きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

50回目のファーストキス

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アダム・サンドラードリュー・バリモア主演による2004年のハリウッド映画「50回目のファースト・キス」を、山田孝之長澤まさみ共演でリメイクしたラブコメディ。ハワイ、オアフ島でツアーガイドとして働きながら天文学の研究をしているプレイボーイの大輔は、地元の魅力的な女性・瑠衣とカフェで出会う。2人はすぐに意気投合するが、翌朝になると、瑠衣は大輔についての記憶を完全に失っていた。瑠衣は過去の事故の後遺症のため、新しい記憶が一晩でリセットされる障害を抱えているのだ。そんな瑠衣に本気で恋をした大輔は、彼女が自分を忘れるたびにさまざまな手で口説き落とし、毎日恋に落ちて毎日ファーストキスを繰り返すが……。「銀魂」をはじめコメディ作品で手腕を振るってきた福田雄一が監督・脚本を手がけ、ラブストーリーに挑戦。オリジナル版の舞台でもあるハワイでオールロケを敢行した。
(映画.com より)

興行収入38億円を記録し昨年度の邦画実写1位の大ヒットとなった『銀魂』。
続編もいよいよ来月公開され、期待が高まる福田雄一監督。
6月初週に公開され、『万引き家族』・『空飛ぶタイヤ』というヒット作がひしめく映画ランキングにおいて大きく順位を下げる事なく着実に興収を伸ばしているのが本作・『50回目のファーストキス』です。
いわゆる純愛系のラブストーリーでこのテの作品は普段はあまり見る事がないのですが、先日鑑賞して参りました。
鑑賞動機としては他に見る作品がなかったから…てのは事実ですが(事実かいっ!!)それ以上に『勇者ヨシヒコ』シリーズの福田雄一監督がメガホンを撮ったラブストーリーという題材に魅かれました。

するとどうでしょう。
こちらの予想の遥か上をいく爆笑コントではないですか!!
福田監督の笑いへの貪欲さ感服致します。

主演は『勇者ヨシヒコ』シリーズで福田組の常連でもある山田孝之さん。
このところの彼と言えばこのヨシヒコシリーズしかり『闇金ウシジマくん』の丑嶋社長然りキャラクター要素の強い役柄を演じて来られました。
変わって本作ではハワイで現地ガイドのバイトをしながら天文学の研究に没頭する研究者という等身大の青年役。
プレイボーイで女性に不自由しない彼がはじめて純な一目惚れをする。
そんな男性を演じます。
山田孝之の純愛物と言えば『電車男』(05)が真っ先に浮かびましたが『電車男』さながらのピュアな演技が久しくウシジマくん慣れしてしまっていたので妙に新鮮でした。

一方、ヒロインを演じたのが長澤まさみさん。
昨年の『銀魂』で福田組初参加となりコミカルな演技で新たな魅力を発揮したのは記憶に新しいですね。
今年公開された『嘘を愛する女』では大人の女性といった印象でしたが、本作ではあの『モテキ』(2011)再来か?と思わせる男であれば惚れないヤツはいない魅力的なヒロインを演じていました。
モテキ』との対比で言えば『モテキ』のヒロイン像は男が確実に翻弄されてしまうでもこんなコにだったら騙されてもいいと思わせる小悪魔的な女性であったのに対しこの『50回目のファーストキス』だと難病を抱える女性という設定ゆえにでしょう守ってあげたいと思わせるヒロイン像で長澤まさみの演技力に感服するのみです。

ムロツヨシ佐藤二朗という福田組には欠かせない面々も相変わらずの協力な個性。
そしてほぼアドリブと思わせるキレの良いコミカルなセリフの数々には笑いなくして見る事が出来ません。
とりわけムロツヨシさんなんて先日見た『空飛ぶタイヤ』との対比に思わずにやついてしまいます。
そして本作のキャスト尽にあってMVP を贈りたいと思わせる最強のコメディアンっぷりを見せたのが太賀くんでした。
空前絶後のあの芸人さんを彷彿とさせる服装で繰り広げるおばかキャラがたまりませんでした。
今回彼は長澤まさみ演じるヒロイン・留依の弟役にしてゲイというキャラクターでしたが、父親役の佐藤二朗さんのツッコミも相まって絶妙な存在感を見せてくれます。

この様に登場するキャストは非常に振りきっておバカをやってくれるので終始飽きさせません。ふと我に返ると「あれ?これって恋愛映画だよな?」なんて自問自答をしてしまう自分が居ました。

やはり福田監督にはブレがありませんでした。

この様にとにかく笑えるコメディ映画である事は間違いありません。

肝心の恋愛要素はと言うと、これがまた泣けるんですよ。
記憶障害という難病に冒されたヒロインと一途に彼女を思い続ける青年。
障害があるからこそのやりきれなさは見る者の心情に訴え掛けてくるので後半の展開は涙腺が決壊するのを自ら実感する事になるでしょう。
ここまで泣いた邦画は久しぶりです。
今夜、ロマンス劇場で』以来かな。

