「トイ・ストーリー」「モンスターズ・インク」「リメンバー・ミー」など数々の独創的な作品を世に送り出してきたピクサー・アニメーション・スタジオが、火、水、土、風といったエレメント(元素)の世界を舞台に描く長編作品。
火、水、土、風のエレメントたちが暮らすエレメント・シティ。家族のために火の街から出ることなく父の店を継ぐ夢に向かって頑張っていた火の女の子エンバーは、ある日偶然、自分とは正反対で自由な心を持つ水の青年ウェイドと出会う。ウェイドと過ごすなかで初めて世界の広さに触れたエンバーは、自分の新たな可能性、本当にやりたいことについて考え始める。火の世界の外に憧れを抱きはじめたエンバーだったが、エレメント・シティには「違うエレメントとは関わらない」というルールがあった。
監督は「アーロと少年」のピーター・ソーン。声の出演はエンバー役に「ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから」のリア・ルイス、ウェイド役に「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」などに出演したマムドゥ・アチー。日本語吹き替え版ではエンバー役を川口春奈、ウェイド役を「Kis-My-Ft2」の玉森裕太が務める。短編「カールじいさんのデート」が同時上映。(映画・comより)
もしも火や水、土や風というエレメントが暮らす世界があったなら?想像力豊かな人というのはホント色んなアイデアを持ってそれを形にするのがうまいななんて感心してしまいます。これまでのディズニー/ピクサーの数々に名作にも言えますね。これまでにもおもちゃ、魚、動物はたまた人間の感情とあらゆる物を擬人化した実績があるわけですが、それが今回はエレメントつまりは元素ですよ。その意味では怒りや悲しみなど人間の感情を擬人化した2015年の名作「インサイド・ヘッド」以来のインパクトがあるわけでして、私もその辺り非常に興味深く先週の水曜日Tジョイ出雲にて見て参りました。
まずベースとして押さえておきたいのは監督のピーター・ソーンについて。「アーロと少年」を手掛けた監督ですが、彼の両親は1970年代初頭に韓国からニューヨークへ移住して食料品店を開いたという事。その経験を元にしてピクサーに企画を売り込んだそうです。なるほどそう考えると確かに火の女の子エンバーの環境はまさに彼の置かれていた状況とリンクしてきます。
そしてここで描かれている事。エンバーは不自由なく奔放に育っているのですが、彼女の両親の過去を捉えた場面ではなかなかハードな状況が見て取れる。それはあからさまな差別を受けているという事ですね。新天地に来て張り切る両親に対して風当たりの強い仕打ち。そしてこれはエンバーの幼い頃にも影響が及んでしまい彼女の記憶にはしっかり刻まれているんです。この辺りピーター・ソーンの幼少期の記憶が元になっているのであればこの当時のアメリカ社会の実態を捉えているのでしょう。
実際、彼が思春期を過ごした1990年代というのはまだニューヨークが人種の坩堝サラダボウルと呼ばれていた頃でアメリカの社会が今ほどの強い分断に切り裂かれていなかった時代だそうでして、その頃に味わったマイノリティとしての苦労が作品に反映されていると思います。ただ、ここに重い話しには決してせずに希望の物語として水と火のラブストーリーや共存という形でスマートに物語を仕上げている辺りに胸がすくわれます。ここ昨今のディズニー作品はポリコレ推しが強過ぎて…と引いてしまう人が一定数いる様ですが、今作の場合は多様性を認め合いながらもお互いの個性を個性として受け入れて吸収する事こそが今の時代には大切なんだよというメッセージが強く打ち出されていました。ただね、これが説教臭くなるとエンターテイメント作品としてはあまり褒められたものではなくなってしまう可能性がある…というか大です。
うまいのはこの個性の見せ方なんですよね。例えば火を実際のアメリカ社会における移民とした場合、音楽・食事・言語・思想等実際にアメリカへ渡った人達の文化的要素を見事なバランスであらわしています。一方の水はアメリカのクールでスタイリッシュな面を見せる一方でいわゆる富裕層に見られがちな鼻につく面もしっかり出していて。と民族的な違いのみならず社会的階層の違いも更には個々人の性格やキャラクターの差別化もしっかり出来ていて全く突っ込む余地を与えないつくりなんですよ。なんというか過不足がないというのかな?
もっと詳しく見ていくとそもそもが火や水には形がないわけであってキャラクターの造形においては自由度がめちゃくちゃ高いんですよね。その上での水と火の性格付けとして火の一族は確かに怒りっぽい。これは火の持つイメージから想像出来る範疇だとは思いますが、その怒り方のバリエーションが豊かなんですよね。更には火ならではの物としては恋愛に向かえばアツアツの情熱的な感情表現にそのまま持っていけるんですよ。
で、水の方はというと特に良かったのがとにかく涙もろいという事。何なら家族揃っての団欒でお互い泣かしあいなんて事に興じるんですからね。
これら我々人間が抱く火や水のイメージから連想される性格や動きは非常にユニークなんですよね。こういうのって会議で話し合ってるんでしょうね。「火で思いつくものは?」なんてホワイトボードに書いたりしてね(笑)
後面白いのは火や水にまつわる慣用句なんかでどんどん遊んじゃうところ。この辺りなんてもう大喜利ですよ。アイデアに火がついたら湧き出る湯水の如く使っちゃおうて事ですよ。こういう事にメラメラ燃えてたんでしょうね。そしてこんな調子で監督が乗り出したら周りのスタッフが火消しに走るなんて事はなく…。えっ、しつこい?くどいとネットで炎上するって?ごめん、水に流してね。でもホントこんな調子なんですよ。言葉遊びがとにかく楽しい!
で思ったのが僕は吹替版で見ましたが、この辺り英語版はどうなってんだろう?と。ディズニープラスで配信されたらチェックしてみます。
正直「ズートピア」や「インサイドヘッド」等これまでの擬人化アニメーション作品との差別化が出来ているのかどうか更には昨今のディズニーのポリコレ推し等不安要素がなかったと言えば嘘になります。だから見る前はやや懐疑的だったんですよね。しかし、エンターテイメント作品としての下地は整っていたし大人も子供も楽しめる作品だと思いました。
まだ見ていない方には是非オススメしたい作品です。
是非劇場でご覧下さい!