きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

アクアマン

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DCコミックス原作のヒーローで、「ジャスティス・リーグ」にも参戦したアクアマンを主役に描くアクション大作。海底に広がる巨大な帝国アトランティスを築いた海底人たちの王女を母に持ち、人間の血も引くアクアマンは、アーサー・カリーという名の人間として地上で育てられた。やがて、アトランティスが人類を征服しようと地上に攻め入り、アクアマンは、アトランティスとの戦いに身を投じていく。人気テレビシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」で知られるハワイ出身の俳優ジェイソン・モモアがタイトルロールのアクアマンを演じ、世界的大ヒットを記録した「ワイルド・スピード SKY MISSION」のジェームズ・ワン監督がメガホンをとった。共演にアンバー・ハードウィレム・デフォーニコール・キッドマンほか。
(映画.comより )

2017年、DCEUのヒーロー達が集結した『ジャスティス・リーグ』。
個人的にはマーベルの『アベンジャーズ』シリーズよりも何気に好きではあるんですが、日本での興行成績はイマイチ奮いませんでした。
同作でも存在感を放っていたのが、このアクアマン。
当初は2018年中に公開の予定だったのが、諸事情により、公開がズレてしまった様ですね。

ダークナイト』シリーズのイメージが強いのですが、DC作品と言うとギャグパートもたっぷりなマーベルに比べると暗めな作品が多いという印象。
しかし、2017年の『ワンダー・ウーマン』然り前述の『ジャスティス・リーグ』然り近年は比較的ライトなタッチで新規も取っつきやすい作風が増えてきている感があります。
そして、この『アクアマン』です。
前半はアクアマン生誕の由来に始まり、彼の活躍ぶりを比較的わかりやすく説明してくれる様なシーンで展開されていき、近年のDC作らしいつくりとなっています。

何と言っても海を舞台としてるだけあって海がイキイキしてる。
そして海底にあるアトランティス王国へロマンを感じさせてくれます!
欲を言えば、夏に見たらより気分が盛り上がったんだろうなぁ。
パイレーツ・オブ・カリビアン』が毎作大ヒットしてるのって作品が面白いというだけでなく、その公開タイミングも大きいと思うんですよね。

まぁ、それはともかくとして海洋アドベンチャーとはかくあるべきと言わんばかりの迫力ある映像に感情が高ぶる高ぶる!

で、この映画DCならではなんですが、140分という長尺なんですね。
ともすれば飽きもする様な時間ではありますが、それがまたうまい事出来てんだなぁ。
CGをふんだんに使いながらも時間を経ていくにつれ、加熱するバトルシーン。
最後の方はスゴいを通り越して呆れちゃいました、ようやるわって(褒めてます・笑)

そしてアクアマンを演じたジェイソン・モモアのワイルドさ。
これがまたいいんだわ!
日本でもこういうヒゲモジャでワイルド&マッチョなヒーローって作れないもんかねぇ…と思ったが、それは無理だね。
日本ではまず女子のご機嫌を伺わなければいけないわけでして。
若い女子とは対局なイメージだもんな(笑)
それからヒロイン・メラを演じたアンバーハードがまた美しく、そしてセクシー。
長らく海底で暮らしてた方ですから、地上に上がった時、つい地上の人が見たらクスッとしてしまう。
ワンダーウーマン的な天然っ子萌えにやられてしまいます(笑)


で、アトランティス王国なんかを見ると古代ギリシャ神話的な世界観も垣間見れるんですが、本作で注目したのが、アクアマンと敵キャラの関係性ですね。
パトリック・ウィルソン演じるオーシャンマスターはアクアマンの弟。
兄弟で戦うと言えば、MCUの人気シリーズ『マイティ・ソー』のそれを思い出しましたよ。
オーシャンマスターもまた、『ソー』でのロキみたいに敵キャラなのに憎めない。
今後、二人が手を組んで戦ったりするのかな?なんて勝手な想像をしてしまいました。
そしてこの、オーシャンマスター/オーム・マリウスは人類を憎むのですが、その理由については悪役としてはなかなか理にかなってる。
人間達が海を汚し、そしてそれによって海の底で暮らす彼らの平和を壊しているというのです。
人類はその身勝手故、海を汚染してきました。
本作には海洋汚染についての問題提起もさらっと盛り込まれていたりするのです。

ただ、それに対しての回答が見えてこない、というか人類はそんなヤツラばかりじゃないとサラッとごまかしていたのが、個人的には気になりました。

でも、それはそれとしての圧巻のバトルシーンは見応えバッチリですよ!

雪の華

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中島美嘉のヒット曲「雪の華」をモチーフに、登坂広臣中条あやみ主演で描くラブストーリー。余命1年を宣告されてしまった平井美雪には、両親が出会ったフィンランドの地でオーロラを見ることと、人生で初めての恋をすることという2つの夢があった。ある日、ひったくりに遭った美雪は、ガラス工芸家を目指す綿引悠輔に助けられる。両親を亡くし、兄弟を1人で養っていた悠輔は、働いている店が危機に陥っていた。そのことを知った美雪は店を助けるために、100万円を支払うことと引き換えに、1カ月限定の恋人になってほしいと悠輔に持ちける。悠輔役を登坂、美雪役を中条が演じ、田辺誠一高岡早紀、浜野謙太らが脇を固める。舞台となるフィンランドでもロケを行い、撮影された。監督は「羊と鋼の森」「orange オレンジ」の橋本光二郎。「いま、会いにゆきます」「8年越しの花嫁 奇跡の実話」の岡田惠和が脚本を担当。
(映画.comより)