そういえば記憶障害を題材にした恋愛映画と言えば『8年越しの花嫁』という作品がありましたね。
今年初頭に同作を評しましたので詳しくはそちらを読んで頂くとしてあの作品で私は泣く事はありませんでした。
作品自体は良かったし、佐藤健・土屋太鳳らキャスト陣の演技は胸を打つものがありました。
しかし、何故に涙腺が崩壊される事なく淡々と鑑賞する事が出来たのか。
思うに全面的に感動を押しすぎた点にあるのではないかと分析しています。
感動ポルノとまでは言いませんが、あまりに泣き要素を押し過ぎるとこちらも構えて見る事になります。
一方、前述の『今夜、ロマンス劇場で』然りこの『50回目のファーストキス』しかりそこまでの泣きをプッシュしていない。
いち娯楽作品でありその延長線上に感動要素がある。
見る側のハードルも良い意味で下がるので絶好の視聴体勢で鑑賞する事が出来るのです。

それにしても福田雄一監督の引き出しの多さには脱帽するところですが、本作に関して言えばアメリカの恋愛映画を下敷きにしながらも日本のスウィーツ映画を皮肉るという狙いがあったのではないかと考えています。
最近でこそ映画を鑑賞する側の目も肥えたのか興行面ではことごとく失敗している若い女性をのみ対象にした様な恋愛映画。いわゆるスウィーツと揶揄されるタイプの作品ですね。
一時期は金脈を掘り起こしたかの様に各配給会社が製作し続けたスウィーツ映画。
スウィーツ映画そのものを否定するつもりはありません。
若手俳優育成の場でもあるし壁ドンなるブームも生み出して社会的な影響力もありました。
それに私自身純粋に楽しめた作品もありました。
しかしおしなべて陳腐な作品群で映画ファンからそっぽを向かれるタイプの映画でもあります。
福田監督が今この作品を製作した背景にはこのスウィーツを思いのままおちょくりつつも見た後には満足の得られる物を作ろうという心意気があったのではないかなと思います。
福田流のギャグをふんだんに盛り込み、コメディとしてもしっかり完成された内容にしつつも嫌みなくさらっと泣かせる展開に運んでいく。
スウィーツブーム時、『女子ーズ』や『変態仮面』等一部のマニアにしか支持を受けなかった福田雄一監督が『銀魂』で天下を取り、スウィーツ風コメディをもヒットさせる事により遂にはスウィーツというジャンルすらも掌握した。
これはまさに福田雄一下剋上劇と言える作品でしょう。


  

空飛ぶタイヤ

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テレビドラマ化もされた池井戸潤の同名ベストセラー小説を、長瀬智也主演で新たに映画化。ある日トラックの事故により、1人の主婦が亡くなった。事故を起こした運送会社社長、赤松徳郎が警察から聞かされたのは、走行中のトラックからタイヤが突然外れたという耳を疑う事実だった。整備不良を疑われ、世間からもバッシングを受ける中、トラックの構造自体の欠陥に気づいた赤松は、製造元であるホープ自動車に再調査を要求する。しかし、なかなか調査が進展を見せないことに苛立った赤松は、自ら調査を開始。そこで赤松は大企業によるリコール隠しの現実を知ることとなる。長瀬が主人公の赤松役を演じる。監督は「超高速!参勤交代」シリーズの本木克英。
(映画.com より)

記憶にある方も多いでしょう。
某企業のリコール隠し事件。
大手企業の隠蔽体質を浮き彫りにし、社会的なバッシングも相当なものでした。
本作はその事件を題材に「半沢直樹」等で知られる池井戸潤が書き下ろした同名小説の映像化作品です。
タイプは違いますが、前回の『万引き家族』同様現代社会に潜む問題にメスを入れた社会派作品です。

実を言うと私、このテの作品というとどうも身構えてしまうんですよ。
一昨年の『64』前・後編なんかはその典型例でして小難しい専門用語を羅列される作品。
そういったものに触れてしまうと少しでもこちらの気が抜けようものならさあ大変。
ストーリーがさくさくと展開されるわきちんと理解できないわで整理が出来ない。
気付けばおいてけぼりを食らうなんて事がよくあります。
ま、早い話し「僕ちゃん頭悪いです」(笑)のカミングアウトなのですがww

しかし、そこは池井戸潤作品。
これまで数々の社会派作品ドラマのヒットを生んできたのですが、その最大の要因としては難しい題材を非常にわかりやすく一般視聴者の目線に合わせる事だと思います。

本作で言えば整備不良を疑われた赤松運送と製造元のホープ自動車
中小企業 VS 巨大企業。
この構図さえ押さえておけば間違いありません。

本来、組織としての経済力、人員、規模など全てにおいて勝ってあまりある巨大企業・ホープ自動車
しかし、不正を暴くためまた濡れ衣を晴らす為に戦う赤松運送。
ホープ自動車はあの手この手を使い赤松運送の調査を阻みます。
しかし、赤松運送の若き社長・赤松徳郎は従業員や家族の為、戦います。

