きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

ベイビー・ブローカー

解説

万引き家族」の是枝裕和監督が、「パラサイト 半地下の家族」の名優ソン・ガンホを主演に初めて手がけた韓国映画。子どもを育てられない人が匿名で赤ちゃんを置いていく「赤ちゃんポスト(ベイビー・ボックス)」を介して出会った人々が織り成す物語を、オリジナル脚本で描く。古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョンと、赤ちゃんポストのある施設で働く児童養護施設出身のドンスには、「ベイビー・ブローカー」という裏稼業があった。ある土砂降りの雨の晩、2人は若い女ソヨンが赤ちゃんポストに預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づいて警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく赤ちゃんを連れ出したことを白状する。「赤ちゃんを育ててくれる家族を見つけようとしていた」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、サンヒョンとドンスを検挙するため尾行を続けていた刑事のスジンとイは、決定的な証拠をつかもうと彼らの後を追うが……。ソン・ガンホのほか、「義兄弟 SECRET REUNION」でもソンと共演したカン・ドンウォン、2009年に是枝監督の「空気人形」に主演したペ・ドゥナら韓国の実力派キャストが集結。2022年・第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、主演のソン・ガンホが韓国人俳優初の男優賞を受賞。また、人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞した。(映画・comより)

万引き家族』のパルムドール受賞以来、海外でも精力的に仕事をこなす是枝監督の最新作は韓国の一流俳優を配した社会派ドラマという事で兼ねてから気になっておりました。そして異例の早さで梅雨が明けた直後の6月末日久しぶりの松江東宝5にて鑑賞して参りました。

「初めから捨てるなら産むなよ」ある人物が投げ捨てる様に言い放つ冒頭のセリフ。その通りだと思います。赤ちゃんポストベイビーボックス)というものに馴染みのない私なんかは「そうだそうだその通り!」と共感しかないと見ておりました。

でもね、これがひとつの方向だけで考えてはいけないと本作を見続けていくうちに考えに変化が生まれていくのに気付かされます。それは本作に登場するあらゆる人物の視点が入る事によってこの人にはこの人にはこの人のそして赤ちゃんを捨てる人にはその人なりのそうならざるを得ない事情が明かされていきます。

この見せ方は非常にうまくて見ている側に一辺倒の物の見方だけでは真相には辿り着けないという現実に気付かされるんです。

例えて言うならばニュースの報道なんかを見てもそうかもしれませんね。メディアからの報道を受け取る側つまり視聴者たる我々はその報道側からの視点を事実として捉える。しかし、問題の当事者には当事者のそこに至った事情があるものの、それがなかなか伝わってこなかったりもする。要するに一面的な見方だけでなくあらゆる角度から物事を捉えなさいというメッセージを暗に盛り込んでいるんですよね。

それが韓国を代表するキャストの面々の演技で見せてくれ、作品に引き込まれていくのです。

嫁も子供もおらず、気ままな独身生活を謳歌する私は「子供を捨てるなんてとんでもない!」なんて無責任に善人ぶった事を思うわけですが、是枝監督の社会を切り取った描写はさすが!と感嘆させられました。

更に言えば現代の貧困問題についても一石を投じる様な深いメッセージ。

子供を育てられない。何で?お金がないから。だったら避妊すればいいじゃん?実はそれが出来ない人もいる。等等深くはお伝えしませんが、子供の育児放棄やらの事象を追っていくとわかってくる事もあるんですよね。

万引き家族』では貧困家庭の実態や年金の不正受給等に踏み込んでいた是枝監督ですが、やはり本作でもその手腕が光っていましたね。

そして思いました。貧困の実態が浮かび上がる背景には政治の在り方や社会の仕組みその他様々な要因があるわけですが、どこの国であっても大なり小なり存在し、我々はその問題から目を背けてはならないし、いつ僕らもまたその当事者になるかわからないという事を忘れてはなりませんね。

と、この様に深い社会的なメッセージが盛り込まれ、作品としては非常に意義のある物だし、良い内容だとは思います。

ただ、その一方でなんですが、是枝作品って『万引き家族』もそうでしたが、見る人を選んでしまう傾向はやはり強いなと感じました。というのが大衆的なエンターテイメント性よりも作家としての芸術性に比重を置く作品づくりですよね。何しろあの『君の名は。』が大ヒットしていた時に大衆に迎合する作品性を徹底批判した是枝監督です。大衆向けではなく自己のアーティスティックな作風を優先してそれで映画を大ヒットさせ、パルムドール受賞まで達成させた実績はスゴいと思います。ただ、一方である程度のエンタメを求めてしまう僕としてはただ淡々と進めていくストーリーの見せ方にもうひと工夫欲しいなと思ったのが正直なところ。内容は劇的なのに見せ方にボリュームが生まれないから見ている人を置いてけぼりにしてしまうきらいがあるんですよね。そのせいで内容は濃いのに見終わった時に物足りなさの方が勝ってしまい、結果心に余韻を残さないんですよ。

自分が肩入れしてるからという事ではないですが、同じ社会派作品の監督として白石和彌監督はこの辺りのバランスが優れているなと思うんですよ。重厚なテーマを飽きさせない画づくりで展開させながら監督のカラーと大衆向けのエンタメ性を程よくブレンドさせながら、ひとつの作品をまとめてくる手腕ですよね。『凶悪』・『孤狼の血』・『死刑にいたる病』が何故映画通からの評価が高いかというところですよね。僕は何も目を背けたくなる様な残虐なシーンを望んでいるわけではない。そういうものがなくとも引きつける作品はきっと生まれる事でしょう。ましてや是枝監督クラスの方であればそういう作品も撮れる事でしょう。まぁこれはあくまで個人の好みですから、僕の考えに「何言ってんだお前は!」なんて厳しく言われちゃうかもしれないですけどね。

なんて最後は主観的な感想を厳しめに言わせて頂きましたが、社会の暗部をしっかりと映し出した深い内容である事は保証します!

是非ご覧下さい!