「呪怨」シリーズなどで知られるホラー映画の名手・清水崇監督が、福岡県に実在する心霊スポットを舞台に描くホラー。主演は「ダンスウィズミー」の三吉彩花。臨床心理士の森田奏の周辺で奇妙な出来事が次々と起こりだし、その全てに共通するキーワードとして、心霊スポットとして知られる「犬鳴トンネル」が浮上する。突然死したある女性は、最後に「トンネルを抜けた先に村があって、そこで○○を見た……」という言葉を残していたが、女性が村で目撃したものとは一体なんだったのか。連続する不可解な出来事の真相を突き止めるため、奏は犬鳴トンネルへと向かうが……。主人公の奏役を三吉が演じ、坂東龍汰、大谷凛香、古川毅、奥菜恵、寺田農、石橋蓮司、高嶋政伸、高島礼子らが脇を固める。
(映画.comより)
はい、今回は話題のジャパニーズ・ホラー『犬鳴村』です。
「怖いの苦手~」という方も居るでしょう。
うん、わかるわかる(笑)
でも結論から言いましょう。
ホラー映画ではありますが、怖さそのものを全面に打ち出すよりもメッセージ性を感じる様な映画でした。
そこは後述するとして、まずは映画全体から。
福岡県の山間部にある犬鳴峠。
僕自身この場所に行った事はありませんが、日本の怪談カルチャーにおいては非常に有名で、旧犬鳴トンネルは日本最恐心霊スポットとして、恐れられています。
それを舞台に『呪怨』シリーズでお馴染みの清水崇監督により制作されたのが本作です。
さて、まずは冒頭ですが、ここからその恐ろしい映像世界へと誘ってくれる。
序盤の展開はこちらの高い期待値を見事に上回ってくる出来でした。
まず、これが今っぽいのですが、Youtuberの明菜が撮影してる手持ちカメラ風の動画映像で幕を開けます。
ホラー映画では割とよく見る演出ではありますが、やはりこの手の実録物の導入としては非常に活きてきます。
映画を見てるこちら側(現実世界)を実際の心霊スポットへと招いてくれる感覚があるんですよね。
犬鳴トンネルのおどろおどろしい空間へ土足で入り込む様な不安感しかしそれと同時に中を覗いてみたいという登場人物の心境が映画を見る我々とリンクさせて生み出していくシナジーがあります。
そして、そこから襲いかかるオカルトな展開も非常にリアルに描かれており、観客の緊張感を見事に煽っていたと思います。
詳しくはお伝えしませんが、その明菜を契機に起こる不可解な現象の数々にホラーならではのスリルや興奮がたまりません。
比較的最近見たホラーだと『IT』のニ作目がありましたね。
正直、一作目はかなり楽しませてもらいました。
しかし、ニ作目はやや肩透かし感があったんですよ。
詳しくは昨年11月に扱ってますので、そちらをご覧頂くとして。
この『犬鳴村』に関してはこの序盤。
『IT』一作目以来の映画的満足感は高かったです。
それからホラー映画と言えば緊張と緩和の使い方がどうでるかが作品を盛り上がるか否かがわかれるところだと思いますが、本作はその辺りも非常に絶妙なんですよね。
ネタバレ回避の為、詳細には伝えませんが、電話ボックスの使い方なんかですね。
安心感からジェットコースターの如く絶望へと突き落とすその緩急の付け方なんかはホラー映画のお手本となりそうです。
また、病院という割とベタな舞台においても終始ハラハラな演出で施されており、こちらの恐怖感を煽ってきます。
そうなってくると「次はどうなる次はどうなる」と期待値が上がるのも無理はありません。
しかし、こちらの期待とは裏腹に中盤以降物足りなくなっていきます。
というのもホラー映画特有の禍々しい恐怖感ではなくサスペンス寄りの展開に変わっていくんですね。
不可解な事象を前半に盛り込みながら、ではその原因となっているものは何か?暴き出してみようという事です。
そしてそこから血縁や結び付き、地方の問題、差別等々社会性の強いものへと変わっていきます。
いや、それ自体は悪いとは思いませんよ。
ただ、あまりにテーマを盛り込みすぎなきらいはあるし、主体的なメッセージがはっきりと伝わってこないんですよ。
これまた詳しくは言えないのですが、次々に襲いかかる事象の数々の起因とするもの。
村の忌々しい過去が描かれていましたが、それならば何故あの人はのうのうとしてて、関係ないあの人が犠牲になるのだ、という疑問がついてまわる。
それに主人公・奏(三吉彩夏)に村の歴史を伝えるあの青年が取った行動なんかも納得が出来ないし、「そりゃこういう考えだったらひどい目にも合うわな」なんて思わせてしまったり。
前半のあの怖さは何だったんだとばかりに後半はご都合主義にまみれていて、残念でしたね。
で、更に終盤に登場する犬女。
ここも惜しい。
もっと恐怖感煽れた展開ですよ。
説明ゼリフに尺を使いすぎてこの犬女の怖さをうまく引き出せてないんだよなぁ。
でもね、確かに残念な後半ではありましたけど、はっきりと見えてくれるメッセージはありましたので、最後にお伝えしておきましょう。
それは臭い物に蓋をするという考え方へのアンチテーゼです。
人間というのはとかく不都合な自体や対象から目を背け向き合う事を拒みたくなる生き物です。
しかし、そうではなくきちんと向き合い対処しなければならないという事をホラー映画をメタ的に使い、我々に投げ掛けてくれてます。
こういった社会的なメッセージ性を内包する姿勢そのものは良かったと思います。
そして前述の犬女。
あれもまた貞子的なホラーアイコンみたいな感じはありますが、彼女の存在にもきちんと意味はあるんですよね。
それを読み取れるかどうかはあなた次第といったところですが、社会的なメッセージを強く打ち出すあまり肝心のホラー要素がおざなりな感じになったのは残念な部分かな。
それでも前半のあのスリリングな展開は非常に見事でしたし、総体的に悪い印象はありません。
是非劇場でご鑑賞下さい。