その赤松徳郎を演じるのは長瀬智也
正直、このキャスティングには不安があったのは事実です。
長瀬君と言えばクドカン作品で見るコミカルでおバカなキャラクターのイメージが強すぎたので骨太な企業家の印象がなかったんですよね。
佐藤浩市中井貴一堤真一クラスのキャリアと貫禄のある役者さんが演じた方が良いのでは?なんて思っていたのですが、そんな私の不安を一蹴する演技でこの気骨溢れる社長を好演していました。

対するホープ自動車からはディーン・フジオカ演じる販売部カスタマー戦略課課長・沢田悠太なる人物。
当初は赤松の訴えを相手にもしなかったこの沢田ですが、赤松と対峙する事により変化が見られます。
ドライでクールなビジネスマンが見せる人間味に魅了される人も多いでしょう。

ホープ自動車サイドで光った存在と言えば岸部一徳演じる常務取締役の狩野という男。
これがまた何とも憎たらしく腐った性根の人物です。
岸部一徳さんと言えば『アウトレイジ 最終章』でも一癖も二癖もあるヤクザを演じていらっしゃいましたけど、こういう役が何ともハマる!
う~ん、憎たらしい~(誉め言葉です)

また、いつものコミカル演技を封印して真面目な役どころで出演されたムロツヨシさん、『コードブルー』でのチャラい医者とは打って変わって妻を亡くし、悲痛な想いをぶつける被害者の夫を演じた浅利陽介さんなどキャスト陣は充実してました。

ただ、どうも気になったのが高橋一生
いや、高橋一生さんの演技自体はよかったですよ。

上の写真を見て頂いたらわかる様に長瀬智也ディーン・フジオカ、そして高橋一生と前面に出ています。
これだけ見たらこの三人を軸にストーリーが展開されると誰しも思うハズです。
ところが実際の出演時間は友情出演と呼んでもいい程少ないです。
高橋一生さんの女性ファンはガッカリかもですよ。

それから本作の冒頭では登場人物を紹介するテロップが表記されます。
それ自体は悪くないのですが、何故か小池栄子演じる週刊誌の記者には表記されないんです。
彼女は本作において重要な役割を果すのですが、何故彼女の紹介テロップは表記されなかったのでしょうか?

それからこれはあくまで私の個人的要望なのですが、今作のはじまりとなったのはタイヤの脱輪事故です。
この事故を起こした当事者であるドライバーの視点がもっと描かれていればと思いました。
前半は確かによく登場します。
この事故がトラウマになり出社拒否を起こすなど。
赤松社長もその様子を見て彼の名誉を晴らす為にもと立ち上がるシーンもあります。
しかし、後半になるとこのドライバーの存在がまるでストーリーから置き去られてしまっかの様に出なくなるんですよね。
巨大権力と戦い掴んだ勝利は何も赤松社長や家族、名のある従業員たちだけのものではないハズです。
このドライバーがどういう表情で勝利の光景を目の当たりにしていたか。
そういう描写はほしかったですね。

なんていつもの様にケチつける所はつけさせて頂きましたが、不正を悪徳企業の責任者は裁きを受け弱小であっても信念を貫き通せばその行いは報われる。
健全たる社会の構図をクリアに映し出す勧善懲悪なストーリー展開なのでラストは溜飲が下がる事間違いなし!
若い人にも是非見て頂きたい作品です。

万引き家族

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三度目の殺人」「海街diary」の是枝裕和監督が、家族ぐるみで軽犯罪を重ねる一家の姿を通して、人と人とのつながりを描いたヒューマンドラマ。2018年・第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本映画としては1997年の「うなぎ」以来21年ぶりとなる、最高賞のパルムドールを受賞した。東京の下町。高層マンションの谷間に取り残されたように建つ古い平屋に、家主である初枝の年金を目当てに、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀が暮らしていた。彼らは初枝の年金では足りない生活費を万引きで稼ぐという、社会の底辺にいるような一家だったが、いつも笑いが絶えない日々を送っている。そんなある冬の日、近所の団地の廊下で震えていた幼い女の子を見かねた治が家に連れ帰り、信代が娘として育てることに。そして、ある事件をきっかけに仲の良かった家族はバラバラになっていき、それぞれが抱える秘密や願いが明らかになっていく。息子とともに万引きを繰り返す父親・治にリリー・フランキー、初枝役に樹木希林と是枝組常連のキャストに加え、信江役の安藤サクラ、信江の妹・亜紀役の松岡茉優らが是枝作品に初参加した。
(映画.com より)

カンヌ国際映画祭最高賞パルムドール受賞。
連日報道されていたので映画ファン以外でもその名前を知ってるであろう今最も多くの人に見られている日本映画・『万引き家族』。
あのケイト・ブランシェットも大絶賛してました。
興行収入も早くも17億円を突破(6月17日現在)し、見事二週連続で動員ランキング一位となっています。

そんな社会的関心も高い本作ですが、6月8日の公開初日に見て参りました。
さすがに注目度の高い作品とあって公開初日とは言え、平日昼間の劇場は老若男女問わず多くの観客で埋め尽くされていました。

