きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

記憶にございません!

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三谷幸喜長編映画監督8作目で、記憶をなくした総理大臣が主人公の政界コメディ。史上最低の支持率を叩き出した総理大臣を中井貴一が演じるほか、ディーン・フジオカ石田ゆり子草刈正雄佐藤浩市ら豪華キャストが顔をそろえる。国民からは史上最悪のダメ総理と呼ばれた総理大臣の黒田啓介は、演説中に一般市民の投げた石が頭にあたり、一切の記憶をなくしてしまう。各大臣の顔や名前はもちろん、国会議事堂の本会議室の場所、自分の息子の名前すらもわからなくなってしまった啓介は、金と権力に目がくらんだ悪徳政治家から善良な普通のおじさんに変貌してしまった。国政の混乱を避けるため、啓介が記憶を失ったことは国民には隠され、啓介は秘書官たちのサポートにより、なんとか日々の公務をこなしていった。結果的にあらゆるしがらみから解放されて、真摯に政治と向き合うこととなった啓介は、本気でこの国を変えたいと思いはじめようになり……。
(映画.comより)

三谷幸喜久々の監督作品です。
前作の『ギャラクシー街道』があまりに問題作となってしまい黒歴史の様になりつつある中、僕自身は楽しみ半分不安半分そんな心境で公開直後に見てきました。
実は何を隠そうその昔役者に憧れた時期があったんですがそのきっかけが三谷さんだったんですね。
たまたま見た三谷さんが手掛けるサンシャインボーイズの舞台に魅了され、その中で動く西村雅彦さんや梶原善さんなんかに憧れたものです。
結果、役者にはならずラヂオの時間とばかりにディスクジョッキーの道を選び今に至るわけですが。 
ただ、そんな僕ですが、ここ近年の劇場公開作に関してはややシビア見ているところがありまして、『清洲会議』は「僕の見たい三谷作品ではない」と不満を口にし、『ギャラクシー街道』に関しては「ありゃりゃ、三谷さん一体どこに行こうとしてるの?」と心配までしてしまう始末。
そして今回の『記憶にございません』ですよ。
これが目も当てられない作品だったら今後は三谷作品とは距離を置こうかなと思っていたくらい。
しかし、そんな心配は完全に風で吹き飛んじゃいました。
見終わった後の感想


「おかえり、三谷さん」

でした。『ステキな金縛り』以前の僕の好きな三谷さんテイストで溢れていました!


さて、これまで自身の作品の題材としてあらゆるものを打ち出してきた三谷作品ですが、今回は政治です。
コメディと政治。
それが一体どの様に絡むのか大変注目はしていました。
予告編で中井貴一さんが「だ~か~ら~、記憶にねぇんだよっ!!記憶にございませんっ!」と言うあの映像からかなりインパクトはありましたよね。
そもそもこの「記憶にございません」という政治家の常套句。
古くはロッキード事件から近年ではモリカケ問題に至るまで政治家の代名詞的に扱われている言葉なのですが、それを本当に記憶喪失にさせてしまうというその発想ですよ。
くだらねぇ~wwでもこれまでありそうでなかったこの発想かなり斬新だと思いませんか。
「記憶にございません」と発言した政治家が実際に記憶なくしたらこんな風になるんじゃね、こうしたら面白くね?なんて三谷さんがニヤニヤしながら書いてるの想像出来ますもん(笑)
で、それがまさに今の日本の政治そのものと絡めていたからリアリティーあるんですよね。
それこそモリカケ問題じゃないですけど、癒着もあれば不倫問題、某国からの取引に消費税増税に公約なんか守らない政治家像を国民が抱いていたり。
そういうものが見えるからこそ楽しめる。
これ、政治を土台の上でエンタメとして楽しめるから政治を全く知らないし、勉強する気もないという人が見たらかなり勉強になるんじゃないでしょうか。
お笑い評論家気取りで偉そうに笑いを語るつもりはないですが、そもそものお笑いとかコメディって時代を風刺するところにあるんですよ。
その時代その時代の世相をネタにし、見ている人が嘲笑する様な笑いこそ僕が好きな笑いの種類。
雛壇のバラエティ番組もいいですが、政治や社会を風刺しながら笑いを取るそんな笑いを僕は渇望しているわけです。
その点、この『記憶にございません』はまさに僕が欲している様な笑いなんですよ。
笑いを楽しみつつ、政治を学ぶ。
是非文科省推薦映画にしてほしいくらいです(笑)