中島美嘉の『雪の華』。
言わずと知れた日本の音楽史に残る様な名曲ですし、冬の定番として毎年この時期によく耳にする楽曲です。
そんな『雪の華』を題材にした恋愛映画という事で過去作なら『涙そうそう』(2006)や『ハナミズキ』(2010)の流れといったところでしょうか。(最近は『愛唄』という作品がありましたね。)

こういう名曲をモチーフにした感動作となると如何に元となった曲の世界観が構築出来るか、そして大袈裟にならず、如何に感動を与えるか。
そこが評価の分かれ目になるかと個人的には思っています。

しかし、本作に関してはやや辛口になります。

まず、この作品は恋愛映画です。
普段の自分が選択しないタイプの作品ですが、恋愛映画が決して嫌いなわけではないと初めにお伝えしておきます。

まず、中条あやみ登坂広臣の二人について。
実は僕はこの二人が出演する映画を見るのは初めてかもしれないです。
中条さんについては『チア☆ダン』では見ていますが、彼女の主演ではありませんからね。
それを除いて。
そして登坂さんついては『HIGH & LOW』なんかがありますが、どうもこのテの映画というのは苦手でして(笑)

で、二人の演技自体は悪くはなかったですよ。
ただ、中条あやみちゃんは『チア☆ダン』のイメージが良すぎたのかな、やや病弱な女性とかけ離れていた感は否めないのですが。

後、本作の最大の見せ場と言えるのですが、フィンランドの風景なんかは非常によく録れてました!
幻想的な雰囲気が『雪の華』の曲ともマッチしてましたし、フィンランドへ行きたいと思わせてくれる様なカメラワークであったと思います。

葉加瀬太郎氏による音楽も雰囲気に合っていましたし、良かったです。

ただ、問題は内容なんですよね。
突っ込みドコロも多すぎるし、話しのテンポも悪いし、正直どこから手をつけていこかなて感じです。

まず、中条あやみ演じる美雪の病気が全くわからない。
何の病気に冒されているかの説明は一切ないし、余命幾ばくもない重病患者にしてはあまりに元気過ぎる。
何で一ヶ月間に何度もフィンランドに行ける体力があるんだよ。
で、そのフィンランド行きに関しては登坂広臣演じる悠輔もまた然りなんですが、彼は両親を亡くし、弟と妹の面倒を見ながら先輩のしてるカフェの手伝いをしてるわけです。
先輩のカフェだって経営状態は決してうまくいっていない。
そもそも美雪が祐輔に近づいたのはその店を助ける為、100万円の現金を渡した事にはじまるわけです。(そこの時点で大分おかしいんだけどね。)
つまり、何が言いたいかと言うと。
悠輔は決して裕福じゃないんですよね。
なのに何でひょいひょいとフィンランドに行けちゃうんだよ(笑)

また、美雪がカフェで田辺誠一演じる主治医とお茶をするシーンで悠輔が目撃して、勘違いをする。
それ自体、恋愛映画でのベタなシーンですが、その後、美雪の病気を知り、この人物が主治医である事をはじめて知るわけです。
しかし、その時に「あの時の…」みたいな回想シーンが入るわけでもなく、あっさり受け入れる辺りは不自然極まりなかったです。
言わば誤解が解ける瞬間でもあるんだから何かしらの描写は欲しかった。

後、エンドロール中のシーンも違和感あり。
来年の桜は見れないと冒頭で言われていたのに元気そうに外に降る雪を眺めていたよね。
その段階だと余命一ヶ月とか二ヶ月くらいじゃないの?

まだまだ言いたい事は山ほどあるのですが、この辺にしときましょう。

久しぶりに突っ込みまくってしまいました。

七つの会議

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テレビドラマ化もされた池井戸潤の同名企業犯罪小説を、野村萬斎主演で映画化。中堅メーカー・東京建電の営業一課で万年係長の八角民夫は、いわゆる「ぐうたら社員」。トップセールスマンで、八角の年下である課長の坂戸からは、そのなまけぶりを叱責され、営業部長・北川誠が進める結果主義の方針の下、部員たちが必死で働く中、八角はひょうひょうとした毎日を送っていた。そんなある日、社内でパワハラ騒動が問題となり、坂戸に異動処分が下される。坂戸に代わって万年二番手に甘んじてきた原島が新しい課長として一課に着任するが、そこには想像を絶する秘密と闇が隠されていた。八角役を自身初のサラリーマン役となる萬斎が演じ、香川照之及川光博片岡愛之助音尾琢真立川談春北大路欣也といった池井戸ドラマ常連俳優が顔をそろえる。監督は「陸王」「下町ロケット」「半沢直樹」など、一連の池井戸ドラマの演出を手がけた福澤克雄
(映画.comより)

池井戸潤原作というとやはり窮地に追い込まれた企業戦士が上部の不正を暴いていくサラリーマン版水戸黄門の様な痛快な勧善懲悪モノというイメージがあります。
映画で言えば昨年6月に公開された『空飛ぶタイヤ』が記憶に新しいですね。
本作もやはり過去の池井戸作品を踏襲した様な作品なのでしょうか。
それでは、今回もいってみよう!!

