きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

空飛ぶタイヤ

f:id:shimatte60:20180624144855j:plain

テレビドラマ化もされた池井戸潤の同名ベストセラー小説を、長瀬智也主演で新たに映画化。ある日トラックの事故により、1人の主婦が亡くなった。事故を起こした運送会社社長、赤松徳郎が警察から聞かされたのは、走行中のトラックからタイヤが突然外れたという耳を疑う事実だった。整備不良を疑われ、世間からもバッシングを受ける中、トラックの構造自体の欠陥に気づいた赤松は、製造元であるホープ自動車に再調査を要求する。しかし、なかなか調査が進展を見せないことに苛立った赤松は、自ら調査を開始。そこで赤松は大企業によるリコール隠しの現実を知ることとなる。長瀬が主人公の赤松役を演じる。監督は「超高速!参勤交代」シリーズの本木克英。
(映画.com より)

記憶にある方も多いでしょう。
某企業のリコール隠し事件。
大手企業の隠蔽体質を浮き彫りにし、社会的なバッシングも相当なものでした。
本作はその事件を題材に「半沢直樹」等で知られる池井戸潤が書き下ろした同名小説の映像化作品です。
タイプは違いますが、前回の『万引き家族』同様現代社会に潜む問題にメスを入れた社会派作品です。

実を言うと私、このテの作品というとどうも身構えてしまうんですよ。
一昨年の『64』前・後編なんかはその典型例でして小難しい専門用語を羅列される作品。
そういったものに触れてしまうと少しでもこちらの気が抜けようものならさあ大変。
ストーリーがさくさくと展開されるわきちんと理解できないわで整理が出来ない。
気付けばおいてけぼりを食らうなんて事がよくあります。
ま、早い話し「僕ちゃん頭悪いです」(笑)のカミングアウトなのですがww

しかし、そこは池井戸潤作品。
これまで数々の社会派作品ドラマのヒットを生んできたのですが、その最大の要因としては難しい題材を非常にわかりやすく一般視聴者の目線に合わせる事だと思います。

本作で言えば整備不良を疑われた赤松運送と製造元のホープ自動車
中小企業 VS 巨大企業。
この構図さえ押さえておけば間違いありません。

本来、組織としての経済力、人員、規模など全てにおいて勝ってあまりある巨大企業・ホープ自動車
しかし、不正を暴くためまた濡れ衣を晴らす為に戦う赤松運送。
ホープ自動車はあの手この手を使い赤松運送の調査を阻みます。
しかし、赤松運送の若き社長・赤松徳郎は従業員や家族の為、戦います。

その赤松徳郎を演じるのは長瀬智也
正直、このキャスティングには不安があったのは事実です。
長瀬君と言えばクドカン作品で見るコミカルでおバカなキャラクターのイメージが強すぎたので骨太な企業家の印象がなかったんですよね。
佐藤浩市中井貴一堤真一クラスのキャリアと貫禄のある役者さんが演じた方が良いのでは?なんて思っていたのですが、そんな私の不安を一蹴する演技でこの気骨溢れる社長を好演していました。

対するホープ自動車からはディーン・フジオカ演じる販売部カスタマー戦略課課長・沢田悠太なる人物。
当初は赤松の訴えを相手にもしなかったこの沢田ですが、赤松と対峙する事により変化が見られます。
ドライでクールなビジネスマンが見せる人間味に魅了される人も多いでしょう。

ホープ自動車サイドで光った存在と言えば岸部一徳演じる常務取締役の狩野という男。
これがまた何とも憎たらしく腐った性根の人物です。
岸部一徳さんと言えば『アウトレイジ 最終章』でも一癖も二癖もあるヤクザを演じていらっしゃいましたけど、こういう役が何ともハマる!
う~ん、憎たらしい~(誉め言葉です)

また、いつものコミカル演技を封印して真面目な役どころで出演されたムロツヨシさん、『コードブルー』でのチャラい医者とは打って変わって妻を亡くし、悲痛な想いをぶつける被害者の夫を演じた浅利陽介さんなどキャスト陣は充実してました。

ただ、どうも気になったのが高橋一生
いや、高橋一生さんの演技自体はよかったですよ。

上の写真を見て頂いたらわかる様に長瀬智也ディーン・フジオカ、そして高橋一生と前面に出ています。
これだけ見たらこの三人を軸にストーリーが展開されると誰しも思うハズです。
ところが実際の出演時間は友情出演と呼んでもいい程少ないです。
高橋一生さんの女性ファンはガッカリかもですよ。

それから本作の冒頭では登場人物を紹介するテロップが表記されます。
それ自体は悪くないのですが、何故か小池栄子演じる週刊誌の記者には表記されないんです。
彼女は本作において重要な役割を果すのですが、何故彼女の紹介テロップは表記されなかったのでしょうか?

それからこれはあくまで私の個人的要望なのですが、今作のはじまりとなったのはタイヤの脱輪事故です。
この事故を起こした当事者であるドライバーの視点がもっと描かれていればと思いました。
前半は確かによく登場します。
この事故がトラウマになり出社拒否を起こすなど。
赤松社長もその様子を見て彼の名誉を晴らす為にもと立ち上がるシーンもあります。
しかし、後半になるとこのドライバーの存在がまるでストーリーから置き去られてしまっかの様に出なくなるんですよね。
巨大権力と戦い掴んだ勝利は何も赤松社長や家族、名のある従業員たちだけのものではないハズです。
このドライバーがどういう表情で勝利の光景を目の当たりにしていたか。
そういう描写はほしかったですね。

なんていつもの様にケチつける所はつけさせて頂きましたが、不正を悪徳企業の責任者は裁きを受け弱小であっても信念を貫き通せばその行いは報われる。
健全たる社会の構図をクリアに映し出す勧善懲悪なストーリー展開なのでラストは溜飲が下がる事間違いなし!
若い人にも是非見て頂きたい作品です。