で、更に三谷幸喜さんはこの映画を通して何を伝えたかったのか、これを頭に入れるか入れないかで大きくこの映画を見る視点が変わってくると思いますが、今の時代政治に何の期待もしない人は多いと思うし、選挙の投票だって行かない人もいる。
何しろ選挙等開票日翌日に選挙の結果よりも吉本興業のお家騒動を各局こぞって放送する、それが日本という国です。
でも、国のリーダーの意識が変われば政治も変わる、ひいては日本が変わる。
そんな日本を期待してみましょうよ!て事なんですよ。
確かにそれは理想論や絵空事なのかもしれない。
だけどこんな理想を描いてみたら日本という国をもっと好きになるかもしれないし、こんな政治を志す人だって出てくるかもしれない。
これは三谷幸喜監督自身が国を愛する心や未来へ希望を託す想いが反映された作品じゃないかなと思います。
なんて言うと右だ左だという話しも出そうなのですが、それに関して言えば右、左という政治思想全く関係なく楽しめる作品です。
国防に関しての思想や過去の戦争観を扱う場面がないからというところからですが、国内での政治スキャンダルや癒着、贈賄等に終始してるからこそなんですよね。

それから毎回三谷作品と言えばキャスティングが素晴らしいわけですが、本作でも豪華キャストが揃ってます。
主演の中井貴一はじめ佐藤浩市草刈正雄石田ゆり子斉藤由貴ディーン・フジオカ小池栄子木村佳乃、吉田羊、田中圭梶原善等々。
中井貴一さんの黒田総理があまりにハマり役でしたし、どのキャストもさすが一流どころといったところ。
先日、番組のディレクターが三谷作品の何が面白いって名優達が嬉々としておふざけを本気でやってるところだよな、なんて話してましたが、まさにそうでして本作においても普段はシリアスな演技をされる皆さんがこの三谷ワールドではスクリーン狭しと笑わせにくる。
ただ、その中で米国大統領を演じていた木村佳乃さんには「ん?」と思ってしまいました。
さすがにトランプ氏に似せろとまでは言いませんが西洋風な顔立ちをした人の方が良かったんじゃない?と。
だって見た感じどうしても金髪のかつらをつけた木村佳乃というイメージから脱せなかったですから。 
西洋人設定の日本人女優て『シン・ゴジラ』での石原さとみじゃないんだから。
でもね。結果的に後半腑に落ちました。
「あ~、なるほど。こういう事ね」って。
この展開ならアリかと。

後、宮澤エマさんのキャスティングも良かったですね。
ご存知の様に彼女は宮沢喜一元首相の孫ですよ。
報道番組等でお馴染みの彼女にあんなコミカルな事させちゃうんだ~て。
政治家の血筋つながりで小泉孝太郎やDAIGOを出しても良かったのでは?なんて思ったけどやり過ぎか(笑)

それからミュージシャン枠で言えばROLLYさん。
この人はどういう役で出てるかここでは言いたくないなぁ。
それほど普段のイメージとかけ離れたキャラクターに扮しています。
エンディングで確認して頂きたいです。

脚本に関して言えば後半になるとそれまでの流れを一気に突き落とす様な嫌な予感をこちらに抱かせる展開があります。
しかし、それを見事に裏切って誰が見ても心すくわれるラストに落とし込めてくれます。
結果、見終わった後に気持ちよく劇場を後にする事が出来ます。

敢えての苦言を呈するのであれば記憶を失い改心してからの黒田ばかり写すから記憶を失う前の腹黒さや酷さが冒頭のシーンだけからしか伝わらない点でしょうかね。
ニュース映像や他の人の回想等それを現せそうな場面があるだけにそこが少々欲しかったかなというところです。

ただ、個人的には大変満足な映画。
今年ベスト級でした!