まず、冒頭のシーン。
香川照之演じる営業部長・北川誠が部下を集め、叱責するところから始まります。
営業という仕事において売れる事こそ正義、売れない者は完膚なきまでに罵倒される。
結果の出せない営業二課課長の原島(及川光博)はケチョンケチョンに北川から恫喝に近い叱責を受けます。
ここなんかは見ているこちらにも緊張感が伝わってくる。
香川照之さんと及川光博さんの迫真の演技がよりその張りつめた空気感を作り出していたなと思います。
とりわけ香川さんの恫喝演技は迫力ありました。
個人的には『アウトレイジ』の様なヤクザ物で見たいなと思ったものです。

そんな中、いびきをかきながら写されるのが野村萬斎演じる八角民夫。
彼は社員からは皮肉を込めて、「居眠りハッカク」と呼ばれるぐうたら社員です。
名探偵コナン』には「眠りの小五郎」こと毛利小五郎なんてキャラクターが居ますが、このハッカク居眠りしながらも実はスゴいヤツなんて設定かなと想像していました。

ところが、そのハッカク。
全然スゴさを見せない。
ホントにぐうたらぐうたらしてるだけ(笑)
ま、ストーリーを追うごとにこのハッカクこと八角の人物像が浮かび上がってくるんですけどね。

それにしても、この前半部見て思った事。
ブラック会社そのものじゃん。俺は絶対ムリ~」て感じだったんですが、これがサラリーマン社会というものなんですか?
上司から無理難題なノルマを突き付けられ、それを達成するまでに靴の底をすりへらし、頭を下げ、理不尽な叱責にも耐える。
僕なんかはフリーランスで自由な働き方をしてるもんですから、全く異世界の光景を見ている様でした。
でも、この映画って社畜と呼ばれながらも、会社の為に粉骨砕身汗水垂らして働くサラリーマンにとっては痛快この上ない作品なんだろうなと思います。
事実、池井戸作品で『半沢直樹』が受けたのってそういう層の人達に見事刺さった感じでしたしね。

で、この作品を見て感じたのですが、今は働き方改革だなんだと言われて仕事ひとつ取っても多様化してる時代。
しかし、現実的には本作に出てくる様な売り上げを上げる為には手段を選ばない、サラリーマンは会社の為に尽くせとそんなスタンスの会社はごまんとあるわけであって決して綺麗事だけでは済まないのだと思います。
本作はそんな現代の会社組織へのアンチテーゼとして、問題を投げ掛けた。
そんな側面もあるのではないかと思っています。

そしてそれを会社という組織の中でうごめく人間達をフィーチャーしながら群像劇として描いていくのが印象的でした。
主要なキャストとしては前述の野村萬斎香川照之及川光博ほか片岡愛之助、藤森慎吾、音尾琢真、岡田浩暉、木下ほうか、橋爪功そして北大路欣也も登場する。
豪華な面々ですが、皆さん非常に濃い方々ばかり。
女性陣だと実質主役的な活躍を見せる朝倉あきにこちらは出演シーンの少ない吉田羊と土屋太鳳。
太鳳ちゃんではなく朝倉あきが目立つというなかなか思いきったキャスティング。(朝倉あきさんは良い女優さんですよ!)
オリラジ・藤森さんの配役なんかも良かったですね。
個人的に藤森さんのサラリーマン役と言えば『闇金ウシジマくん』が印象深いのですが、チャラ男キャラから脱してこういうインチキくさいサラリーマンをこれからも見たいと思いました。

それにしても組織のトップというとおしなべて汚いものですね。
いや、そういうキャラ付けをしないと話しが盛り上がらないし、スカッとしたいサラリーマンの皆様にとってはその方がカタルシスを生み出しやすいのでしょうね。

これまでの池井戸作品に見られた勧善懲悪なサラリーマン版水戸黄門観ももちろんありますし、それだけにとどまらない人間ドラマも見応えがありました。
野村萬斎さんのサラリーマン役というのも意外性があって面白かったです。

後、断言しておきます。
この映画、見終わった後、ドーナツが食べたくなりますよ!

十二人の死にたい子どもたち

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天地明察」「光圀伝」といった時代小説や「マルドゥック・スクランブル」などのSF小説で人気の作家・冲方丁が初めて現代を舞台に描いたミステリー小説を、「イニシエーション・ラブ」「トリック」など数々のヒット作を送り出してきた堤幸彦監督が映画化。閉鎖された病院を舞台に、それぞれの理由で安楽死をするため集まった12人の少年少女が、そこにいるはずがない13人目の少年の死体を見つけたことから始まる犯人捜しと、その過程で少年少女たちの死にたい理由が徐々に明らかになっていくことで、変化していく人間関係や心理を描いた。出演には杉咲花新田真剣佑北村匠海高杉真宙黒島結菜ら人気若手俳優がそろう。脚本は岸田國士戯曲賞受賞経歴を持つ劇作家の倉持裕
(映画.comより)

まず、この作品に触れる前に、僕の鑑賞前の心境について伝えておきます。
ぶっちゃけこのテの作品って当たりハズレが大きいという印象がありまして、しかも堤幸彦監督でしょ?
TRICK』とか『SPEC』とかドラマだと面白いのに映画になると…な人というイメージがありまして。
しかも近年だとあの『RANMARU』という破壊的な作品を生み出したという印象があまりに強すぎて躊躇してたというのが正直なところです。
しかし、蓋を開けてみればこれがなかなかどうして、少年少女の苦悩を内側からえぐり出していくそしてそれを社会全体へ投げ掛けていく様な良く出来た作品だったと思います。