万引き家族
そのタイトルから「犯罪を助長するのか」とかそういう意見を目にしたりします。
まぁ、それ自体を否定するつもりはないですが、もっと深い部分に目を向けなさいよと言いたい。

万引きという行為。
それ自体は勿論犯罪であり、法の上においては裁かれなければならない。

しかし、この映画を通すと話しはそんな単純なものではないというのがよく理解出来ます。

この映画でも盛り込まれているのですが、窃盗・幼児虐待やネグレクトの問題・年金不正受給。
テレビのニュースやワイドショーなどでこういった問題が報道されると我々は一様に眉をひそめ怒り哀しみ憤り「許せない」「とんでもない」中には「こんな奴は死刑だ」なんて糾弾したりします。
そりゃ法律という正論に基づいて考えれば断罪されて然るべき事です。
ただ、罪を犯す側の目線に立てばこんな基準になるのかと考えさせられるケースもある。
本作で是枝監督はその視点に基づいてストーリーを展開していくので見ている側は一気に彼らの持つ視点に合わせていく事になります。
そもそもですが、是枝監督を本作の製作へ駆り立てたきっかけというのが年金の不正受給、そしてそのニュースを見るにつけ糾弾する大衆。
中にはそうでもしなければ生活が成り立たない家庭がいる現実があるのにその部分にはなかなか目が向かない。
ワイドショーの報道なんて年金を不正受給していたという事象しか取り上げないから大衆の心理が傾いてしまうのはやむを得ない。
しかし、それが結果として弱い者たちが夕暮れさらに弱い者を叩く。
そんな世の中になってしまうのです。
そしてそんな世の中の矛盾点を抽出し、ひとつの作品に仕上げていったのが本作なのです。

本作において言えば実は冒頭では子供に万引きをさせるダメな父親・治(リリー・フランキー)に眉をひそめてしまいます。
「こいつ仕事しねぇのかよ!」そんな事を考えてしまった自分がいたのも事実です。
しかし、彼が建設現場で働き妻がクリーニング屋でパートしてるとわかるとまた考え方も変わります。
彼らは仕事をしていたのです。
しかし、それでも自分たちの稼ぎだけでは生活が成り立たない。
それが格差社会でもあるのです。
そして彼らの雇用形態、日雇い派遣やパートタイムという非正規雇用の脆さなどについても本作では描かれていましたね。
派遣労働者は現場で怪我でもしようものなら詰んでしまう。
パート労働者は人員削減の憂き目に合えば従いそれによって詰む。
今の非正規雇用における実態をまざまざと映し出す作品でもありました。


善悪の基準についてを委ねるシーンとして印象深いものとしてはネグレクトを受ける幼女を治が家に連れ帰り家族として育てる事になります。
そして実の家族同様に彼女に接していく事によって彼女は自分の居場所を作っていきます。
彼女にとっては実の家族の元で暮らすよりは幸せに見えるのですが、しかし言うまでもなく如何なる事情があるとは言えよそ様の娘を勝手に連れ出していけばそれは誘拐です。

そこで初めて我々に向けての問題提起がなされます。
後半の展開からはまさにその問題を我々はどの様に解釈するのかが問われていき、是枝監督からの宿題に我々は思いを巡らせていく事でしょう。

さて、そんな本作ですが特徴的なポイントをいくつか押さえておきましょう。

何と言っても本作はキャスト陣の演技が見ごたえあります。
リリー・フランキーはじめ安藤サクラ、松岡栞優、樹木希林などいわゆる東京下町の決して人の目には届かない低所得層一家の雰囲気を見事に表していました。
二人の子役の心理的機微を表す演技も見事でした。
更に彼らが暮らす家の作りが独特な雰囲気を醸し出していましたね。
部屋の中もそう、お風呂もそう。
めちゃくちゃ汚ないんですよ。
だけどそれがかなりリアリティあるんですよね。
カメラワークひとつ取っても暗めに撮ってあり、その暗さが家族の暮らす家と絶妙に相まっていてあたかも実在する家族の姿を追ったドキュメンタリーを見ているかの様でした。
彼らが食べる食事もまた然りで決しておいしそうだとは思えない料理でありながらそれがめっちゃうまそうに見えてくる。
お肉屋さんで買ったコロッケをインスタント麺に入れて食べたくなる事間違いなしですよ(笑)

決して裕福ではない家族のリアルを追求して作られた事が伺える『万引き家族』。
見てスッキリする映画ではありません。
しかし、見た人誰もが現実と向き合いそして社会に潜むあらゆる問題に対して一考の機を得る作品となっています。
今の時代にこそ多くの人に見て頂きたい。
そんな一本です。
あなたも是非劇場でご覧下さい。

