きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

かがみの孤城

直木賞作家・辻村深月の同名ベストセラー小説を、「河童のクゥと夏休み」「カラフル」の原恵一が監督を務めて劇場アニメ化。
中学生のこころは学校に居場所をなくし、部屋に閉じこもる日々を送っていた。そんなある日、部屋の鏡が突如として光を放ち始める。鏡の中に吸い込まれるように入っていくと、そこにはおとぎ話に出てくる城のような建物と、6人の見知らぬ中学生がいた。そこへ狼のお面をかぶった少女「オオカミさま」が姿を現し、ここにいる7人は選ばれた存在であること、そして城のどこかに秘密の鍵が1つだけ隠されており、見つけた者はどんな願いでもかなえてもらえると話す。
若手女優の登竜門として知られる「カルピスウォーター」のCMキャラクターに起用されるなど注目を集める當真あみが、オーディションで1000人以上の中から主人公こころの声優に選ばれた。「百日紅 Miss HOKUSAI」などでも原監督と組んだ丸尾みほが脚本、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」のA-1 Picturesがアニメーション制作を担当。(映画・comより)

2018年に本屋大賞を受賞した辻村深月の小説「かがみの孤城」。クレヨンしんちゃん映画の名作「オトナ帝国の逆襲」を生んだ原恵一監督の手によりアニメ映画化。公開当初から気にはなっていたものの劇場鑑賞は見送るつもりでいました。

ところがこれがかなりの評判という口コミが広がり、これは見逃せないと遅まきながら見て参りました。

まず始めにお伝えしますね。鑑賞後の率直な感想としては間違いなく名作である事は断言します!更に言えば学生時代にトラウマがある人ならば是非見て頂きたいし、中学生・高校生や年頃のお子さんをお持ちの方には強く推奨したい作品です。

アニメ映画としては「すずめの戸締り」にも「THE FIRST SLAM DUNK」ももちろん素晴らしかったし、その点は番組でも強くお伝えしたところです。しかし、この二作との違いとしては中学生の余りにも残酷な現実がまざまざと映し出され、感情に強い刺激が与えられるという点なんですよ。

いじめ、不登校、人間関係のつまずきという問題描写ですよね。孤城に集められた7人の中学生。彼らが結束して謎を解いていくサスペンスでありながら彼らの心の闇をフォーカスしていきます。

さて、いきなりですが学校のクラスって何でしょうか?たまたま同じ年に同じ地域に生まれた子供達が30人かそこら集められて共同生活を送る場所。これは甲本ヒロトさんもおっしゃっていた事なんですが、正にその通りだと思います。

この集合体。個性もバラバラな中、規律を重んじ共に学び共に汗を流し一緒に青春を謳歌する。数年後の成人式に顔を合わせ思い出話に花を咲かせ、更にその数年後の同窓会では結婚しただのどこそこに就職しただの近況を話し合う。でもその一方でこのレールに乗り損なう人だって居る事を忘れちゃいけないんだよ。それこそがいじめによって人生めちゃくちゃにされた人なんです。学生時代のいじめがきっかけで引きこもり、数十年経っても社会に出れない人だっているしいじめを苦に自殺をするなんてニュースは年に幾度耳にするんでしょう。しかし、いじめた奴というのはその事も忘れ人生を歩んでいく。ふざけんじゃねぇぞ!

…ってすいません口が悪くなってしまいました。実は私、中学時代いじめられ、高校は人間関係につまづいて不登校から中退してしまいました。その後、大検を取って大学までは行きましたけどね。だからこそ…ってわけでもないんですが、今作で描かれたいじめシーンは何とも胸糞悪かったですね。教師等大人の前では優等生気取りながら陰湿ないじめをする姑息さが余計に憤怒の感情を煽りましたね。また、オリラジの藤森さんが声を担当してられましたが、担任のクズっぷり。近年あったいじめの事件で学校や教育委員会の対応があまりに酷かったので世間から大バッシングを受けてました。もちろんしっかり取り組んでいる教師も居るのでしょうが、表面的な部分でしか判断せずに穏便に済ませようとするこの若い教師には怒りしか沸きませんでしたね。

また、こういった胸糞描写で言うと後半はかなりエグかった。はっきり言いますね。義理の父から受ける性的虐待を示唆する場面ですね。ここをより恐ろしくさせたのはこの義父の顔にモザイクをかけたところ。これは追われる少女の目から見た義父がもはや顔すら見たくないという心理面の反映として表現しているわけですね。学校にも家にも居場所のない少女の心境とは考えるだけでも辛くなります。

とこの様に心にダメージを与える様な描写が出てきますが、むしろこれがリアルだからこそ胸に響くんですよね。90年代に一世を風靡した野島伸司脚本ドラマ等は正にこの手法だと思い出しました。現在ではコンプライアンスの点から地上波放送では厳しいでしょうが、いじめやレイプのシーンふんだんに出してましたからね。

さて、いじめをテーマにしたアニメ映画で思い出したのが『聲の形』という2016年の作品がありました。いじめというと被害者に目が向けられがちだし、そうであるべきだとは思いますが、同作では加害者の心の葛藤を描いていたのが印象的でした。今作の場合は主人公であるこころちゃんの目線でストーリーが進行する中で彼女の数少ない味方である一人の少女の口から語られた言葉。自分を取り繕う為に徒党を組んでいじめをしたり仲間をハブイたり。話す事と言えば薄っぺらな恋だの何だのそんなヤツらの将来なんて知れてるという旨の内容。これはホントにそう!結局人としての深みがないんだよね。

…なんて昔の自分を思い出してその時の感情が噴出してる様な今回のレビュー(これでも抑えてる方ですよ。)

更にリアルな点突っ込むと集められた7人。彼らの中でも浮く子が出るって事なんですよね。「弱い者達が夕暮れ」じゃないんですけど、こころの声が全てを語ってくれるのですが、これって人間あるある描写としてはかなり説得力がありましたね。

さて、本作はラストにはいじめ問題解決のハッピーエンドではありません。それには原恵一監督なりの解釈として表明されている事なんですが、いじめの問題は根本的に解決しないという事。だけど決して救われないというラストではなく、こころちゃんの次に期待を託す様な形で落ち着かせます。この後のこころちゃん次第で未来は変えられるというメッセージでもあり、これだからこそ見た人に前向きにさせてくれる力強さを感じました。

そしてこれは子供達だけではなく大人達へも深く刺さるものでした。

個人的に早くも2023年ベスト級に出会いました!

少しでも多くの人に見て頂きたい作品です!

是非ご覧下さい!