まず、本作なのですが、舞台は閉ざされた廃病院でのみ展開されます。
しかも、彼らが死に場所として集まった霊安室と思わしき部屋で会話劇が中心となるのでさながら舞台演劇でも見ているかの様なつくりです。
今、注目の若手俳優達を集めて展開されるミステリアスな人間ドラマとなっているので、同世代の若い人達への訴求は非常に強い作品だなと思います。
しかも、それぞれキャラクター分けをしており、いじめられっ子、ヤンキー、ギャル、ゴスロリ、優等生から何と人気モデルまで居る。
いってみれば現代の中高生くらいの子をタイプ別にわけた様なキャラ設定。
しかも普段の生活であれば交わる事のない彼らがこの閉ざされた空間に集う。
その目的は「死」。

で、その死にたい理由だってそれぞれなんですよね。
両親との関係性、いじめ、不治の病、援助交際で感染された病気、追っかけていた芸能人の死に自由を求めて等々。
でもそれってケースは様々であってもそして人から見たら「何でそんな事で?」と思ったとしても、彼らにとっては切実な問題なんだなと思います。
特に家族との不協和音、いじめ、日常生活での孤独感や疎外感等は今の若い子達の身近な問題として捉えられる部分ですよね。
彼らの死にたい理由は我々大人達が考えるべき問題を提起していたかの様でした。

演じていたキャスト陣は非常に個性の強い面々でしたが、個人的には杉咲花ちゃんは良かったな。
正直、これまでの彼女のイメージと言えば童顔ゆえに何でしょうね。
どこかあどけなさというかピュアというかそんな印象だったんですよね。
個人的には2016年の『湯を沸かすほど熱い愛』という作品での宮沢りえの娘を演じた彼女が印象的でして、「こんなあどけない顔でそんな大胆な演技をするのか!」と度肝を抜かされましたが、そこから2年少々。
女優としてキャリアを積んだ彼女が見せた本作でのキャラクターは彼女の新たな一面を浮かび上がらせ、良い意味での衝撃がありました。
また、橋本環奈ちゃんも良い演技をしてましたね。
ここ最近は人気作にも引っ張りだこなハシカンですが、やはり『銀魂』での神楽のイメージが強いです。
しかし、本作ではシリアスそのもの。
これまた彼女の新たな面を引き出したまさにキャスティングの妙といったところでしょうか。

そして密室でのサスペンスという点では前回の『マスカレード・ホテル』にも通じるのですが、『マスカレード』がミステリーの中に喜劇性があったのに対し、今作は死と向き合う作品ならではで実にシリアスな作風。
病院内の雰囲気も相まってその怪しい雰囲気はかなり演出されていたのではないかなと思います。

ただ、注意しておきたいのは予告編で見たイメージからホラー的な連想をされる方、或いは『バトル・ロワイヤル』の様なサイケな殺し合いの様なイメージは持たないで頂きたい。
むしろ「死にたい」という願望に端を発しながらも、自分たちを見つめそこから新たな人生に向き合っていこうという肯定的な内容だったという事をお伝えしておきましょう。
更に言えば集まった十二人の群像劇です。
彼らがその思考に至るまでのプロセスを描写しながら、彼ら自身の内面をフォーカスする様な人間交差点的な作品でもありました。

それからこれは個人的な要望なのですが、舞台となった廃病院にもっとおどろおどろしさが欲しかったです。
というのもこの病院って今は使われていないのは一目瞭然ではあるものの、割と綺麗なんですよ。
エレベーターは動くし、電気を入れれば自動ドアも動く。
待合室のイスも綺麗だし、背景のポスターとかかざってある絵なんかも決して傷んでいない。
恐らく閉鎖して数ヶ月~一年程度といったところ。
この作品に合わせ、病院の細部もこだわってほしかったですね。
壁のポスターはビリビリに破れている、待合室のイスも壊れていて中の素材が出ている、照明が腐っていて今にも落ちてきそう、壁一面に落書きがしてある等々よくある廃墟の光景が現れていたらよりこの作品のダークさが際立って良かったんですけどね。
あくまで個人的な要望ですが。

それから気になったのはサスペンスとしては非常にうまく機能していたとは思うし、それぞれの死にたい理由やそこに至るまでの背景とか各自の人間的な部分はよく描かれてはいました。
しかし、肝心の集団自殺をするか否かの議論に深みがないんですよ。
理由は明白。
サスペンスやヒューマンドラマ要素に比重が傾き過ぎて、後半駆け足にならざるを得なかった。
だから議論をするにも皆侃々諤々とならないし、おとなし過ぎて話しにリズムがない。
そこが何とももったいなかったな。

なんて後半は軽く愚痴っちゃいましたが、内容的には面白かったです。
今、勢いのある若手俳優の競演も含めて是非、劇場でご覧下さい。

マスカレード・ホテル

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東野圭吾のベストセラー小説「マスカレード」シリーズの第1作「マスカレード・ホテル」を映画化し、木村拓哉が初の刑事役に挑んだミステリードラマ。都内で3件の殺人事件が発生した。現場にはいずれも不可解な数字の羅列が残されていたことから、連続殺人事件として捜査が開始される。警視庁捜査一課のエリート刑事・新田浩介は、その数字が次の犯行場所を予告していること、そしてホテル・コルテシア東京が4件目の犯行場所になることを突き止める。犯人を見つけるためホテルのフロントクラークに成りすまして潜入捜査に乗り出した新田は、教育係である優秀なフロントクラーク・山岸尚美と衝突を繰り返しながら、事件の真相に近づいていく。ヒロインとなるホテルマンの尚美役に長澤まさみ。「HERO」シリーズの鈴木雅之がメガホンをとり、「ライアーゲーム」シリーズの岡田道尚が脚本を担当。
(映画.comより)

