きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生

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大ヒットファンタジーハリー・ポッター」シリーズの原作者J・K・ローリングが自ら脚本を担当し、同シリーズと同じ魔法ワールドを舞台に、魔法動物学者ニュート・スキャマンダーの冒険を描いた「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」から続く物語。アメリカからイギリスに戻ってきたニュートは、アメリカ合衆国魔法議会が捕らえた強大な魔法使いグリンデルバルドが逃げ出したことを知る。恩師のダンブルドアから特命を受け、パリに向かったニュートは、仲間の魔法生物たちとともにグリンデンバルドの行方を追う。前作に続きデビッド・イェーツ監督がメガホンをとり、ニュート役の主演エディ・レッドメインほかメインキャストが続投。若き日のダンブルドア役をジュード・ロウが演じる
(映画.comより)

まず、はじめに言っておきますが、ワタクシ映画好きを公言していながら、『ハリー・ポッター』シリーズをほとんど見ていません。
公開中の映画をマメに劇場鑑賞する様になったのが、せいぜいここ10年程度と言うのもありますし、ファンタジーが元々映画のジャンル中でも苦手なんですよね。
ハリー・ポッター』とかになるとシリーズ全てを抑えるのにかなりの時間と労力を徒す事になるわけですが、そこまでのモチベーションがないというのが本音です。
しかし、そんな僕がこの『ファンタビ』の前作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』を見たのが2016年12月。
『ハリポタ』の予備知識なしで鑑賞したのですが、思いの外、面白かったんですよ。
このシリーズ最新作『黒い魔法使いの誕生』について触れる前に前作『魔法使いの旅』の個人的感想を簡単にまとめておきますと、まず『ハリポタ』を知らない自分の様な人にも割と入り込みやすいストーリー展開が良かったです。
それから登場人物達が個性豊かでありながら比較的人物の相関等の整理がしやすかった。
そして何と言っても魔法を扱う際のCGが見応えありましたし、登場する魔法動物達が可愛かった。
かいつまんで言えばそんな所です。
つまり『ハリー・ポッター』シリーズではあるものの、前日譚として別物シリーズから始まりますよという顔見世興行的な側面が非常に色濃く、新規の人にも優しく受け入れの門戸が広いそんな作品だったと思います。

それを踏まえてのこの最新作。
果たしてどんな作品だったのでしょうか。

本作は『ハリーポッター』本編の舞台のおよそ70年前が作品の時代設定です。
前作では1926年のニューヨークが舞台でしたが、本作ではその翌年のパリへと物語の舞台が移ります。
それ故のレトロモダンな街並みが作品を盛り上げてくれます。
補足的にお伝えしますが、この『ファンタスティック・ビースト』のシリーズは全5作で構成され、最終的には1945年に時代の照準が定められていきます。
つまり第一次大戦後の時代から第二次大戦後辺りまで。
世界史的に最も人類が混乱し、多くの悲劇をもたらした時代でもあります。
黒い魔法使いの親玉として登場するジョニー・デップ演じるグリンデルバルドの不敵なカリスマ性、更に多くの魔法使いを集めて行われる演説なんかを見るとヒトラーを彷彿とさせます。
そしてその演説で象徴的なのが、その後の人類が歩む有史以来最大の悲劇を象徴的に表す戦車、戦闘機、更に原爆のキノコ雲まで映し出し、人間達の行いを危惧する場面もあります。
20世紀前期の激動の歴史はこの魔法使い達にどの様な影響を及ぼすのかが、このシリーズの見所になっていきそうな気がします。
それにしても、このグリンデルバルドを演じたジョニー・デップの存在感たるや何とも圧倒されました。
久しぶりにジョニー・デップの真骨頂とも言える怪演を見たなと思います。
個人的にジョニー・デップの作品で好きなのが、『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007)だったりするのですが、同作で見られるダークな役柄に映える人だと思うんですよね。
その意味では本作におけるキャラクターはジョニー・デップの雰囲気にピッタリ!
ジョニー・デップはこうでなくっちゃ!」と個人的には大満足でしたよ!

それから前述の様に前作の『魔法使いの旅』がハリポタシリーズを知らなくても割と気楽に見れたのに対して、本作はややハードルが上がります。
聞いた事のないフレーズがさも当たり前の様に飛び交うし、「ハリポタ見てる人ならわかるよね?」という様なシーンがちょいちょい出てくる。
もっとも勉強不足な僕が悪いのですが、ある程度の知識が試されるファンムービーの要素が強いのは否めないです。
そして作風が前作とガラッと変わってダーク。
アベンジャーズ』で言えば最新作の「インフィニティー・ウォー」にも似た絶望と背中合わせの重厚感とでも言うべきかな、黒い魔法使いことグリンデルバルドの存在も相まってそう感じさせる作風でした。

そして前作同様、魔法を操る際に出てくるCGの映像がとにかく美しくも迫力があります。
この映画の醍醐味とでも言うべきですね。
「魔法であんな事出来るの?」「えっ、マジかよ⁉」という驚きもありますし、ある意味ハリポタ弱者が故に楽しめたのかなという気もします。

更に、これは僕の様なハリポタ弱者にとってはになりますが、字幕より吹替で見る事をオススメします。
というのも登場人物の関係やら何やらとややこしいんですよ。
実はこの映画、二回程見てきたのですが、一度目は時間が合わず字幕で鑑賞。
その結果、情報整理が僕のキャパでは追いつかず、途中で挫折しました。
二回目は吹替で見て参りましたが、確かに耳慣れない用語の数々は出てきますが、まだ何とかなる。
もっとも前提として、前作を鑑賞してるからこその部分がウェイトは占めますけどね。

