きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

人間失格 太宰治と3人の女たち

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小栗旬が文豪・太宰治を演じ、小説「人間失格」の誕生秘話を、太宰を取り巻く3人の女性たちとの関係とともに描いたオリジナル作品。「ヘルタースケルター」「Diner ダイナー」の蜷川実花がメガホンをとり、脚本を「紙の月」の早船歌江子が手がけた。1964年、人気作家として活躍していた太宰治は、身重の妻・美知子と2人の子どもがいながら、自分の支持者である静子と関係を持ち、彼女がつけていた日記をもとに「斜陽」を生み出す。「斜陽」はベストセラーとなり社会現象を巻き起こすが、文壇からは内容を批判され、太宰は“本当の傑作”を追求することに。そんなある日、未帰還の夫を待つ身の美容師・富栄と知り合った太宰は、彼女との関係にも溺れていく。身体は結核に蝕まれ、酒と女に溺れる自堕落な生活を続ける太宰を、妻の美知子は忍耐強く支え、やがて彼女の言葉が太宰を「人間失格」執筆へと駆り立てていく。太宰を取り巻く3人の女たちを演じるのは、正妻・美知子役の宮沢りえ、静子役の沢尻エリカ、富栄役の二階堂ふみ。そのほか坂口安吾役の藤原竜也三島由紀夫役の高良健吾成田凌千葉雄大瀬戸康史ら豪華キャストが集う。
(映画.comより)

太宰治。はい、もちろん名前は知っています。
でも、彼の作品は読んだ事ありま……あ、ありましたありました小学校の時に国語の教科書で『走れメロス』を。
でも読書家と呼ばれる人でもない限りそんなもんじゃないですか、『人間失格』と聞いても90年代の野島伸司のドラマを思い出す(世代がバレるww)そんなワタクシです。
でも日本の歴史教育や国語教育を責めるわけじゃないですけど、文豪の名前と作品の名前を記号的に並べてただ暗記だけさせるじゃないですか、夏目漱石なら夏目漱石川端康成なら川端康成太宰治なら太宰治とその一人一人をフォーカスその人物の意外なエピソードやらを紹介して授業をしたらもっと日本の文学を熱心に触れる機会がありそうなのに、そんな事思うの僕だけですか。
でも読書の秋・これを機に文豪たちの作品を手に取ってみるといいかもしれませんね。
そしてそれに合わせて見ておきたいのがこの映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』です。
監督を務めたのは写真家の蜷川実花さん。
7月に公開された『Diner ダイナー』も記憶に新しいですが、間髪入れず二ヶ月のインターバルで公開となりました。
そんな蜷川実花監督の手による太宰治。 
果たして僕の目にはどう写ったのでしょうか。

さて、7月に『Diner ダイナー』についてお話しした時にモリモリの極彩色が画面いっぱいに映し出される正に蜷川実花監督の真骨頂の様な作品と評しました。
で、これは実花さんならではなのですが、同じ原色使いであっても『さくらん』には『さくらん』の、『ヘルタースケルター』には『ヘルタースケルター』のそして『Diner ダイナー』には『Diner ダイナー』のと全く違う印象を与えます。
で、今回はどうであったか。
相変わらずの蜷川実花演出は健在ではあるもののこれまでの作品よりはやや控え目。
むしろ自分好みの世界観を大々的に打ち出すよりも太宰治という天才作家の生き様を浮かび上がらせる方を優先しているなと感じました。
その結果、どうであったかと言うと伝記映画の主人公としての太宰治の人となりや彼にまつわる逸話等が非常にわかりやすく僕の様に太宰治の作品に全く触れた事のない様な人が見ても作品の世界に気持ちを投入させやすくなっていたと思います。

彼の作家としての苦悩と葛藤、そして酒と女に溺れながら破滅の道を歩むその破天荒な人生により、これまで名前だけでしか彼を知らなかったそんな人への太宰治入門映画としては十分以上に機能していたと思います。
で、僕は途中から思ったのですが、蜷川実花太宰治を題材に大河ドラマを手掛けたらこうなるのでは、なんて見てました。
もっとも実際の大河ドラマの時間帯に太宰治はかなりハードなのでしょうけどね。

それから蜷川実花が作り出す昭和20年代の街並みが美しい。
かなり細部に至るまで作り込まれており、昭和フェチなワタクシとしては思わずニヤリ。
更には川端康成三島由紀夫等々同時代の文人からの評価等興味深く見ておりました。

そして何と言っても役者陣の演技に引き込まれます。
太宰治を演じた小栗旬
彼の佇まいが官能的で怪しさを秘めた太宰の雰囲気とぴったり!
最近は漫画原作のアクション映画ばかり出てたイメージですから、こういう小栗旬を見たかったという人は多いのではないですか。
それにしても「大丈夫、君は僕が好きだよ」とかそんなセリフ、俺も……


言ってみてぇ~~~~っ!!!

失礼しました。
そして3人の女たちです。
宮沢りえ沢尻エリカ二階堂ふみと実力派女優を揃えているとあって皆さんの演技は素晴らしい!
宮沢りえの良妻賢母な佇まい、沢尻エリカの太宰に翻弄されながらも自身が持ち合わせた文学的素養を世に問うその機を伺う才女振り、そして本作でもっとも体当たりの演技をした二階堂ふみ。  
そして三人共この時代が醸し出す刹那的な空気感と絶妙にハマるんですよね。
そしてそんな三人の女性達と太宰の関係があまりに儚くそして脆いからこそ映画的に絵になるわけです。
それにしても太宰は何故そこまで女に溺れたのでしょう。
創作者というのは得てして孤独なものです。  
ひとつのものを生み出すのに常人では図り知れない苦しみがあるわけです。
本作においては「破壊」という言葉が出てきますが、壊して壊して壊し尽くす。
そこから新たなものを生み出す。
破壊と創造とはまさに隣り合わせにあるものであり、そこに費やすエネルギーとは並大抵のものではないわけです。
しかし、それを誰に評価されるわけでもない。 
評価されても己の意とするものと違う解釈であったりする。
そんな孤独な創造者が最終的に求めるもの。
それが愛・恋・セックスなのです。
太宰の場合、それがより強かったのだと思います。

さて、本作最大のハイライトそれは太宰が代表作であり、遺作となった『人間失格』を書き上げるシーンです。
病に蝕まれながら、一作入魂とばかりに筆を取り、あの有名な一文を走らせます。
実花さんもここぞとばかりに芸術的な演出を施してきます。
太宰が何故『人間失格』を書くに至るかは史実に基づいたシーンがありますので、そちらを見て頂くとして作家生命の集大成として書斎の机に向かう小栗旬演じる太宰治に魅了されます。

エンタメ性に関しては確かに『Diner ダイナー』に軍配が上がりますが(比較するべきではないかもしれませんが)太宰治という人物を知る上では見る価値のある作品だと思います。
もしかしたら太宰治が好きで彼の人物像を知る人が見たら違う印象かもしれません。
そういう人の感想も聞いてみたいですけどね。