動員ランキング二週連続一位
木村拓哉の人気はまだまだ健在とばかりに目下大ヒット中のマスカレード・ホテル。
ワタクシも公開早々に見て参りました!
1月20日日曜日。
公開初週の週末とあってかなり多くの人が入ってましたよ。
そんな『マスカレード・ホテル』
どんな作品だったでしょう。
今週も張り切って行ってみよう!

昨年夏に公開された『検察側の罪人』という作品。
あの作品を見た僕が見た木村拓哉の印象をSMAPのキムタクではなく、俳優の木村拓哉像を見事に確立していたとお伝えしました。
これまでの木村拓哉のイメージを180度変える様な実直で深みのある人物像。
それでいてラストの意外性のある展開に「えっ、キムタクにこんな事させるの?」という驚きと共に新鮮さを感じたものです。
詳しくは過去のブログ記事を見て頂きたいのですが、ことこの『マスカレード・ホテル』においては『検察側』で見せた新たな俳優としての木村拓哉と以前のキムタクらしさがうまく調和した演技だったと思います。
前提として言えば木村拓哉が今回演じたのは新田という刑事。
ボサボサの髪に無精髭というややもすればアウトローな匂いを醸し出す跳ねっ返りの刑事なんです。
そんな彼が潜入捜査の為にやってきたのが今作の舞台となるホテル。
こともあろうに彼はそのホテルの顔とも言えるフロントを担当するわけです。
しかし、そんな格好でフロントに立たせるわけにはいかない。
整髪をさせ、ユニフォームをパリッと着させる。
すると見違える程スマートなホテルマンの出来上がりとなるわけです。

そんな彼を指導する言わば教育係となるのが、長澤まさみ演じる山岸尚美。
当然、そんな二人は価値観の違いから当初はぶつかったりもするのですが、次第に変化が生じてくる。
要は『HERO』等でこれまで見てきたお馴染みの展開ですね。
その辺りを見ると以前の木村拓哉が好きな人にとっては何とも取っつきやすい事でしょう。
「キムタクはこうでなくっちゃ」なんて安心感が生まれるかもしれませんね。
しかし、あくまで捜査の為、仕方なくホテルマンをやっている新田も接客の場をこなすうちにホテルマンとしての自覚が生まれ、人間としても成長していく。
そうなるとあの『検察側』で見せた俳優・木村拓哉へと変わっていきます。
とんでもなく理不尽な要求を客から突きつけられても応対する新田。
お客様をお迎えする上での姿勢も変わってくる。
その時はまさにホテルマンそのものになっていきます。

一方の長澤まさみについて。
僕はここ近年の長澤まさみさんはホント作品に恵まれているなと思います。
銀魂』シリーズではこれまでのキャリアでなかなか見せる事のなかったはじけたコメディエンヌっぶりを見せたかと思えば『50回目のファーストキス』で見せた真っ直ぐでピュアなヒロイン。
演技のバリエーションも豊富で、女優として今最も脂がのってる時期ではないかと思います。
この『マスカレード・ホテル』の上映前に流れた『コンフェディマンスjp』の劇場版の予告を見ても思いましたね。
で、そんな彼女が本作で演じる出来るホテルウーマンなんですよね。
これがまたキレッキレで良いんですよ。
はじめはギスギスしてるんですけど、新田のホテルマンとしての成長に相まって彼女もまた、次第に彼の捜査に協力する様に。
いつの間にか良いバディになってたりします。

他にも渡部篤郎小日向文世生瀬勝久前田敦子濱田岳、奈々緒、石橋凌笹野高史宇梶剛士梶原善松たか子等豪華キャストが勢揃い。
とりわけ木村拓哉松たか子の二人をこんな形で見るなんて!という驚きがありました。(ネタバレになるので詳しくは言いませんが)
ストーリー的にもわかりやすいですし、カップルで見るデートムービーとしても最適かもしれません。

ただ、ここからは敢えての苦言ですが、邦画の悪いところ。まぁ、邦画と十把一絡げにするのは良くないかもしれませんが、いわゆるテレビ局製作にありかちな粗が出てしまったのば事実ですね。
生瀬勝久演じるクレーマー気質の客が新田を罵倒し、土下座を強要するシーン。
こういうシーン自体もありがちなんですが、周囲の客が動きを止めて固唾を飲みながら棒立ちでこの二人を見続けるとか。
後、豪華キャスト勢揃いなのはいいけどキャスティングがドラマ寄り更に言えば三谷幸喜寄りかな。
いや、それ自体が悪いとは言いませんよ。
欲を言えばもっと意外性のある人が出てほしかったな…て思ってたら出てたわ、意外な大物。
しかもエンドロールに特別出演として。
でも、あの人一体どこに出てたんだ、誰か教えて~!!
ホント、誰もが知ってる超ビッグネームです!

