きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

浅田家!

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様々なシチュエーションでコスプレして撮影するユニークな家族写真で注目を集めた写真家・浅田政志の実話をもとに、二宮和也妻夫木聡の共演、「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太監督のメガホンで描いた人間ドラマ。4人家族の次男坊として育ち写真家になった主人公・政志を二宮、やんちゃな弟をあたたかく見守る兄・幸宏を妻夫木が演じ、家族の“愛の絆”や“過去と今”をオリジナル要素を加えつつ描き出す。浅田家の次男・政志は、幼い頃から写真を撮ることが好きだった。写真専門学校に進学した政志は、卒業制作の被写体に家族を選び、浅田家の思い出のシーンを本人たちがコスプレして再現する写真を撮影。その作品は見事、学校長賞を受賞する。卒業後、地元でパチスロ三昧の3年間を送った後、再び写真と向き合うことを決意した政志が被写体に選んだのは、やはり家族だった。様々なシチュエーションを設定しては家族でコスプレして撮影した写真で個展を開催したところ、気に入った出版社が写真集を出版。プロの写真家として歩み始める政志だったが、全国の家族写真の撮影を引き受けるようになり、その家族ならではの写真を模索・撮影するうちに、戸惑いを感じ始める。そんなある日、東日本大震災が起こり……。
(映画.comより)

私個人非常に好きな映画がありまして、それが『湯を沸かすほど熱い愛』なんですね。
若くして病に冒されこの世を去る銭湯の女将を宮沢りえさんが演じ、劇場で鑑賞しながらボロボロ涙を流したものです。
その『湯を沸かすほど熱い愛』の中野量太監督の最新作という事で期待を胸にこの『浅田家!』を鑑賞しましたが、結論から言います!

今年見た邦画の中でもトップクラスと断言出来る良作でした!
実は本作の予告編を見た時、些かの不安があったんですよ。
消防士・極道・レーサー等浅田家の面々のコスプレ写真が全面に押し出されるばかりで果たして内容はどうなのかなと。
しかし、それらはほんの部分的な面に過ぎず、内容そのものは非常に深みのあるものでした。

前半は二宮和也演じる浅田政二という人はどの様に写真家としてのキャリアをスタートさせる事になったかという彼の半生を中心にストーリーが展開されていきます。
その過程で登場してくるのが件の家族のコスプレ写真となるのですが、ともすれば予告編ではちょっぴり恥ずかしくなる様なあの写真がストーリーの中で見ると微笑ましく見えてくるんですね。
それでいてコメディ映画を見る様なテンポの良さも相まって笑いを誘ってくれます。
だけど順風満帆ではなく、写真家としての大成は険しいもの。
政二は三重から東京へ行き、カメラマンのアシスタントをするもなかなか目が出ず、くすぶり続けるのですが、彼を支えるのが黒木華演じる幼なじみの彼女。
この二人にはカップルという生々しさを秘めたものではなく、共にひとつの事を成し遂げる同志の様にも見え、好感が持てます。
下積み特有の泥臭さもないので、爽やかすら感じられます。
そんな姿を見るからこそ写真家として評価を受ける辺りに共感性が生まれたりもするんですよね。

と、この様に前半は浅田家の家族の様子と政二の写真家物語が小気味良いテンポで描かれ、映画自体非常に楽しめます。

後半は前半のポップな流れから一転。
岩手県に住むある家族との交流を起点にした東日本大震災被災地の場面が中心となっていきます。
菅田将暉演じる一人のボランティアの青年と出会い、写真を通したボランティア活動を始める政二が一人の少女と出会い、そして家族や彼が向き合う写真を見つめ直すという展開。
本作においての映画的な深さと言えばやはりこの後半部にありまして、少女の家族そして写真という題材がひとつに結び付く辺りに目頭が熱くなっていきます。

本作はあくまで浅田家を主とした家族モノなんですが、それ以外に登場する家族というのも非常に印象的なんですよね。
被災地で出会う少女の家族もそうですし、余命僅かな男の子を抱える家族等々。
家族ひとつひとつにドラマがあってそれを残す為の写真がある。
今やデジタルの時代でスマホひとつで簡単に写真も撮れるのですが、かつては行楽地にお父さんがカメラを携えてその時その時の思い出を収めてくれていたもの。
何だかそんなノスタルジックな事を考えたら無性に昔のアルバムを見たいなんて思っちゃいましたよ。

さて、家族そして写真という主題のある本作。
冒頭のシーンから印象的。
内容は割愛しますが、ひとつの帰結点からスタートし、そこから過去を紐解いていくという映画的な手法かなと思い、ストーリーを追っていくとラストの方で冒頭のシーンへ帰結します。
そこでのサプライズに「あっ、やられた~」なんて笑みがこぼれてしまう事に。
最近見た作品で言えば『青くて痛くて脆い』に通じる意外性を楽しむというエンタメ要素ですかね。
笑いあり涙ありなんて月並みな表現に終始してしまいますが、この作品はまさにその典型とも言える内容でした。
良い映画を楽しませて頂きました!
是非劇場でご覧下さい!