きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

銀河鉄道の父

小説家・門井慶喜宮沢賢治の父である政次郎を主人公に究極の家族愛をつづった直木賞受賞作「銀河鉄道の父」を、「八日目の蝉」「いのちの停車場」の成島出監督のメガホンで映画化。
岩手県で質屋を営む宮沢政次郎の長男・賢治は家業を継ぐ立場でありながら、適当な理由をつけてはそれを拒んでいた。学校卒業後は農業大学への進学や人工宝石の製造、宗教への傾倒と我が道を突き進む賢治に対し、政次郎は厳格な父親であろうと努めるもつい甘やかしてしまう。やがて、妹・トシの病気をきっかけに筆を執る賢治だったが……。
役所広司が政次郎役で主演を務め、長男・賢治を菅田将暉、賢治の妹・トシを森七菜、母・イチを坂井真紀、祖父・喜助を田中泯、弟・清六を豊田裕大がそれぞれ演じる。「かぐや姫の物語」「この道」の坂口理子が脚本を担当。(映画・comより)

以前からこの映画について触れる時、僕は名作の予感という事を口にしてきました。うん、この言葉に決して間違いはなかった!僕の目に狂いはなかった。この映画を見て心から思いました!後程詳しくはお伝えしますが、少なくとも今年見た邦画実写の中では最高傑作でした!

まず、今作鑑賞は先週の水曜日(5月16日)Tジョイ出雲にて見て参りました。水曜のサービスデーという事で平日ながら割と人は入ってましたね。年齢層としては比較的高め。男女比では半々くらいでした。そんな中で兼ねてからの高い期待値を胸に鑑賞。

まず冒頭で出てくるのは賢治誕生の場面。列車の中でのシーンなんですが、ここが後に繋がる伏線になろうとは思いませんでした。賢治の父・政次郎を演じる役所広司さんと母・イチを演じる坂井真紀さんの姿がありますが、このお二人は賢治誕生から亡くなるまでの両親役なのですが、役所広司さんは特に実年齢より大幅に若い役なのですが、決して違和感がない。メイクの技術等もそうですが、役所さんの演技による所がかなり大きくこの辺りは流石の日本が誇る名優だと感じます。

賢治誕生後には祖父・喜助も出てくるのですが、田中泯さんの存在が光る。学問を身につけさせると文学や芸術に溺れると江戸時代生まれの古風な祖父の顔を見せる。すごいのがこの時は昔気質の親父像を画面で伝えるのですが、晩年には認知症を患い往時とはかけ離れた姿を見せるこのになります。一人の人物の全く違う姿を演じ分ける田中泯さんに役者としての気迫を感じます。名優の矜持をこの祖父の姿でまざまざと見ている人に投げかけてきます。

役所広司さん・田中泯さんというベテランのお二人が非常に強い存在感を放つ一方で賢治を演じる菅田将暉さんの演技にも魅了されます。賢治はどこまでも純粋だし、真っ直ぐ。だけど何か夢中になった時にはまるで何かに取り憑かれた様に没頭する。その愚直さであったり一本気だけどどこか青臭さも残る宮沢賢治を菅田くんの演技は見事に表していたなと思います。

また、妹・トシを演じた森七菜ちゃんの存在も光ってましたね。彼女は物書きになる前の賢治の数少ない理解者。また、聡明な女性で賢治に理解を示そうとするもどこか保守的で賢治の可能性を閉ざそうとする政次郎の心境に変化を与える重要なキーマンでもある役どころ。これまでの森七菜ちゃんのイメージにはなかった役柄でしたが、すごい役に合っていましたね。時代劇とまでは言わないまでも明治〜昭和初期が舞台となっている今作の様な作品の方が魅力が光るのでは?と思いましたね。今後は戦争物等もいけそうな気がしました。

そしてストーリーが非常に起伏に富んでいて無駄な場面がほぼ無かったと思います。それは宮沢賢治の人物像を伝える上での文学に取り組むまでの数々の逸話であったり家族内での出来事であったり。例えば時代的に日露戦争第一次世界大戦米騒動関東大震災世界恐慌から満州事変といった具合に世相を表す場面や台詞がなかったし、また賢治は生涯童貞であったという通説がある一方、恋仲になった女性は居たという説もある。もしその説を採用するのであれば、恋人とのロマンスのシーンがあっても良さそうなものだが、そういった場面は一切ないし、賢治の学友なりが出て来ても良さそうなものだが、それもない。変わり者が故に友達が居なかったなんて見方も出来るかもしれないが、ここでは宮沢家の家族の物語という点にウェイトを置いたからだと思います。

でもこれが結果的に非常にうまくまとまっていて作品としての内容をより濃くしていたと思います。

そしてこの作品においては人の死の場面が三回出てきます。これらの捉え方だって非常に計算されていたなと思います。まず祖父の死。これは賢治との関わり方を象徴しているのでしょうか。実にあっさりしている。認知症を患った前述の田中泯さんの迫真の演技で捉えたかと思えば次の場面では葬儀のシーンに変わる。何なら賢治が宗教に傾倒する上での言葉は悪いが、叩き台にしている。次の妹・トシの死の場面では賢治が作家になる契機となるきっかけでもあるため、非常に感傷的に捉えるそして賢治の死においては本作最大のハイライトとなる事もあって宮沢家の家族を軸にした劇的な場面となる。ここではあの有名な「雨にも負けず」の詩を政次郎が朗読するのですが、僕はここで大号泣。小学生の時に先生から指名され、やる気なさそうにクラスで読み上げたあの詩。もしあの時の僕に言えるのであれば、言いたい。30数年後、この詩で大号泣する時が来るぞと(笑)また、坂井真紀さん演じる母・イチが見せる母親としての強さと優しさを感じる言葉。こちらにも胸が締め上げられる思いでした。

そして最後銀河鉄道で家族がひとつになる場面。なんてにくい演出をしてくれるんだ。と涙で目を腫らした僕は困惑しましたよ。

さて、シネマクラブ会員さんであればご存知の様にいつも僕はレビューのラストで「ただ気になった点がありまして…」とか「でももう少しこういう点が…」なんて指摘をしたりします。

今回に関してはそれがないです。強いて言えば…。こんなに俺を泣かせやがってよ〜。目が赤くなってエンドロール終わっても席立てなかったじゃねぇか。いきものがかりの曲もまた感情を刺激してくるしさ〜

ってとこでしょうか(笑)

興行収入100億円のメガヒット!みたいな作品ではないでしょうけど、こういう映画もっと評価されてほしいなと思います。年末のきんこんシネマ大賞にはノミネートは間違いないです。いや、そんな影響力のない映画賞はともかくですよ。来年の日アカでのノミネート等は期待したいですね。

今のところですが、今年見た邦画実写としては『ラーゲリより愛をこめて』か今作が今のところ個人的なベスト作品です!

強くオススメします!