きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

そして、バトンは渡された

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第16回本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの同名ベストセラー小説を、永野芽郁田中圭石原さとみの共演で映画化。血のつながらない親の間をリレーされ、これまで4回も名字が変わった優子。現在は料理上手な義理の父・森宮さんと2人で暮らす彼女は、将来のことや友だちのことなど様々な悩みを抱えながら、卒業式にピアノで演奏する「旅立ちの日に」を猛特訓する日々を送っていた。一方、夫を何度も変えながら自由奔放に生きる梨花は、泣き虫な娘みぃたんに精いっぱいの愛情を注いでいたが、ある日突然、娘を残して姿を消してしまう。主人公・優子を永野、血のつながらない父・森宮さんを田中、魔性の女・梨花を石原がそれぞれ演じる。監督は「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲。

(映画・com)

邦画でよくありがちな予告と言えば泣きをウリにするものです。「この映画泣けますよ〜」と大々的に煽ってくるやつですね。いわゆるコアな映画好き程そのテの予告を見るとネガティブに捉えがちでかく言う私もその一人です。ただ、それでも気になり、見たところ感極まって大号泣なんて事もありました。『君の膵臓をたべたい」なんかがそうでしたね。そういう事考えたらひねくれてる様ですが、案外ピュアなんですよ僕は(笑)

だからこそネットの誹謗中傷を見ると傷付くし、番組を挙げて抗議もするのです…ってだからもういいっちゅ〜の。

さて今回紹介する『そして、バトンは渡された』。これまた見た人の92%が泣いたと泣き煽り予告を何度となく目にして、ぶっちゃけて言えば若い女性を対象にした如何にもなお涙頂戴ものかななんて斜に構えておりました。しかし、しかしですよ!鑑賞する前の俺に言いたい!「もっと素直になれよ。」と。

複雑な事情を抱える永野芽郁が演じた優子。いつも無理した笑顔でその場をやり切り、そんな彼女に不快感を示すクラスメイト達。直接的にいじめられているわけではないんだけど、クラス内では浮いてしまってます。義理の父である田中圭演じる森宮さんとチグハグなんだけど、不器用なりにもささやかに暮らしています。

一方、石原さとみ演じる自由奔放な女性・梨花。娘のみぃたんには愛情をいっぱい振り撒きながらも常に女性としての幸せも追い求めています。

まるで別々の二組のシングルファーザーと娘、シングルマザーと幼い娘を中心にそのささやかな暮らしをフォーカスしていきます。

この流れを見ると全く無関係な二組が織りなす群像劇ともすればオムニバス作品なのかとすら思わせてくれます。しかし、やがてこの二組のストーリーがひとつに重なってくるんですね。そしてそれまでにいくつもの伏線を張り、そしてスマートな流れで結びつける辺りの手法は実にお見事と唸っちゃいました。

また、ところどころでの演出も映画として実に滑らかで楽しませて頂きました。その一例なんですが、梨花とみぃたん、更に大森南朋演じる実の父親が遊園地へ行く場面があります。親子三人で楽しい時間を過ごすのですが、父親が衝撃的な告白をします。その瞬間、まるど時が止まった様に三人は静止、しかしカメラは彼らを俯瞰的に捕え、まるで遠くで聴こえているかの様なメリーゴーランドの音だけが流れます。実際はメリーゴーランドの場所からさほど離れてはいないのですが、彼らの心理的な描写をあくまで声を使わずに伝えるそして確実に見ている人の心にも響く様な非常に効果のある演出だと思いました。

また、本作で面白かったのは自由な生き方とか本当に自分がやりたい事は?をさり気ない形で提示して見せた点でしょうか。

料理好き優子の進路は料理人になる事。そして調理の専門学校を卒業後、夢を実現してレストランの料理人となります。しかし、伝統を重んじる一流レストランの水が合わず、彼女は馴染みの定食屋さんでバイトをします。プレッシャーから解放された彼女はその定食屋の水が合っており、先述のレストランの時とは違うリラックスした表情を見せています。一方、岡田健史が演じた彼女の恋人。ピアニストとしての将来を嘱望されながらも、彼は音楽の道を選びません。音楽家ロッシーニの生き方が軸になっているのですが、そこに影響を受けた彼ならではの選択があったのです。

自分語りになり、恐縮ですが、私は関西の大手FM局でDJをしたく、事務所に入りレッスンを受け、オーディションを何度となく受けましたが、良い結果は得られませんでした。結果として山陰のコミュニティFMで使って頂き、今に至るわけですが、例え多少の批判を受けてもこの番組をやらせて頂き、他にも歴史を語り、時には事件や社会問題を話し、広く発信する事が出来ている。先述の様な大手局では恐らく通りにくい企画も採用して頂き、自由な表現の場を与えて頂いている。そんな事を考えると規模の大小やブランドが全てではなく、本人の幸福度はまた別の所にあるなんて思わせてくれました。

なんて映画から話しが反れましたので、戻しますね。

本作のキャストの皆さんには非常に魅了されました。その中でも特に心を持ってかれたのは石原さとみさんでした!この映画なんですが、この石原さとみさんが演じた梨花をどの様に見るかで全然印象が変わってくるかと思うんですよ。正直、みぃたんに接する梨花には同調出来ないんですよ。子供を着飾る事ばかりにお金をかけてちゃんとした教育が出来てる様に思えない。この辺りなんか見てたら虐待やネグレクトの問題を提起する様な社会派作品かな?なんて思いましたもん。更に自分が労働してお金を得るよりお金を持ってそうな再婚相手を見つける事に奔走する。彼女が美人で要領が良いからこそ出来る芸当ですけど、この辺りなんかは僕正直見ていてイラッとしてましたよ(笑)でもね〜、最後にそれが明かされてからの怒涛の展開にはやられましたね。この脚本や見せ方も当然素晴らしいのですが、石原さとみさんの演技があってこそだなと思いましたよ!

正直、僕は原作も読まず予備知識なしでこの作品は見ました!でも結果的にはそれで大正解でしたね!今年見た映画…少なくとも邦画の中ではかなりの良作だと思います。

是非劇場でご覧下さい!