きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

ビリギャル

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名古屋の女子高に通う高校二年生のさやか(有村架純)。
髪は金髪パーマでピアスを開けファッションと友人らとの夜遊びこそが彼女の世界。
エスカレーター式で大学までは進学出来る私立校ながらこのままでは内部進学すら出来ないという学力。
そんな彼女を案じた母親(吉田羊)はさやかに塾へ通う様勧める。
普段のギャルファッションのまま入塾面接を受けに行き、講師の坪田(伊藤淳史)と出会う。


実話を元にした感動作で2015年春~初夏にかけて大ヒット!有村架純の代表作ともなり、不動の地位を確立しました。
私は2015年5月にTOHO シネマズ二条で鑑賞し、あまりの名作だったのでしばらく余韻に浸っておりました。今や懐かしい話しです。

本作は言うまでもなく落ちこぼれの女子高生が偏差値を40以上上げて慶応大学へ合格するというサクセスストーリーです。
つまり結果は初めから分かってるのであって要はそこに至るまでのプロセスを如何にドラマチックに見せるかが重要です。
しかし、そこはバッチリで演出もストーリーの運びも実によく出来ていたと思います。
何と言っても登場人物が非常に魅力的でこの作品を大いに盛り上げていました。

まず、本作の主人公のさやか。それまで清純派のイメージが強かった有村架純によるギャルというのも
新鮮でしたし、それがまた見事にハマってました。
もしかしたら元ギャルだったのでは?なんて思わせる程の名演技。受験モード全開になると遊びも辞め、ネイルも辞め黒髪で清楚な姿に変わるのですが、見た目真面目そうなのに口調はギャルというギャップ萌えポイントもあります。
そもそもこのさやかちゃん。元々は内気で引っ込み思案、友達も居ない女の子なんですよね。
中学に入って初めて友達が出来、ギャル化していくという生い立ちの為か根っからの不良でもないんですよ。
髪を染める、ピアスを開ける、隠れてタバコを吸うくらい…母親や兄弟、友達への接し方を見るとかなり良い子だったりします。


そんなさやかを見守る予備校講師・坪田先生。チビノリダーで幼少期を過ごし電車男で青春期を送った伊藤淳史さんも30代。人を指導する役柄もピッタリハマるお年なわけですが、この先生の人物像が何とも魅力的。
生徒達と同じ目線に立ち、勉強嫌いな生徒へ生徒が好きな漫画やゲームに置き換えてわかりやすく指南するという指導方法を取り入れるのは生徒の心を掴めるでしょうし、何より勉強への理解度も高まると思います。
そして何よりも生徒を否定しない。
相手を受け入れ、その上で正論を提示する。
生徒のモチベーションを高め生徒の可能性を引き出す上で非常に効果的な指導方法だと思います。
この映画は教育に携わる人や部下を抱える管理職や経営者が見ても非常に参考になる作品だと思います。

小四レベルの学力で「聖徳太子」を「せいとくたこ」と読むヘキサゴン的な解答をしていたさやかが高校二年から勉強を始めて慶応に合格する程受験勉強は甘くありません。
事実、途中挫折しそうなシーンもあります。しかし、並々ならぬ努力を重ねさやかは慶応大学合格という大きな目標を達成します。
あれほど遊び歩いてたさやかがプロレタリア文学を語り、ニュースで問題となってるブラック企業への関心を深めていくなどの描写は彼女の成長を写す印象なシーンです。
努力というフィルターを通してさやかの成長が見られる一方、努力を続けるも実らなかったというシビアな描写も見られます。

父親(田中哲司)の若き日の夢はプロ野球選手になる事でした。
しかし、果たせなかった今、息子であるさやかの弟に託します。
父親の期待に応える様に弟は野球の練習に打ち込みます。
しかし、やがて限界が訪れます。
どれだけ練習を重ねても結果が出せない、上達しない。
やがて弟は野球を辞めます。
野球を辞めた弟はヤンキーのパシリをしたりと目に見えて堕落していくのですが、ここでは父親の心境をクローズアップします。
自分の私財のほとんどを息子の野球につぎ込み、付きっきりで指導をします。
しかし、反面ではさやかと妹の面倒を全て妻に任せっきりにし依怙贔屓を通り越した接し方で息子を指導してきました。
しかし、息子の心の声を汲み取ってやる事が出来なかったのです。
その結果、息子は野球を嫌う様になりました。
これは予備校の坪田と指導者としての比較という面で見ても印象深い描写だなと思いました。
かたや生徒の心を汲み生徒の可能性を引き出していく名講師・坪田。
一方の父親は自分の願望のみを息子に押し付け、スパルタ指導をするだけして息子の思いに耳を傾けようとしませんでした。
野球以外の面できちんと息子に向き合わなかったのです。
ましてやこの父親、自分の三人の子供に極端な格差をつけるという親としてあるまじき人物でもあります。
どちらが指導者として適格かは言うまでもないでしょう。

