きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

ノマドランド

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スリー・ビルボード」のオスカー女優フランシスマクドーマンドが主演を務め、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像美とともに描いたロードムービージェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に、「ザ・ライダー」で高く評価された新鋭クロエ・ジャオ監督がメガホンをとった。ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家を失ってしまう。キャンピングカーに全てを詰め込んだ彼女は、“現代のノマド遊牧民)”として、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送ることに。毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ね、誇りを持って自由を生きる彼女の旅は続いていく。第77回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞、第45回トロント国際映画祭でも最高賞の観客賞を受賞するなど高い評価を獲得して賞レースを席巻。第93回アカデミー賞では計6部門でノミネートされ、作品、監督、主演女優賞の3部門を受賞した。
(映画.comより)

アカデミー賞受賞で話題の作品。
4月後半以降緊急事態宣言や都市部の映画館休館等の影響があり、予定されていた新作も相次いで公開延期となり、映画の興行全体が厳しい状況が続く中、本作がアカデミー受賞の話題と共に俄然注目が集まりました!
ジワジワ伸びて興行収入も10億円を超えるのでは?というのが僕の予想です。

さて、このところ洋の東西を問わず貧困を扱った作品が注目を集める傾向があります。
近年の作品だと日本の『万引き家族』、韓国の『パラサイト 半地下の家族』そしてこの『ノマドランド』。
そもそも映画という娯楽を享受出来る事自体、経済的にも精神的にも余裕があるからこそであり、こういったエンターテイメントを楽しむ背景には経済的に困窮してる人達が居るという実態を忘れてはならないわけです。

本作ではリーマンショックを機に仕事もなくなるばかりでなく、住んでいた家もそして街そのものも消滅してしまうというヘビーな状況からスタートしていきます。
もちろん本作の主人公である高齢女性・ファーンには何の落ち度もありません。
既に夫を亡くしており、決して裕福ではなくとも、ごくごく当たり前の日常生活を送っていた彼女がウォール街の狂乱によって人生を狂わされてしまったわけです。
かつては教職も勤め、真面目に生きてきた女性が住む家を失い、その日暮らしのノマドライフを送るまでのその過程をドキュメンタリックたっぷりに写し出していきます。
また、彼女はAmazonの配送現場で梱包の仕事に汗を流すのですが、経済的に余裕のある誰もが利用するAmazonそしてその創始者であるジェフ・ペゾス氏は世界の長者番付一位の大成功者。
その下ではファーンの様な労働者が安い賃金で単純作業に従事しているというリアルな現実もよくわかります。

言って見ればこういった格差社会の実態と問題を提起する作品なのですが、一方ではこのノマドライフを送る人々の気高い精神性や人々の心を豊かにするのは果たして資本主義社会が生み出したお金や物質的な物だけなのだろうか?と内面をフォーカスしていく様な作品でもありました。
ファーンはかつての教え子に「先生はホームレスになったの?」と心配されますが、「違う。ホームレスじゃなくてハウスレスよ。」と気丈に答えます。
それは決して虚勢を張った言葉ではありません。
ファーンは確かに落胆します。
しかし、この状況を受け入れてからはたくましく不要は物を処分して、自分に愛着ある物だけを残して路上の生活へと踏み出します。
すると彼女は自分と似た様な境遇に置かれている人々と出会い、コミュニティを形成して交流を図る様になります。
誰かに助言をしたり、助言を受けたり、余命僅かなノマドからはその人生観を聞き自らと重ね合わせ、またノマド男性とのちょっとしたロマンスだってあります。
ノマド生活に身を投じる前の彼女よりも人との結び付きが深まっていたりもするんですよね。
ここで僕が感じたのは資本主義社会の物質的豊かさからちょっと距離を置くと実は人間としての無垢な状態がそこにはあり、やがてそれが人との繋がりを生むのでは?と。
もちろん彼らは望んでその生活を送っているわけではないし、現実は映画の様に上手くいかない可能性の方が高い事もわかります。
社会的格差は是正されるべきだと思うし、本来は衣食住揃った健康で文化的な生活を誰もが送って然るべきだと思ってます。
だけど物質やお金をただハングリーに追い求めない生き方だってあるんじゃないかなと。
ファーンは崇高な精神性と学があるし、人間としての品もありました。
貧困の実態だけを見て彼女を不幸と定義するのではなく、彼女をはじめとしたノマド達の生き方から新たな価値観を見つける映画ではないかなと思いました。

尚、クロエ・ジャオ監督は本作では俳優ではなく、実際にその境遇に身を置く人達を使って撮影しています。
マクドーマンドもまた、彼らノマド達の社会に身を投じ、体当たりの演技を見せます。
だからこそこの映画はリアルであり、人々の言葉にも力が込められているんですね。
結果、多くの人々の胸を打ち、アカデミー賞受賞にまで繋がりました。
僕は本作を見て感じました。
今の生活は当たり前の様にあるものではないし、いつ社会からドロップアウトするのかわからない。
だけど心の豊かさはいつまでも保ち続けていたいと。
ファーンの生き方とアメリカの大自然が僕には眩しくそして清々しさを感じさせてくれました。
素敵な作品です。この機会に是非ご覧下さい!