さて、そんな『ファンタビ』二作目なのですが、個人的に腑に落ちない点があったので、触れておきましょう。
超人的な魔法を操るキャラクターばかりの中で唯一フツーの人間(ここの世界ではノーマジと言う)として登場するジェイコブ(ダン・フォグラー)。
前作ではパン屋の開店を夢見るもなかなか厳しい現実で生きる労働者という設定でした。
しかし、遂には念願のパン屋を開業するもスキャマンダーによって記憶を抜かれたと記憶しています。
ところが本作ではまるで何事もなくしれっと登場するんですよ。
ニュートとの再会もまるで旧友に会ったかの様に「よぉ、久しぶり!」みたいなノリですよ(笑)
前作でのあの悲哀を帯びつつもしっかりと余韻を残してくれるエンディングは何だったんだ!て話しですよ。
でも、まぁそれも良しとしましょうか。
僕はこのジェイコブは好きですよ。
ノーマジであるが故の我々と同じ視点で作品世界へ導いてくれるし、コメディリリーフとしても良い味出してます。
ニュートとのコンビネーションもピッタリですしね。

後、これはよく目にする意見なのですが、脚本的には粗が目立ったかなという印象は否めません。
登場人物の多さもさる事ながら情報があまりに多く、結局何が軸になっているかが分かりにくい。
そういえばこのモヤッと感何かに似ているなと思ったら『スターウォーズ/最後のジェダイ』を見た後の心境に近いですね。
あれも三部作の二作目でした。
一作目の顔見世興行が良かったらその分こちらのハードルも上がる。
尚且つ次作へ繋げる為に真価が問われるのが二作目でもあるわけです。
二作目の壁はこの先色んな作品に立ちはだかるのかもしれませんね。

ヴェノム

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スパイダーマンの宿敵として知られるマーベルコミックの人気キャラクター「ヴェノム」を、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」「ダンケルク」のトム・ハーディ主演で映画化。サム・ライミ監督作「スパイダーマン3」にも敵として登場したヴェノムを、「ゾンビランド」「L.A. ギャング ストーリー」のルーベン・フライシャー監督のメガホンで、新たなダークヒーローとして描く。「誰もが望む、歴史的偉業」を発見したというライフ財団が、ひそかに人体実験を行い、死者を出しているという噂をかぎつけたジャーナリストのエディ・ブロック。正義感に突き動かされ取材を進めるエディだったが、その過程で人体実験の被験者と接触し、そこで意思をもった地球外生命体「シンビオート」に寄生されてしまう。エディはシンビオートが語りかける声が聞こえるようになり、次第に体にも恐るべき変化が現れはじめる。
(映画.comより)

それにしてもマーベルは次から次へと引き出しが多いですなぁ。
アベンジャーズ』シリーズという大舞台の為にここ数年でも数々のキャラクターをソフト化してきたわけですが、遂にはヴィラン=悪役を主人公に持ってきたわけですよ。
サム・ライミによる『スパイダーマン3』は個人的にもシリーズ中の名作だと思っているのですが、同作に登場するヴェノムがどの様に誕生していくかそしてそんなヴェノムが大活躍を見せるアクション大作。
当初は年末に公開される予定だったのですか、諸事情により前倒しで11月公開となりました。
さて、マーベル作品と言えばどうしてもライトな人には敷居が高いというイメージがあらます。
新シリーズが公開されても必ず他シリーズが絡んできたりともすれば『アベンジャーズ』の過去作も押さえておかなければならなかったり。
本作もまた『スパイダーマン』のヴィランであれば『スパイダーマン』シリーズを網羅しなければならないのかと思いがちですが、心配ご無用。
本作に関しては全くと言っていい程他シリーズ作が絡んでこない新しいユニバース作なので、全く予習が必要ありません。
そしてもっと端的に言ってしまえば『寄生獸』とか『ド根性ガエル』です(笑)
ひとつの人体に全く別の人格があり、ともすれば対話までしてしまうという至ってシンプルかつ馴染みやすい作風ではないかと思います。

主人公となるのはエディという人物。
彼はジャーナリストとして非常に強い正義感を胸に日夜戦う一方、弁護士である恋人と幸せな生活を過ごすのですが、その正義感が仇になり仕事を失い、更には恋人にもフラれるというなかなか悲惨な状態からストーリーが始まります。

まず、この時点で『スパイダーマン』的じゃないですか。
冴えない男がとあるきっかけで化けていく。
まぁ、ありがちっちゃありがちですが、「らしさ」を垣間見れたのは個人的には良かったです。

そしてエディとヴェノムの関係性から見るとこの映画ってバディ物なんですよね。
エディの体に寄生してしまったヴェノムの暴走をエディが制止する。
でも身体はエディなものだからはたから見ればエディが暴れてる様にしか見えない。
コメディ的演出により笑いを誘ってきます。

と、そんな事をつらつらと綴っているうちにふとある事を思い出しました。
「あれ、そういえばこの映画ってグロさをおしてなかったっけ?」
そもそもこのヴェノムという地球外生命体そのものがグロテスクだし、予告編にしろポスターにしろさも『エイリアン』的なグロさや気持ち悪さを強調するかの様なコピーでした。
しかし、エディに寄生するシーンだって染み込んでいく様にスッと入り込んでいくし悪党を呑み込んでいくシーンだって全然残虐性がない。
なかなか過激な描写と本来はなるべき所、実にあっさりしている。
まぁ、ファミリーやカップルで見に行く分には良いですよ。
ある意味デートムービー向き。
しかし、スリルを求めていると肩透かしを食らってしまうのは事実ですね。
それから個人的にはヒロインとなる女弁護士はどうにも都合の良い女に思えて仕方ないんだよなぁ。
冒頭ではエディと愛を語り、濃厚なラブシーンを展開していたと思ったら仕事をクビになるやいなや別れるってそういう時こそ支えてやれよ(笑)
エディもエディでこんな女放っときゃいいのに別れてからもケツ追っかけ回してさ~。
まぁ、こういうキャラ設定だからこそ映えるってのはあるんですけどね(笑)