主人公・さやかのサクセスストーリーをメインにしてるのでそこにフォーカスされがちですが、指導者のあり方・支える家族の姿・目標を達成する為の努力等などあらゆる視点で見る事によって色々な発見が出来る良作です。こういう映画こそ全国の公民館や学校の映画鑑賞会などで見るべき作品だと思います。(実際やってるトコロ多そうですが)
エンドロールではサンボマスターの主題歌に合わせて登場人物たちが口パクしてます。
そこでの有村架純ちゃんがメチャクチャ可愛いのでそこも必見ですよ(笑)

斉木楠雄のψ難

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生まれながらにして超能力を与えられた高校生・斉木楠雄。しかし、彼はそんな能力を人前では隠しあくまで普通の高校生としての学園ライフを送っていた。そして迎える年に一度の学園祭。トラブルメイカー揃いのクラスメイト達があれやこれやとハプニングを起こすので超能力を回避できない状況に。そして気が付けば地球滅亡の危機が?斉木楠雄の運命やいかに?


原作は『週刊少年ジャンプ』で大人気連載中という本作ですが、もう随分と長く『ジャンプ』を読んでいない私にとっては予備知識なしの鑑賞となります。
むしろ最近好調の福田雄一作品としてかなりの期待を抱き劇場へ。
小中学生の子供も多く、ちょうど福田監督の『銀魂』や同じくジャンプ原作の『暗殺教室』を思い出す様な客層でした。

主演は山崎賢人。恋愛映画のイメージが強い若手俳優ですが、今年は『ジョジョの奇妙な冒険』に続き本作と「山崎賢人、実写やり過ぎじゃね?」とばかりにジャンプ原作映画の出演が続きます。
そんな山崎さん演じる斉木楠雄。正直期待してませんでした。
山崎賢人と言うと音楽業界で例えれば西野⚪ナの様なスウィーツイメージが付きすぎじゃないですか?
少女漫画原作のスウィーツ映画で壁ドンとかやってる女子高生にしか需要のない俳優というイメージでした。(失礼)
ところが意外にも(失礼ついでに)奇抜な制服姿と髪形、終始展開される心の声でのツッコミ芝居がピッタリハマっており山崎賢人の新境地を見せてくれた様です。
それにしてもいいですね、ピンクの髪型って。80sのニューウェーブバンドみたいで。

ヒロイン・照橋心美を演じたのは『銀魂』の神楽に続いて福田組参加の橋本環奈。
かつての仲間由紀恵、近年だと三谷映画常連の綾瀬はるか、『SPEC』での戸田恵梨香、『あやしい彼女』の多部未華子、『謝罪の王様』の井上真央、『ヒロイン失格』の桐谷美玲、つい先日見た『ミックス。』での新垣結衣永野芽郁等など数々の人気女優が潔いまでの演技でコメディエンヌっぷりを見せてくれました。
そして新たなコメディエンヌとして『銀魂』を機に一皮も二皮も抜けた感のあるのがハシカンこと橋本環奈ちゃん。
かつて「千年に一度の美少女」と言われ一躍人気アイドルとなった橋本環奈はこの福田組に入ると徹底してこれまでのイメージを覆す壊れっぷりを見せてくれます。
銀魂』での白目むいて鼻ほじほじしながらお下品な事言っちゃう姿があまりに記憶に新しいのですが、本作では顔面崩壊の顔芸に挑戦しています。
その顔の「腹立つわ~」と言わせてしまうハシカンの吹っ切れ具合はたまりません!

他キャストに目を移すと90年代に青春を過ごした身としては『ミックス。』の広末涼子に続いて内田有紀の起用が嬉しかったりします。
楠雄の母親役で田辺誠一演じる父親共々天然な役どころですが、ツッコミ所満載なキャラクターで愛らしいです。
また、『銀魂』ではクールな演技を見せた新井浩文も続投。
銀魂』とは打って変わって徹底的なおバカキャラ
39歳の高校生って高校生役最高齢なのでは?と思っちゃいますが、ハマってたら良いのです(笑)
新井さんも『銀魂』の時に福田組なのに笑い要素がない事を残念がってらっしゃいましたが、念願のコミカルキャラという事で楽しんで演じられてるのがよくわかりました。
他キャラの強い同級生を吉沢亮笠原秀幸賀来賢人らが好演。
福田組常連の佐藤二朗ムロツヨシも抜群の存在感でした。
とりわけムロツヨシさんのうさんくさいマジシャンが発する「イリュ~ジョ~ン」という決めゼリフも最高ですが、アシスタントをしていた母親(若い女の子のアシスタント見つけられなかったんだろうなぁという哀愁も感じさせる・笑)がツボでした。
『ガキ使』のキスおばちゃんみたいな出オチ的インパクトとシュールな存在感が絶妙です(笑)