それからこの映画、ホテルを舞台としてるだけあってホテルの見せ方が素晴らしい!
ホテルのロビーならではのあのキラキラ感!
少なくとも「こんなホテルに泊まってみたい」と思わせる様な見せ方でしたね。

それからホテルの宿泊客をいち出演者ではなく、彼らにまつわるストーリーを織り込んだ群像劇としても楽しかったし、ホテルの仕事を写し出したお仕事ムービーとしても見せてくれる作品でした。

後、個人的に良かったのが、エンディングでは敢えて主題歌をつけず、サウンドトラックからのインストゥルメンタルでしっかり終わらせてくれた事。
どれだけ内容が良くても主題歌が「あれ?」て感じだとすっきり劇場を後に出来なかったりします。
更にそのエンドロールでの背景画も良かったです。
テレビ型映画という点に不安はあったのですが、細部へのこだわりが感じられ、思ってたよりは良い映画でしたよ。

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話

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筋ジストロフィーにかかりながらも自らの夢や欲に素直に生き、皆に愛され続けた実在の人物・鹿野靖明さんと、彼を支えながらともに生きたボランティアの人々や家族の姿を描いた人間ドラマ。大宅壮一ノンフィクション賞講談社ノンフィクション賞をダブル受賞した書籍を原作に、「ブタがいた教室」の前田哲監督がメガホンをとり、大泉洋が主演を務めた。北海道の医学生・田中はボランティアとして、身体が不自由な鹿野と知り合う。筋肉が徐々に衰える難病・筋ジストロフィーを12歳の時に発症した鹿野は、いつも王様のようなワガママぶりで周囲を振り回してばかりいたが、どこか憎めない愛される存在だった。ある日、新人ボランティアの美咲に恋心を抱いた鹿野は、ラブレターの代筆を田中に依頼する。しかし、実は美咲は田中と付き合っていて……。医学生・田中を三浦春馬、彼の恋人・美咲を高畑充希がそれぞれ演じる。
(映画.comより)

まぁ、ぶっちゃけ言うとですね~、予告編見た段階ではまず僕の選択肢から外れていたんですよ。
大泉洋が傍若無人な振舞いの障害者を演じ、真夜中にバナナが食べたいなんてわがままを言い、高畑充希が買って来たバナナをドンとテーブルに置き、「今怒ってます」のテロップ。
そこに被せる様に「あ~、今グッときた~」のセリフ。
よくある残念な邦画かな~なんて思っていたんですよ。
しかし、母親が見たいと言い出したので、まぁこれも親孝行のうちなんてあくまで付き添いで見に行くかくらいの感じだったんですよ。

ところが実際に見たらいや~、いい意味で騙されたわ~。
良かったです!

では内容に触れていきましょう。
予告編で見たわがままな障害者・鹿野靖明さんが冒頭からその暴君の様な振舞いを見せます。
正直確かにイラっとします。
でも、そこはそれでいいんです。
高畑充希演じる美咲。
なかなか過激な発言します。
でもそれはボランティアとは全く無縁の市位の人間として率直な感想でもあり、実際にこの映画を見た人の多くが感じる事でもあります。
そして三浦春馬演じるボランティアの医学生・田中が「美咲ちゃん、それは言い過ぎ」とたしなめるわけです。
この田中くんと美咲ちゃんの関係性を知らない鹿野さんが美咲ちゃんにベタボレしちゃうというのが一連の流れです。

この前半部から既に良い流れなんですよね。
障害を題材にするとどうしても道徳的な物になりがちなのですが、この作品において言えば笑い或いは怒りという感情に訴えかけてるんですよね。

実際の障害者の方の話しで聞いた事あるのですが、障害に対して身構えないで健常者と同じ様な接し方で向き合ってほしいという思いを持たれる方は多い様です。
乙武さんだったかな?

この作品においての鹿野さんと周囲のボランティアの人達の関係性は鹿野さんと仲間達なんですよね。
介護されるのは鹿野さんですが、当の鹿野さんはわがまま言い放題。
じゃあ何でそんな鹿野さんにみんなは手を尽くすの?
それが劇中で明かされる様になってくるとこの鹿野靖明という人が実に魅力的に写ってくるんですよ。

実は鹿野さんがみんなにわがまま言うのは自分自身のポリシーから。
それについてはここでは触れません。
ただ、「他人に迷惑をかけるな」という世の中の風潮に風穴を開けるかの様な価値観にその哲学を生み出した鹿野さんに尊敬の念をおぼえます。

また、親子の関係についても深い描写があるんですよね。
綾戸智恵演じる鹿野の母親が鹿野の元を訪れるのですが、鹿野は常にお母さんにきつく当たるんですよ。
でも実はこれは彼なりの優しさであったりする。
不器用だけどめちゃくちゃ愛に溢れた人なんですよ、鹿野さんって。

鹿野さんが美咲ちゃんに一目惚れ。
その美咲ちゃんは田中くんとの関係がぎくしゃく。
美咲ちゃんも鹿野さんの人間性に惚れ込み、ボランティアに積極的に来る様になるとあわや恋仲に?
なんて展開もあるんですが、ここでは健常者と障害者の恋愛云々というテーマが盛り込まれていました。
いわゆる恋愛スイーツ映画は苦手なんですが、こういう主題がしっかりした物に関しては話しは別。
この二人がどういう展開になるのかは割と熱心に見ておりました。

で、鹿野さんが何でこんなに輝いて見えるのかなんですが、彼には夢がある。
そしてそれに向かって懸命に努力をしているって事なんですよね。
講演会を行うシーンで彼がその夢を語るのですが、
見ているこちらが勇気をもらいますよ!

