幅広い世代から愛され続ける人気アニメ「映画クレヨンしんちゃん」シリーズの31作目。
夏休みの始まりにワクワクする野原しんのすけ。ある日、現代によみがえった恐竜が生息するテーマパーク「ディノズアイランド」が東京にオープンすることが決まる。念願かなって見学ツアーに招待されたしんのすけと仲間たち「カスカベ防衛隊」は、世界中から注目を集めるディノズアイランドで恐竜たちとの出会いを満喫する。同じ頃、カスカベの河原では野原家の愛犬シロが小さな恐竜ナナと出会う。愛くるしい見た目のナナは野原家やカスカベ防衛隊ともすぐに仲良くなり、一緒に夏休みを過ごしてたくさんの思い出を作っていくが、ナナには大きな秘密があった。そんな中、ディノズアイランドから恐竜たちが脱走する事態が起こり……。
監督はアニメ「デュエル・マスターズ」シリーズの佐々木忍。しんのすけたちと行動をともにする生物学の研究者ビリー役を務める北村匠海のほか、お笑いコンビ「オズワルド」の伊藤俊介と畠中悠がゲスト声優出演。(映画・comより)
毎年恒例のクレヨンしんちゃんの映画レビューでございます。とりわけクレしん映画と言えば子供を対象にしているとは言え、大人にも刺さるメッセージやテーマが盛り込まれており、映画的な深さもある為、僕みたいなこどおじ映画オタクにも注目される傾向が強いです。
例年通り、今年もMOVIX日吉津で鑑賞。8月16日。世間的にはまだまだお盆休みという人も多く、ファミリー層が非常に目立ちました。
さて、昨年の3D作品は番外編という位置付けの為、本来の2D仕様のものでは通算31作目となる今作。子供達に大人気の恐竜という題材で果たしてどの様に映画を盛り上げてくれるのか非常に楽しみにしていました。というのも恐竜といえばドラえもんの方がイメージとしては強いですからね、クレしん×恐竜という新たな試みが吉と出るか否かは要注目です。
物語の冒頭。東京にオープンした恐竜をテーマにしたディノズアイランドここが初めの舞台として登場してきます。レギュラーアニメではお馴染みだけど、映画にはなかなか登場しない大金持ちのアイちゃんのコネでしんのすけとお馴染みの面々でディノズアイランドへ。この辺り見ると新しい話題のスポットに園子コネクションで出掛けるコナン君や灰原ら少年探偵団と阿笠博士…みたいな名探偵コナン的なストーリーの導入方式なんですが、ここで注目はアイちゃんです。映画版で見かける事はそうそうないのですが、今作では彼女を皮切りにテレビでのレギュラーのみでお馴染みのキャラクターがこれでもかと出てきます。それを考えるとクレしんファンへ訴求するファンムービー要素がかなり強いのが特徴的です。
でもご安心を!今でも「クレヨンしんちゃん」と言えば金曜夜7時半。「ドラえもん」の後、「Mステ」の前という認識の人も決して置いてけぼりにはしません。ストーリーには影響は出ませんから鑑賞する上では全く問題はありませんよ。
また、恐竜の描写も特徴がありまして、ディノズアイランドに居る恐竜…ネタバレになるので詳しくは言えませんが、本物の恐竜かと言うと実は…なんですね。ただ、描写としては非常にリアルに…とリアルな恐竜なんてもちろん見た事ありませんけどクレしんののっぺりとしたアニメーションと異なる写実的な物になっている…一方でかわいい恐竜のナナちゃんのフォルムはしんのすけ達と同じ様な描き方なんですね。何ならポケモンの映画を見ている様でした。この様に核となるナナと他の恐竜の差別化を図っているのが印象的でした。
また、夏休みの絵日記で書かれるしんちゃんとシロ、ナナがほっこりするのと同時に大人が見ると子供の頃の夏休みに気持ちを引き戻してくれるそんなノスタルジックな要素もありましたね。
で、ノスタルジックと言えば昭和・平成ネタが今回も随所に登場。イグアナの娘にタモリさんのイグアナ?更には一糸乱れぬ恐竜達のダンスに使われる曲が「LOVEマシーン」であったりとこれまでにもヒロシが福山雅治の「HELLO」をみさえがMISIAの「Everything」を歌うというのがありましたし、去年の『超能力大決戦!〜とべとべ手巻き寿司〜』は大根仁監督だった事もあり、90年代のサブカルぶっこんできたりと子供達はわかんねぇだろと思いつつも大人はニヤリとさせる小ネタは相変わらずでしたね。
で、大人に向けてると言えば円安に物価高騰、更にはSNSの誹謗中傷等社会的な問題にも踏み込んだり、まぁ去年の無敵の人や弱者男性の様にメインのテーマにはしていませんでしたが、大人に寄せ過ぎなてらいもありました。
個人的に思ったのが「オトナ帝国の逆襲」や「ロボとーちゃん」みたいな大人に刺さる名作を見たいけどあくまでメインの客層は子供達。そこは外さないで頂きたいなと強く思うところです。
で、ラストでこれが悪い方に動いてしまったんですよ。
強調して言います。ラストシーン泣けます。これは断言します!
ただ、これがあまりに残酷な結末なんですよね。具体的にどのキャラクターがとは言いませんが、ズバリ自己犠牲を描いているんですね。
誰かを守る為に自らの身を挺して…という描写ですね。僕はこれが決して悪いとは言わないですよ。大人を対象とした作品であればね。
近年ではこの自己犠牲という表現は減少傾向にあります。命の危機に瀕するシチュエーションに遭遇し、身体を張って人の命を救ったとしても大概の人は回復してハッピーエンドで終わる作品が多いです。つまり作品を見る人が気持ち良く劇場を後にしたいというその感情に応える作品作りを監督をはじめとしたクリエイターは意識しているんですよね。
ところが今作においては自己犠牲から観客の涙を誘うという手法を取っている。何度も言いますが、表現の自由であってそれ自体を僕は否定しません。
しかし、クレヨンしんちゃんの映画はあくまで子供がメインの客層です。「オトナ帝国の逆襲」が好きな僕みたいなこどおじは本来二の次にしてくれていいんですよ。
夏休みにパパ・ママやおじいちゃん・おばあちゃんと映画を見にきた子供達には気持ち良く映画を見て劇場を後にして夏休みの思い出にしてほしいんですよね。
残酷な結末を見せるのはもっと大きくなってからでいいんじゃないかな?
それに命の尊さや大切さはお父さん・お母さん、学校の先生から学んでいきますから。夏休みの映画館では楽しい思い出を作ってもらいましょ。
ヒロシとみさえが子を持つ親としての感情を見せる良い場面があったのに何でこのラストにしちゃったんだろうというのが僕の率直な感想です。
とやや説教臭くなってしまいましたけど、家族というテーマ、何物にも縛られずに自分のやりたい事をやるという前向きなメッセージはしっかり盛り込まれています。
良くも悪くもの問題作。それが僕の全体的な総評になりますが、後はご自身の目で見てご判断下さい!
是非劇場でご覧下さい!