また、ところどころで挿入される他漫画へのオマージュが面白かったですね(銀魂出もガンダムとかルパンとかあったけど)
ドラゴンボール』かと思えば教室内で生徒達が殺せんせーを暗殺してたり(言うまでもなく暗殺教室です)
はたまた心美の口から出てくる壁ドン要求シーン。
『ストロボエッジ』とか『アオハライド』、『ヒロイン失格』、『オオカミ少女と黒王子』等羅列してましたが、これ、山崎賢人が主戦場としてきた少女漫画原作の恋愛映画じゃん。(別名・スウィーツ映画とも言う)
オマージュなのかいじりなのか知りませんが、惜しむらくはハシカン主演の『ハルチカ』がなかった事でしょうか(最終的に興収いくらだったのかな~?)

はっきり言ってしまえば「何も映画館で見なくても?」な作品です。
ただ映画らしさを求めるならば『ブレイドランナー』とかを見た方が良いわけです。
しかし、福田雄一の作る徹底したおバカエンターテイメントが好きな人であればハマる作品だと思います。
欲を言えば次回は『女子ーズ』や『俺はまだ本気出してないだけ』の様なオリジナル作を見たいです♪
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モアナと伝説の海

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物語の舞台は南の島モトゥヌイ。一族と共に暮らす少女・モアナは海を愛し、その大いなる海への想いは膨れ上がるばかり。しかし、父からは海へ出る事を固く禁じられます。それは村の掟でもあり、かつて若き日の父もまたモアナと同じく海へ憧れ、海へ出たのですが、生死をさまよう危険な目に遭遇したからでもありました。
ところがある日モトゥヌイに異変が起こります。そこで立ち上がったのが海に選ばれた少女・モアナ。生まれて初めて大海原へと小舟をこぎだし、命の女神テ・フィフティの盗まれた心を取り戻す為の冒険に出掛けます。
道中出会ったのは伝説の英雄・マウイ。
二人で共に戦い目的を果たしていく海洋アドベンチャーです。


さて、季節外れの海を舞台にした作品ですが、元々アメリカでの公開は昨年11月、日本では今年の3月といういずれも季節感のない時期ですね。
主題歌『How Far I’ll Go』も大ヒットしたので皆さんもよく耳にした事かと思います。

そんな本作の最大のポイントは何と言ってもその映像美にあります。
まぁそこは天下のディズニーですから『アナ雪』だろうと『ズートピア』だろうと映像技術の素晴らしさは言わずもがなですが、本作についてはまるで生きているかの様な瑞々しい海の描写に尽きます。
冒頭で幼いモアナが海と戯れるシーンがありますが、まるで小さな波に魂が宿っているかの様な生命の息吹を感じさせてくれます。
旅に出てからもこの活きた海というのを目の当たりにしますが、同じディズニー制作の『パイレーツ・オブ・カリビアン』さながらの(実写ですけどね)見るだけで爽快で海洋へのロマンを感じさせる光彩の豊かさや躍動的な描写となっているので下手な水族館へ行くよりも遥かに見応えがあります。

また、マウイの胸に刻まれたタトゥーの使い方は面白かったです。
胸元のタトゥーには人を模したキャラクターが描かれているのですが、マウイは事あるとそのキャラクターに相談し、正しい道標を指南してもらいます。
いわば心の声とかもう一人の自分との対話としての描写ですが、斬新な手法だったと思います。
もちろん私はタトゥーを彫ってないですが、こういうタトゥーがあれば彫ってみたいなと思ったり思わなかったり(笑)