夢を持ち、努力を怠らない。
毒舌家だと人を楽しませるユーモアを忘れない。
慈愛に満ちた好人物。

そりゃ人に慕われるよ!鹿野さん。

なんてすっかり鹿野さんに惚れ込んじゃいました。

もちろん実在した鹿野さんが素晴らしい方だったのは言うまでもないですが、この映画で鹿野靖明さんを演じた大泉洋さんの演技力が見事ですよね!

また、田中くんの良く言えば優しい好青年、悪く言えば優柔不断で決断力がなく流されやすいヤツ。
三浦春馬さんが見事に好演していたなと思いますし、気の強い美咲ちゃん。
個人的に高畑充希さんだと『DESTINY 鎌倉ものがたり』の一色亜紀子役が高畑さん史上最上級のハマり役であると約一年程前に評しましたが、それに勝るとも劣らない名演技でした。

それから本作の最大の見所と言えばやはりラストなんですが、個人的にここが最も良いポイントだと思ってます。
病とか人の死が作品に絡んでくるとどの様な演出が加わるかというのは重要だと思いますが、例えば過剰な演出でもって徹底的に観客を泣かせにかかる映画ってありますよね?
それが悪いとは言いません。
確かに人の感情を揺り動かすには少々オーバーな演出だって時には必要です。
ただ、一方では言葉悪いですが、感動ポルノと否定的に捉える人も居るでしょう。
その点、本作はあっさりしてる。
鹿野さんの容態が悪化してからの闘病シーンにだってしっかり笑いが盛り込まれているし、泣きのシーンだって鹿野さんを慕っていた人達や両親からの目線で鹿野靖明とは?という人物論をあくまでさらっと語るだけ。
それでもめちゃくちゃこみ上げてくるんですよ。
それは作中で鹿野靖明が見せた人物像とそのドラマをこれまでたっぷりと見てきたからこそなんですよね。
つまり、見ている僕らが完全に鹿野さんに心捕まれちゃってるが所以なんです。
鹿野靖明さんという人はもうこの世には存在しません。
だけどもし鹿野さんの様な人が身近に居たら友達になりたいななんて思いましたよ。

それから本作の舞台となっているのは1994年の北海道。
この時代ならではの空気感がこれまたさらっと演出されていたのは良かったですね。
時代の空気感を出すには例えば当時のヒット曲を流すなり人気があったテレビ番組を写すなり登場人物に流行ったフレーズなんかを言わせたりいくらでもやり方はありますよね。
しかし、本作で印象的だったのは敢えてその手法を取り入れず、通信手段ひとつで効果的に演出してました。
この時代にはメールやラインもないし、そもそも携帯電話そのものも一部の人しか所有していませんでした。
田中くんと美咲ちゃんの様な若いカップルの場合、お互いの家の固定電話で連絡を取り合うしかなかったわけです。(ポケベルもあったけど劇中には登場していない)
この二人の場合、田中くんが美咲ちゃんのバイト先の喫茶店に電話して取り次いでもらってました。
今では考えられない光景ですが、この当時はこうして若い二人は愛を育んでいってたのですね。

この様に演出面で言えばかなり僕好み。
過剰な演出を排除して、サラリとでも確実に心に訴える手法はかなり好印象です。

笑いはふんだんに涙はあっさりと。
障害や病気というハードルの高い題材でここまでの作品を作り上げた事は称賛にあたると思います。

この冬、いちばんのオススメ作です!

アリー/スター誕生

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歌の才能を見いだされた主人公がスターダムを駆け上がっていく姿を描き、1937年の「スタア誕生」を皮切りに、これまでも何度か映画化されてきた物語を、新たにブラッドリー・クーパー監督&レディー・ガガ主演で描く。音楽業界でスターになることを夢見ながらも、自分に自信がなく、周囲からは容姿も否定されるアリーは、小さなバーで細々と歌いながら日々を過ごしていた。そんな彼女はある日、世界的ロックスターのジャクソンに見いだされ、等身大の自分のままでショービジネスの世界に飛び込んでいくが……。世界的歌姫のガガが映画初主演でアリー役を熱演。もともとはクリント・イーストウッドが映画化する予定で進められていた企画で、「アメリカン・スナイパー」でイーストウッドとタッグを組んだクーパーが初監督作としてメガホンをとり、ジャクソン役でガガとともに主演も果たした。
(映画.comより)

それにしても映画シーンにおいて2018年という年を振り返った時、音楽映画の年だったと後年語られているんでしょうね。
どれだけ音楽映画が公開され、ヒットを飛ばしてきたか。
そしてそんな2018年の年の瀬にまた新たな名作が日本で公開されました。
『アリー/スター誕生』。
1937年の『スタア誕生』からこれまで4回に渡ってリメイクされてきた作品。
とは言え、今作の前にリメイクされたのはかれこれ40年前。
自分はこれまでの作品は全くの末見なので今作をまっさらな状態で鑑賞してきました。
当初はクリント・イーストウッドが監督をし、ビヨンセが主演をつとめる予定だったのが、話しが流れ、今作の主演をレディー・ガガ、主演&監督をブラッドリー・クーパーという座組に落ち着き、2017年春に撮影がスタートしたとの事。