それからどうにもすっきりしないんだけど、シンビオートが結局何なのか?の説明がないし、何でエディの身体に寄生したのかの意味も明らかにされない。
もやっとするなぁ、もう。

そしてこれはMCU映画特有のものですけど、エンドロールが終わっても次の展開を匂わせる映像が今作もあります。
その辺りを心得てる人は問題ありませんが、そうでない人もいるわけです。
そこをカバーする様に冒頭で注意書きが表示されます。
しかし、エンドロール長すぎっ!!
レイトショーで見に行ったのもありますが、そこでは僕は心地よい眠りについてましたよ(笑)
で、そのエンドロール明けには目を引く映像があるのかと思いきや、とってつけたかの様なアニメでのスパイダーマン登場。
それがねぇ、「これ、誰得?」感が半端ないんですよね。
10分強に渡る長いエンドロール明けにこれかいっ?て突っ込んじゃいましたよ。

今回は少々不満が多くなりましたね、ただ個人的には今回の残念な点は見直し、良い点はブラッシュアップさせた上で次回作を見たいという気にはなりました。
次作に期待です!

ボヘミアン・ラプソディ

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世界的人気ロックバンド「クイーン」のボーカルで、1991年に45歳の若さでこの世を去ったフレディ・マーキュリーを描いた伝記ドラマ。クイーンの現メンバーであるブライアン・メイロジャー・テイラーが音楽総指揮を手がけ、劇中の楽曲には主にフレディ自身の歌声を使用。「ボヘミアン・ラプソディ」「ウィ・ウィル・ロック・ユー」といった名曲誕生の瞬間や、20世紀最大のチャリティコンサート「ライブ・エイド」での圧巻のパフォーマンスといった音楽史に残る伝説の数々を再現するとともに、華やかな活躍の裏にあった知られざるストーリーを描き出していく。「ナイト ミュージアム」のラミ・マレックがフレディを熱演し、フレディの恋人メアリー・オースティンを「シング・ストリート 未来へのうた」のルーシー・ボーイントンが演じる。監督は「X-MEN」シリーズのブライアン・シンガー
(映画.comより)

ただいま大ヒット中の『ボヘミアン・ラプソディ』。
日本でのクイーン人気の高さは今更言うまでもないですが、正直ここまでの大ヒットになるとは思っていませんでした。

でもこの映画を見て納得!
これは流行るわ~と確信したワタクシです。

それでは早速この映画について語らせて頂きましょう!
でもその前に!

私にとってのクイーンとの向き合い方について簡単にお伝えしておきます。
はっきり言ってめっちゃライトです!
10数年前にドラマでクイーンの楽曲が起用され、その時に出たベストアルバムをせいぜいかじった程度です。
好きな曲は色々ありますが、「大ファンです!」なんて口が避けても言えないです。

でも、本作はそういう人にこそ刺さる映画。
クイーンそしてフレディ・マーキュリーという人を知る上でこれ以上ない程の入門編映画はないという程の指南書的役割を果してくれる映画です。

まず、映画の本編が始まる前から心掴まれます。
20世紀フォックスのファンファーレが流れます。
ギターの音がギュイ~ンとそのファンファーレを奏でてくれる。
何とブライアン・メイロジャー・テイラーがこの映画の為に新録したとの事。
時間にして僅か25秒なのですが、この時点でえもしれぬ高揚感が生まれます。

そして本編に入っていくのですが、クイーンのキャリアを物語る上で伝説的なアクトを行った85年のライブエイドについてカメラが追っていくのですが、フレディ・マーキュリーの目線から見た客席をスクリーンに映し出してくれます。
あ~、鳥肌モノ。

そのライブエイドを到達地点としてフレディはどの様に音楽を始め、クイーン結成に至ったのか青年期のエピソードへとフラッシュバックさせていきます。

クイーン結成~メジャーデビュー~そして大成功へ。
ひとつのバンドのサクセスストーリーを追いながら、それに寄り添う様に流れるクイーンの名曲の数々。
そしてその名曲は何と劇中では30曲近く使用されているとあり、クイーンファンではエモーショナルな情感に満ち、僕の様にあまりクイーンに詳しくかいという人には大スクリーンで流れるクイーンの楽曲には圧倒される事でしょう。
そしてその名曲が生まれていくエピソードは実に興味深かったです。
この映画のタイトルでもある『ボヘミアン・ラプソディ』はもちろん『ウィ・ウィル・ロック・ユー』、『地獄へ道連れ』等々。
そしてフレディ・マーキュリーの生い立ち等々に関しては意外と知らない人も多いと思いますが、その辺りも実に丁寧に扱われていたので参考になったという人も多いのではないですか。
僕もそんな一人です。