ただ、どうもこの映画とは相性があまり良くない様でして、公開当初に見に行ってガッカリしたんですよ。
映像や音楽は素晴らしいです!
上記のタトゥーの使い方に驚きも感じました。
日本のジブリ映画『もののけ姫』等にインスパイアされた神と自然・人間というテーマもよく描かれていたと思います。しかし、肝心のストーリーに乗りきれなかったんですよ。
何というか説明が弱いです。
さっきまでピンピンしてたばあちゃんが急に死んだりそもそもそのばあちゃんが死んだらエイになって現れるとかモアナは海に選ばれたのだとか民話とか説話に基づいてるというのはわかりますよ。
ただ、あまりに唐突過ぎるんですよね。
あと、敵キャラとして現れるココナッツの海賊・
カカモラですね。
その登場シーンから『マッドマックス 怒りのデスロード』と結びつけられるのですが、海=海賊という発想自体はわからなくもないのですが、人間を模したキャラクターじゃダメだったのかな?
それこそ「これ、明らかにジャック・スパロウだろ?」なんて海賊が敵キャラとして現れ戦う。その後はモアナ達の重要な指南役に…という展開の方がストーリー的にも厚みが生まれそうなんですけどね。
それからラスボスを倒した後現れる女神のテ・フィティが不気味です。
島そのものがテ・フィティで、島の木々に目、鼻、口がついてそれが動き出すんですよ。
それがまだ可愛らしければ良いのですが、顔中緑色で目もギョロついているから怖いです。
小さい子が見たらショックを受けないのかななんて気にしちゃいます。

世間の評価に反して私は楽しめませんでした。
でもそれはこの作品が駄作というわけではなく、単に私の感性と作品が合わなかったという事だと思います。
ただ、最先端の技術を駆使して一流のクリエイター達が作る映像美、随所随所で効果的に流れる素晴らしい楽曲の数々、作品の裏側に隠されたテーマやメッセージを読み取るなどの鑑賞する上でのポイントはあります。
アドベンチャー作品が好きならば純粋に楽しめる作品ではないでしょうか。

 

本能寺ホテル

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倉田繭子(綾瀬はるか)は会社の倒産を機に恋人の恭一(平山浩行)の実家がある京都へ行く。京都での宿泊先を求めるがどこも満室との事。途方に暮れる繭子がやっとの思いで見つけたのが本能寺ホテルだった。
道中買った金平糖を食べ、エレベーターを下りると見慣れない景色が広がっていた。
そこは1582年6月1日、本能寺の変が起こる前の日だった。
そして織田信長(堤真一)、森蘭丸(濱田岳)と出会う事に。


これ今年の作品になるんですね、もう随分前に見た様な印象です。
公開前には万城目学氏による騒動もあったりしましたが、それすらも遥か昔の様に感じてしまいます。
ちなみに私が今年に入って鑑賞した一本目の作品でもあります。
監督は数々のドラマを手掛けてきた鈴木雅之氏。(もちろんシャネルズの人ではありません・笑)
プリンセス・トヨトミ』(2011)の綾瀬はるか堤真一を配し本能寺の変前日と現代を結ぶ歴史系SFコメディを展開します。

この映画の舞台となっているのは京都。
京都観光のPR動画か?と思わせる程京都の名所が登場します。
東福寺、八坂神社、渡月橋、鴨川、先斗町等など。
去年まで京都に住んでた私にとって「鴨川のあの辺オレも座ったぞ」とか「おっ!八坂神社前のローソンだ」なんて馴染み深い場所が出る度に反応しちゃいました(笑)
二条のTOHO シネマズとか河原町のMOVIXの動員多かったんだろなぁ。(桂川イオンシネマ八条口のT-ジョイとかね・メッチャローカルですいません。)

今作のキャストは綾瀬はるか堤真一の他、濱田岳近藤正臣風間俊介高嶋政伸などの個性派が揃います。
近藤正臣さんや風間俊介さんなどの大ベテランも健在ですし、森蘭丸濱田岳さんなども良い感じです。(美少年と謳われた森蘭丸濱田岳?なんて思っておりましたが)高嶋政伸さんの演じた明智光秀
も本格的な時代劇さながらの熱演でした!
しかし、何と言っても主演の綾瀬はるかさんですね!
本作の繭子という女性はこれまでの人生をただただ流されるままに生きてきて決してアクティブとは言えない性格。
天然な綾瀬さんにははまり役で演技ではなく地の綾瀬はるかじゃない?と思わせてくれました。
特に印象深いのは信長が豪商から茶器を献上させようとするシーン。
命よりも大事な茶器なので例え信長の頼みとは言え、渡すわけにはいかないと拒む豪商から信長は力ずくで献上させます。
それを見ていた繭子が許せないとばかりに信長の手から奪い取り豪商へ返すのですが、戦国時代の暗黙の掟なんて現代人の繭子には到底理解出来ないですからね。無理もないのですが、綾瀬はるかのキャラクターだからこそマッチするんですよ。
「この人天然だけど正義感は強いんだろうなぁ」と納得させてくれますね。
ちなみにここで登場した茶器。今の価値で数億円の代物だそうで信長は権力者の象徴としてこの茶器が欲しかった様です。

