「空白」「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔監督が、石原さとみを主演に迎えてオリジナル脚本で撮りあげたヒューマンドラマ。幼女失踪事件を軸に、失ってしまった大切なものを取り戻していく人々の姿をリアルかつ繊細に描き出す。
沙織里の娘・美羽が突然いなくなった。懸命な捜索も虚しく3カ月が過ぎ、沙織里は世間の関心が薄れていくことに焦りを感じていた。夫の豊とは事件に対する温度差からケンカが絶えず、唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田を頼る日々。そんな中、沙織里が娘の失踪時にアイドルのライブに行っていたことが知られ、ネット上で育児放棄だと誹謗中傷の標的になってしまう。世間の好奇の目にさらされ続けたことで沙織里の言動は次第に過剰になり、いつしかメディアが求める“悲劇の母”を演じるように。一方、砂田は視聴率獲得を狙う局上層部の意向により、沙織里や彼女の弟・圭吾に対する世間の関心を煽るような取材を命じられてしまう。
愛する娘の失踪により徐々に心を失くしていく沙織里を石原が体当たりで熱演し、記者・砂田を中村倫也、沙織里の夫・豊を青木崇高、沙織里の弟・圭吾を森優作が演じる。(映画・comより)
前作「空白」では実際に起きた事件を元に万引きをした後、事故で衝突死した少女、彼女を追いかけたが為に結果的に悲劇を招いてしまったスーパー店長、そして不幸な事故によって娘を失った父親の複雑に交錯する人間模様を描き、見る者に衝撃を与えた吉田恵輔監督。今作はその「空白」に続く社会派の作品という事でこれは見なければならないという衝動に駆られ、鑑賞候補作品になっていました。
「空白」の様なズシンとくる作品である事は容易に想像出来たのでメンタルを整えて鑑賞。
5月18日の土曜日。MOVIX日吉津にて鑑賞して参りました。作風が作風だからなのか公開直後の週末ではありましたが、観客は数人程度。このテの作品は人を選びますからね。
さて、この作品。公式なアナウンスはありませんが、特定のモデルとなった事件が複数個あるのではないかと思いました。
幼女の行方不明事件と事件に際して矢面に立つ人に対しての誹謗中傷。更には直接の描写はありませんでしたが、ネットの書き込みからの自殺に誹謗中傷に対しての訴訟等等ここ数年でニュースで見た様な事象を複合的に重ねながらストーリーに投入。単純な善悪論に落ち着かせずに非常に多面性を含ませた上で見ている側に伝えていきます。
愛する我が娘がある日突然姿を消してしまう。当然親としての心境は察するに余りあるものがあります。とは言えニュースで見ているだけではその心的ダメージまでの想像が欠如してしまうのも事実です。
それをリアルな演技によって我々に訴えてくるのが石原さとみ演じる沙緒里という母親。地元のテレビ局のドキュメント番組やニュース報道等を伝いその悲痛な心情を時には吐露、時には感情を爆発させながら強く訴えかけてきます。その石原さとみさんの渾身の演技がとにかくすごい!
終始メンタル的に不安定で劇中彼女が僅かにも笑顔を見せるなんて場面はほぼ皆無。怒りと悲しみの感情のみで劇中は終始していきます。
また、彼の夫であり、行方不明の娘の父親を演じていたのが青木崇高さん。決して無関心なわけではもちろんないのですが、動揺を見せずに妻の沙緒里を支える姿が印象的です。それにしても青木崇高さんと言えば「ゴジラ-1.0」の演技が記憶に新しいですが、こういった重めの作風でもハマりますね。
それからマスコミやネットといった外部の露悪的な野次馬根性もしっかりと批判的なスタンスで捉えていましたね。例えばマスコミ。事件が発生した直後は連日取り上げるくせにしばらくすれば違うニュースを報道し、当該の事件ニュースの扱いが必然的に小さくなる。そもそもがニュースの報道には社会的問題を取り上げ、社会的正義を貫くという理念があるのかどうかも疑わしく、ニュースをエンターテイメントにしている悪趣味が潜んでいるのではないかと突きつけてくる様。沙緒里が頼りにする中村倫也演じる砂田が勤務するテレビ局の内部の人間だって視聴率重視であってヒューマニズムに欠ける発言をする者だっている。
また、ネットの書き込みだってそう。匿名掲示板においての誹謗中傷は近年厳罰化の傾向はあるものの、それでもまだまだ悪意に満ちた書き込みは後を絶たない。この映画では件のテレビ局製作のドキュメント番組でアイドルのコンサートに行った事が明かされると娘をネグレクトしてライブを見に行った毒親という文脈でネットが炎上する。いやいやたまたま一日母親が趣味に当ててただけでしょうが。物事の一片だけを切り取って誇大解釈をして、ネットでその論調を振りかざすその危うさをしっかりと指摘していましたね。
それからチラシを見た人による悪質なイタズラ電話というのも許し難い…だけどそんな軽いノリからくる悪質さも見ていて不快な感情を抱かせましたね?もちろん良識を持った人間であればそんな事をしないというのは大前提ですが、こんやヤツが一定数いるのが今の世の中なんでしょうね。
さて、今作は決してハッピーエンドではありません。かと言ってバッドエンドというわけでもなく、あくまでその後は見ている人の想像に委ねるというもの。この辺りも吉田恵輔監督らしいなと感じましたね。
石原さとみさんとにかく圧巻の演技でした!「52ヘルツのくじらたち」の杉咲花さん、「青春18×2 君へと続く道」の清原伽耶さんに続いて今作での石原さとみさんもまた来年の日アカノミネートは固いんじゃないかな?
彼女の演技を筆頭に見応え抜群の作品となっています!
是非劇場でご覧下さい!