実際にあった昭和最大の未解決事件をモチーフに過去の事件に翻弄される2人の男の姿を描き、第7回山田風太郎賞を受賞するなど高い評価を得た塩田武士のミステリー小説「罪の声」を、小栗旬と星野源の初共演で映画化。平成が終わろうとしている頃、新聞記者の阿久津英士は、昭和最大の未解決事件を追う特別企画班に選ばれ、30年以上前の事件の真相を求めて、残された証拠をもとに取材を重ねる日々を送っていた。その事件では犯行グループが脅迫テープに3人の子どもの声を使用しており、阿久津はそのことがどうしても気になっていた。一方、京都でテーラーを営む曽根俊也は、父の遺品の中にカセットテープを見つける。なんとなく気になりテープを再生してみると、幼いころの自分の声が聞こえてくる。そしてその声は、30年以上前に複数の企業を脅迫して日本中を震撼させた、昭和最大の未解決人で犯行グループが使用した脅迫テープの声と同じものだった。新聞記者の阿久津を小栗、もう1人の主人公となる曽根を星野が演じる。監督は「麒麟の翼 劇場版・新参者」「映画 ビリギャル」の土井裕泰、脚本はドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」などで知られる野木亜紀子。
(映画.comより)
グリコ・森永事件。
昭和後期、バブル前夜の日本を震撼させた凶悪事件にして未解決事件として今なお語られるわけですが、同事件をモチーフにしながら完全なオリジナルストーリーで展開される社会派作品です。
件の事件当時僕はまだ幼児でしたが、当時連日の様に報道されていたニュース内容は子供心に衝撃を感じました。
とりわけ犯人として想定されていたキツネ目の男の不気味なモンタージュはトラウマになりそうなくらい脳裏に焼き付いています。
そんなグリコ・森永事件を下敷きとして果たしてどんな構成で映画が展開されるのか期待と同時に140分という長尺に果たして僕の集中力は持続するのかの不安もありましたが、結果から申します。
メチャクチャ作品に没頭してしまいその上映時間すらも短く感じられました。
つまりメチャクチャ作品に引き込まれていたとお伝えしておきましょう。
本作のポイントとして押さえておきたいのは昭和史に残る劇場型犯罪である同事件の犯行の動機は?事件の真相は?その後の顛末は?
まずはそのジャーナリズムな視点で描かれる前半部分。
小栗旬演じる新聞記者の阿久津の事件に関連したとされる人物への取材で次々に暴かれていきます。
時同じくしてこの事件に自分の意としない形で関わらされていた京都のテーラーである曽根俊也(星野源)。
彼が何故この事件に巻き込まれていたのかの謎を解く為、彼もまた独自で取材を続けます。
ここでは新聞記者というジャーナリストとしての目線で事件を追及する阿久津の目線と不遇な形で事件に関わっていた刑事でも記者でもない言い方は悪いですが、素人目線で謎を追う曽根この二人の捜査を見ている僕らは見守っていきます。
しかし、彼ら二人が出会ってからバディ関係を築いてからの事件を取り巻く人間ドラマの深追いがこの作品の本質的な部分を見ているこちらに投げ掛けてきます。
そしてこのドラマがあまりに残酷で悲しい。
ここで出てくるのが曽根以外に事件に巻き込まれてしまった姉弟のストーリーです。
実はここの辛さに関しては筆跡に尽くしがたいものがありまして、是非作品を直接見て頂くしかないとだけお伝えしておきます。
で、やはりここでも対比したいのが曽根の現状とこの姉弟の事件後の顛末なんですよ。
かたや曽根は父の跡を継ぎ、テーラーを経営。
決して派手な生活ではないものの妻と娘に恵まれ幸せに暮らしている。
だけど一方の姉弟は幸せな暮らしが一転。
反社会的な組織の監視下で地獄の様な暮らしを強いられてしまう。
「悪いのは彼らではないのに…何故彼らはこんな目に遭わなければならないのか」と強い憤りと共に胸が苦しくなりますけど
そして曽根自身もまた自らの恵まれた境遇すらをも呪おうとするシーンが印象に残ります。
ここまでの流れから浮かび上がるのは親の犯罪に子供を巻き込む事での悲劇があまりにも残酷に描かれているわけですが、親は一時の金銭欲や社会への不満その他犯罪の動機は数あるでしょう。
しかし、親が身勝手に犯罪に手を染めたとしても罪のない子供を巻き添えにするとその子供は一生の十字架を背負い生きなければならない言い換えれば子供の未来そのものを絶やしてしまう行為であるという強いメッセージ性が浮かんできます。
ケースは違いますが、よく凶悪犯罪を犯した子供に関しては耳にする事ってありますよね。
就職・結婚等人生のあらゆる局面において不利に働くと。
当人が罪を犯したわけでもないのに身内が犯罪者という事から社会的に抹殺されて自殺する人も居ます。
本作はいち娯楽作品としての映画ではあるものの犯罪と親子関係という問題を強く投げ掛けた社会的メッセージの非常に強い作品だなと感じました。
正直作品的には重いかもしれませんが、鑑賞後には確実に心に響くものがあります。
こういう作品こそ劇場でご覧頂きたいというのが私の感想です。