きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

竜とそばかすの姫

f:id:shimatte60:20210728161004j:plain


解説

サマーウォーズ」「未来のミライ」の細田守監督が、超巨大インターネット空間の仮想世界を舞台に少女の成長を描いたオリジナル長編アニメーション。高知県の自然豊かな田舎町。17歳の女子高生すずは幼い頃に母を事故で亡くし、父と2人で暮らしている。母と一緒に歌うことが大好きだった彼女は、母の死をきっかけに歌うことができなくなり、現実の世界に心を閉ざすようになっていた。ある日、友人に誘われ全世界で50億人以上が集う仮想世界「U(ユー)」に参加することになったすずは、「ベル」というアバターで「U」の世界に足を踏み入れる。仮想世界では自然と歌うことができ、自作の歌を披露するうちにベルは世界中から注目される存在となっていく。そんな彼女の前に、 「U」の世界で恐れられている竜の姿をした謎の存在が現れる。主人公すず/ベル役はシンガーソングライターとして活動する中村佳穂が務め、劇中歌の歌唱や一部作詞等も務めた。謎の存在「竜」の声は佐藤健が務めた。ベルのデザインを「アナと雪の女王」のジン・キムが担当するなど、海外のクリエイターも参加している。(映画.comより)

未来のミライ』以来三年振りの細田守監督の新作です。夏休み中と相まって現在大ヒット中!興行収入も順調に上がっています。しかし、思い出して頂きたい。個人的には好きな作品でしたが、『未来のミライ』は興行的にも過去数作の細田守作品の中でも伸び悩みいわゆるコアな映画ファンから厳しい意見が飛び交っていた事を。ポスト宮崎駿という観点ではここ数年で大躍進した新海誠の存在もあり、細田守さんの存在が失礼ながらやや地味な感がありました。そこにきて『未来のミライ』の失敗(敢えてそう言わせて頂く)が重ねての失礼を承知で言えば尾を引いてやしないか気掛かりだったのが本作鑑賞前の私の率直な印象としてありました。

しかし、如何に自分が余計なお世話であったかを鑑賞後に突きつけられましたね。

自分の趣向はそこそこに徹底してエンタメに振り切りそれが結果的に良い意味で細田作品らしからぬ至高の映像表現を見せておりました。

インターネット上のヴァーチャル世界を具現化したという意味では『シュガーラッシュ』の美人歌姫とワイルドな竜の遭遇という意味では『美女と野獣』の高知県の地方都市と東京を結ぶボーイミーツガールものとしては『君の名は。』のそれぞれの良い部分を吸収した上で細田監督流にブラッシュアップし、結果それがスクリーンに見事に映える作品に仕上げてきたなというのが僕の印象です。

ヴァーチャル上の美人歌姫の正体が実は地方在住のそばかすいっぱいの地味な女の子。この普段はパッとしないけど実は…みたいな静かなるドンパターンってさして目新しいわけではありませんし、それどころか手垢つきまくりのベッタベタな王道パターンでもあると思うんですよ。でもポイントって実はここではなくて、地方という所なんですよね。ネット世界のサイバーな映像が非常にソリッドでキラキラしている。それと対比してすずが暮らす町は時間もゆったりと流れていて町の人も穏やか。学校内では今日も憧れの男子生徒についての噂話に華が咲いたりのどかで自然豊かな風土の中で生徒達が部活に汗を流していたり。地方の高校の日常風景があるからこそサイバーなネット空間が際立つし、高知県の町の光景が美しい。これ、実際に細田監督は高知まで足を運んだんだろうけど、今頃高知県はこの映画で盛り上がってんだろうな!山陰を舞台に誰かこういうアニメ映画作ってくんないかな〜、ねぇ細田さん新海さん!…と僕の声が届くとは思わないけど地域活性でアニメ映画を誘致する自治体が多いのも頷けますね。

で、本作最大の魅力といえばこれが音楽なんですよ!前述の様にベルがネットのヴァーチャル空間に存在を現し、メインテーマの『U』を歌うシーンは圧巻です!歌姫降臨!このシーンを見たら鳥肌必至とお伝えしておきましょう!シンガーソングライターの中村佳穂さんをすず/ベル役にキャスティングしているからの芸当とも言えますが、これが功を奏しまくりでして、ここ近年の細田監督最大のグッジョブだったのじゃないかな…なんて言えばそれ以外はどうなんだ?とご指摘ありそうですが、いやいやその他の事も踏まえた上で言ってるんですよ。でもね〜、考えてみたら細田作品でここまで音楽に注力した作品って今までなかったんじゃないですか?いや、もちろん各作品には主題歌があっていずれも著名なアーティストが手掛けてきましたよ。ミスチルとか山下達郎さんとかね。しかし、音楽そのものを大々的にフィーチャーしてそれを見せ場として用意した作品は今回が初ですよね!しかもビッグネームの大御所アーティストではなく若い才能に託しそれを劇中に大スクリーンで表現してもらいそれが最高のパフォーマンスとなっている辺り純粋に映画ファンとして音楽ファンとしてそしてこれらを紹介するDJとしては喜ばしい限りです!

また、究極のエンターテイメント作品としてとことんまで楽しませてくれる一方、メッセージも織り込んでいました。それは竜という驚異的な存在を受け入れる多様性の尊重であり、また児童虐待という悲しい現実をピックアップした所ですね。詳しくは言えませんが、劇中に登場するある少年の父親による虐待シーン。細田守監督のアニメーション作品ですから、残虐さには確かに欠けましたが、しかし確実にこの世のどこかで起きてる悲劇を確実に捉えてました。毒親による虐待なんて決して許されざる事ですが、彼らの置かれた絶望的な境遇は伝わりましたし、見た人はそこから目を逸らさずに思考を巡らせてほしい。そんな光景でした。

さぁ、夏休みはまだまだ続きます!細田守監督の新規軸とも言えるファンタジー大作を是非お子さんと体感して下さい!オススメです!