その信長を演じた堤真一さん。堤さんってこの時期三つの映画とドラマに出てたんですね。
海賊とよばれた男』での硬派な船長、『土竜の唄 香港協奏曲』でのアクションもバッチリ決めるヤクザ、そして本作の信長、更にはドラマ『スーパーサラリーマン 左江内氏』でのぱっとしないサラリーマン兼スーパーマン
四者四様のキャラクターを巧みに演じ分ける引き出しの多さはさすがですね!
シリアスな作品の撮影現場にコメディのノリが出てしまったりしなかったのかななんて素人の浅はかな疑問が湧きそうですが(そもそも撮影時期が同じとは限らないか)

この信長ですが、前半は冷酷非道で鬼の様な人(森蘭丸の評)として描かれます。
しかし、繭子との交流を通して本来の自分が描く身分にとらわれない誰もが笑って暮らせる天下泰平の世を築きたいという理念を思い出すと人間味のある描写に変わっていきます。
繭子と家臣らが京の町で子供達の間で流行っている遊びに興じていると「ワシもやるぞ!」と家臣達に交じりその遊びに参加する光景は前半の冷酷非道な人物像から家臣達と同じ目線で接する信長本来の優しさを描くものとして印象深いです。
理想と高い志を胸に数々の偉業を成し遂げた織田信長
その根底には人と国の幸福を願う思いがあった様ですね。
これは「戦国時代のヒーロー・織田信長はこうであってほしい」という我々の願望も込められてる様な気がしますが、こんな信長の人物像を見れば見るほど燃え盛る本能寺の炎の中、その最後を迎える時にこみ上げてくるものがあるでしょう。

さて、この映画にはテーマがあります。
「自分探し」更に突き詰めて言えば「出来る事をやるのではなくしたい事をやる」です。
元々繭子は失業を機に彼氏との婚約も重なって京都へ来ました。
その前に東京のハローワークへ行き、就職活動をしますが、すっきりしません。
やりたい事がないのです。
厳密に言えばやりたい事を探すのではなく出来る事を探そうとする、つまり仕事をする上でやりたい事をやるという選択肢がないのです。
しかし、京都へ行き婚約者の父と会います。
京都でも人気の料亭。そこの経営者なのですが、ある決断をします。
今でこそ一流料亭へと成長した自身の店だが、料理人人生で最も充実していたのはお金のない学生達に安く料理を提供して満足してもらっていた時であると。そしてその原点に回帰し、大衆食堂に転身したいと自身のパーティーで公言します。
また、信長は天下泰平の世を築くという理念に揺るぎはありません。非業の死を遂げる時でも自らの意思を継ぎ、世を治めてもらいたいと秀吉に託します。死を迎えるその時まで、いや死してもなお、平和の為の天下統一という大願を抱き続けたのが信長なのです。
そんな信長の姿を見た繭子も最後は自分の道を見つける事になります。
やりたい事をようやく見つけた繭子が鴨川沿いで信長の幻影と共に飛来する蝶を目で追うシーンが印象的です。


京都に実家のある彼氏やその友人達が何故京都弁を使わないのかとか詰めの甘いタイムスリップの描写とかいくつか気になる点はあります。
しかし、キャスティングの妙と明確なテーマ、更にストーリー展開自体は悪くないので年代問わず楽しめる作品ではないかなと思います。
ただ、フジテレビさん。来年の年明けは信長モノやらないですよね?
信長協奏曲』、『本能寺ホテル』と二年連続ですのでさすがにお腹いっぱいです(笑)

女子ーズ

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この夏の特大ヒット『銀魂』に続いて最新作『斉木楠雄のψ難』も好調な福田雄一監督。
これまでも『勇者ヨシヒコ』シリーズや『コドモ警察』、『HK 変態仮面』などでコアなファンを獲得してきましたが、その中でもブレイク直前の有村架純高畑充希山本美月などを起用し、独特な世界観を構成した2014年の『女子ーズ』が私は好きでして、今回はそんな『女子ーズ』を紹介したいと思います。


謎の司令官・チャールズ(佐藤二朗)によって結成された女子だけの5人組戦隊その名も女子ーズ。
特別な戦闘能力を持つわけでもない至ってフツーの女の子達。
選抜基準はただひとつ、名前に色が入っているというだけの適当なものだった。
メンバーは仕事熱心で真面目な性格のOLで女子ーズのリーダー・レッドこと赤木直子(桐谷美玲)、気の強いショップ店員でギャルのブルーこと青田美佳(藤井美菜)、極貧でバイトの掛け持ちで生計を立てるフリーターのイエローこと黄川田ゆり(高畑充希)、売れない劇団員のグリーンこと緑川かのこ(有村架純)、良家のお嬢様だが男の趣味が悪いネイビーこと紺野すみれ(山本美月)の5人。
何故ピンクではなくネイビーなんだ!と言いたくなるトコロですが、桐谷美玲有村架純高畑充希山本美月藤井美菜といった美人女優たちがシュールなギャグを繰り広げながら地球侵略を目論む怪人たちと戦います。

