きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

CODA コーダ あいのうた

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家族の中でただひとり耳の聞こえる少女の勇気が、家族やさまざまな問題を力に変えていく姿を描いたヒューマンドラマ。2014年製作のフランス映画「エール!」のリメイク。海の町でやさしい両親と兄と暮らす高校生のルビー。彼女は家族の中で1人だけ耳が聞こえる。幼い頃から家族の耳となったルビーは家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、合唱クラブに入部したルビーの歌の才能に気づいた顧問の先生は、都会の名門音楽大学の受験を強く勧めるが、 ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられずにいた。家業の方が大事だと大反対する両親に、ルビーは自分の夢よりも家族の助けを続けることを決意するが……。テレビシリーズ「ロック&キー」などで注目の集まるエミリア・ジョーンズがルビー役を演じ、「愛は静けさの中に」のオスカー女優マーリー・マトリンら、実際に聴覚障害のある俳優たちがルビーの家族を演じた。監督は「タルーラ 彼女たちの事情」のシアン・ヘダー。タイトルの「CODA(コーダ)」は、「Children of Deaf Adults=“耳の聴こえない両親に育てられた子ども”」のこと。2022年・第94回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞(トロイ・コッツァー)、脚色賞の3部門にノミネートされ、同3部門を受賞。ルビーの父親フランク役を務めたトロイ・コッツァーは、男性のろう者の俳優で初のオスカー受賞者になった。(映画・comより)

『ドライブ・マイ・カー』の国際長編映画賞受賞、そして大きな波紋を呼んだウィルスミスの一件。今年のアカデミー賞は普段映画を見ない層にも話題になった出来後があったわけですが、オスカー受賞となったなった作品を忘れちゃいけません。これが本作『コーダ   あいのうた』ですよ。日本での公開は今年の1月。ほとんどの劇場で上映が終了していたのですが、今回の受賞で再上映&全国300館を超える劇場で拡大上映。それを考えるとアカデミー効果の大きさが改めてわかりますね。

さて、ワタクシ。ミーハーなワタクシ。公開直後は全く見る作品の選択肢にも入っていなかったのですが、今回の公開拡大を機に4月のファーストデイを利用してT-JOY出雲にて鑑賞。春休み中とあって『シング』や『ドラえもん』を見に来たキッズや『余命10年』を見に来た若者を横目に劇場へ。見事に年齢層高めのしかも比較的一人客が多かった印象。長期休暇中にこういう客層だと心なしか安心感があります。

泣ける映画が良い映画だ!なんて陳腐な事を言うつもりは毛頭ありません。でもね、この作品は感受性の強い人程心に刺さるであろうし、僕も並びで見ていたお一人様のお姉様も感極まっていたんでしょうね。後半になればなる程涙をすする声が僕の耳にも入ってきました。

ろう者の中で一人健常者として家族の通訳となる一人の少女・ルビー。なんて言うと「障がいを題材にしたお涙頂戴系ね、」なんて冷ややかな事を言う御仁が居そうなんですが、まぁ待って待って。

確かに聴覚障がいを題材にはしています。でもこの作品ってそれだけではないんですよ。

自分以外の家族が皆ろう者という事で彼女は学校でも奇異な目で見られたり、心ない事を言われたり、はたまた彼女のボーイフレンドになりそうな男の子に学校で彼女の両親の◯◯をネタにされたりと辛い日々を過ごします。一方で漁業で生計を立てる家族に交じり自らも漁に出たり時には家族の通訳として会合に参加したり。思春期の女の子にとってはなかなかハードな日々です。

そんな彼女が歌を通して自らが成長し、そして人を幸せにしていくハートフルなストーリー。更には大切な家族との別れ。見えて来ましたよね。そうなんです。コーダであるルビーと家族のお話しなんです。

我々から見れば彼女は特殊な環境に身を置いているかもしれない。だけど彼女にとっての日常はそれであり、両親と兄は彼女にとっては大切な家族なんです。

しかし、彼女が歌と出会う事でその活動と家族の時間のバランスを取らないといけなくなる。彼女に指導する熱心な音楽教師とのレッスンだって遅刻になってしまわざるを得ない状況だし、事情を知らない先生からすれば自らが買ってるのに自主練もしないし、常に遅刻をする時間にルーズな子という見方になってしまう。そこに悩まされる彼女の葛藤がこのレッスンシーンと家でのシーンではっきりと写し出されています。

僕の好きな映画で『くちびるに歌を』という作品があります。新垣結衣演じる講師が中学の合唱部に指導をするのですが、その中で生徒の一人が知的障がいを持つ兄の世話をする為、練習に参加出来ないというシーンがあるんですね。まさしくこのルビーという少女の置かれた境遇というのがそれで障がい者と健常者の家族が何かに打ち込む事の難しさをはっきりと伝えてくれています。

それでも歌に打ち込み成長していく彼女の発表会のシーンは非常に心を打つものがありました。

両親と兄も彼女の発表会にはもちろん足を運びます。しかし、彼らにはルビーの歌声が聞こえません。繊細で透き通った歌声が会場を包みます。そして、ろう者である彼らの視点からの会場の様子が写し出されます。ルビーの歌声に聴き入る観客達、涙を流す人だっている。でも確実に人の心を捉えている娘・妹の姿は彼らの視界には入っているわけであり、彼らもまたその光景に感動を覚えるのです。

僕はこのシーンこそが本作最大のハイライトシーンだと思いますね!劇場内を包む静寂の時間、およそ二分はあったでしょうか。この場面を見た人はきっと強く胸を撃ち抜かれた事でしょう。少なくとも僕はそうでした。

そしてラストに待ち受ける名シーン。それは親離れ・子離れという普遍的なテーマです。これまでルビーと家族の歩みを見てきたからこそ強く心が揺り動かされる。それを決してくどくならずにナチュラルに見せてくれるからより味わい深い作りになってましたね。

それから本作は音楽を大々的に扱った作品でありながら、音楽の自己主張が控えめ。でもそれがかえって良かった。ストーリーの邪魔をしない程度の劇版にルビーの歌だって決してエモーショナルで過剰ではない。それでいて芯の強さは感じる歌声なんですよね。また、劇中の重要場面で使用される楽曲だって良いトコついてくるんだよね〜!選曲センスが光ります!

とこの様に見所満載な作品でした!アカデミー作品賞受賞も納得の素晴らしい出来!これを見ない手はありません!

是非ご覧下さい!