きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

騙し絵の牙

f:id:shimatte60:20210415150344j:plain

「罪の声」などで知られる作家の塩田武士が大泉洋をイメージして主人公を「あてがき」した小説を、大泉の主演で映画化。出版業界を舞台に、廃刊の危機に立たされた雑誌編集長が、裏切りや陰謀が渦巻く中、起死回生のために大胆な奇策に打って出る姿を描く。「紙の月」「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督がメガホンをとり、松岡茉優佐藤浩市ら実力派キャストが共演する。出版不況の波にもまれる大手出版社「薫風社」では、創業一族の社長が急逝し、次期社長の座をめぐって権力争いが勃発。そんな中、専務の東松が進める大改革によって、売れない雑誌は次々と廃刊のピンチに陥る。カルチャー誌「トリニティ」の変わり者編集長・速水も、無理難題を押し付けられて窮地に立たされるが……。
(映画.comより)

人を騙しちゃいけないよ。

なんて道徳的には最もな事なんだけどしかし、エンタメこと映画というコンテンツの上ではこれほどハマるものはないわけでして、我々見る側も悔しいけれだ映画に仕掛けられたトラップに次々と引っ掛かり騙されてしまう。
そして、騙された時に変に感じるあの爽快感…なんて言うと誤解されそうなので言っておきます。

ワタクシ、決して変態ではございません!

さてさて、本作『騙し絵の牙』はタイトルが示す様に徹底的に騙しにかかろうとしている。
過去、『コンフィデンスマンJP』でとことん騙されその都度、妙なエクスタシーを感じた(だから俺は変態じゃない!)私を本作ではどんな形で騙してくれるのか期待を胸に鑑賞して参りました!

本作の原作は昨年11月に映画化され、私も感動の涙を流したあの『罪の声』の塩田武士氏の小説。
『罪の声』とは打って変わって本作で感じたのは出版業界の『アウトレイジ』かはたまた『仁義なき戦い』。
表向きは編集者・記者等出版社の面々だが、彼らは常にナイフを携え、同じ出版社の他誌の面々をあの手この手で翻弄しては罠にはめ、落とし入れていく。

下世話を承知で言わせて頂くが、とにかくドス黒く人間の本能を剥き出しに他人を蹴落としていく様はエンタメとしては非常に盛り上がる。
だけど騙していたと思われていた人が実は違う誰かにはめられ、またこの醜悪なレースから脱落してしまう。
まぁ、因果応報とも言えるのだが、この作品ではそれを徹頭徹尾我々に見せつけまるでプロレスを見るかの様なスリルとエクスタシーを与える一方、実は見ていたこちらにもトラップを仕掛けてくる。
悔しいけれどもちろん騙される。
だけどそれが癖になる。
そして俺は気づきました。
こういう映画が好きな俺…やっぱり変態だ(笑)

まぁ、それが僕がこの映画を観た上での感想でしょうか。

それにしてもこの映画。
テーマとしては非常に露悪的なんだけど癖になるし、全体的に華やかです。
出版業界の裏側を一流作家や人気モデルそして彼らを動かす出版社の敏腕編集者等々を通じて普段馴染みのない出版業界を眺めるワクワク感もあったし、キャストの面々も超豪華。

探偵はBARにいる』、『新解釈 三國志』で人気の大泉洋
桐島、部活やめるってよ』、『ちはやふる』の松岡茉優
『ファースト・ラヴ』、『サイレント・トーキヨー』の中村倫也
『SUNNY 強い気持ち強い愛』、『映画 賭ケグルイ』の池田エライザ
『ドクター・デスの遺産』、『記憶にございません!』の木村佳乃
アウトレイジ』、『海賊とよばれた男』の國村隼
清須会議』、『Fukushima50』の佐藤浩市
等々思い付くままに代表作とキャストを挙げてみましたが、他にも斎藤工小林聡美、佐野史朗、リリー・フランキー等々とにかく豪華な面々が集結し、騙し騙されの応酬を繰り広げます。

また、一方では現代の出版業界の闇にも踏み込んでいましたね。
これは本だけではなく、音楽そして映画にも言える事ですが、かつては雑誌なら本屋・音楽ならCD屋さんでCDを購入、映画なら映画館またはレンタルDVD店といった具合に明確なソフトというものがありました。
しかし、近年では音楽はストリーミング配信・映画も配信が加速(映画館好きな私としては非常に由々しき問題なのですが)そして本や漫画だって電子書籍が普及して久しい状況です。
その中で既存の雑誌はどの様に戦うのかを速水が打ち出していくわけです。
読者に響く企画は何か?
旧態依然とした出版業界にメスを入れる速水のアクションというのは確かにスリリングでしたし、見応えがありました。
実はこの映画、騙し合いを軸にしたエンタメ作品ではあるものの、一方では出版を中心としたエンターテイメントの在り方を同時に問う様な作品ではないかなと思いました。