一応ジャンルで言えば特撮ヒーローものとなります。
しかし、戦闘シーンと言ってもライダーや戦隊モノの様な本格的なアクションなんてありません。
戦闘中にガールズトークはするわ、メンバーが集まらなければケータイで呼び出しをするわメンバーの心がバラバラになりレッドしか現れなかった時には他のメンバーを集めるため、怪人を数時間も待たせたりします。
女子ーズの唯一の必殺技とし繰り出されるのが女子トルネードなのですが、いいんですよこれが。
いい意味でショボくて(笑)

そして彼女達と戦う怪人たちも面白かったですよ。
明らかに弱そうですもん(笑)
いくら5人集まってるとは言え至ってフツーの女子に派手な戦闘を展開するわけでもなくあっけなく負けちゃうわけですから。
ケータイの呼び出しをちゃんと待ってあげたりとかメッチャ優しいじゃないですか(笑)
実はこの悪いヤツなのに憎めない怪人達って強く出たいのに女子のペースに振り回されてしまう世の男性達をイメージしてるのかななんて思っちゃいました。
それはそうとカメムシの怪人は臭そうだったなぁ。美人女優たちにウ⚪コウ⚪コと言わせてしまうくだりはサイコーです(笑)

前半はひたすらゆる~く展開されていくのですが、中盤に入りレッドの仕事が忙しくなっていくとシリアスな様相を見せていきます。

人一倍真面目で責任感の強い女子ーズのリーダー・レッドですが、本職の仕事で自分のプロジェクトが進行していくと大事な会議が入ったり、重要なプレゼンがあったりと戦闘現場に姿を見せなくなります。
怪人との戦いを終え、傷を負った他のメンバーがレッドの元を訪ねますが、仕事を理由に戦闘に参加出来ないとわかると不満をあらわにします。
自分たちだってバイトや芝居の稽古を抜けて戦ってるのに自分の都合だけ考えるのは許せないという言い分です。
これまで力を合わせて戦ってきた5人に初めて不和が訪れます。
その第一要因としては生活環境の違いから生まれる価値観の違いにあります。
彼女達のやり取りの中でこんな描写があります。
皆それぞれのバイトや予定を抜けてやっていると詰め寄るメンバーに対してレッドは
「みんなはバイトでしょ?私は正社員として仕事をしているの!」(正確なセリフは曖昧ですが、こんなニュアンス)と言います。
仕事という物差しでの優劣問題として正社員として働く人が抱きがちなフリーターへの目線がリアルに描かれていたのではないでしょうか。
これは実際の人間関係でもありますよね?
正社員として働いているとフリーターとして働く人の事情などを考慮せず、自分の基準で物事を判断し、時にそれを押し付けたりあるいは相手の境遇を否定してしまったり。
何が正解かなんて事はわからないんですけどね。

テンポはゆるくギャグはシュールに、ふざけてる様でかなり組み立てられた脚本と構成。
好き嫌いははっきり別れる作風ですが、ハマる人はトコトンハマる作品でしょう。
「こんな事しちゃうの~?」とか「こんな事言っちゃう?」と思わずハラハラさせられる5人のコメディエンヌっぷりにアッパレです!
敢えて言えばメンバー中一人は若い人妻が居てもよかったかも?
家事や育児に追われる中、或いは旦那と久し振りの夫婦水入らず中に召集がかかるなんて展開が出来たかも??

シング/SING

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舞台は擬人化された動物たちが暮らす街。経営難の劇場を再建したい支配人のコアラ、バスター・ムーンはある秘策を立てた。それは町中の歌自慢達を集めたのど自慢大会を開く事だった。
町中にくすぶっていた歌好きな動物達が集まり、本選出場と賞金を掛けたコンテストが開催される。


『怪盗グルー』シリーズやスピンオフの『ミニオンズ』、『ペット』など数々のヒット作を生み出したユニバーサル・スタジオの子会社・イルミネーションエンターテイメント。一見『ズートピア』の様な舞台設定の中に「歌」という要素を打ち出し世界中で大ヒット。日本でも50億円を超える興行収入を上げ、今年春の興行を大いに盛り上げました!