それからラミ・マレック演じるフレディ・マーキュリーはじめクイーンメンバーの面々が素晴らしい!
決してモノマネというのではなく、実に巧みに各メンバーを演じていらっしゃいましたから。
とりわけフレディなんかは実際に本人がスクリーンに出てるとしか思えませんでした。
天才が故のぶっ飛んだ変人ぶりも見事でした。
また、フレディと言えば避ける事の出来ない題材としてエイズという病であり、自身がゲイ(正確にはバイセクシャル)という事なのですが、しっかりと盛り込まれています。
しかし、決して重くならず生々しくせず、オブラートに包む様な見せ方は功奏していたのではないかなと思います。

一方、クイーンに詳しい人程辛口な意見や指摘もあるみたいですね。
あのエピソードがない、あの人物が登場しない、あのエピソードを語る上で何故あれを省略するんだ、時系列が史実通りでない等々。
まぁ、気持ちはわからなくもないですよ。
ただ、映画の限られた尺の中であれやこれや詰め込み過ぎて中途半端になってしまう恐れもありますし、それによって感動が損なわれてしまっては本末転倒じゃないですか。
それに本作がフレディ・マーキュリーの伝記であり、ノンフィクションと謳っているのであれば、改変だなんだと言うのも無理はありませんが、決してそうではありませんからね。
あくまでライトな人にも見やすい様にフレディ・マーキュリーとは?クイーンとは?
それを端的に知ってもらう上では最良な作りになっていると個人的には思います。
コアなファンが望むアナザーストーリーはまた別の機会に期待を込めましょう。

ちなみに個人的に敢えてのわがままを言わせて頂くのあれば、ドラマパートでもう少しカタルシスを生み出す仕掛けがあれば良かったかな?
でもそれは強いて言えばの欲求です。
それを上回る至高の映像体験が出来たので十分満足です。
それは何かと言えば、後半20分に渡る壮大なライブエイドのシーンです。
怒涛のクイーンの名曲群をこれでもかと浴びせかけられる圧巻のライブ。
鳥肌は立つわ、心の底から沸き立つエナジー、ぶっちゃけ立ち上がりたくて仕方なかったですよ(笑)
立ち上がって、大声で叫び、手が痛くなる程の拍手をしたかったです。
そして終盤は私の目が滲んでスクリーンがぼやけて見えない。
そう、涙が私の眼を大量に支配してまともに画面を見せてくれないんですよ。
ライトなクイーンリスナーである私がここまでクイーンの曲に胸を熱くさせ、感情を揺さぶられるなんて正直、思いもしませんでした。
断言します!
2018年ベスト級です!

エンドロールが流れても誰一人席を立つ人が居なかったです。
こんな映画って今年あったかな?
皆が満足していつまでも余韻に浸りたいと一同に思ったわけですからね。

そして『ショー・マスト・ゴー・オン』が流れるエンドロールを見終わり、涙を拭いながら劇場を後にしたワタクシ。
売店でパンフレットを買おうとしたら売り切れ。

後日、再度行くもやはりパンフは売り切れで再入荷未定の表示が。
せめてサントラがほしいとCD屋を2~3件はしごするもやはり品切れ。
アマゾン先生をポチッとして、ようやく購入。
そして今は毎日聴いているという次第です。

2018年も終盤に入り、飛び込んだ名作『ボヘミアン・ラプソディ』是非アナタも劇場でご鑑賞下さい。



 

スマホを落としただけなのに

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志駕晃の同名ミステリー小説を「リング」中田秀夫監督のメガホン、北川景子の主演で映画化。いつものように彼氏に電話をかけた麻美は、スマホから聞こえるまったく聞き覚えのない男の声に言葉を失うが、声の主はたまたま落ちていた彼氏のスマホを拾った人物だった。彼氏が落としたスマホが無事に戻ってきたことに一安心する麻美だったが、その日から麻美の日常は一変する。まったく身に覚えのないクレジットカードの請求、それほど親しくない友だちからの執拗な連絡……それらは麻美のさまざまな個人情報が彼氏のスマホからの流出を疑う事象の数々だった。一方その頃、ある山中で若い女性の遺体が次々と発見される事件が起こる。すべての遺体には、いずれも長い黒髪が切り取られているという共通点があり……。北川が主人公・麻美を演じるほか、連続殺人事件の担当刑事役を千葉雄大、セキュリティ会社社員役を成田凌、麻美の彼氏役を田中圭がそれぞれ演じる。
(映画.comより)

今や日常生活に欠かせないツール・スマホ
そのスマホには個人情報もあればその人そのものを反映するパーソナルな部分もかなり含まれています。
しかし、そのスマホをもしどこかに落としたら?
スマホを紛失してしまったら?

誰にでも起こりうる日常を題材に展開していくサスペンス作品。
果してどんな作品なのでしょうか?
今やポケットにスマホがないと不安で仕方ない私・きんこんによるレビュースタートです。