デッドプール2

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R指定ながら全世界で大ヒットを記録した異色のヒーロー映画「デッドプール」の続編。マーベルコミック「X-MEN」シリーズに登場するキャラクターで、人体実験により驚異的な治癒能力と不死の肉体を得るが、醜い身体に変えられてしまった元傭兵のウェイド・ウイルソンデッドプールの活躍を描くアクションコメディ。最愛の恋人ヴァネッサを取り戻し、お気楽な日々を送るデッドプールの前に、未来からやってきたマシーン人間のケーブルが現れる。ヴァネッサの希望を受けて良い人間になることを決意したデッドプールは、ケーブルが命を狙う謎の力を秘めた少年を守るため、特殊能力をもったメンバーを集めたスペシャルチーム「Xフォース」を結成するが……。ケーブル役をジョシュ・ブローリンが演じ、モリーナ・バッカリンブリアナ・ヒルデブランドT・J・ミラーら前作のキャストが続投。忽那汐里が新たに参加している。監督は「アトミック・ブロンド」のデビッド・リーチ。
(映画.com より)

MCU作品の異端児・デッドプールが帰って来ました!
2年前に一作目を見て以来ドハマりしちゃったワタクシにとっては待望の新作です。
前作にも増して畳み掛けられる映画のパロディやディスり(笑)
本家マーベル作品はもちろん『氷の微笑』、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイヤ』、『スターウォーズ』、果ては『アナ雪』まで。
まずオープニングクレジットからして『007 スカイフォール』のパロディだしスタッフクレジットも遊んでます(笑)
わかる人にはわかるネタなのでしょうが。
と、ここまで映画パロ満載だと何て事ないシーンでも映画パロ?なんて疑ってしまう始末。
後述するx-フォースの面接シーンが『グレショーかな?』と思ったり(奇しくもヒュー・ジャックマンも意外なところで登場するし)粉々に粉砕されるテディベアがテッドに見えてしまったり(実際は違うのかな?)


そして不謹慎でグロテスクなシーンのオンパレード。
とりわけアベンジャーズよろしく即席で集められたチーム・X-フォースに絡んだエピソードは衝撃的でした。
風の強い日に行うパラシュート飛行。(そのパラシュート飛行も『キングスマン』ぽかった)
自殺行為と思えるコンディションの中、ダイブするX-フォースの面々だが…。
後はネタバレになりますのでご自身の目でご確認下さいね。
ヒーロー映画らしからぬグロテスクな展開なのですがこれが不謹慎にもおかしくてたまらない。
つい劇場で声に出して笑ってしまいました。

また前作同様に繰り広げられるメタ構造の数々。
わかりやすく言えば物語上存在しないはずの第四の壁。
つまり映画を鑑賞している我々に向かってとにかくよく喋りかけてくるんですよ。
デッドプールは。
アベンジャーズ』なんかで初めてMCU作品に触れたライトな人は意表をつかれちゃうんじゃないでしょうか、「おいおい今話しかけてきたよ」って(笑)
まぁ、慣れればこのメタフィクションの構図にも病み付きになっていくだろうし、むしろライトな人もしくはこれまでアメコミを避けてきた人にこそ勧めたいのもこの『デッドプール』シリーズだったりもします。

なぜならこの『デッドプール』。
アメコミ作品の中では一線を画していまして所見でも入り込みやすいコメディ映画でもあるのです。
『少年ジャンプ』で例えれば『ドラゴンボール』でも『ONE PIECE 』でもなく『銀魂』なのです。(わかってもらえるかな?)
当然アメコミのアクション映画ですからアクションはふんだんに盛り込まれてます。
その一方では前述の様にギャグもてんこ盛り。
ふざける時はとことんふざける為、コメディ要素とアクション要素が絶妙なバランスで構築されている。
ひたすらシリアスな他のアメコミ作品と比較してもかなりハードル下げて見る事が出来るでしょう。

作品解説に戻りますが、本作における音楽の使い方も凝っていました。
前作ではワム!好きを公言していたデップーがジョージ・マイケルの死を惜しむなんてシーンもありました。(デヴィッド・ボウイは生きてると信じてる・笑)
そんな本作で使用されていた楽曲だとドリーパートンの『9 TO 5』やa-haの『TAKE ON ME』といった80sナンバー。
何故かENYAの『ONLY TIME 』やミュージカル『ANNIE 』からの『TOMORROW 』の狙ったミスマッチ感に楽しませてもらいました。
「この曲こんなシーンで使う?」なんて疑問が愚問に思える程の清々しさ。
それがまた笑いを誘います。

忽那汐里がまた可愛いです。
何故か男の様な名前の女性ミュータントなのですがコスプレ会場なんかに行ったらこのユキオのコスをする女の子に出会いそう。
『スーサイドスクワッド』のハーレイクインを超えるかも?? 

妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ

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橋爪功吉行和子らが演じる平田家の人びとが直面する大騒動をユーモアにたっぷりに描いた山田洋次監督による喜劇映画シリーズ第3弾。熟年離婚無縁社会に続く今回のテーマは主婦への讃歌。平田家の長男・幸之助の妻・史枝がコツコツ貯めていたへそくりが何者かに盗まれてしまった。史枝が落胆する一方で、「俺の稼いだ金でへそくりをしていたのか!」と心ない言葉を口にする幸之助の姿に史枝の我慢が限界に達し、ついには家を飛び出してしまう。掃除、洗濯、朝昼晩の食事の準備など、これまで平田家の主婦として史枝がこなしてきた家事の数々をやるハメになった平田家の人びとは大混乱となるが……。橋爪、吉行、西村まさ彦、夏川結衣中嶋朋子林家正蔵妻夫木聡蒼井優らシリーズおなじみのメンバーが顔を揃える。
(映画.com より)

まずはじめに。
いつもこのブログをご愛顧頂いてる映画の皆さん。
今回は普段取り上げてる作品と比べ明らかに作品のテイストが違います。
『レディプレイヤー1』や『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』の様な作品が好きな御仁はまず見ないであろう古き良き松竹映画の色合いを今に残す巨匠・山田洋次監督の人気シリーズ『家族はつらいよ』の三作目です。

このシリーズは1作目からいずれも劇場鑑賞するほど好きなのですが、毎年現代の時代に沿ったテーマを取り扱ってるのが印象深いです。
1作目が熟年離婚、2作目が老人の孤独死と免許返納そして本作が主婦のあり方を全面に打ち出す一方、地方の過疎化などにも目が向けられています。
そして毎回の事ながらそれをあくまで喜劇の舞台上に盛り込むから重くならない。
笑いを取り混ぜながら諸々の問題に切り込んでいくという点では土曜日お昼にベテラン漫才師が視聴者からの相談事を漫才のネタに盛り込みながら面白おかしく展開する某長寿番組を彷彿とさせてくれます。

登場する平田家の面々はひとつ屋根の下に集まりながらもそれぞれ別に所帯を持って暮らす大人の家族です。
何か事が起これば家族が集合してああでもないこうでもないの家族会議を繰り広げるお約束の展開を見ると古くさいのは確かですが、同時に家族の姿を見つめ直す良い光景でもあります。
そしてこの古くさいという意味で言えば夫と妻の関係が封建的でそれ故に共感を持ちにくいという声はよくわかります。
ただ、そこに関しては山田洋次が描く家族像がどうしても昭和的に偏りがちというのは何もこの作品に限らずですからそこはあまり気になりません。
むしろ気になったのは登場人物ほぼ全てがスマホを使っていたり果ては吉行和子さん演じる富子が亡き弟の印税収入を管理するのにネットバンキングを使っていたりと登場人物のキャラクターや関係性のロールモデルが如何にもな昭和であるのに対して扱う道具類は全て現代のものであったり。
その辺りのミスマッチ感は何とかならなかったのでしょうか。
更に、今回に関して言えばややもすると冗長的で間延びしてしまった感もあります。
こちらがこのシリーズを見慣れてきたからというのもあるでしょう。
それに付随して期待値が高くなったのも事実です。
過去二作は喜劇映画特有の笑いが生まれるまでの間とかテンポが絶妙だったのに今作はその点が残念ではありました。

後、気になったのがこの作品の舞台が…厳密に言えば平田家の所在地がどこなのかハッキリしないんですよね。登場する車のナンバープレートは横浜なのですが、関西弁を使う若い警察官は「東京の女の人はかなわんわ~」なんて言ってるセリフがあったり。
西日本の人がよく言う「東京」。
すなわち千葉や埼玉や神奈川の事をまとめて呼ぶ「東京」という認識でいいのでしょうかね?


キャストについては過去二作に続いて出演されてる小林稔侍さん。
毎回違う名前の違う役柄で登場されてます。
もしそれを知らずに二作目で初めて見たという人が居たら「あれ、前作で孤独死したんじゃなかったの?」なんて思いそうなものですがいや、それでいいんですよ。
そういうシリーズですから(笑)
あくまで同じ小林稔侍さんであっても劇中に登場するのはシリーズ全作通して違う人物です。
同じく毎回出演していながら違う役どころで出られているのが笑福亭鶴瓶師匠。
毎回コメディリリーフとしておいしい登場しますが、本作でも思わぬところで鶴瓶師匠が現れそして笑いをさらっていきます。
期待を裏切りませんよ(笑)

そして本作のキャストでおいしい登場と言えば笹野高史さん。
一見紳士然とした格好ですが、この人物こそが平田家に空き巣に入った男。
笹野さんはその男を演じますがセリフはほとんどありません。
しかしそれでも抜群の存在感がありました。
さすがは名優ですね。

また、本作の冒頭とエンディングで使われた油絵タッチのタイトルバック。
妙に印象に残るタイトルでした。
しかし、どうにもわからなかったのがその平田家を描いた油絵。
平田家の周辺に打たれていた謎の番号。
あれは何を意味していたのでしょう。
オープニングでタイトルを見た時に明らかにされるかと思っていたのですが結局何もわからずでしたからね。
誰かおわかりの方は教えてください。

全体的に見てケチをつける所はケチをつけましたが、古き良き昭和の喜劇を見る様な温かさの様なものを感じる作品でした。

もちろんこんな作風ですから毎度の事ながらアダルトな客層に囲まれながらの鑑賞でした。
今年見た映画だと『北の桜守』と同じ客層です(笑)