今年、日本で公開された作品の中でもダントツに好きな作品ですね。
字幕/吹替ともに鑑賞し、DVD も合わせて10回以上は見ておりますが、個人的には吹替派ですね。(字幕も良いですよ、スカヨハの歌声にしびれるしね!)
したがってここでは吹替版を元にお話しさせて頂きます。

音楽と映画の親和性は高いなんて事は今更言うまでもありません。
しかし、古今東西のポップチューンのヒット曲のみで構成される作品というのはそうそうないのでは?と思います。(日本だと2011年の『モテキ!』がありますけどね)
その選曲もテイラー・スウィフトケイティ・ペリーの様な近年のヒット曲からクイーンやビートルズエルトン・ジョンといったポップス/ロッククラシックはたまた日本からはきゃりーぱみゅぱみゅの『にんじゃりばんばん』と実にバラエティに富んでいます。
そしてそれらの楽曲を歌うキャラクターもピッタリだし、非常に効果的な場面で演出的に使われてたりもするので「ここでこの曲使うか~、う~ん、やるなぁ」なんていちいち感心されちゃいます。

キャスティングも見事でコアラのバスター・ムーンを内村光良、ブタのグンターをトレンディエンジェルの斎藤司、グンターの相方のロジータ坂本真綾ヤマアラシのアッシュを長澤まさみ、ゴリラのジョニーをスキマスイッチの大橋卓也、象のミーナはMISIA、ネズミのマイクを山寺宏一他、宮野真守大地真央などなど俳優、芸人、声優、ミュージシャンと多様な人選。
ドラマや映画出演も豊富な内村さんや斎藤さんの芸人組、長澤まさみさんや大地真央さんの女優組、そして本職声優の皆さんは言うに及ばず。注目は演技初挑戦の大橋さんやMISIAさんでしたが、もちろん歌がお上手なのは言うまでもありません。(そりゃプロですからこんな言い方が失礼です)
ただ、演技はどうなんだと言うとこれがいいんですよ!
ゴリラのジョニーの見た目と境遇は超肉食、だけど内面は繊細な草食男子という性格と大橋さんの声質がピッタリだったし、歌う時は超パワフル反面普段の性格は内気で上がり症という象のミーナのキャラクターとMISIAさんの声がバッチリハマってました!
余談ですが、以前MISIAさんのライブを見に行った事がありますが、MCの時のMISIAさんってメッチャ可愛い声なんですよね。

ストーリーとしては理想と現状のギャップに悩む主要キャラクター達が歌を通しての自己表現をして、ステップアップをしていく過程を描いています。
最近取り上げた『チア☆ダン』とか『ミックス』にも通じる持たざる者の成長ストーリー的な内容に近いのですが、本作の登場人物(と言うか動物ね)達は実は「持つ者」なんです。音楽院出身のジャズマン・マイク、彼氏(作中で元カレになる)とバンドを組むアッシュ、家事と子育てに追われる中、唯一の生き甲斐を歌に委ねるロジータ、ホントはやりたくない悪行を紛らわす為に歌を唄うジョニー、天才的な歌唱力を持ちながらも人前に立つと緊張して唄えなくなるミーナ。
皆、唄のセンスは持ちながらもそれを活かす環境がない、或いは才能を認められない面々です。
それはムーンも同じ。
劇場に懸ける想いや熱さを抱えながらも自分の理想とは程遠い現実に苦悩しています。
そんな面々が集まってはじめて自分達の理想像を手にしていくのが本作です。
自分の才能とそれを活かす環境に遭遇出来るかという適材適所の問題は人生においても切実ですよね。
自他共に満足出来る環境で自分のスキルを活かせている人なんて実社会においてもごく一部だと思います。

現実の生活に戸惑いを隠せないキャラクター達の抱える問題がひとつに結び付き生まれるステージでのライブパフォーマンス。
これまでの過程を見てきたからこそ胸が熱くなるんでしょう!
全ての音楽が好きな人、夢を追ってる人、理想と現実のギャップに悩んでる人そんな人達の後押しをしてくれる様な素晴らしい映画だと思います!

 

ミックス。

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ミックスとは?…男性一人と女性一人のペアで戦う卓球の種目のこと。2020年に開催される東京オリンピックの追加種目として採用されるなど、大きな注目を集めている種目でもあります。
このミックスとロマンティックコメディを融合させた作品がこの『ミックス。』です。
ドラマ『リーガル・ハイ』や映画『エイプリルフールズ』の古沢良太が脚本を担当、石川淳一が監督を手掛け、新垣結衣・瑛大のW主演で展開されます。

母・華子(真木よう子)のスパルタ指導により天才卓球少女として将来を期待された多満子(新垣結衣)は、母の死後、卓球とは決別し普通の青春時代を過ごし普通に就職し平凡な日々を過ごしていたが、会社の卓球部のエース・江島(瀬戸康史)に告白され付き合う事に。しかし、新入社員の美人卓球選手・愛莉(永野芽郁)に江島を寝取られてしまう。会社も辞め、田舎へ帰る多満子だが。


