きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

サイレント・トーキヨー

f:id:shimatte60:20201216165314j:plain

「アンフェア」シリーズなど手がけた秦建日子ジョン・レノンオノ・ヨーコの楽曲「Happy Xmas(War Is Over)」にインスパイアされて執筆した小説「サイレント・トーキョー And so this is Xmas」を映画化したクライムサスペンス。佐藤浩市石田ゆり子西島秀俊らの豪華キャスト陣を迎え、「SP」シリーズの波多野貴文監督がメガホンをとった。クリスマスイブの東京。恵比寿に爆弾を仕掛けたという一本の電話がテレビ局にかかって来た。半信半疑で中継に向かったテレビ局契約社員と、たまたま買い物に来ていた主婦は、騒動の中で爆破事件の犯人に仕立て上げられてしまう。そして、さらなる犯行予告が動画サイトにアップされる。犯人からの要求はテレビ生放送での首相との対談だった。要求を受け入れられない場合、18時に渋谷・ハチ公前付近で爆弾が爆発するというが……。
(映画.comより)

クリスマスシーズン真っ只中。
街にはクリスマスソングが流れイルミネーションが輝く一年最後の大イベントに浮き足立つそんな季節が今年もやって来ました。
クリスマスソング数多ありますが、日本ではド定番の山下達郎から近年ではback numberの『クリスマスソング』MARIAH CAREYWHAM!なんて何十年経ってもこの時期に必ず耳にするものです。
そして忘れてならないのがLENNON & YOKOの『HAPPY Xmas(WAR IS OVER)』ですよ!
ベトナム戦争の最中、世界中の戦争がなくなり誰もが平等にクリスマスと新年を祝える時が来る様にと願いが込められた反戦を唄うクリスマスソング。
製作から50年近く経ちますが、今なおJOHNの願う様な世界にはなっていない現状ではありますが、世界平和を願う気持ちは今なお世界中の人々の胸に響いています。
そんなクリスマスの名曲をモチーフに書かれた小説の映画版です。

さてこの映画、開始数分で度肝を抜かされる映像が登場してきます。
きらびやかに東京の街を照らす東京タワーの爆破シーンです。
この衝撃的な映像で一気に作品世界に心が誘導されていく事でしょう。
その後も渋谷のスクランブル交差点での爆破シーンが登場するのですが、本作最大の見せ場がこのシーンと言っても過言ではありません。
クリスマスの夜。
浮かれた若者達が集う渋谷の町。
話題のYouTuberにSNSにあげるべく自撮りで浮かれる若い女性、仕事帰りのOLにカップル。
都会の若者達のごくあり触れた光景がそこにはあります。
そして一斉にカウントダウンを済ませるとクリスマスを祝う賑やかな場面から一転。
阿鼻叫喚の地獄絵図と化していく光景がスローモーションという手法で生々しく映し出されていきます。
本来僕は日本映画において使われるこのスローモーションが苦手なのですが、こと本作に関してはうまく機能していましたね。
つい今まで正常な姿をしていた人々が惨劇に巻き込まれる事により、残酷な姿を露にさせられるその過程がリアリティーたっぷりに表現され思わず息をのんでしまいました。
とりわけ自撮りの少女の姿はより衝撃的でしたね。
笑顔で渋谷駅から出た彼女がほんの数分後には全身から血を流すその過程がまざまざと映し出されるわけですからね。
で、この衝撃的な映像から浮かび上がるのが平和ボケしている現代人への警鐘そのものでしてとりわけ渋谷に集まるいわゆるパリピ的な若者が浮かれはしゃぐ光景は我々地方に居る人でもニュース映像等を通じてこれまでよく目にして来ました。
そもそもこの映画で渋谷に集まっている連中というのは犯人の爆破予告を受けその爆破する様を見たいという不純な好奇心からですからね。
「まさか自分が巻き込まれるわけがない」という根拠のない確信。
そして巻き込まれて初めて気付く自らの愚かさ。
今まさにコロナ禍においての「自分がコロナにかかるわけがない」という根拠のない自信と重なる部分もあり、映画を通じての現代人への警鐘がはっきりと見てとれました。

とこの様に迫力あるシーンで心を掴まれる本作なのですが、惜しまれる点が多々ありまして結果手放しで満足出来ない面は否めません。
というのが、クライムサスペンスというジャンルでありながら、犯人の犯行への動機がなかなか伝わりずらいのと約100分という映画としては比較的短い尺の中に詰め込み過ぎた結果散漫になってしまったきらいがあるんですよ。
その結果、ラストはやや駆け足な展開になり半ば無理矢理な幕切れをさせてしまったのが勿体なかったなというのが正直な感想です。
石田ゆり子佐藤浩市西島秀俊広瀬アリス等々豪華な顔触れを揃えるのは良いですが、それぞれの人物描写が今ひとつ浅く中には「この人要るの?」なんて思ったのもまた事実。
そして後半で急いで広げた風呂敷を畳む作業に追い込まれた結果、とりあえず事件は解決しましためでたしめでたしという流れがあっても心には響かない。
せっかくエンドロールで『HAPPY XMAS』が綺麗に流れるのであれば余韻を味わいながら同曲を聴きたかったですよ。
結局、渋谷の爆破シーン「が」凄い映画という印象しか残らないんですよね。

しかし、メッセージ性はありましたし、現代日本を舞台にした平和とは何か?戦争とは何か?の問題提起をする姿勢は感じられました。
今の時代にはテーマとしては良かったと思います。