きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

大河への道

落語家・立川志の輔による新作落語「大河への道 伊能忠敬物語」を映画化。主演の中井貴一をはじめ、松山ケンイチ北川景子らキャストがそれぞれ1人2役を務め、現代を舞台に繰り広げられる大河ドラマ制作の行方と、200年前の日本地図完成に隠された感動秘話を描き出す。千葉県香取市役所では地域を盛り上げるため、初めて日本地図を作ったことで有名な郷土の偉人・伊能忠敬を主人公にした大河ドラマの開発プロジェクトが立ち上がる。しかし脚本制作の最中に、忠敬が地図完成の3年前に亡くなっていたという事実が発覚してしまう。1818年、江戸の下町。伊能忠敬は日本地図の完成を見ることなく他界する。彼の志を継いだ弟子たちは地図を完成させるべく、一世一代の隠密作戦に乗り出す。「花のあと」の中西健二が監督を務め、「花戦さ」の森下佳子が脚本を手がけた。(映画・comより)

伊能忠敬。歴史の教科書にも必ず登場してくる偉人です。日本で初めて日本地図の測量をして、それをまとめ上げたという人物ですよね。しかし、そんな伊能忠敬が実は地図を完成させていなかったという史実から落語家の立川志の輔師匠が作り上げた創作落語が『大河への道 伊能忠敬物語』ですが、本作が映画化されたその背景が面白いんですね。

中井貴一さんがたまたまその落語を聞いたところ、感銘を受け映画化の話しを志の輔師匠に直談判。主演は自分じゃなくてもいいから企画やプロデュースという形態ででもこの作品を映画化したいという情熱を持ったプレゼンを行い、映像化実現へ向けて動き出したという事です。

とは言え今の時代、堅苦しい時代劇というのはなかなか受け入れられない。そこで取った手法が喜劇調の現代劇と忠敬の意思を継いだ名もなき人々の地図作成に向けたサクセスストーリーを融合させるというものでした。

時代劇と現代劇をひとつの作品で融合させるという非常に珍しい手法。果たしてこれがどの様に展開されるのか私も楽しみにしながら5月25日。水曜サービスデーを利用してT-JOY出雲で見て参りました!

大河ドラマ伊能忠敬を、基本的には戦国時代や幕末が扱われ易い大河ドラマにおいてはなかなか難しいのかも知れません。

しかし、今年の大河ドラマ『鎌倉殿の十三人』は平安末期〜鎌倉時代。更に2024年は紫式部を主人公にといった具合にここ近年は変わりつつある。だけど、伊能忠敬は確かに地味な感があります。だけどその辺りも劇中に突っ込んでいます。ただ、測量の為に日本中をくまなく歩くとなれば江戸時代版ロードムービーになっちゃいますもんね(笑)

そういったツッコミ点を見ている人に指摘される前に提示しちゃう辺りは如何にも創作落語っぽいし、思わずニヤッとしちゃったのも事実です。

他にも現代劇パートにおいての中井貴一松山ケンイチという実際の大河でも主演を務めた二人がまるで息の合ったコントユニットの様に軽妙なやり取りをして楽しませてくれます。中井貴一さんの場合、三谷幸喜作品でこれまでにもコメディ演技をされてこられましたが、松山ケンイチさんとなると『デトロイト・メタル・シティ』以来じゃないですかね。コメディも非常に板に着いてまるんですよね。

また、北川景子さんのバリバリ出来る女イメージが現代パートでは非常に活きていましたし、時代劇パートでは凛とした強さとして表現されていました。

その他、個性豊かなキャスト陣が現代と江戸時代で一人二役こなしながらストーリーを盛り上げてくれていました。

江戸時代では11代将軍・徳川家斉を現代では千葉県知事を演じていた草刈正雄さんと中井貴一さんが向かい合った時なんかは三谷幸喜作品『記憶にございません!』を思い出しましたね。

伊能忠敬大河ドラマ化プロジェクトに奔走する現代劇パートはとにかくコミカルにテンポ良く展開されており、コメディ映画が好きな僕としては非常に楽しませて頂きました!

一方の江戸時代パート。こちらはガチな大河ドラマっぽさと『プロジェクトX』的なヒューマンドラマが実に見応え抜群でした!伊能忠敬亡き後、彼の意思に共鳴した人々が三年間の間で地図を完成させるまでのプロセス。それは決して容易なものではありません。幕府からの援助を受け、地図作成へ動いている以上忠敬本人が亡くなったという事は決してばれてはいけません。彼の死を隠し援助の費用を得るという事がバレると打首になる可能性だってある。そんな中で彼らはこのスリリングなプロジェクトに向けて動くわけです。怪しむ人物も登場するし、忠敬の影武者も用意しなくてはならない。様々な困難を乗り越え、完成した地図を見た時はそれまでのプロセスを見続けたからこその感動がそこにはありました。日本地図を見て涙を流したのは生まれて初めてだしこれからの人生でもそうそうないだろうなと思います(笑)

現代劇と時代劇の融合というものに対して実を言うといささか不安があったのですが、ここまでうまくまとまっていたらケチの付けようがありません!この映画の評判が良いのも納得でした!

それから伊能忠敬という人が日本地図を作り出したというのは我々はよく知ってる所。しかし、彼がどの様にして測量をしたのかとか人物像を知らないという人は多いと思います。そもそも伊能忠敬が現在の千葉県出身だったなんて事もあまり知られてないし、地元の人は愛着を込めて「ちゅうけいさん」と呼ぶなんて事も僕は初めて知りました。伊能忠敬について興味を持たせてくれるし、劇中にも登場する伊能忠敬記念館にも行ってみたくなりますよ。更に中井貴一さんが演じた高橋景保という人物についても興味が湧いてきます。

また、伊能忠敬が主題ではあるものの、もうひとつ見逃せない点がありましてそれがラジオなんですよ!立川志の輔師匠も本作には出演してらっしゃるんですが、これがラジオパーソナリティの役で出てるんですよ。映し出された局の雰囲気や扱う話題からして千葉県のコミュニティFMかななんて思いました。この番組をお聴きのリスナーさんは皆さんラジオがお好きだと思います!そういう視点でも是非本作を見て頂きたいですね!

伊能忠敬大河ドラマに!これを大きなテーマに、そこからぶれさせずに現代と江戸時代を結ぶ人間ドラマとなっていました!時代劇が苦手という人は多いと思いますが、この作品は非常に鑑賞し易く万人に自信を持ってオススメ出来る作品だと思います!