ハイ、というわけで新作『ミックス。』について語らせて頂きます。
まず、キャストについてですが、脇を固める面々が非常に充実してます!
広末涼子瀬戸康史永野芽郁真木よう子小日向文世蒼井優田中美佐子遠藤憲一吉田鋼太郎生瀬勝久、斎藤司(トレンディエンジェル)など。
そして主演は新垣結衣瑛太です。
何といっても注目はガッキーですね。社会現象ともなったドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(通称・逃げ恥)後初の映画出演ともあって実際、『逃げ恥』前と『逃げ恥』後では彼女に対しての注目度も期待度もその空気感そのものが変わってると思います。
そんなガッキーの魅力は満載で試合でのアクティブな彼女も恋愛要素を強めたかわいいガッキーも楽しめるし、ファンサービスの様に学生時代のセーラー服にガングロギャル、OL、チアリーダーそして卓球のユニフォームとコスプレもたっぷり盛り込まれているのでガッキーファンなら満足出来るのではないでしょうか。

個人的には中華料理店に居る中国人・楊を演じた蒼井優が印象的でした。
瑛太演じる萩原のひょんな一言から旦那の張(森崎博之)と共に卓球のコーチをする事になるのですが、キレッキレです(笑)
どう見ても達人級の上手さを持つ中国人そのものでエンドクレジットを見るまで蒼井優さんとは気づきませんでした。
他、広末涼子演じる吉岡弥生らフラワー卓球クラブの抱える卓球以外の生活にもブラッシュアップしてましたが、何故卓球をするのか?彼らにとっての卓球とは何か?がきちんと描かれており、キャラクターも明確でわかりやすかったですね。

ストーリー的には卓球と恋愛を文字通りミックスさせるという内容だけにテンポもよく飽きさせないつくりでした。特にラストは意外な展開でしたね。フツーこういうスポーツを題材にしたものって主人公側に有利に運びがちじゃないですか?しかし、本作では現実を見せつける様な結末となっております。敢えて王道的な展開を外し、それよりも試合を通しての主役二人や登場人物たちの人間的変化に重きを置くつくりは個人的には良かったですね。


ただ、その一方ではやはり気になる点もあるので拾い上げてみます。
まず冒頭。現在の多満子の目線で自分の生い立ちを紹介するシーンがあります。
スパルタ指導で卓球に打ち込んでいた時代の描写が登場します。
その時に「鬼の様な母親」で紹介した後、本当に鬼の顔を当て、消えると真木よう子の顔が現れるという描写があります。
あれ見た瞬間「うわ~、やっちゃった~」て思いましたよ。フジテレビ×東宝の組み合わせによるよくある悪い癖ですね。『グッドモーニングショー』とかに通じる様な(たびたび引き合いに出しますが)
まぁ、その後はしっかり見る事が出来たのでよかったのですが、アレ面白いと思ってやってるのでしょうか?
今作はリアリティを追求したいから卓球の試合で必殺技を繰り出したり荒唐無稽な描写は控えたとの事でそこは良かったのですが、冒頭のアレはいつもの東宝アンビリ作品にありがちな安っぽい演出に見えたので残念なところです。

後、遠藤憲一田中美佐子の落合夫妻の卓球に懸ける想いを描写するシーン。
実は悲しい事情があるんですよ。
二人が経営するトマト農園でのシーンで夫が妻に農園を縮小する話をします。
「跡を継ぐヤツも居ないしな」という言葉から二人には子供が居ない事がわかります。
しかし、後半になってようやく事の真相が明らかにされます。
そのシーンで見た人は事情を理解する事になります。
ただね、その描写もっと丁寧に掘り下げてほしかったなぁ。
少しくらいの泣き要素はあっても良かったと思いますよ。

それから少し細かいのですが、多満子の高校時代と思われる時の写真でガングロになってるものがあります。
前述の様にファン向けのサービスショットだと思いますが、現在28歳という年齢設定の多満子です。
その年齢の高校生時代ってガングロギャル居た?ガングロ流行ったのって2000年前後くらいじゃなかったっけ?
ま、そこは本当に細かいところです。作品には直接影響がないのでただのあら探しと言えばそれまでですね。

タイプとしては『ビリギャル』とか『チア☆ダン』の様な持たざる者が努力を重ねる事によって目標を達成するサクセスストーリーに近いのかな?と思ってはじめは見てましたが、どうやら少し違う様です。
それぞれの登場人物が自分の存在価値を見いだす為にまた様々な想いを胸にして卓球に打ち込んでいる
様子を描いた作品といった印象を持ちました。
大きな感動こそないですが、卓球を通じての人間描写という視点は良かったし、笑いドコロも押さえてて楽しく鑑賞出来る映画だと思います。
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