伝説的な冒険一家の親子3世代が、奇妙で不思議な世界で壮大な冒険を繰り広げる姿を描いたディズニー・アニメーション・スタジオの長編作品。「ベイマックス」のドン・ホールが監督、「ラーヤと龍の王国」で脚本を務めたクイ・グエンが共同監督と脚本を務めた。
若いころに行方不明となった偉大な冒険家の父へのコンプレックスから冒険を嫌うようになったサーチャー・クレイドは、豊かな国アヴァロニアで、愛する息子のイーサンと妻とともに農夫として静かに暮らしていた。しかしある時、アヴァロニアのエネルギー源である植物が絶滅の危機を迎え、世界は崩壊へと向かってしまう。この危機を救うため、サーチャーたちは地底に広がる、“もうひとつの世界(ストレンジ・ワールド)”へと足を踏み入れるが……。
声の出演は、主人公サーチャー・クレイドにジェイク・ギレンホール、偉大な冒険家の父イェーガーにデニス・クエイド。日本語版ではサーチャー役を原田泰造、息子のイーサン役を鈴木福、父イェーガー役を大塚明夫が担当(映画・comより)
多様化が叫ばれる様になって久しいです。男性とは〜女性とは〜なんて事が今では言えない状況であり、LGBTの概念と言うのは今ではすっかり根付いた感があります。世界のディズニーだってその辺りは繊細かつ敏感で今作では同性愛者の少年が登場してきます。また、今作はいわゆるアドベンチャーモノでありながら、敵を退治するのではなく、共存していく道を提示していくという形で現代的な価値観を標榜していく作品。果たしてそれがどの様に映画との融合を見せていくのでしょうか。
「インディ・ジョーンズ」に代表される未開の地への冒険活劇。探検という題材はいつの世もワクワクさせるものがあります。本作の主人公であるサーチャ・クレイドは偉大な冒険家である父の後を追い、若い頃はあらゆる地へ父と共に出掛けます。しかし、彼が冒険家に向いているかどうかはまた別の話しであり、また父が行方不明になった事で冒険というものに対して懐疑的となり、その結果が現在の農家という仕事。そこで妻と息子と共にささやかでも幸せに暮らしていたのが、ストレンジ・ワールドへと足を踏み出していくわけですね。
かつての冒険仲間更には家族も加わりアドベンチャーが始まるのですが、前述の「インディ・ジョーンズ」的なものと明らかに違うのは地球上の未開拓地ではなく、現実と乖離した様な異世界であるという事。何ならSF的な要素も取り入れている辺りが現代のディズニーが仕掛けるアドベンチャー映画としての主張を強く感じました。
仲間のキャラクターなんかは「バズ・ライトイヤー」を思い出しましたからね。
そんな中での冒険活劇なんですが、本作最大のポイントとしては家族の物語であるという事。
伝説の冒険家である父イェーガーに主人公そして同性愛者である息子のイーサンこの3代が冒険を通じて絆を確かめ合うそこにサーチャーの妻も加わり家族の物語として展開していきます。家族でありながら考え方や生き方が全く違う彼らがどの様にひとつの帰結へと向かうのかは是非作品を直接見て頂きたいところです。
また、前述の様にモンスターを退治するというかつてのアドベンチャー映画では避けては通れない場面にディズニーなりの新しい価値観を父子3代が向かい合うボードゲームで示したのは面白いところ。父や祖父の代だとモンスターは倒すものという旧来の価値観しかし子であるイーサンは全く違う考え方なんですよね。どの様に共生するかを訴え父と祖父の考えを徹底して批判するんですね。わかりやすく例えればゴジラや仮面ライダーで育った祖父と父に対してポケモンで育った息子(孫)での価値観の違いというところでしょうか。この辺り如何にも現代的で興味深かったです。
とこの様に見所は確かにありましたが、個人的にはノレなかったですね。
というのが現代的な価値観の標榜という大きなテーマやメッセージを打ち出すのはいいけどストーリーに起伏がないんですよね。テンポはわるくはなかったとは思いますが、単調に進行するもんだから盛り上がるとされる部分がわかりづらかったし、やや退屈に感じてしまいました。上映中に何回時計を見たかわかりません。
それから現代的な価値観を打ち出している割には主題歌が古くさいんですよね。1950〜1960年代くらいの作品のテイストなんですよ。新しい価値観を主張したいのかレトロに寄り添いたいのか主題歌からの印象はわからない。
去年見た「ミラベルと魔法だらけの家」を見た時にも感じましたが、最近のディズニーは配信の舵を切った事を契機に作品づくりもおざなりになってしまったのではないかと感じてしまいます。この調子ならディズニーはいよいよ長い冬の時代に入るのではないかと思いますよ。実際「アナ雪2」以来劇場での大きなヒットがないですしね。2010年代に世界中の映画シーンを牽引したディズニーには今一度良質な作品を生み出してほしいと個人的に強く熱望するところです。配信もいいけど劇場で公開する以上は上質なエンタメ作品を発信して頂きたいといち映画ファンとしては願ってやみません。