本作はふたつのストーリーで構成されています。
ひとつは田中圭演じるスマホを落としてしまう北川景子演じる麻美の彼氏とそれによって自分の運命をも翻弄されてしまう麻美。
もう一方は相次いで発生する若い女性の不審死。
そしてその一連の事件を追う原田泰造千葉雄大の警察班が展開するサスペンス。
このふたつのストーリーをどの様に結びつけていくかが見所となっていきます。
はじめは一見何も関係そのストーリーと登場人物なのですが、時間の経過と共に徐々に結び付いていくその運びは非常に見応えがありました。
とりわけキーマンとなるとある人物の演技。(名前は明かせません)
犯人でもあるのですが、正直彼の演技力に脱帽しました。
好青年なイメージが強すぎる役者さんですが、後半における人物描写は何とも怪奇的。
これぞサイコパスです。
彼なしでは語れない作品とも言えるのではないでしょうか。
また、主演の北川景子さんもまた素晴らしい!
彼女の魅力と言えばピュアなラブストーリーにもハマればサイケな作品にも合うその存在感なのですが、本作において言えばその両面がピタリと合致し、化学反応を起こした様な演技力。
そして何と言ってもこの作品ほど女優・北川景子を可愛く綺麗に思える作品もないかと思います。
カメラワークのなせる北川景子の美を堪能出来る作品と個人的には思っています。
ただ、警察サイドは正直、どうかなという印象でして原田泰造演じる先輩刑事と千葉雄大演じる後輩刑事の言わばバディ物の要素を含んでいるわけですが、原田さん演じるコワモテで武骨な先輩と千葉さん演じるデキル新人刑事という設定は良いと思います。
しかし、どうにも先輩が一見頼り甲斐ありそうでありながら実は超ポンコツであったりめっちゃ仕事出来る新人なのに千葉さんの童顔と声の高さがどうにも不安定に聞こえてしまう辺り何とかならなかったのかというのが個人的な印象です。

それから作品を通してスマホを当たり前に使う現代人に対しての警告とも教則とも思える前半部について。
スマホを紛失した当事者と恋人。
つまり本作における主要人物である二人の危機意識たるや何とも低いんですよね~。
暗証番号やらパスワードやらそれをなおざりにしたらいかんやろ?と思う物に対しての意識が悉く低い。
でもそれって全く自分とは関係がない客席から見る観客ならではの目線であってスマホをいざ落とした場合に冷静な対応が取れるか?
それを見ている僕らへ投げ掛けるメッセージでもあるんですよね。
幸いにして僕はスマホを何処かに亡くしたという経験はありません。
紛失というのはなくはないです。
しかし、せいぜい自室内で「あれ、俺のケータイどこ?」「あっ、あった!」
なんて布団の下、テーブルの下、脱いだ服の下からひょっこり現れるという程度の誰しも一度は経験があるというもの。
電車、地下鉄、バス、はたまた映画館等々外出先で紛失した場合、果して冷静な対応が出来るだろうか?
それはその時になってみないとわかりません。
しかし、この映画を見るともし、スマホを無くした場合、どの様にすれば良いのか或いはどういう事態が起こりうるのかをまざまざと見せつけてくれる。
ある意味スマホが手放せない現代人に向けての教則的な内容でもありました。
そして後半はスマホを落とした事をきっかけに次々と襲いかかる不可解なインシデント。
はっきり言ってここは怖かったです。
彼氏がスマホを落としたばかりに次々と麻美の身に悲劇が。
それを操る謎の人物の怪演も相まってかなりスリリングな展開です。
そして後半は何ともサイケなホラー展開。
あの『リング』を撮った監督だけあってその辺りはかなり引き付けられました。

同時に突っ込みたくなる箇所もありますが、今回はやめておきましょう。
B級臭い感じも味だと思います。特にこの監督の場合ね(笑)
サスペンスの名作だと近年では『ミュージアム』、『22年目の告白』という作品が印象深いですが、本作はその二作に決して遜色ない出来だったと思います。

ハラハラドキドキの映像体験をしたいそこのアナタ、オススメですよ!

映画 HUGっとプリキュア ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ

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プリキュア」シリーズ15周年を記念し、2018年放送の「HUGっと!プリキュア」とシリーズ第1作「ふたりはプリキュア」が共演する劇場版。そのほかの歴代の全プリキュアも出演し、「映画プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!」以来となる約2年半ぶりのプリキュアオールスターズ映画になった。プリキュアたちの「思い出」を奪い、口癖や技までコピーしてしまう敵ミデンによって、プリキュアオールスターズが小さい姿(ベビープリキュア)にされてしまい、これまでのことを全部忘れてしまう。残ったのは「HUGっと!プリキュア」と「ふたりはプリキュア」だけで、キュアエールキュアブラックは、プリキュアたちの思い出を取り返すため、力をあわせて立ち上がる。人気声優の宮野真守がミデン役を務め、「プリキュア」シリーズ初出演を果たした。
(映画.comより)

はい、一年振りとなる劇場版『プリキュア』シリーズの鑑賞です。
去年同様、今年も隠れキリシタンよろしく目立たない様目立たない様と時間をうまい事調整しながら劇場にイン。
ベストは上映開始時間の5分後くらいです。その辺りは予告編やら何やらやっているので本編の開始前。
尚且つ場内が暗いので大人一人鑑賞には決して目立つ事のない良い時間です。
更に座席も重要でして、出入口に程近い場所をキープというのがマストです(笑)
ちなみに平日ならば人も少ないであろうと来たのですが、昼間であれば比較的お子様連れが多いです。
でも、後述しますが結果的には良かったかな。

さて、去年の『プリキュアアラモード』はちょくちょく見ていたのですが、今年の『HUGっと』は末見でやや不安な状態での鑑賞スタート!


しかし、良かったな~、今年見たアニメ作品の中でもかなりの良作でしたよ!

