ねぎの下で~はるかなる想い~』が特に好きです。
小学校一年の時、六年生のお姉さん方に可愛がってもらい、卒業する時にお菓子の入った手紙をもらった事もあった。
あの時のお菓子はおいしかったな~…なんて昭和生まれの人であれば手紙に関する思い出のひとつやふたつあるかもしれませんね。

で、今回はそんな手紙がテーマの映画です。
岩井俊二監督にとって久しぶりの作品。
彼の世界観の中に人気キャストが結集して物語を紡ぎだしていきます。

僕がまずこの作品を見て感じた事。
それは風景の美しさです。
岩井監督の出身地・宮城県を中心に撮影されていますが、とにかく落ち着いた景色が作品に投影され、見る者を一気に物語へと誘っていく。

福山雅治松たか子広瀬すず、森七菜、神木隆之介等豪華キャストが作品を彩っていきます。
実はこういった面々の中で存在感を放っていたのが庵野秀明さん。
松たか子演じる裕里の夫として出演していますが、実に自然体な演技。
正直、『風立ちぬ』の時は違和感アリアリだったのですが、声優ではなく俳優向きなのかもしれませんね。
更に岩井監督作品のファンなら中山美穂さんと豊川悦司さんの起用は嬉しかったのではないでしょうか?
ミポリンは(その言い方が昭和・笑)久しぶりにお見かけしましたが、やはりお美しく、場末の女感が見事にハマっておりまして、この辺り最近の小泉今日子さんに通じる様な色気のある熟女っぷり(失礼)がたまりません!
トヨエツはなかなかのクズですし、作中での数少ない憎まれ役なのですが、際立ってるんですよ。
この映画、彼が居るか居ないかでかなり変わってくると思います。

松たか子さんも福山さんもベテランならではの演技力ですが、今回のポイントは福山さんがキラキラしてないんですよ。
小説家ではあるものの、これまでに書いた小説は一本のみ。
まぁ、この一作が非常に重要な意味を持つのですが、トヨエツから売れない小説家と揶揄されたり雰囲気もそれっぽいんですよね。

広瀬すずさんはやはり飛び抜けてるなと感じました。
イメージで言えば『海街Diary』(2015)のそれに近いのですが、今回彼女は一人二役で出演している辺り大きな違いがあります。
現在と過去それぞれ別のシーンでの出演ですが、片や若き日の母、片や現在の娘なんですが、顔は似てても性格は全く違うんですよ。
過去のシーンでは母・美咲の学園のマドンナ、現在のシーンでは鮎美の陰のある雰囲気を絶妙に醸し出している。
この演技力をまざまざと見せつけるのが本作なんですよ!

森七菜ちゃんに関しては『天気の子』のイメージが強いのですが、声優ではなく女優としての彼女を見るのは本作が初めてです。
彼女もまた現在と過去でそれぞれ別の人物を演じていますが、とりわけ過去の裕里役が印象的です。
一見すると現在の松たか子さんと彼女が結び付かない感じもするのですが、ふとした時に見せる細かい仕草に現在の裕里らしさが出てくるんですよ。
この映画を見た人でそこに気付ける人はどれくらいいるかわかりませんが、こういう演出ホント素晴らしいと思います!

なんてキャストの演技中心に話しを展開してきました。
ストーリーはと言うと終始淡々としてるし、一部重い場面があります。
映画的な盛り上がりに欠けるという声も確かに聞こえてきそうですが、あくまで雰囲気を味わう映画であると言っておきましょう。
とりわけ40代以上の大人であれば初恋と手紙というほろ苦い想い出が結び付き感傷に浸る様な作品かもしれません。
淡くて儚い胸に秘めたまま実らなかったそんな初恋の想い出が甦ってきそうで鑑賞後はしばしセンチメンタルな気持ちに浸ってしまいました。
こういう雰囲気を作り出すのってホント岩井俊二監督はうまいよなぁ…。

落涙させる様な感動とは違うけど、確かに心に大きな余韻を残してくれる様な、そんな作品でした。
是非劇場でご覧下さい!