きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

来る

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嫌われ松子の一生」「告白」「渇き。」の中島哲也監督が、岡田准一を主演に迎え、「第22回日本ホラー大賞」で大賞に輝いた澤村伊智の小説「ぼぎわんが、来る」を映画化したホラー。黒木華小松菜奈松たか子妻夫木聡らが顔をそろえる。恋人の香奈との結婚式を終え、幸せな新婚生活を送る田原秀樹の会社に謎の来訪者が現れ、取り次いだ後輩に「知紗さんの件で」との伝言を残していく。知紗とは妊娠した香奈が名づけたばかりの娘の名前で、来訪者がその名を知っていたことに、秀樹は戦慄を覚える。そして来訪者が誰かわからぬまま、取り次いだ後輩が謎の死を遂げる。それから2年、秀樹の周囲で不可解な出来事が次々と起こり、不安になった秀樹は知人から強い霊感を持つ真琴を紹介してもらう。得体の知れぬ強大な力を感じた真琴は、迫り来る謎の存在にカタをつけるため、国内一の霊媒師で真琴の姉・琴子をはじめ、全国から猛者たちを次々と召集するが……。
(映画.comより )

はじめに言っておけば、僕は邦画実写の監督として中島哲也監督は好きです。
いや、正確に言えば『下妻物語』、『嫌われ松子の一生』、『パコと魔法の絵本』の初期三作が好きと言うべきかな。
ポップさの中にも悲哀を帯びそれをひとつの作品に仕上げる。
元々CM業界で旋風を巻き起こしたクリエイターだけあって作中で見せる映像的なインパクトは非常に秀逸だと思います。
2010年の『告白』からその作風にも変化が出てきた感じですね。
『告白』は確かに面白かった!
それまでの中島作品の世界観を踏襲させながらもサイコサスペンスの要素を取り入れ、後半に進めば進む程、息を飲む展開は見事でしたね!
しかし、それで味をしめたのか2014年の『渇き』。
それがいけなかったなぁ。
『告白』の流れを踏襲しながらも、ブラッシュアップさせた内容であれば文句も出なかったものの、そうではなかったから。
結果、興行収入もがた落ち。
その後、今回の『来る』まで4年のブランクが出来てしまったわけです。

なので正直、楽しみ半分不安半分の心境だったんですよ。
しかも夏ではなく、今の時期にホラーってのもどうなんだ?

それが私の見る前の心境です。
果たして鑑賞後の心境に変化はあったのか?

今回は『来る』についてです。
まず、ホラーが苦手な人に伝えておきますが、実は意外にもホラーホラーしてる感じではありません。
むしろ霊的な何かに恐怖感を植え付けるよりは人間そのものの性質や醜悪さをクローズアップしている点が特徴です。
なんて言ってもピンと来ないでしょうからもっと深掘りしてみましょう。
この映画は三幕で構成されます。
一幕目。
妻夫木聡演じる田原秀樹という人物が婚約者の黒木華演じる香奈という女性を大阪の実家に連れていきます。
葬儀の為の帰省なのですが、そこで秀樹は小学生の時のとある記憶がフラッシュバックします。
二幕目。
結婚式を終えた秀樹と香奈。
マンションも購入し、娘も授かり、一見幸せに見えるのですが…。
秀樹を中心とした描写で展開されます。
三幕目。
秀樹の妻・香奈を中心とした展開。
遂に「あれ」の実態にクローズアップされる中、他キャスト陣も絡み、『幻魔大戦』さながらの祈祷バトルが繰り広げられる事に。

ざっとこういう展開です。
前半はほぼ秀樹が主人公。
幸せを掴んだ男・秀樹。
家庭に恵まれ、娘の育児にも熱心でイクメンパパとして開設したブログも大人気。
しかし、その実態は…?

まず、ここは何と言っても妻夫木くんに軍配をあげたい。
いつの頃からかな、中島作品の前作『渇き』でもそうでしたが、一見人当たりの良さそうな人気者。しかしその実、傲慢で自己中心的、醜悪な心を持ち合わせた人物を何とも清々しく演じてくれていますね。
奥田民生になりたいボーイ』で見せたサブカルチックでかつ童貞臭い約どころも良いのですが、このテの役が見事にハマる!
見れば見る程、「こいつ、クズだな」と感じさせられます。
そしてこの秀樹を取り巻く人物達もとにかく人間の持つ醜さが非常によくあらわれていましたし、中島監督は決してキレイな所は見せないという仕事に終始徹底していたなと感じました。

