きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

十二人の死にたい子どもたち

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天地明察」「光圀伝」といった時代小説や「マルドゥック・スクランブル」などのSF小説で人気の作家・冲方丁が初めて現代を舞台に描いたミステリー小説を、「イニシエーション・ラブ」「トリック」など数々のヒット作を送り出してきた堤幸彦監督が映画化。閉鎖された病院を舞台に、それぞれの理由で安楽死をするため集まった12人の少年少女が、そこにいるはずがない13人目の少年の死体を見つけたことから始まる犯人捜しと、その過程で少年少女たちの死にたい理由が徐々に明らかになっていくことで、変化していく人間関係や心理を描いた。出演には杉咲花新田真剣佑北村匠海高杉真宙黒島結菜ら人気若手俳優がそろう。脚本は岸田國士戯曲賞受賞経歴を持つ劇作家の倉持裕
(映画.comより)

まず、この作品に触れる前に、僕の鑑賞前の心境について伝えておきます。
ぶっちゃけこのテの作品って当たりハズレが大きいという印象がありまして、しかも堤幸彦監督でしょ?
TRICK』とか『SPEC』とかドラマだと面白いのに映画になると…な人というイメージがありまして。
しかも近年だとあの『RANMARU』という破壊的な作品を生み出したという印象があまりに強すぎて躊躇してたというのが正直なところです。
しかし、蓋を開けてみればこれがなかなかどうして、少年少女の苦悩を内側からえぐり出していくそしてそれを社会全体へ投げ掛けていく様な良く出来た作品だったと思います。

まず、本作なのですが、舞台は閉ざされた廃病院でのみ展開されます。
しかも、彼らが死に場所として集まった霊安室と思わしき部屋で会話劇が中心となるのでさながら舞台演劇でも見ているかの様なつくりです。
今、注目の若手俳優達を集めて展開されるミステリアスな人間ドラマとなっているので、同世代の若い人達への訴求は非常に強い作品だなと思います。
しかも、それぞれキャラクター分けをしており、いじめられっ子、ヤンキー、ギャル、ゴスロリ、優等生から何と人気モデルまで居る。
いってみれば現代の中高生くらいの子をタイプ別にわけた様なキャラ設定。
しかも普段の生活であれば交わる事のない彼らがこの閉ざされた空間に集う。
その目的は「死」。

で、その死にたい理由だってそれぞれなんですよね。
両親との関係性、いじめ、不治の病、援助交際で感染された病気、追っかけていた芸能人の死に自由を求めて等々。
でもそれってケースは様々であってもそして人から見たら「何でそんな事で?」と思ったとしても、彼らにとっては切実な問題なんだなと思います。
特に家族との不協和音、いじめ、日常生活での孤独感や疎外感等は今の若い子達の身近な問題として捉えられる部分ですよね。
彼らの死にたい理由は我々大人達が考えるべき問題を提起していたかの様でした。

演じていたキャスト陣は非常に個性の強い面々でしたが、個人的には杉咲花ちゃんは良かったな。
正直、これまでの彼女のイメージと言えば童顔ゆえに何でしょうね。
どこかあどけなさというかピュアというかそんな印象だったんですよね。
個人的には2016年の『湯を沸かすほど熱い愛』という作品での宮沢りえの娘を演じた彼女が印象的でして、「こんなあどけない顔でそんな大胆な演技をするのか!」と度肝を抜かされましたが、そこから2年少々。
女優としてキャリアを積んだ彼女が見せた本作でのキャラクターは彼女の新たな一面を浮かび上がらせ、良い意味での衝撃がありました。
また、橋本環奈ちゃんも良い演技をしてましたね。
ここ最近は人気作にも引っ張りだこなハシカンですが、やはり『銀魂』での神楽のイメージが強いです。
しかし、本作ではシリアスそのもの。
これまた彼女の新たな面を引き出したまさにキャスティングの妙といったところでしょうか。

そして密室でのサスペンスという点では前回の『マスカレード・ホテル』にも通じるのですが、『マスカレード』がミステリーの中に喜劇性があったのに対し、今作は死と向き合う作品ならではで実にシリアスな作風。
病院内の雰囲気も相まってその怪しい雰囲気はかなり演出されていたのではないかなと思います。

ただ、注意しておきたいのは予告編で見たイメージからホラー的な連想をされる方、或いは『バトル・ロワイヤル』の様なサイケな殺し合いの様なイメージは持たないで頂きたい。
むしろ「死にたい」という願望に端を発しながらも、自分たちを見つめそこから新たな人生に向き合っていこうという肯定的な内容だったという事をお伝えしておきましょう。
更に言えば集まった十二人の群像劇です。
彼らがその思考に至るまでのプロセスを描写しながら、彼ら自身の内面をフォーカスする様な人間交差点的な作品でもありました。

それからこれは個人的な要望なのですが、舞台となった廃病院にもっとおどろおどろしさが欲しかったです。
というのもこの病院って今は使われていないのは一目瞭然ではあるものの、割と綺麗なんですよ。
エレベーターは動くし、電気を入れれば自動ドアも動く。
待合室のイスも綺麗だし、背景のポスターとかかざってある絵なんかも決して傷んでいない。
恐らく閉鎖して数ヶ月~一年程度といったところ。
この作品に合わせ、病院の細部もこだわってほしかったですね。
壁のポスターはビリビリに破れている、待合室のイスも壊れていて中の素材が出ている、照明が腐っていて今にも落ちてきそう、壁一面に落書きがしてある等々よくある廃墟の光景が現れていたらよりこの作品のダークさが際立って良かったんですけどね。
あくまで個人的な要望ですが。

それから気になったのはサスペンスとしては非常にうまく機能していたとは思うし、それぞれの死にたい理由やそこに至るまでの背景とか各自の人間的な部分はよく描かれてはいました。
しかし、肝心の集団自殺をするか否かの議論に深みがないんですよ。
理由は明白。
サスペンスやヒューマンドラマ要素に比重が傾き過ぎて、後半駆け足にならざるを得なかった。
だから議論をするにも皆侃々諤々とならないし、おとなし過ぎて話しにリズムがない。
そこが何とももったいなかったな。

なんて後半は軽く愚痴っちゃいましたが、内容的には面白かったです。
今、勢いのある若手俳優の競演も含めて是非、劇場でご覧下さい。