まず、本作は『HUGっとプリキュア 』の劇場版であると同時に『プリキュア』シリーズ15周年記念作でもあります。
それ故にかなり力が入っていたなというのが個人的な印象です。
初代の『ふたりはプリキュア』の二人と『HUGっと 』の絡みもさる事ながらやはり盛り上がるのはバトルシーンなんですよ。
映画ファン的に言えば『マッドマックス怒りのデスロード』並です。
とにかく圧巻だし、劇場の大スクリーンにまぁ、映える映える!
40のオッサンが一人で『プリキュア』を見てここまで鳥肌が立つとは思いませんでしたよ。

更にこの映画はこれまで一度でも『プリキュア』シリーズに触れた事がある人ならば是非見てもらいたい!
歴代のプリキュア勢揃いになるし、個人的に思い入れの強いプリキュアが出たら間違いなくエモるんじゃないですか?
それも感動的な登場のさせ方なんですよ、「製作者、出て来~い!褒めてあげるから」ってレベルです(笑)

で、劇中にはメタ視点が入って第四の壁に居る映画を観ているお友達に呼び掛けるんですよ。
「みんなでプリキュアを応援しよう!」って。
そして良い子のお友達は入場時にもらうミラクルライトを振って応援するんですね。
「頑張れ、プリキュア~!」って。
僕の並びに居た女の子が本気で応援するんですよ。
それ見てね~、僕も感動しましたよ!
これぞまさに応援上映のあるべき姿だな~って。
ぶっちゃけ俺もミラクルライトもらって応援したかったんですけど、あれは中学生以下のお友達しかもらえないんですよ。
いいです、まだ見ぬ俺の娘といつか一緒に応援します(笑)

で、本作がただの子供向け映画ではないと感じたのは深いメッセージ性なんですよね。
敵キャラのミデンなんですが、こいつは人の記憶を吸い取る事が出来るんです。
その技でもってプリキュア達を幼児にしてしまうのですが、ここでは割愛します。
むしろ個人的に印象的だったのがこのミデンの内面的描写なんですよ。
実はめっちゃ淋しいヤツなんですよ、このミデンって。
というのもミデンって人々から忘れ去られてしまったある物の化身なんですよ。
更に言えばそれをメタファーにしながら楽しい思い出がない人や嫌な思い出ばかりを作ってきた人との向き合い方を提示しているんです。
後半に象徴的に出てくる雨のシーンはそれを端的に表していると思います。
ちなみにその雨のシーンの作画はメチャクチャ悲しさと美しさに満ちていた事も言及しておきます。

そしてこれはお子さんを連れて来ていたお母さん方は胸を打たれたんじゃないかなと思いますが、ミデンの攻撃を避け、幼児化を免れたのはキュアエールこと野乃はなとキュアブラックこと美墨なぎさです。
しかし、それは同時に他の幼児化してしまったプリキュアメンバーの世話もしなくてはなりません。
しかし、皆幼児ですからバタバタと走り回りなかなか言う事を聞かないわけです。
プリキュアなんだからしっかりしなさい!」なんて事も言われるのですが、すかさずなぎさが反論するんです。
プリキュアだって中学生なんだよ!」

ここで描かれているのは育児の大変さであり、過酷さ。
そして心ない事を言う人の存在。
「⚪⚪なんだから…」というのはよく耳にしますね。
「母親なんだから…」「先輩なんだから…」「お兄ちゃん(お姉ちゃん)なんだから…」「子供なんだから…」の「なんだから…」
でも待って、皆人間なんだから。
そんな言い方すんなよって事。
「見に来てるお母さん、いつも育児大変だね。でもあなたは人間なんだから決して無理はしないでね。」そんなメッセージがこの一連のやり取りから見て取れるかと思います。
子供を楽しませるだけでなく、おやごさんへの配慮も忘れない。
何て愛に満ちた作品なのでしょう。

15周年に相応しい『プリキュア』シリーズの名作が生まれました!
この作品は子供もだけど、大人にこそ見てもらいたい!
真のエンターテインメントとは一体何か?を教えてもらった様な作品でした。

ありがとうプリキュア
そして15周年おめでとう!

億男

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映画プロデューサー・川村元気の同名ベストセラー小説を佐藤健高橋一生共演、「るろうに剣心」シリーズ、「3月のライオン」の大友啓史監督のメガホンで映画化。3000万円の借金を残して失踪した兄に代わり、借金返済に追われる一男。借金苦の日常に愛想を尽かした妻は娘とともに家を出てしまった。そんな不幸続きの一男に宝くじ3億円当選という幸運が舞い込む。この大金で借金返済、家族の修復と、一発逆転を夢想するが、ネットで悲惨な人生を送る高額当選者の記事ばかりが飛び込んでくる。不安になった一男は、起業して億万長者となった大学時代の親友・九十九にアドバイスをもらうため、九十九を訪ねるが、酔いつぶれて目が覚めると、九十九は3億円とともに姿を消していた。一男役を佐藤が、九十九役を高橋が演じるほか、藤原竜也北村一輝沢尻エリカ池田エライザらが顔をそろえる。脚本は「ドラゴンクエスト」シリーズの開発などで知られる渡部辰城。
(映画.comより)

お金、それは普遍的であり、永遠のテーマとも言えます。
お金がいらないなんて人はまず居ないでしょうし、出来るのであればもっとお金が欲しいし、増やしたい。
お金があればもっといい家に住めるし、いい車に乗れる、美味しい物も食べれていい服も着れる。
あ~、お金が欲しいな~、金くれ金~

…なんて失礼しました。

実はこの作品、はじめにクレジットと予告編を見た時にはかなり期待しました。
何しろ大友啓史監督で佐藤健主演というあの『るろうに剣心』を大ヒットさせた布陣ではないですか。
予告でもかなりゴージャスな影像で藤原竜也がまた怪しい雰囲気を醸し出しながら出ている。
なかなか引きの強い印象でした。
それでは気になる内容はどうだったでしょうか?

