「凶悪」「孤狼の血」の白石和彌監督が、櫛木理宇の小説「死刑にいたる病」を映画化したサイコサスペンス。鬱屈した日々を送る大学生・雅也のもとに、世間を震撼させた連続殺人事件の犯人・榛村から1通の手紙が届く。24件の殺人容疑で逮捕され死刑判決を受けた榛村は、犯行当時、雅也の地元でパン屋を営んでおり、中学生だった雅也もよく店を訪れていた。手紙の中で、榛村は自身の罪を認めたものの、最後の事件は冤罪だと訴え、犯人が他にいることを証明してほしいと雅也に依頼する。独自に事件を調べ始めた雅也は、想像を超えるほどに残酷な真相にたどり着く。「彼女がその名を知らない鳥たち」の阿部サダヲと「望み」の岡田健史が主演を務め、岩田剛典、中山美穂が共演。「そこのみにて光輝く」の高田亮が脚本を手がけた。(映画・comより)
『凶悪』、『孤狼の血』シリーズで日本の映画界に激震を与えた白石和彌監督の最新作。と、あれば見ないわけには行かない。私は本作に関しては公開前から楽しみにしておりました!
そして公開週の週末MOVIX日吉津にて見て参りました!こういう真に迫る様なヒューマンサスペンスというのは一定数のファンがいるものでして(私もその一人ですが)割と人は入ってましたね。中にはポップコーンとドリンクを手に入っていく人も見られましたが、果たしてそれを食べながら見る事が出来たのでしょうか。後述しますが、グロいシーンがご多分に漏れずあるんですよ。そりゃ白石和彌監督だしね(笑)
さて、本作ですが特定の元となっている事件はない様です。ただ、映画を見ているとあの事件に似ているなとか凶悪事件に詳しくなってくると思考が巡らされてくるんですよね。
で、映画のタイプとして拘置所内で死刑囚と面会して真相を暴いていくという点では正に白石監督の『凶悪』に近い物がありましたし、普段は人当たりの良いパン屋そして裏では…なんて点ではジョニーデップの怪演が光る『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』を思い出しましたね。
キャストの演技ですが、とにかく阿部サダヲのイメージを180度変える様な怪演には引き込まれました。前述の様に表向きは人当たりが良く気さくなパン屋さんなんですよね。中年男性でありながら女子高生に話しかけても警戒されるどころか心を開いて何でも打ち明ける様な関係を築いていく。犯行現場は全て自宅という事を考えると自宅まで連れ込んでいける様な関係が築けるという人たらしぶりなんですよね。それだからこそのパン屋として気さくな笑顔を振りまく姿とシリアルキラーとして凄惨な殺人をする姿に恐怖を感じるわけですよ。ただ、ここで感じるのはシリアルキラーが社会に溶け込んで生活をしている事への恐怖なんですよね。側から見たらどう見てもいわゆる良い人にしか見えない男が隠す牙ですよね。
以前男女問わず白いソックスとヘルメットを装着した姿に興奮するという男が連続殺人事件を起こしました。その男は人が窒息をして苦しむ姿を見たいという欲情が抑えきれずに殺人を繰り返していたという事でした。性欲の吐口として連続殺人をしていたのですが、この映画における榛村の場合もまた、自身の欲望を満たす為に殺人を犯すんですよね。快楽殺人というんでしょうか。我々の感覚ではこういった連続殺人犯の心理なんて理解出来ないものがあります。「許せない」、「被害者がかわいそう」、「こんな奴は死刑で当然だ」この様な感情が湧くのは人間としては自然な事です。しかし、そこからひとつ踏み込んで犯人は何故この様な人物になったのか?とか事件を未然に防ぐ事が出来なかったのか?そういった事に思考を巡らせ、事件を知る学ぶ。そして自分の大切な人を守る為の知識を身につける。これこそが犯罪学を学ぶ意義ではないでしょうか。と真面目な話しになりましたので映画に戻しますね。
白石和彌監督ならではと言うべきでしょうか。手にかける描写も容赦なく出てきますが、こういうグロ描写に耐性のない方には鑑賞注意を強く呼びかけておきます。ちなみにグロにはある程度耐性のある僕ですが、『孤狼の血 LEVEL2』でのあのシーンに続き下をむいてしまいました。
尚、阿部サダヲさんですがコメディのイメージが強い役者さんですが、それに反してシリアルキラーの役は以前からやりたかったそうですよ。
一方、榛村の証言を元に事件の真相を追及すべく奔走する大学生の雅也を演じた岡田健史。抑圧された少年時代を過ごし現在はいわゆるFラン大学に通っている彼。教育熱心だった彼の父親はそれが気に食わないとあり、祖母の葬式にすら顔を出して欲しくないと思っていたりもする。一方で学校生活もうまくいっておらず友達も居ず、学内でも浮いた存在。鬱屈した日々を過ごす中で榛村からの冤罪証明の依頼を受けるんですね。これを見ると彼の境遇が実は事件を起こす側になってもおかしくない。それくらい屈折の毎日が描かれているんですよね。最終的に溜め込んでいた物が爆発して…なんて展開があるのですが、榛村という猟奇的な事件を起こした死刑囚に目が行きがちなのですが、事件の加害者に瀕する立場として彼が描かれているのではないかと思いました。もっとも彼の場合、榛村との違いとして通り魔的犯行を起こすタイプの境遇に近いかなと感じました。
個人的には非常に見応えのある作品だと感じました。粗を探せば突きたい部分も確かにありますが、白石監督の過去作が好きであれば今回も期待に応えてくれた或いは期待を上回る様な作品だと保証します!
毎度ながら見る人を選びますが、僕は好きです!
オススメです!