二幕目の香奈パートについてです。
夫・秀樹は秀樹で徹底的なクズであったのに対し、妻の香奈は香奈で邪な思いを巡らす女でした。
ことこのパートで犠牲になるのは愛娘(となるはずだった)の幼女です。
醜悪な父親と母親の間に挟まれ、翻弄されてしまうのが子供。
そこに小松菜奈演じるキャバ嬢霊媒師・真琴と岡田准一演じるオカルトライター・野崎、更に真琴の姉・琴子(松たか子)も加わりいよいよサイケな展開に拍車がかかっていきます。
一幕目で秀樹を襲った怪現象そしてそれを引き起こしたであろう「あれ」の実態調査が展開されていきます。
この辺りにくるとかなり荒れてきますねぇ。
しかし、そんな中でも繰り広げられる人間達の欲望が渦巻く魑魅魍魎。
そして三幕目。
ありとあらゆる祈祷師を寄せ集めての大バトル。
非常に見ごたえありましたし、かなりエンタメしてました。
全国から集められた祈祷師と琴子があれの猛威を鎮める為に行う祈祷シーンが本作最大のハイライトと言えるでしょう。
何気にスーツ姿のサラリーマン風祈祷師の一団がカプセルホテルでスーツから祈祷用装束に着替えるくだりは吹きました(笑) 

そしてクライマックス。
いよいよあれの正体が?

となるのですが、ここからはご自身の目で確かめてみて下さい。

そんな中島哲也監督の『来る』。
久しぶりに中島作品を見ましたが、ふと懐かしさを覚えましたね。
この監督の作品に共通か言えるのですが、脚本の妙と言うのかストーリーの運び方が良い!
本作でも次の展開がなかなか読めなかったし、「ああ、こう来るか~」と感心させられる事しきり。
更に映像的なインパクトは流石でしたね!
後半に千沙ちゃんが劇中で何度も歌う『オムライスのうた』(ってタイトルかな?)の映像が出てきます。
この映像なんかも如何にも中島哲也監督らしいんですよ。
はじめは『パコ』以前の中島作品が好きなそれこそ僕みたいな人へのサービスショットかな?という程度の認識だったんですが、後々考えるとこれもかなり不気味なんですよね。
妙に脳裏に焼き付いて離れないというか。
あれも監督の意図的なものなんでしょうね。

そういえば妻夫木くん以外の主要キャストについて最後に触れておきましょう。
黒木華さんのあの幸薄そうな雰囲気は良かったですね。
以前、『日日是好日』を評した時に言いましたね。
彼女の魅力は東洋的な佇まいに基づいた上品な色気にあると。
そして他方では決して派手ではない女性像がハマる女優さんだと思います。
本作においてはことほどさようにその魅力がいかされていました。

次に小松菜奈さんですね。
今年は『坂道のアポロン』、『恋は雨上がりのように』といった出演作がありますが、いずれもスルー。
2016年の『僕は明日昨日のきみとデートする』(名作だったなぁ)以来、2年振りに見ました。
彼女の魅力と言えばその透明感のある繊細さにあると思います。
『ぼくは明日』も然り『バクマン』然り。
言ってみれば天使の様な存在なんですよね。
本作ではそのイメージを打ち破る様なパンキッシュなピンクの髪のキャバ嬢。
小松菜奈の新たな一面を引き出した印象ですねぇ。
そういえば小松菜奈ちゃんの出世作が中島監督の『渇き』でしたね。
中島監督は小松菜奈のプロデュース力に長けてるのでしょうか?
松たか子さんも『告白』に続きエキセントリックな存在感を放ってましたね。
ぶっちゃけ怖かったです。(もちろん誉め言葉)
そして岡田准一さん。
久しぶりに侍、武将、軍人、実業家以外の岡田さんを見ました(笑)
いつの間にか時代劇大作=岡田准一
という図式が出来上がった感がありますが、こういうやさぐれた感じの役は良かったですよ。
関ヶ原』で共演した役所広司さんからも「時代劇ばかり出てないでもっと色々な役に挑戦しなさい」なんて言われてたらしいですから(笑)
本人ものびのびとこのやさぐれライターを演じていたのではないかなと思います。

賛否分かれる作品だとは思いますが、個人的には好きな作風です。
ちなみに余談ですが、以前チサという女性と付き合ってました。(正確には千里ですが、チサと省略して呼んでいた)
なので、劇中で千沙ちゃんの名前が出る度にいちいち反応してました(笑)