まず、キャスト陣の演技は見応えありました!
主演の佐藤健さんについて。
佐藤健と言えばアクション系で戦うヒーロー的なイメージが強いと思います。
とりわけ大友監督だと『るろうに剣心』が頭によぎる事でしょう。
いわゆる一般人の役だと『8年越しの花嫁』がありますが、この『億男』はかなり情けないヤツを好演しています。
3000万の借金を抱え、昼間は図書館司書として働く傍ら、夜は工場でバイトをし日々の生活を借金返済の為だけに生きてる様な人物。
そんな男が宝くじで三億円当たり、果たしてどうするかが本作の肝になるわけですが。

他、高橋一世、沢尻エリカ北村一輝池田エライザ等が一癖も二癖もある様な人物を演じるのですが、何と言っても強力な存在感を放っていたのが、藤原竜也
デスノート』、『カイジ』、『22年目の告白』等どれも素晴らしい怪演で魅了してきた藤原さんですが、本作でも健在。
胡散臭い宗教の教祖を演じますが、彼が教団内で信者にぺてん師そのものの大口舌を繰り広げるのですが、見ていて不快でしかなかったです。
ただ、この不快感は彼が演じたこの禍々しい男へ向けたものです。
つまり藤原さんの怪演があまりに素晴らしいが故の不快感。
それを感じさせるところに藤原さんの演技力の凄さがあるわけです。
また、佐藤健演じる一男の妻を演じた黒木華さんも
良かったですね。
金に執着を持つ一男を冷やかに見つめながら、その過ちにメスを入れていく女性。
本作に登場する数少ない常識人でした。
先日、『日日是好日』でも評しましたが、落ち着いた佇まいを持った女性が黒木華さんにはピッタリハマります。
この『億男』でもそんな黒木さんの魅力が存分に発揮されています。
この様に登場人物の演技は見事です。

また、単にお金にまつわるドタバタを描いたエンターテイメントだけではなく、お金に翻弄される登場人物たちを通して果たしてお金だけが人生の幸福が得られるのか?真の幸せとは一体何か?を問う様な一貫したテーマやメッセージも織り込まれており、思いの外、真面目で骨太な作品だったと思います。

しかし、それが面白いかどうかと言えばまた別の話し。
冒頭のパーティーでの乱ちき騒ぎっぷりはなかなか良かった。
徹底して下品だし、浅ましく、醜い。
でもそれが非現実的な世界だからこそ楽しめる。
闇金ウシジマくん』の劇場版が好きなら満足な光景かもしれません。
キラキラしたミラーボールの下でポールダンサーが踊り、派手な服装に身を包んだ男女が洋酒を酌み交わし、横にはバニーちゃんが歩く。
どこのバブル世界だよっ!と突っ込みたくなりますか、こういう低俗なシーン嫌いじゅないです(笑)
ただし、下品で低俗な世界観に基づく商業映画を期待していたらその後の持続はありませんので悪しからず。

パーティーから空けるや親友・九十九の姿がない。あわやお金を持ち逃げされたか?
そこからその親友を探し、関係者をあたっていくうちに親友の謎が明かされていくというサスペンス要素も強い作品です。

そしてそれをどう料理していくかが腕の見せ所になるのでしょうが、それがどうにもすっきりしない。
ある人の元からまたある人の元へと渡り歩く。
その間に学生時代の落語研究会やモロッコ旅行のエピソードを挿入する。
まぁ、確かにとある古典落語が題材になっていたり、モロッコで二人が遭遇した出来事や二人が話した内容は本作の重要な核となる部分です。 
しかし、どうにもこうにもテンポか悪いんですよね~。
やり方次第では面白くなりそうなんですが、勿体ない。
冗長的で間延びするからつい睡魔が襲ってそのままうとつきましたよ(笑)


それからラストものれませんでしたね。
ネタバレになるので直接的な表現は控えますが、九十九が取った行動が最後に明かされるのですが、それも腑に落ちないんですよね。
その行動に至る動機としてあまりに不可解だし、仮にも親友であるならば一男に伝えた方が良かっただろ?て話しなんですよ。
九十九がよかれと思って取った行動。
親友としての信頼感がなければやってる事犯罪ですからね。 
いかにも九十九は親友思いのめっちゃいいヤツみたいな描かれ方してましたけど。

なんて久しぶりに不満の多い作品でした。
しかし、メッセージ性はありましたし、モロッコの光景なんかも見応えはありました。
それだけにもっと面白くなり得たでしょう。
勿体ないという印象でした。

日日是好日

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エッセイスト森下典子が約25年にわたり通った茶道教室での日々をつづり人気を集めたエッセイ「日日是好日 『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」を、黒木華主演、樹木希林多部未華子の共演で映画化。「本当にやりたいこと」を見つけられず大学生活を送っていた20歳の典子は、タダモノではないと噂の「武田のおばさん」が茶道教室の先生であることを聞かされる。母からお茶を習うことを勧められた典子は気のない返事をしていたが、お茶を習うことに乗り気になったいとこの美智子に誘われるがまま、流されるように茶道教室に通い出す。見たことも聞いたこともない「決まりごと」だらけのお茶の世界に触れた典子は、それから20数年にわたり武田先生の下に通うこととなり、就職、失恋、大切な人の死などを経験し、お茶や人生における大事なことに気がついていく。主人公の典子役を黒木、いとこの美智子役を多部がそれぞれ演じ、本作公開前の2018年9月に他界した樹木が武田先生役を演じた。監督は「さよなら渓谷」「まほろ駅前多田便利軒」などの大森立嗣。
(映画.comより )