本作の内容に触れる前に僕にとってのレディー・ガガについてお話ししておきます。
ぶっちゃけて言うと2008年~2011年頃まではめちゃくちゃ好きでした。
『ジャストダンス』、『ポーカーフェイス』、『バッドロマンス』からの『ボーン・ディス・ウェイ』までは神がかっていたなと思います。
アルバムもよく聴いてましたよ♪
ところが2013年のアルバムが微妙だったトコロから次第に心が離れていきまして、久しくレディー・ガガの曲は聴いていないです。
日本でのセールスも『BORN THIS WAY』をピークにアルバムのセールスも低下してる様ですが…。

とは言え、ここ日本において言えばマドンナ、マライア以来の認知度を誇る女性アーティストですし、注目される作品となったのは無理もありませんね。

そんなレディー・ガガに関してですが、これまでのパブリック・イメージを打ち破り、ナチュラルな女性を見事に演じきっています。
冴えない生活を送り、場末のバーで唄っていた一人の女性がスターダムにのしあがっていく様なんかはレディー・ガガの半生とも重なり、ある種彼女の自伝的側面も強い作品でした。
いや~、それにしてもレディー・ガガという完成されたアーティストをここまで丸裸にさせるとはスゴい!
奇抜な衣装を身にまとい派手なステージを繰り広げるあのガガ様ですよ。
もっとも別の意味でも裸にさせてるんですけどね。
ま、とりあえずそれは置いといて(笑)

一方の男性・ジャクソンを演じたブラッドリー・クーパー
世界的なカントリー・ロックシンガーである彼。
冒頭から彼の視点から見た客席更に歌唱シーンが入り、作品の性質こそ違いますが、『ボヘミアン・ラプソディ』のそれに通じるものかあり、ワクワクさせてくれます。
そして彼が見いだすのがレディー・ガガ演じるアリーなのですが、ここまではプロデューサーとシンガーの関係性が構築され、そして二人は恋仲へと発展させます。
どんどんスターダムになっていくアリー、その一方で酒により堕落していくジャクソン。
この二人のバランスが何と言っても本作の肝と言えるでしょう。
とりわけこの二人の印象的なシーンと言えばアリーの晴れの舞台を泥酔したジャクソンが台無しにするところですよね。
二人の対比を残酷にも浮かび上がらせるシーンとして、この映画を見た人ならば誰しもが衝撃を受ける場面だと思います。

さて、この映画なんですが、やや退屈に思えるシーンが少々…いや、多々あります。
2018年の音楽映画と対比してみましょう。
グレイテスト・ショーマン』、『リメンバー・ミー』、『ボヘミアン・ラプソディ』。
いずれも音楽シーンはもちろん、それ以外のシーンでもテンポも良かったですし、飽きさせない作りや演出はそこかしこにありましたよね。
ところがこの『アリー/スター誕生』。
容赦なく退屈にさせてくれる。
それも言っておきます。
敢えて意図的にです。
でもそれはブラッドリー・クーパーが監督として未熟だからという事ではなく、ブラッドリー・クーパークリント・イーストウッドの影響を多分に受けているからというところに尽きるんですよね。
元々、ブラッドリー・クーパー
イーストウッドの『アメリカン・スナイパー』にも出ていますし、本作だって前述の様に当初はイーストウッドがメガホンを取る予定だったのです。
その流れを汲むにあたってやはりイーストウッドイズムが継承されるわけですね。
ひとつの物語を実在するドキュメンタリーの様に撮る手法。
色使いと言い、手持ちカメラのぶれ、アリーとジャクソンの日常シーンにおけるリアリティズム。 
映画通ほど唸る作品なのでしょうが、総じて言えば好き嫌いがはっきり別れる作品でしょう。

それからこの作品において特徴的なのが、あまり第三者の目線を入れず、アリーとジャクソン二人の世界を中心に展開されている点。
例えば前述の晴れ舞台での大失態なんて第三者から徹底的に叩かれる視点が入ってもおかしくないでしょう。
しかし、敢えてそれは入れずせいぜい身近な人から灸を据えられる程度。
この構造って何かに似てるなと思ったら『ラ・ラ・ランド』なんかはそうでしたね。 
二人の視点から描かれる、だからこそあのエンディングが映える。
本作においてもまさに同じ事が言えるのですが、ラストはめちゃくちゃ際立って素晴らしいです!
それはこの二人のストーリーだからこそというのを感じられるからです。
ここから先は劇場でご覧頂くとしましょう。

それから音楽のシーンについて。
これもよく『ボヘミアン・ラプソディ』と比較されるので気の毒でもあるのですが、物足りないなんて声も聞きます。
理由は簡単。
ボヘミアン・ラプソディ』の場合、ラスト20分のライブエイドのシーンで全てを持っていくかの様なカタルシスを生み出しているし、そもそもあれがあるからこそ多くのリピーターを生み出しているわけじゃないですか。
対してこの『アリー/スター誕生』の場合、ビターなストーリーの中に寄り添う様に曲を配置する。
それも決して派手な曲ではないが、しかし確かに心にじわじわと沁みてくる様な日本の演歌に近い楽曲なんですね。
なので比べる対象が違うし、そもそも同じ土俵の上で競う相手ではないんですよ。
ボヘミアン・ラプソディ』には『ボヘミアン・ラプソディ』の『アリー』には『アリー』の良さがあるというべきなのでしょうが、如何せん公開のタイミングがタイミングなだけにね…。

とりあえず『ボヘミアン・ラプソディ』の事は一回頭から切り離してピュアな気持ちで見る事をおすすめします!