きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

82年生まれ、キム・ジヨン

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平凡な女性の人生を通して韓国の現代女性が担う重圧と生きづらさを描き、日本でも話題を集めたチョ・ナムジュのベストセラー小説を、「トガニ 幼き瞳の告発」「新感染 ファイナル・エクスプレス」のチョン・ユミとコン・ユの共演で映画化。結婚を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨンは、母として妻として生活を続ける中で、時に閉じ込められているような感覚におそわれるようになる。単に疲れているだけと自分に言い聞かせてきたジヨンだったが、ある日から、まるで他人が乗り移ったような言動をするようになってしまう。そして、ジヨンにはその時の記憶はすっぽりと抜け落ちていた。そんな心が壊れてしまった妻を前に、夫のデヒョンは真実を告げられずに精神科医に相談に行くが、医師からは本人が来ないことには何も改善することはできないと言われてしまう。監督は短編映画で注目され、本作が長編デビュー作となるキム・ドヨン。
(映画.comより)

さて、『パラサイト』以来の韓国映画です。
いつもの如く原作は末読なんですが、韓国では2016年に出て大ベストセラーとなった小説が元ですね。
MOVIX日吉津での平日午前の鑑賞でしたが、客層はやはりと言うべきか女性中心でしたね。
それでは内容について触れていきましょう。
男性はこうであれ女性はこうであれ、なんて旧時代的な価値観。
韓国においての儒教的価値観の悪しき面が浮かび上がってくる内容。
でもこれって韓国に限らずここ日本にだってこの慣習って残っていますよね?
しかし、時代は常に変わっているわけでして、封建的な思考は本来淘汰されて然るべきなのですが、悲しいかなそれが残ってしまっているのが現代です。
東アジアにおいての儒教的思想により先人達は歴史を築いてきたわけですし、その歴史を毛頭否定するつもりはありません。
しかし、これがこと現代に置き換えると人の運命を翻弄し、時にそれが精神をも蝕んでいく悲しい現実があります。
本作の主人公の女性キム・ジヨン
彼女はまさにその運命に翻弄され、自らの身の置き場に悩まされてしまいます。
元々は優秀で仕事も出来、社会的評価の高かった彼女は何故苦しまなければならないのか見れば見るほど心苦しくなるその描写は2020年見るべき一本ではないでしょうか。
また、心の病を描いていますが、そこからも感じるべきテーマが浮かび上がってきます。
自分の知人や友人にも鬱病に悩まされている人がいますし、実は意外かもしれませんが、僕自身が心療内科に通ってた時期があります。
心の病ってはたから見ると身体が健康だからこそなかなか人には伝わらなくてそれがより苦しい部分もあるんですよね。
彼女に関して言えば義母のそれは見ていて非常に苦しいけどだからといってその義母を責める事も出来ない。
この辺り残酷で胸をえぐられそうなんだけど、確実に見ている人に訴えかけてくるシーンでした。
で、映画全体で見ても彼女に害のある人物が居ないんですが、だからこそタチが悪いんですよ。
強いて言えば彼女を苦しめていたのは閉塞的で息苦しい世の中であり、突き刺さる第三者の目・世間体と言い換えてもいいと思うそれなんですよね。
その点から見るとこの映画って今年らしさが非常に強いんじゃないかな?
コロナ禍による閉塞感、有名芸能人が相次いで自殺したりとかメンタルを崩しやすい年ですもんね。
実は僕自身、これまで伏せてましたけど、今年の夏から秋口にかけてややバランス崩しかけてました。(会う人からは全くそんな風には見えなかったと思います。)
幸い僕にはラジオという人生のライフワークがあるだめ、救われているんですが、それがなかったら割とマジでヤバかったかもしれません。
ちなみにこの間SNSを丸々放置してました。
どこかで世間と距離を置きたかったのかもしれません。
あ、今は大丈夫ですよ(笑)

なんて自分の話しになってしまいましたけど、これは誰しもがなる可能性はあるし、この映画では一人のアラフォー女性の人生を通じてリアルに描かれています。
でもそんな彼女が心の声をいや、何ともやりきれないその感情を露にするシーンなんかは非常に強い印象を残してくれました。
とあるカフェでの失敗。
後ろに並ぶ客からの心ない蔑視と中傷が彼女に向けられた時、たまらず彼女がぶつける感情。
これっていじめの構図にも近いんだけど、誰しもが後ろの客になる可能性はあるし、それをただ眺める傍観者にもなり得たりする。
しかし、中傷を浴びせられた彼女の心を誰が汲み取る事が出来ようかそれを突き刺す様に投げ掛けるこのシーンは本作において誤解を恐れずに言うとハイライトと言えるかもしれません。

さて、本作でメガホンを取ったのはキム・ドヨン監督。
48歳の女性監督なんですが、実は本作が初監督作品との事。
元々女優さんだったそうですが、結婚して家庭に入り役者業を引退。
2017年に大学院で映像技術を学び本作での監督デビューに至るそうです。
こういった点からも主婦のリアルを徹底的に描き切れているし、主演のチョン・ユミさんの表情の写し方は非常に見応え抜群でした!
女性の支持の高い作品であるのはわかりますが、男性にも見て欲しいです。
独身の僕が言うのも何ですが、パートナーとの関係を見つめ直す意味でも是非参考にして頂ければと思う次第です。