次回はガラッと変わって若者受けバツグンのアメコミ映画『デッドプール2』をお届けします。
お楽しみに‼

ピーターラビット

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ビアトリクス・ポターによるイギリスの名作絵本「ピーターラビット」をハリウッドで初めて実写映画化。たくさんの仲間に囲まれ、画家のビアという優しい親友もいるウサギのピーター。ある日、ビアのお隣さんとして大都会のロンドンから潔癖症のマグレガーが引っ越してくる。マグレガーの登場により、ピーターの幸せな生活は一変。動物たちを追い払いたいマグレガーとピーターの争いは日に日にエスカレートしていき、ビアをめぐる恋心も絡んで事態は大騒動に発展していく。ビア役は「ANNIE アニー」「X-MEN:アポカリプス」のローズ・バーン、マグレガー役は「スター・ウォーズ」シリーズのドーナル・グリーソン。CGで描かれるピーターの声を「ワン チャンス」「イントゥ・ザ・ウッズ」のジェームズ・コーデンが担当し、デイジー・リドリーマーゴット・ロビーら人気俳優が声の出演で参加。「ANNIE アニー」「ステイ・フレンズ」のウィル・グラッグ監督がメガホンをとった。
(映画.comより)

世界中で愛されているピーターラビット
私的には図書券などでよく見かけるイメージです(笑)
しかしその実、原作は意外と知られてなかったりします。
かく言う私も知りません。
調べてみたらピーターのお父さんがパイにされてしまうなんていう残酷な描写もあったりする様で我々がよく知る可愛くて上品なピーターラビットというイメージからはややかけ離れたものがある様です。

そして映像化された本作。
まさにその可愛くて上品なピーターのパブリックイメージを悉く覆す様な作風としては『怪盗グルー』や『ミニオンズ』に代表されるイルミニネーションアニメを彷彿とさせるドタバタコメディでした。

まずCGで登場するピーター等ウサギの兄弟達。
見掛けはかなり可愛いです。
しかし、中身は…というとこれがなかなかどす黒い連中なんです。
ビジュアルは愛らしいのに中身の根性は性悪なんて言ったらこれまさにミニオンズじゃないですか(笑)

そしてそんなミニオンズ…もといピーター達にとっての天敵はというと野生のウサギに警戒心を抱く人間の青年なんです。
その彼とウサギ達による抗争がたまらなく面白いです。
人間が仕掛ける罠に対してのウサギ達の反逆。
やったやられたの仁義なきバトルは先日紹介した『孤狼の血』ではないですが、ポップなヤクザ映画だったりもするんですよ(笑)
これは誇張ではなくマジです(笑)
でもそれをコワモテの俳優さんがやるのではなく可愛いウサギとパッと見冴えない青年が繰り広げるから笑えるんですよね。

そしてこの映画の面白さと言えばメタ的な視点で語りながら作品が持つブラックテイストやラジカルなテンポやアクションを押し出すと同時にファンタジーやミュージカルといったジャンルの作品を徹底的におちょくる痛快さ。

何しろ冒頭では小鳥達が心地よいハミングを奏でるかと思いきやその雰囲気を大胆かつ過激にぶち壊し、「そんな作風ではありません」と高らかに宣言しちゃいますから。
汚れなき幼女が見たらある意味ショッキングですよ(笑)
他にもファンタジー映画ならこういう展開になるであろうけどこの作品では…なんて事をナレーション付きで説明しちゃったりとか。

でもそれって必要なシーンでもあるんですよね。
ピーターラビットの原作ではお父さんが人間に捕まりパイにされるというショッキングな描写があるというのは前述の通りですが、他にも動物が食べられるシーンというのはよく登場するそうです。
作者の狙いとしてはただ可愛くてメルヘンな世界だけを描くのではなく野生動物の実情と人間の向き合い方それをリアリティ持たせながら描く事に徹底的なこだわりがあった様です。
それ故この映画でのブラックなテイストや過激な描写というのは原作の作者の想いを忠実に具現化したものでありその意味では深い原作愛とリスペクトに満ちた作品でもあると言えます。

さて、そんな本作ですがただ笑えるというだけではなくしっかりとしたテーマもあります。
ピーター達にしろ青年マクレガーにしろ結局何で争ってたかというと自らの居場所なんですよね。(更に言えば女かな?)
そして最終的にそれが行きすぎな行為に及んでしまうんです。
そこで双方が気づく事と言えばあくまで自分の目線だけでなく違う者の視点で物事を見つめたらそれがどの様に写るのかという事なのですが、その帰結点に至るまでの展開の見せ方は綺麗でしたね。
最後に思わぬところで感心させられました。

しかしエンディングでの一般人が投稿したウサギの画像はちょっと気恥ずかしいものがありましたねぇ。
以前『インサイドヘッド』を鑑賞した時にドリカムの曲が流れる中、市井の人々のスナップ写真が流れるというのがありましたが、あれを思い出しました(笑)
賛否両論あるみたいですけどね。