9月15日に亡くなった名女優・樹木希林さん。
本作は樹木さんが亡くなり、約一ヶ月のタイミングで公開された最新作です。(遺作ではありません。念のため)
まず、樹木さんの作品で最近印象的だったのが本ブログでもお届けさました是枝裕和監督の『万引き家族』があります。
あの作品においてのキャスト陣の演技はとにかく素晴らしかったのですが、何と言っても樹木さんの存在感は際立っていました。
いわゆる貧困層の家庭におけるおばあちゃんでしたが、愛らしくもある一方、したたかで図々しさも併せ持った個性の強い役どころでしたね。
そしてこの『日日是好日』での樹木さんは優しくも茶道にはストイックで厳しさも兼ね備えた茶道の先生。
まるで孫の様な世代の女子大生を相手に茶道の何たるかを指導する役でした。
そんな樹木さんが向き合う茶道の姿勢がホント美しいです。
この映画の為に徹底的に茶道の腕前を病と戦いながら身につけられた事は想像にかたくない。
プロフェッショナルの矜持を目の当たりにしました。
そして、黒木華多部未華子という若い二人も良いです。
物語は90年代前半から始まるのですが、当時の女子大生を好演していました。
今の様にケータイもPCも身近にない時代。
その空気感が絶妙に演出されており、その時代を知る人なら思わず懐かしんでしまうかもしれません。 
その当時の服装ですから今見ればダサく見えるのですが、この二人が着ると可愛らしく見えます。そこは女優さんですね。
カラオケに行ってユーミンの『真夏の夜の夢』を唄うシーンがあります。
「女子大生にしては渋い選曲やな」と思っていたら「あっ、これ93年という時代設定だった」なんて気づかされたりもしました。

さて、そんな本作。
茶道の映画というのが全面に出ているので茶道を知らない人にははばかれてしまうかもしれません。
しかし、あくまで茶道は作品全体を語る上のツールであり、実体としては茶道を通じた人生の機微を写し出すそんな作品でした。
典子と美智子。
彼女達が茶道を始めるのは大学二年生です。
学生時代に取り組む活動には様々なタイプのものがあります。
スポーツもそうですし、音楽・演劇等文化的あるいは娯楽的なものなどが多数を占めるでしょうが、彼女達にとっては茶道がそれでした。
二年前に『何者』という映画がありましたよね。 
演劇に取り組んできた学生達が就職活動に翻弄されながら、就職を選ぶか演劇を選ぶかというテーマの作品でした。
それと同様にこの映画でも、人生の帰路に立った時に茶道と人生の選択に揺り動かされます。
就職や結婚といった人生の分岐点に茶道がどういった価値観として存在するのか明確に浮かび上がっていきます。
また、ズブの素人から始めた彼女達の成長に視点を向けても面白い描かれ方であったなと思います。
ろくに道具も扱えなかった二人がやがて後輩も出来、腕前も上達させていく。
その過程で樹木希林演じる武田先生の視点も加わっていく。
月日の経過を表す映像的な表現も実にうまく出来ていました。
そして後半になると遂には黒木華演じる典子に焦点が当てられていくのですが、そこからの黒木華が素晴らしい!
黒木華と言えばここ最近、出演作が次々と公開され、公開中の作品だと『散り椿』、『億男』更に来月は『ビブリア古書堂の事件手帖』、再来月は『来る』と引っ張りダコの女優さんです。
しかし、これはあくまで私の主観なのですが、際立って美人というわけではない。
しかし、東洋的な顔立ちで和のテイストが非常にハマる女優さんだと思うんです。
実は本作を鑑賞する前はあくまで20歳の女子大生二人とそれを暖かく見守る茶道の先生の話しで時間軸の移動はないと思っていました。
しかし、実際は20数年の時間の経過が描かれており、黒木華は20歳から40代前半までを演じるわけです。
実年齢に該当する20代~30代前半まではわかるとして40代の女性をどの様に演じるかがポイントになるのですが、見せてくれました。
40代の大人の女性を実に堂々となおかつリアリティ持たせながら演じていました。
和服を着た雰囲気なんかも黒木さんにしか出せない上品な色気を感じましたね。
絶妙なキャスティングでした!

さて、この映画を観て『聖の青春』(2016)にかなり共通性を感じました。
一方では将棋、一方では茶道といずれも日本独自の文化を題材にしてはいますが、その実、実際に携わっていないとなかなかわからない分野です。
そういう意味では如何にその分野を掘り下げつつも一般層が観て難解になり過ぎない工夫が必要なのですが、その点においてはこの二作は十分にカバーしておりました。
説明台詞は押さえ目に影像のみでその世界の奥深さを表現する。
製作陣の努力が見えてくる作品です。

次に題材としている物を通じて見せる人間ドラマです。
『聖の青春』の場合は村山聖という人物の伝記なのですが、村山聖のみならず彼の周囲の人たちやライバルの羽生善治と登場人物を丁寧にクローズアップし、その内面を浮かび上がらせていく。
この『日日是好日』においては前述のキャスト陣の人間的描写ではっきりしていたなと思います。

ただ、やや残念に思ったのが多部未華子演じる美智子の後半かな?
途中でとあるきっかけにより茶道との距離感に変化が生じるのは仕方ないとしてもその後の人生が見えてこないんですよね。
典子と美智子、黒木華多部未華子のキャストになっているわけですから、そこは最高まできっちりと見せて欲しかったです。

しかし、全編通して心に余韻を残してくれますし、人生を後押しする様な作品でした。
劇場での年齢層は高めでしたが、若い人にも見てもらいたいです。
特に就活中の学生さんなんかはかなり感じるものがある作品だと思いますよ。

最後に日本の映画界に長年に渡りご活躍された名女優・樹木希林さん、ありがとうございました。