きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

すずめの戸締り

君の名は。」「天気の子」の新海誠監督が、日本各地の廃墟を舞台に、災いの元となる「扉」を閉める旅に出た少女の冒険と成長を描いた長編アニメーション。
九州で暮らす17歳の岩戸鈴芽(すずめ)は、扉を探しているという旅の青年・宗像草太と出会う。彼の後を追って山中の廃墟にたどり着いたすずめは、そこだけ崩壊から取り残されたかのようにたたずむ古びた扉を見つけ、引き寄せられるようにその扉に手を伸ばす。やがて、日本各地で次々と扉が開き始める。扉の向こう側からは災いがやって来るため、すずめは扉を閉める「戸締りの旅」に出ることに。数々の驚きや困難に見舞われながらも前へと進み続けるすずめだったが……。
「罪の声」「胸が鳴るのは君のせい」などに出演してきた若手俳優原菜乃華が、オーディションを経て主人公すずめ役の声優に抜てきされた。草太役はこれが声優初挑戦の「SixTONES」の松村北斗。そのほか、深津絵里染谷将太伊藤沙莉、花瀬琴音、松本白鸚らが声優を務め、新海作品常連の神木隆之介花澤香菜も出演。音楽も、新海監督と3度目のタッグとなる「RADWIMPS」が、作曲家の陣内一真とともに担当した。(映画・comより)

日本中が、いや全世界待望の新海誠監督の最新作『すずめの戸締り』です。公開前からその熱量は尋常ではないものがあり、金曜ロードショーで『君の名は。』が放送された際には冒頭の12分が解禁されたりSNSでも非常に盛り上がっておりました。

もちろん私もこの波に乗らないわけには行かず、公開初日ではありませんが、公開週の週末見て参りました!さすがに日曜日とありまして、多くの人で賑わうMOVIX日吉津。午前三回目の回に入りましたが、事前にネット予約をしていたので比較的良席をキープ出来ました!

まず何と言ってもいや、言わずもがななんですが作画の美しさ。冒頭から早速新海誠クオリティの写真にも近いリアルな作画を見ると三年振りの新海作品との再会を心からの感激が沸き起こってきました。つまりは最初から映画に向けてのボルテージの高さを内に秘めながら作品世界へ没入していったわけですね。『君の名は。』と『天気の子』もそうであった様に風景の作画には目を見張るものがありまして、地方と都市の描写に看板や自販機、登場人物が手にする商品からiPhoneから流れるサブスクの画面に至るまでとにかく細かい。また、前二作で見せた空の青に雨の描写、更には災いを表す不穏な天変地異をまざまざと写し出す場面等やはり新海誠作品が他のアニメーション作品と一線を画す領域にある事を映像ひとつで証明していると思います。

また、本作で特徴的なのはロードムービーである事。なんて言えば『君の名は。』は?と言われそう。確かに『君の名は。』も東京と岐阜を結ぶロードムービー的側面はありました。しかし、今作に関して言えば宮崎〜愛媛〜神戸〜東京そして東北と過去作にない程移動範囲が広いんですよね。

で、共通するのがそれぞれの場所においてかつて人々の声が飛び交い活気に満ちていたものの、現在は朽ち果ててしまった廃墟から放たれる気がポイントになっているんです。災害により荒廃してしまった集落に時代と共に淘汰され、閉園してしまった遊園地。これらの場所にはかつては確かに人の姿があり、場所も建物にも生気がみなぎっていた。しかし今や誰も足を向けない当該の場所であっても場所や建物に意思があり、それが大きな力で時には人に牙を剥く事もある。これらの災いを封じながら北上し、遂には主人公・すずめのルーツに辿り着いていくというものです。この道中をその土地その土地と接しながら時にコミカルな描写を織り交ぜながら展開していくので見る人をすずめ達の旅にうまく気持ちを乗せていくんですね。そう、それは都市部の国道をはたまた田舎の一本道を走る真っ赤なスポーツカーの様に…なんてこれもポイントになってますからね。

また、本作ではRADWIMPSの楽曲もそこそこに既存の楽曲を巧みに作中に入れ込んでこれまでの新海作品との違いを音楽面で見せてくれていました。『天気の子』ではカラオケ場面で「恋」や「恋するフォーチュンクッキー」といった平成後期のヒット曲を作中に取り込んでいましたが、本作はまさかの昭和の歌謡曲やシティポップ等のアプローチ。神戸のカラオケスナックだと如何にもなオジサマとママのデュエットにチェッカーズを歌うサラリーマン等こういうお店でよく見かける光景。更に件の真っ赤なスポーツカーからはまさかの「ルージュの伝言」…を使ってのジブリのあの名作のオマージュがあり。ちなみにこのジブリ作品以外のジブリの名作や更にはエヴァ等新海さんに強い影響を与えた作品のオマージュ描写は今回かなり出てきますよ。

さて、本作で最終的にたどり着くのが東北。そしてここで大きく扱われるのが3.11なんですね。主人公・すずめは何故九州から東北までの長旅をするのかがそこなんですね。彼女には辛い過去があり、それとどう向き合っていくのがテーマになっていたんです。新海誠作品では『君の名は。』で隕石『天気の子』で異常気象といった具合に自然のもたらす恐怖というものをこれまでに描いてきましたし、『君の名は。』は暗に震災を想像させる形で作品で表してきましたが、3.11東日本大震災を直接的に扱った作品は今作が初めてです。

日本の映画ではこれまでにも震災を扱った作品はありました。しかし、震災を描きそこから感傷的な気持ちを引き出してそこからの踏み込みが弱かったと思います。もちろん東日本大震災がまだ記憶に新しく未だその傷が癒えない人だってたくさん居るし、大切な人を亡くした人の事を考えると踏み込むのも躊躇われてしまうのかもしれない。しかし、今作で新海誠監督がすずめという少女に与えた命題は過去を受け止め悲しみを克服し、時間を進めていく事なんですね。

彼女には本作で行動を共にした草太に彼女を母親代わりの様に育てる叔母と理解を示す人が居る。そしてまだ若くこれからの人生が遥かに長いのだ。その上で彼女の心を締める震災の記憶がどう心の折り合いを付けさせるかなんですよね。その上で幼いすずめと高校生の彼女が向き合う姿には胸に突き刺さるものがありました。そして僕はこのシーンでこれまでの新海誠作品史上最大級の落涙をしてしまいました。当然僕だけではなく、周囲からも涙をすする声が聞こえてきましたね。

震災を題材にする難しさというのはこれまで数々の作品を見て思いましたが、新海誠監督がその最上級の答えを本作で示したのではないでしょうか。

また、ラストも良かったです。各土地土地で出会った人達との心の交流をRADWIMPSの曲に乗せて写し出していました。そしてこれを見て思いました。

やはり新海誠監督は偉大だなと。三作続けてこのクオリティを保持し続けるところに心からの敬意を表したいと僕は思いました!

強くオススメします!