のみとり侍

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「後妻業の女」などの鶴橋康夫監督が、「テルマエ・ロマエ」の阿部寛とタッグを組んだ時代劇コメディ。鶴橋監督自身が脚本も兼任し、小松重男の短編小説集「蚤とり侍」の人気エピソードをもとに再構築した。長岡藩のエリート藩士・小林寛之進は、運悪く藩主の機嫌を損ねてしまい、猫の「のみとり」の仕事に就くよう命じられる。それは文字通り猫ののみを取って日銭を稼ぐものだが、実際は床で女性に愛をお届けする裏稼業であった。長屋で暮らすのみとりの親分・甚兵衛のもとで働きはじめた寛之進は、初めてののみとり相手であるおみねから下手くそと罵られたものの、伊達男・清兵衛の指南によって腕を磨いていく。そんな中、老中・田沼意次の失脚を受けてのみとり禁止令が敷かれ、寛之進らは突如として犯罪者扱いされてしまう。おみね役の寺島しのぶ、清兵衛役の豊川悦司ら、共演にも豪華実力派俳優がそろう。
(映画.com より)

2016年、個人的に好きな邦画として『後妻業の女』があります。
大竹しのぶの悪女っぷりと彼女を操る悪のプロデューサーを演じた豊川悦司の名演もさる事ながら最後まで飽きさせないテンポや脚本の構成どれを取っても素晴らしい作品でした。
その『後妻業の女』の鶴橋康夫監督の最新作として期待を寄せていたのが『蚤とり侍』です。
作品のイメージから『殿、利息でござる!』や『超高速!参勤交代』の様なコメディ時代劇というのは容易に想像はつきましたが、なかなかエロに満ちた江戸時代版『テルマエ・ロマエ』でした。

まず本作は前半が非常にテンポが良いです!
殿の機嫌を損ねた阿部寛演じる小林寛之進が城を追われ猫の蚤取り稼業に転じさせられます。
しかしそこは猫の蚤取りとは名ばかりの女性との性交渉を生業とした男娼。
初めての客であった寺島しのぶ演じるおみねに「下手くそ!」と言われセックスのいろはを学ぶべく励んでいくのです。
プレイボーイの清兵衛に手解きを受け、女性を快楽へ導く為のテクニックを磨いていくのですが、このシーンが何ともアホに満ちていて楽しいんですよね。
清兵衛の手練手管を目の当たりにする寛之進の心の声が古代ローマから現代日本へタイムスリップする阿部寛の代表作『テルマエ・ロマエ』を彷彿とさせてくれます。
何と言ってもエロさが笑いに転じる瞬間というのは最高なものでして清兵衛とまぐわう女性、そしてその下に寛之進とおみねが重なるシーンなんて画的にもシュール過ぎて笑いなしには見れませんでした。

トヨエツの妻を演じた前田敦子も本作では色気がありましたね。
個人的にAKB出身女優というと大島優子の方がこと演技力という面においては評価が高いのですが、本作においては前田敦子の存在感は際立っていたと思います。

斎藤工もまた光った存在でした。
子供に無償で文字の読み書きを教える好人物でそれが為に自らは貧しい生活を強いられる。
ただ、演技は見事でしたが、寛之進や清兵衛とのかかわり合いがさほど重要でもなかったので彼のエピソードの必要性は薄かった印象です。

前半のテンポが非常に良かったしコメディ映画としての笑いの生み出し方や見せ方は近年の邦画の中でも屈指の出来だったと思います。

しかし、それも中盤からトーンダウンしていくのが何とも勿体なかったです。
前述の様に斎藤工演じる佐伯友之助にまつわるエピソードからそれまでのエロバカ映画から一気にホロリとする人情話しに転化していきます。
問題はそこからなんですよ。
一気にテンポも悪くなるし無理やり良き事げな雰囲気に持っていこうとする気概が見えてしまいすっきりしないんですよね。

そこから更に後半になると何ともしまりが悪くなります。
松重豊演じる殿様が何故寛之進にのみとり侍となるべく命じたかが明らかにされるのですが、そこが説明くさくてすっきり理解出来ない。
それに付随するシーン等を挿入した方がより良かったと思うんですけどね。

説明くさいという邦画特有の悪癖が見られましたが、更にテロップの使い方も何とかならなかったのでしょうか。
前述の友之助エピソードでは極貧の余り猫のくわえる魚に手を出し病気になるというシーンが登場します。
瀕死の状態でうなだれる友之助と見守る村人たち。
一命を取りとめる友之助ではあるのですが、そのシーンで季節が秋になった事を知らせるテロップが流れます。
そもそも友之助が苦しんでいるのが春なのか夏なのかもわからないのに「そして秋になった」なんてテロップを唐突に出されても(笑)

いや、惜しいです。前半のテンポのまま最後までコメディに徹してくれてたら良かったのに欲をかきすぎたのが何とも残念なところです。
後は『後妻業の女』の様な「通天閣どころやない、スカイツリーや~」みたいなパンチの効いたセリフが欲しかったかな?強いて言えば「この下手くそっ!」てのがありますが(笑)
ちなみに『後妻業の女』からの続投はトヨエツの他、大竹しのぶさん・伊武雅刀さんらが出演されていますよ。