きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

ファーストラブ

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第159回直木賞を受賞した島本理生の同名サスペンス小説を北川景子主演、堤幸彦監督のメガホンで映画化。父親を殺害した容疑で女子大生・聖山環菜が逮捕された。彼女の「動機はそちらで見つけてください」という挑発的な言葉が世間を騒がせる中、事件を取材する公認心理師・真壁由紀は、夫・我聞の弟で弁護士の庵野迦葉とともに彼女の本当の動機を探るため、面会を重ねるが、二転三転する環菜の供述に翻弄されていた。真実が歪められる中、由紀はどこか過去の自分と似た何かを感じ始めていた。由紀の過去を知る迦葉の存在、そして環菜の過去に触れたことをきっかけに、由紀は心の奥底に隠したはずの「ある記憶」と向き合うことになる。由紀役を北川が演じるほか、迦葉役を中村倫也、環菜役を芳根京子、我聞役を窪塚洋介がそれぞれ演じる。
(映画.comより)

このところサイコサスペンスものが多いですよね。
とりわけ最近のものだと殺人事件そのものを全面に打ち出すよりも何故その事件に至ったかの動機であったり事件を犯した人物の内面をフォーカスする様な作品が多い印象があります。
実際映画としてのストーリーを重視するとその手法を用いた方がわかりやすいし、物語に深みが生まれるのも確かですからね。

で、本作『ファーストラブ』。
これまた近年多いベストセラー小説の映画版。
そして毎回の如く原作を読まずに僕も鑑賞に挑むわけですよ。

さて、本作。
一人の女子大生が父親を殺害した事によりストーリーが展開されていきます。
彼女が何故殺害に至ったかの動機を探りやがては彼女自身が負った過去のトラウマへと行き着いてゆく。
それが引いては父娘の微妙な関係性にまで及び幼年期~思春期の生い立ちが如何に人格形成で重要であるかを表出させていく。

そしてこれが操作を続ける公認心理士・真壁由起の過去にも焦点を当てる事によって俄然盛り上がりを見せていくんですよね。
彼女にもまた過去に受けた心の傷があり、故に殺害した環菜の心へもシンクロさせていく。

その結果、浮かび上がるのが倒錯した性的嗜好の歪みなんですよね。
環菜は思春期に年長者からの性的交渉が心の傷を負わせ、由起は父親の買春の事実を知りそれが彼女を苦しめる。
そして共通して父親という最も身近に居る異性への恐怖心。
これは父と娘の関係だからこそ成立するストーリーではあるんだけど、その後の異性間での肉体的な関係含め後々にまで与える影響等非常に生々しく描いており、娘を持つ父親ならば是非本作の鑑賞を薦めたいトコロ!

さて、本作はキャスト陣とりわけ女優さんの姿が印象に残るんですよね。
まずは主演の北川景子さん。
前半では理知的できびきびした姿勢のデキる女性心理士のイメージなのですが、それが一転。
過去の闇が浮かび上がった後は同じ人物であってもまるで別人の様な繊細さが印象に残ります。
とりわけ成人式の日と大学時代の姿はよりそれが顕著なんですよね。
陰のある雰囲気の女子学生像を見事に表現されていましたね。
それにしても北川景子さんがまだまだ女子大生の役をしても違和感がないのがスゴい!

芳根京子さんの環菜役も良かったですね。
父親を殺害した女子大生という難役ですが、内に秘められた闇の部分が彼女の存在全体から感じられました。

そして木村佳乃さんの冷徹な母親。
どこまでも娘を信用せず、また向き合おうともしない救い様のない人物でしたが、何とも言えない目力がありましたね。
リストカットを繰り返す娘同様彼女にもまた闇を感じる場面がありましたね。

男性陣なら中村倫也さんも窪塚さんも良かったですが、板尾創路さんがサイコーでした!
良く言えばストイック悪く言えば感情のない芸術家の父。
元々シュールな芸風で人気を博した板尾さんですからこういったクールな風貌が似合う人なのですが、とりわけ本作では異彩を放つ存在感でしたね!
無感情な上に娘に冷たく教育的に明らかに常軌を逸した行いをしているのですが、そんな冷徹漢を板尾さんが演じる事でかなりリアリティーが生まれたのではないかと思います。
個人的には本作のMVPだったかな?

それにしてもこの映画。
登場人物は総じて闇があったよな。
それは心の闇だったり生い立ちの闇だったり様々ではあるものの。
性的に倒錯したが為に娘を狂わせた父親。
その父親の倒錯した性癖や人間性がトラウマとなった娘。
由起を支えた男性二人も生い立ちに苦しめられ、環菜の母親だって劇中で明かされないが、リストカットの痕がある。
救われない様な闇を抱えていても生きていかなくてはいけないんだな。
それでも人は何かの役割を与えられ、それを活かしながら日々の生活を営んでいる。
最終的にはそんな当たり前の事を打ち出しながらでもどこかに光を見出だそうとする本作のラストシーンを見て自分も前を向かなくてはと改めて気付かされた様な内容でした。

是非あなたも劇場でご覧下さい!