きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

シビル・ウォー アメリカ最後の日

 

エクス・マキナ」のアレックス・ガーランドが監督・脚本を手がけ、内戦の勃発により戦場と化した近未来のアメリカを舞台に、最前線を取材するジャーナリストたちを主人公に圧倒的没入感で描いたアクションスリラー。
連邦政府から19の州が離脱したアメリカでは、テキサス州カリフォルニア州の同盟からなる「西部勢力」と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。就任3期目に突入した権威主義的な大統領は勝利が近いことをテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。戦場カメラマンのリーをはじめとする4人のジャーナリストは、14カ月にわたって一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うべく、ニューヨークからホワイトハウスを目指して旅に出る。彼らは戦場と化した道を進むなかで、内戦の恐怖と狂気を目の当たりにしていく。
出演は「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のキルステン・ダンスト、テレビドラマ「ナルコス」のワグネル・モウラ、「DUNE デューン 砂の惑星」のスティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン、「プリシラ」のケイリー・スピーニー。(映画.comより)

意識高い系映画好きから高い支持をA24製作の最新作…って決してワタクシdisっていませんからね(笑)いやいやでも上質な作品作りには定評のある会社ですからね。高い評価を集めるのも納得なんですがね。全米では二週連続の一位とやはり大ヒットとなっています。

で、私も気になっていまして、10月6日の日曜日にMOVIX日吉津にて鑑賞。公開週の日曜日ですからね、たくさんの人が入っていましたよ。

さて、ワタクシこの作品の予告編を見て思ったのが、アメリカ最後の日と謳いクライシスな場面をふんだんに盛り込んだアクション映画。しかしA24の製作ですからね、単にアクションシーンをバンバンに詰め込んでこういうのがお好きなんでしょ?どうぞお召し上がれ…なんて安易な作品にはなってはいないだろうと。

そしてその読みは的中。単なるクライシスを煽るアクション映画とはわけが違いました。

さて、この作品では近い将来、アメリカの国内で内乱が起きた場合のシミュレーションとも取れる緊迫感溢れる映像作りに引き込まれていきます。

そもそも有史以来、南北戦争を除き、国内で内戦が起きた事のないのがアメリカ。そんなアメリカが何故分断されるかなんて説明描写がないまま、ストーリーが展開されていきます。

しかし、その鍵となるのが三期に渡って就任しているアメリカ大統領の存在。そもそもアメリカの大統領というのは二期8年までであって三期目の就任なんてあり得ないハズ。そこで思うのが大統領の着任の制度なり法律なりを変えてしまう独善的な人物。アメリカで独裁政権が誕生してしまった事を想像させます。実際、劇中にはムッソリーニチャウシェスクという名前も出てくる。

そして19の州が連邦政府を独立し、テキサス州カリフォルニア州が手を組み、西部勢力なる同盟が結ばれる。ここで面白いのがテキサス(共和党支持)とカリフォルニア(民主党支持)という本来ならばまず有り得ないとされる二州が手を組む事なんですよね。方や民主党方や共和党でリベラルと保守が思想の枠を超え、共闘する辺りに如何に今作で描かれるアメリカがカオスな状況であるかを見せていくわけです。それにしてもこの辺りはうまくバランスを取っているなと思いましたね。

反政府同盟ですから、どちらかに偏っていては思想を反映させたプロパガンダ映画だという非難の声が出かねない。しかし、この両者が共に手を組んでいるという設定にしたのは非常に妥当な見せ方だと思います。

そして今作は分断したアメリカを俯瞰的に捉えていくという事でなく、ジャーナリストの目線を交えた辺りがよく映画的なアプローチとしては効果的だったなと思います。

更に言えばそこにロードムービーにした辺りもエンタメとして良い方向に機能したと思います。

行く先々での地獄絵図更には自分達もその惨事に巻き込まれる事によって見ている側に何とも言えない緊張感を生み出していました。

そしてその映像には一切の妥協がない。移動中の車のガソリンを充足すべく立ち寄ったガソリンスタンドでは瀕死の二人の男性を吊るした男が写真の撮影を要請してくる。あまりに猟奇的な映像の為、この男がサイコパスにしか見えないのだが、話しはそんなに単純ではない。内戦が激化する中、いつ自分の身が危険に冒されるのかはわからない。身の安全を守る為なら暴力も殺人も肯定してしまう。人間の防衛本能を訴える描写としてあまりにも生々しいものでした。

また、ダンプの荷台に大量の死体を乗せ、処理場に処分。そこを監視する男とのやり取りも強く心に響きましたね。一人一人の通行に目を光らせ、怪しい者がいれば射殺をする。まぁ何ともゾッとする光景ですが、これをフィクションの事とするのにも冷静な思考力があれば慎重になります。というのも思い出して下さい。日本でも同様の事例が100年程前にあった事を。そうです。福田村事件です。映画にもなりましたし、番組でも扱いました。関東大震災直後の混乱から自警団を結成し、流言飛語が飛び交い、朝鮮人を虐殺。その末に起きた悲劇です。現にこの映画でもアメリカ人ではないと分かれば四の五の言わずに銃殺。見ている我々に強いショックを与えます。

また、この映画で感じたのは娯楽や快楽は平穏な時だからこそ享受出来るものという事。象徴的なシーンがあります。道中でブティックへと入る場面があります。そこでメンバーの女性二人が服をコーディネートします。動きやすい身軽な服装をしている彼女達にとってはオシャレをするという事もどこかに置いて行った娯楽。緑のワンピースを試着する様子は強く印象に残りました。

また、とある町に入った一行。そこにはクリスマスソングが流れ、サンタクロースの人形が飾られています。戦争とは無関係な穏やかな風土であれば子供達が遊びまわり、サンタクロースが平和の象徴かの如く街を見守る事でしょう。しかし、無人の中でのクリスマスソングとサンタクロースの人形はとにかく不気味。そしてサンタクロースの首が銃弾によって吹き飛ばされるシークエンスは平和とは対極の状況下にある事を特に強く印象付けていたと思います。

ところで今作でメガホンを取ったアレックス・ガーランド監督はイギリス人なんですね。

だからこそと言うのが的確かはわかりませんが、アメリカから離れた所から見れるからこその徹底したアメリカ崩壊の描写が表現出来るのかな。また、どことなくトランプ氏と思わせる大統領像も大統領選を控えた今だからこその警告や警鐘の意味も含まれていたのかななんて想像が広がります。

個人的には来年のアカデミー作品賞のノミネートも期待出来るのでは?と踏んでいます。

アメリカが崩壊すれば同盟国の日本だってただではすまない。そういう意味では我々一人一人にも問題を提示する様なそんな作品です。

強く推奨したい作品です!

是非劇場でご覧ください!